カウントダウン
それが異変であることに気づいたのは、私だけではなかった。
彼、喜多見修也が学校に来なくなって3日がたった。
だけどそれは私が彼の事情を知ってるからこその日数で、詳細を知らない人にとっては、彼は最近かなり休みがちで、体感的にはもっと登校していないように感じるだろう。
彼が正式に、と言うとどこか違和感があるが、ともかく不登校になってからの短い期間で、気づく人は気づいているのだ。
彼が決して体調不良ではないということが。
あるいは体調不良であっても、それが何かに起因するものであることに、薄々察しがついているのである。
彼のことが、話題に出されることはなかった。少なくとも私の周りでは。
私が彼と接点があったことは周知の事実だ。その上で巻き込まれることを恐れているのだろう。
下手をすれば、加害者になる。無関係の人からすれば触れるだけでも危険なのだ。
そして何より、これがもし彼に対してのいじめだった場合、その主犯は明らかだ。篠原と白河である。
この二人はいわゆるカースト上位だ。仮に噂話でも、それが漏れて標的が自分に、なんて想像するだけで最悪だ。触らぬ神にというやつだ。
そういった雰囲気を、きっと白河たちは読み取っている。そして動きづらいはずだ。今までのように噂を安易に流せない。なぜなら白河は知ってしまったから。そしてきっと篠原も話は聞いているだろうから。
そして本来ならば、このまま終わるはずなのだ。時間によって噂は風化していき、自然消滅。見かけは何事もなく元通り。
きっと喜多見の、彼の狙いとしてはここで終わりだったはず。
だけど彼は変わった。言い換えれば変わってしまった。
あの子の、榊原汐音の言葉によって。
そのことに彼自身は気づいているのだろうか。
その変化が良いものなのかが、私にはわからなかった。
もちろん彼の家族との関係において、その変化は間違いなく喜ばしいものだ。
疎遠になっていた家族と、本音で語れたらそれはどれだけ素敵なことだろうか。
だけど、それ以外の人間にとって、本音とは凶器である。
むき出しの言葉は、人の心に強く響く。
時に優しく、時に厳しく。
そしてそれは、ほとんどの場合が自分に返ってくる。
彼はその覚悟をした。その覚悟が、こと学校という舞台でいい影響を及ぼすかが、私には測ることができない。
カウントダウンは、始まっていた。
このとき、私は不安で仕方がなかったのだ。
だから思ってしまったのだ。
最後まで自分だけは味方でいてあげよう、と。
振り返れば、これが決定的だったのだろう。
この時私はーーーー
私は願ってしまったのである。