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一人と独りの静電気   作者: 枕元
第7章 わがまま

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46/65

面影に見るのは

 朝、カーテンから差し込む燦々とした日差しに、心地よさと煩わしさを同時に覚えながら目を覚ます。


 今日は木曜日。本来なら学校に行くべき学生の身分なのだが、俺は絶賛不登校。身支度は最低限に朝食の支度を始める。支度と言ってもホットサンドを作るだけだから、大した手間はかからないのだが。


 幸には牛乳を。俺と母さんはコーヒーのブラックだ。元々ブラックのような苦いものは苦手だったのだが、店長に勧められていくうちに、最近飲めるようになった。上等な物を最初に飲んだのも大きかったかもしれない。まぁコーヒーと言ってもインスタントだから、店で飲むようないいものではないけれど。


 「おはよう、修也」

 「ん、おはよう母さん」


 食卓が彩られた頃に、母さんが起きてきた。ごく普通に挨拶を交わし、母さんは席についた。母さんも最初の頃は手伝うと言って聞かなかったのだが、俺が強情だったため今では無理に手伝おうとはしない。なんとなく俺がそうしたかったのだ。


 理由はわかってる。本来はきっとこうだったからだ。


 母さんが毎日仕事をして、幸は部活を頑張って、俺は家のことをする。役割は違えどきっとそんな未来はあった。


 俺は探し続けたい。この家族の形を、可能性を。


 「おはよー」

 「おはよう」

 「おはよう、幸」


 少しして幸も起きてきた。そのまま寝ぼけ眼で席に着く。


 「「「いただきます」」」


 会話は特にない。三人とも黙々と食事をする。それが自然で、それが苦じゃないのだから。


 それが普通で、特に気にすることじゃない。


 (っていうのはわかってるんだけどなぁ)


 わかっている。俺だけじゃなく、母さんも幸も気づいているだろう。


 なんと言うか、自然なのが不自然というか。それぞれが普通を装っている。そりゃ簡単に三人のわだかまりが溶けるわけがない。他ならぬ俺が全てに納得できていないのだから。


 ぎこちなさを土台に積み立てられた平常は、どうしても違和感をその風景に映し出す。

  

 (悪いことではないけども……なんだかなぁ)


 それぞれが空回りしている。そんな感じだ。まぁ全体がそもそもおかしくはあるのだが。なにせまだ許せないと公言した俺が作った状況だし。


 (まぁでも、別にいっか)


 焦ることはないのだ。時間はたっぷりあるし。


 そこが社会という枠組みにとらわれない、家族という特殊なコミュニティのアドバンテージだ。


 だから今は、ゆっくりとだ。



ーーーー


 「修也、ちょっといいか」

 「おじいちゃん?どうしたの?」


 お昼頃、2階からおじいちゃんが降りてきて、俺に話しかけてきた。


 ちなみに2階はおじいちゃんとおばあちゃんが過ごす空間となっていて、1階に俺たちが住んでいる。これはおじいちゃんからの提案だった。


 「ちょっと色々話がしたくてな」

 

 そう言っておじいちゃんは、俺の座るテーブルの対面に座った。真剣味を帯びたその表情から、おおよその展開が読めた。


 「最近、どうなんだ?」

 「最近、ね」


 その言葉に含まれる意味を、俺は正しく読み取った。つまりは母さんとのことだろう。


 「なんとも言えないかな」


 正直な感想を俺は返した。関係が改善されたのは間違いないし、いい方向に向かっているのはそうなのだが、問題の解決には程遠い。だからなんとも言えない。


 「そうか。まぁこればかりは焦ることじゃないか。多恵子さんにはもっと頑張ってほしいがね」

 

 おじいちゃんはそう言って、窓の外へと視線を移した。


 そして一息ついた後、こんなことを言い出した。


 「俺はな、後悔してるんだよ。修二と……修也のお父さんと全然話をしてこなかったとね」

 「父さんと?」


 父さんとおじいちゃんが仲が悪いなんて話は聞いたことがなく、後悔の意味が俺にはわからなかった。自分よりも早く死んだ息子に対して、無念に思うのならわかるのだが。


 「あいつが家を出たのが22の頃だ。大学を出て、就職したと思ったらすぐに家を出たよ」


 おじいちゃんは続ける。


 「別に普通の話だ。仲は親子として良好。何もおかしいことのない、普通の親子だった」

 

 だけどな、と。おじいちゃんは思い詰めたように言葉を紡ぐ。


 「それでも思うんだよ。俺はあいつに何をしてやれたかってな?家にいてもろくに会話はしなかった。母さん……おばあちゃんは修二のことをたくさん知っていた。修二とたくさん会話をしたからだ。だけどな、俺はろくに修二のことを知らなかったよ。修二が死んでから、やっとそのことに気付いたんだよ」


 話を聞いて、おじいちゃんは悪くない。俺はまずそう思った。


 自分の父親とそんなに腹を割って話す機会なんて、そうそう無いのではないのか?なんと言うか、父と息子なんてそんなものだろう。


 それでも思うと、おじいちゃんは言った。良好な関係を築いていたおじいちゃんですら、その点を後悔している。


 「だからな、多恵子さんには責任があるんだ。息子である修也がそれを望んだ以上、お前たちを悲しませない。後悔させない。そんな責任があるんだよ」


 厳しい目つきでそう言うおじいちゃんの目には、それでも隠しきれない優しさが滲んでいた。


 (不器用すぎるよ、おじいちゃん)


 つまりは遠回しに、気負うなと言ってくれているんだろう。大人の責任を、子供の俺が無理に背負い込むなと。


 (父さんは、幸せだったろうな)


 そんなおじいちゃんの面影に、父さんの影を見た気がしたり


 父さんとおじいちゃんはよく似ている。


 だから父さんも、こんな人の元に生まれて幸せだったに違いない。


 他ならぬ自身の思い出が、それを物語っていた。

続きます。

後めっちゃ今更なんだけど、ヒューマンドラマにするべきだったと後悔。今さら変えるのもどうなんでしょうかね...。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ家族的にはこういう方向の方が良いんでしょうが、母親の過去の所業見るとやや割り切れなくもない感じも。
[良い点]  今回はまさにヒューマンドラマの様相ですね。  活動報告等で告知してカテゴリ変更する、で良いのでは。  実際良いドラマ具合だと思います。
[一言] >後めっちゃ今更なんだけど、ヒューマンドラマにするべきだったと後悔。今さら変えるのもどうなんでしょうかね...。 主人公が別に恋愛していない、という意味なのでしょうね。
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