新生活
「ーーゃん!お兄ちゃん!早く起きてー!遅刻しちゃうよー!!」
「……ううん。幸?もう朝かぁ」
窓から差し込む朝日が、容赦なく寝ぼけた顔に降り注ぐ。朝一番にのみ得られる気持ちよさと、寝起き特有の気だるさが混じり合い、なんとも言えない気持ちになる。ここから二度寝ができれば最高なのだが。
「早くご飯作ってよー。私が遅刻してもいいの?」
「起きるからそこをどいてくれ」
何せ朝から馬乗りである。幸さんや、あなたもいいお年頃なんだからもうちょっと、ね?
とは思いつつも、少し前では考えられない甘え方であり、俺がとっていた態度のこともあり、強くはでられない。俺が悪いわけではないけれども。
「母さんは?」
「お母さんも下で待ってるよ!さ、はやく!」
幸が上から降りて、無理矢理布団を剥がす。いい感じに眠気もとれてきた。俺は起き上がり、幸に手を引かれる形で階段を降りる。
「おはよ」
「う、うん。おはよう、修也」
リビングに入ると、そこには母さんの姿があった。
おじいちゃんとおばあちゃんはまだ寝ているようだ。それとも起きているが、三人の時間を作ってくれているかだ。
「今作るから、ちょっと待ってて」
そう言って俺はキッチンへ。
俺たちがここにきてから3日。俺たち家族の関係は、ぎこちなさはあるものの、明らかに改善していた。
きっと元通りとはいかないのだろう。空いた穴は、二度とは元に戻らない。
だけど別の何かで埋めることはできる。その何かを、俺たちは生み出すために一歩を踏み出した。
きっと三人では上手くいかなかったと思う。三人では足りない。きっと過去に押しつぶされてしまう。
俺も、幸も、母さんも。あの日々を思い出してしまう。
だからおじいちゃんたちを頼った。第三者の介入は、きっと俺たちにいい影響をもたらしてくれると思ったから。
それは概ね正解だった。少なくともこの三日間、俺たちは上手くやれていると思う。
時間はある。ゆっくりでいい。少しずつでいいから前へと進むのだ。
「それじゃ、食べるか」
「「いただきます」」
3人揃っての朝食。少し前なら考えられなかったことだ。
会話はない。だけど、そこに殺伐とした雰囲気はない。
それだけでも俺にとっては大きなことだった。
なんでもないこと。それが嬉しかった。
ちなみに朝食を俺が作っているのは、俺と母さんで交代制で作ることになったからだ。
理由は俺のわがままだ。特別な理由はないのだが、なんとなくそうしたかった。
「「ごちそうさまでした」」
「ん、それじゃ学校頑張ってな」
「はーい。お兄ちゃんも勉強ちゃんとしなよ?」
そう言ってそれぞれの支度を始める。
母さんは幸を学校へ送り、幸はもちろん学校へ。
そして俺は自宅学習である。まぁ今学期のテストは受けないんだけどな。
ちなみに学校には理由として「体調不良」と言ってある。もちろん嘘だ。
そして向こうもきっと気づいている。これが不登校であることを。
それによって学校がどんな動きをするかはわからない。だけどまぁ出席日数が足りているうちは特に放置だろう。
定期的に連絡入れるつもりだしな。今はまだ、問題を浮き彫りにさせる気はない。
幸には苦労をかける。登校に今までの何倍も時間がかかるからだ。送り迎えは母さんが車でしているが、それでも負担は大きいだろう。それでも快く俺の提案を受け入れてくれた。感謝である。
おじいちゃんの家を選んだのにも理由がある。俺と幸とお母さんの、それぞれの勤め先の中間にあるからってのも大きい。交通的にも都合が良かった。
そしてこれからの1ヶ月で、俺はたくさんの選択を迫られることになる。
それは自分を守るものであり、誰かを守るものであり、そして、誰かを傷つけるものであった。




