アフターストーリー:板倉瑞樹と宮島加奈
「本当に、ごめんなさい」
「ん、わかったよ。もう怒ってないから」
目の前の男、喜多見修也に頭を下げる。
彼には散々迷惑をかけてしまった。
「もうね、なんか決定的に違ったんだなって。友達だと思っていたのは、本当に私だけだったんだよね」
恵美とはあの日、友達ではないと気付かされた日以来連絡をとっていない。すでに恵美は転校してしまっているし、おそらくもう会うことも連絡を取ることもないのだろう。
「でも、本当にいいの?お咎めなしなんて」
今目の前には、私が大迷惑をかけた男、喜多見修也。
そしてその隣には喜多見の彼女、榊原汐音。
そしてわたしの隣には、宮島加奈がいた。
場所は喜多見のバイト先である。
「ぶっちゃけお咎めって言われても、何も思い浮かばないし」
「良かったですね!先輩が変な人で!」
優しい人、ではなくて変な人か。
榊原さんの隣で喜多見が少し気まずそうにしてるところを見るに、やはり榊原さん的には思うところはあるのだろう。
私と加奈だってそれは同じだ。だからこうして改めて謝罪に来てるし、何かしらの形で償おうとは思っているのだ。
「ま、いいんじゃないですか?正直二人とも、事情を聞けばまだ理解はできますし。理解はですけどね?私は別に許してないですけどね!?」
「まぁまぁ、その辺にして「先輩は黙っててください!」……はい」
見事に尻に敷かれている。まぁ、喜多見の性格と彼女の性格を考えればそうなるか。
「まぁ宮島さんは?自分が悪いこと理解していたみたいですし?許してあげないこともないですけどね?」
「あ、あはは……」
「ま、板倉さんも、こうして反省してるみたいですし、先輩もこう言ってることだし、私もこれ以上は何も言いません」
「そう……ありがとうね、榊原さん」
きっと喜多見には、榊原さんのような真っ直ぐで、少し強引なぐらいな子が相性いいのだろうと思う。舞香は……うん。何も言わないでおこう。最近なんだか、以前にもまして元気だし。失恋したはずなんだけどな、あの子。
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「じゃあ、今日はありがとうな」
「何言ってるのよ。それはこっちのセリフだから」
と言うわけで、改めて設けた謝罪の場はあっさりと解散となった。帰り道、私は加奈にこう問いかけた。
「恵美、元気にしてるかな」
「どうだろう、ね」
加奈の声に覇気はない。加奈にとっても、恵美は友達だったのだから、思うところはあるのだろう。
「わかるのは一つだけ。罪からは逃げれられないってことかな」
「と、言うと?」
「寝ても覚めても、自分の罪ってふと思い出すんだよね。特に人を傷つけた過去って、ずーっとずーっとついてくる。きちんと清算されるまで」
きっと自分がそうだったのだろう。加奈は決して明るくはないけれど、それでも芯の通った表情を前に向け、続ける。
「これで良かったのかなって、喜多見くんに許されてもまだ、それでも思うんだよね」
本当に許されてよかったのか。自分はもっと苦しんで、彼に償わなきゃいけないんじゃないのかって。
そう続けた彼女の声は、かすかに震えていた。
「そう思うならさ、一緒に頑張ろうよ」
「一緒に?」
「うん。私さ、夢ができたんだよね」
喜多見には悪いけど、私は幸せになりたい。
いや、そう思わせたのは他ならぬ喜多見自身だ。
きっと今の喜多見の現状は、与えられたものじゃない。
彼が貫き、信じ抜いた自分自身の信条がもたらした結果だ。
本当は加奈にも同じ強さを感じているけど、それを言っても彼女は否定するだろうから、胸にとめておく。
「なんかさ、かっこいいじゃん。喜多見」
「うん。それはわかるよ。本当に、かっこいいなって」
恋してるわけじゃない。
これはあれだ、憧れってやつだ。
「たとえば10年後には、喜多見に再会してさ、みっともない姿、見せられる?」
「それは嫌だなぁ。なんか、彼に失望されたら、人としてダメだなって感じがする」
「でしょ?だから決めたの」
私は前を向く。わたしは胸を張って生きていくと決めたんだ。
それが、彼に許してもらった私なりの贖罪なのだ。絶対に、彼に失望させたりなんかしない。
「夢が、できたんだよ」
喜多見は言った。こんな私に、ありがとうと言ったのだ。
人の役に立つ。人の支えになる。
生きているだけで、彼は周りの心を温める。
きっとそれは諸刃の剣で、一歩間違えればその熱源は枯れてしまうかもしれない。
だけどきっと彼は大丈夫。それを支えてくれる人がいるから。
私はそんな人に、なりたいと思った。
次回からは我らがメインヒロインの出番です。




