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一人と独りの静電気   作者: 枕元
第6章 本音

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母と息子

 「修也?ど、どうして!?」


 俺の突然の訪問、いや帰宅か。それに驚きの表情を見せる母さん。


 しかし以前とは違い、その瞳に映るのは純粋な驚き。俺に対する嫌悪感は、全くと言っていいほど感じさせないものだった。


 「ちょっと、話がしたくて」

 

 そう言って靴を脱いで、馴染み深いと言うよりはもはや懐かしいような、そんな感慨を覚えながら足を進める。


 「ちょっと部屋行ってくるから。うん、30分後ぐらいでいい?」

 「あ、え、うん。もちろんいいけど」


 俺の提案に、なんとか返事をする母さん。


 リビングを出て、自分の部屋に入る。


 正直、埃をかぶっているのだろうと覚悟していた。だけどそんな心配は杞憂に終わった。


 もちろん家を出るときに一通り掃除はしたけれど、それからかなり時間が経っている。それなのに部屋は埃っぽくなく、明らかに手入れがされているように見受けられる。


 しかも布団が現在進行形で干してあった。ベランダに出て、干してある布団に触って気づく。まだ乾ききっていない。


 つまり、これは俺がいつでも、ということだろう。


 その後は特に何かをするわけでもなく、この後話すことを整理したりして時間を過ごした。


 もともと急に押しかけたわけで、いきなり話というわけにもいかないから時間をあけただけだ。


 「そろそろいくか」


 時計を見ると、ちょうど30分になるかというところだった。


 俺は幸と母さんがいるリビングへと移動した。


 二人はすでに席についていた。


 しばらく使われてこなかった四人がけのテーブルに、俺のを含め3つのお茶が出ていた。


 それだけでどこか感じるものがある。それだけあの日々の俺への扱いが酷かったことがわかる。


 見る人が見ればその程度で、なんて言われるのかもしれない。外側から見て自分の扱いがどれほどのものだったのか、あまり見つめてこなかったからわからないのだが。



 「それで、今日はある相談があってさ」


 席に着くなり、俺は話を切り出した。ほんの少しだけ身構える母さん。でも表情から察するに、本題が何かはわかっているのかもしれない。


 「昨日さ、おじいちゃんから電話があったよ」

 「そう、なの」


 驚いた、というよりもやっぱり、というリアクション。まぁそりゃ予想ぐらいついたか。


 「それで母さんが色々打ち明けたことも聞いた」

 「……うん」


 小さく蚊の泣いたような声で、母さんは返事をした。その姿はどこか、親に叱られる子の姿を連想させた。


 「母さんも色々と反省して、その結果の行動だと思う。それに関しては俺も色々と思うことがあってさ」

 

 俺の言葉を、二人は黙って聞いていた。


 続ける。


 「正直に言うと嬉しかったよ。母さんが一歩進もうとしてくれたことが。多分色々葛藤もあったと思うし、決して簡単なことじゃなかったと思う」


 罪を告白するのは、そう容易なことじゃない。特に大人になればなるほど、その言葉の重みは増していく。


 それをやってのけた母さんを、俺は素直にすごいと思った。


 だけど、だけどだ。



 「それでもやっぱり、俺はまだ母さんを許せない」

 「それは、ううん。そうよね、修也」


 明らかな落胆を見せたのは一瞬のことだった。母さんはすぐに納得のいったような表情をした。


 いや、それは納得ではないか。


 そう、それは諦めに近い何かだ。


 その態度に、俺は無性に腹が立った。

 

 「ーーーーふざけんな」

 「……お兄ちゃん?」


 異変を感じ取ったのか、今まで黙っていた幸が俺に呼びかける。


 心配をかけてしまっている。だけど大丈夫。その激情とは裏腹に、どこか気が立っていることも、逆にどこか冷静でいる自分がいることも自覚している。


 しかし我慢する必要はないと、俺はもう教えてもらったから。


 これからは、全部本音だ。






 「そんな簡単に諦めんなよ!!」




 「……え?」




 口をついて出たのは、そんな脈略もない言葉。

 

 声を張り上げた俺に、二人は驚きの表情。


 まぁ幸としても、この展開と発言は予想外だっただろう。


 自分の発言が矛盾していることも自覚済み。それが間違えでも構わない。


 きっとここが分岐点。おれにとってのターニングポイント。


 だから引かない。逃げない。背を向けない。


 望まれた言葉じゃなくていい。



 ただ、本音をぶつけよう。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] まあやっと本音の話へ。 [気になる点] しかし、瞳に息子への嫌悪感出るくらいだった母とやり直すのは難儀な気も。以前と言ってもね。 [一言] まあ母の謝罪聞いて、一応受けいれ、でも距離は置く…
[良い点]  ぃよっし!本音でぶつかれ!  家族なんて喧嘩しようが憎しみ合おうが家族を辞めることは出来ないんだ。  自分が何を感じ、何を思い、どうしたいかをお互いにぶつけ合ってそこから「どうしようか」…
[一言] 拒絶とも取れる発言の後に「そんな簡単に諦めんなよ!」は普通なら横暴が過ぎるけど、そのわがままを通すぐらいじゃないと変わらないよなぁ。応援してます。
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