表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一人と独りの静電気   作者: 枕元
一人と独りの静電気

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/65

エピローグ

 「あ、それおいしそう。一口ちょうだい」

 「一口も何も、最後のひとつなんだけど」


 最後まで取っといた唐揚げを強奪され、俺は寂しく肩を落とす。


 場所は学校の空き教室ーーーーあの日福村に捕まった教室だ。


 「で、教室の様子はどうなんだよ」

 「いや~見事に孤立してしまったと言いますか、まさに腫物扱いですよ」


 バイト先に篠原が押しかけてきてからおよそ3週間。昼休みに二人揃ってクラスから抜け出してきているわけだが。


 結論から言うと、福村は全てをぶっ壊した。


 サッカー部も、園田も、そして自分の友人関係さえも、だ。


 「なので、ちゃんと構ってね。私はこう見えてさみしがり屋なので」

 「さいですか」


 サッカー部の末路から話そうか。一言でいえばサッカー部は今季の全公式戦停止処分。当然部活も停止中で、今は活動していない。


 篠原は学校に来なくなった。それもそうだろう。なんせ上からも下からも、そして同級生からも大バッシングを受けることになってしまったのだから。噂によれば退学も考えているらしく、前途多難なのは間違いないだろう。


 白河も似たようなものだ。だけど彼は登校を続けている。というよりも続けられている。


 篠原は停学処分なのに対し、白河はそうでなかった。福村曰く、反省してるなら逃げるなとのこと。まぁ確かに、停学になったほうがいろいろと楽なのかもしれないが。


 さて、そうなった経緯なのだが、実は俺のいじめ云々の話は、本当に関係なかったりする。


 なんせいじめの標的は、福村だったことになっているのだから。


 『あいつらに与えられた苦痛、どれも耐えられたもんじゃないもの。なにせ、()()()()()傷つけられたんだから』


 その言葉を榊原の隣で聞いていた俺の心境である。本当に肝が冷えた。いろんな意味で。


 当然、その想いは嬉しいものだ。


 だけど、俺は、すでに。


 ともかく、ことはとんとん拍子に進んだ。例の俺にまつわる噂話が、すでに教員の目に留まっていたのも大きかったのだろう。対応は迅速で、要は学校側も火種が小さいうちに処分してしまいたかったのだろう。


 篠原とは、実はあの日以来顔を合わせていない。もちろん、会いたいとは一切思わないのだが。


 「まぁ私としては、修也がいるから寂しくないけどね?」

 「……」


意味ありげにそう呟く福村。どう返したものか、最近のもっぱらの悩みである。


 あの日、福村が俺に願ったことの答えがこれだった。福村は結果的に、学年で一番浮いた存在となった。


 彼女は全部を白日の下にさらした。そう、全てである。


 やれ無視をされた。やれ机を離された。


 そういった細かな部分までをすべて、彼女がされたことを学校中に流布しまくったのだ。


 当然浮いた。そりゃそうだ。歩く地雷みたいなものだからな。


 だけど一切、福村は園田については触れなかった。


 だって、触れる必要もなかったから。


 『園田だ!園田が俺たちのことを売りやがったんだ!!』


 そう教室の真ん中で叫んだのは篠原だ。結局彼女も、最後は人に裏切られた。


 後は簡単だ。不信感は積り、そして嫌悪に転じた。


 彼女の味方はいなかった。彼女は学校に来なくなった。


 その後は知らない。別に学校側に処分されているわけではないので、戻ってくることはいつでもできるはずだ。


 もちろん俺はめちゃくちゃ止めた。そんなことをするなと。もっといい方法があるからと。


 自分のことを棚に上げて、福村が腫れ物扱いされるのを阻止しようとした。


 だけど彼女は頑なに意見を曲げない。これは私だけの問題なのだと。


 そんなわけがないこと、当然わかっている。だから俺も彼女と一緒に、彼女の痛みを背負うのだ。


 まぁなんだ、正直園田のことなんてどうでもいい。そんなことよりも、目の前の問題を何とかしなくては。


 

 「ねぇ修也」

 「なんでしょうか」



 福村はこちらを向かないまま、どこか寂しそうな表情を浮かべたように見えた。俺はそれを見ぬ振りした。


 だけどきっと、俺はその表情を一生忘れないんだろうと思った。


 「汐音ちゃんに告白しなよ」

 「そうだな……って、ええ!?こ、告白ってなんで」


 「いや、今更隠すのとか意味わかんないって。好きなんでしょ?汐音ちゃんのこと」

 「それは……そう、だけど」


 照れるのを我慢して、かろうじてそう答える。嘘はつけなかった。それは目の前の少女を裏切る行為だったから。


 「今すぐ行きなよ。ほら、青春っぽくない?学校抜け出して告白とか」

 「今すぐって……っておい!押すなよ!押さないで!わ、わかったから!今から行ってくるから!!」


 文字通り背中を押されて、教室を飛び出す。


 青春か。なんだろう、不思議な気分だ。


 踏み出す。一歩一歩、前に前にと踏み込む。生徒の波をかき分けて、俺は学校を飛び出した。


 どんなに強い風に押されたって、こうはいかないだろう。


 彼女も俺にとって、間違いなく特別の一つだった。


ーーーー




 「あーあ、行っちゃった」


 彼女は気づくだろうか。あのへたれ君が、なんで急に想いを告げに学校を飛び出すことができたのかを。


 きっと気づくだろうな。そうでなきゃ困る。じゃなきゃ、彼女の勝ちになってしまう。


 彼女にただいいところを持っていかれるのも癪だから、私は彼の背中を押した。


 ほかの誰でもない、私のおかげで恋が叶うのだ。


 「引き分けってことに、ならないかな」


 こうして私の初恋は終わった。だけどきっといつか、私だって素敵な人に巡り合えるだろう。いや、巡り合って見せるのだ。


 それはもう初恋が猛烈に霞むほど、素敵で大きな恋をしよう。


 そしてあの子に得意げに、高らかに勝利宣言をしようじゃないか。


 見てろよ、強い女の子。


 わたしは世界一、幸せな女になってやる。



おしまい

本編はこれにて。


あとがきを挟みつつ、物語はもう少しだけ続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 執筆お疲れ様でした! 悪党に鉄槌下してくれてありがとうございました。
[気になる点] 自分で手を下さず人にやらせてエンドとは… [一言] 途中から主人公変わったんです?
[良い点]  いいオンナムーヴ。  だけど切ない。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ