停滞
あとがきにちょっとした宣伝があるので、見たくない方はお気をつけください。
「あ、おはよう」
「あ、うん。おはよう」
翌日、登校した俺は正門のところで福村と会った。
別に待ち合わせをしていたとかではなく、本当にたまたま。
「昨日はありがとね」
「や、俺も色々と話せてスッキリしたっていうか。だからまぁ、お互い様ってことで」
実際、色々と吹っ切れたというか、自分のとるべきスタンスはしっかりと確認できた。
「私はあんまり話せなかったけどね?」
「それは……なんというかすまん」
実はそうなのだ。結局板倉の乱入のせいで、本来の彼女の目的は果たせていなかった。
「また、時間作ろっか?バイト以外の時なら、全然暇だし」
「んーん。結果的にはあれでよかったかな」
そう言って、首を振りながら俺の提案を受け入れることはなかった彼女だが、その表情は特に思い詰めているようには見えず、それならばと俺も流した。
「あ、でも何かあったら、その、相談はして欲しいかな?」
少々上目遣いで、そう言ってくる。その姿は、照れているようにも見えた。
というか、俺の周り上目遣いする人多くないですか?気のせいか?
「あー、そうだな。そうさせてもらうよ」
そうならないのがベストだが、向き合うと決めた以上それは避けては通れないだろう。
「あと、これだけは言っておくけど……今は大してハブられたりとかしてないから。気にしてくれるのは嬉しいけど、そこはあんまり気にしないでね?」
「そっか。わかった」
とは言いつつも、気にはなるけどな。多分、向こうもそれはわかってる。
分かってて、聞いたんだ。「私は大丈夫」と、遠回しに伝えるために。
その気遣いに、胸があったかくなる。
「じゃ、またな」
「うん、またね」
俺たちはそれぞれの教室へと入っていく。不思議とこれまでの不安は、心なしか軽くなっていた。
ーーーー
そういえば、と思い出す。今篠原と園田って付き合ってるんだよな。
正直俺としては打算が見え透いているような気がしてならず、一応何かされるかも知れないので用心に越したことはないだろう。
その他嫌がらせ、何かあったら対応できるように身構えていたのだが。
特に篠原からのアプローチもなく、何も起きることはなく、6限の授業が終了して放課後となった。
白河が訪ねてくることも今日はなかった。
身構えていた俺にとっては少々拍子抜けだが、何も起きないというなら、それはそれで構わない。
別に、誰かを陥れるのが目的じゃない。あくまで俺は、俺を信じてくれた福村の立場さえ守れればそれでいいのだから。
だけどなんというか、このタイミングで嫌がらせがパタンと止むのも、どこかタイミングが良すぎるというか。
特に白河だ。あいつは俺に恥をかかされたと思い込んでるから、面倒なんだよな。完全に言いがかりであるのだが。
だけど思い込みは恐ろしいもので、自分の非を見えなくしてしまう。きっと彼はもう、引き返せないところまで来ているのだろう。
とは言え放課後だ。俺はさっさと帰ろうと思い、カバンを手に取った。
ぴろん♪
その時だった。俺の携帯が着信を知らせたのは。
【いつでもいいのですが、お時間ありますか?できれば会って話がしたいです】
そんな文面を送ってきたのは、宮島だった。
何かあったのだろうか。いや、そもそもまた話したいと彼女は言っていたし、まだ言い残していたことがあったのかもしれない。
彼女の想いを知った今、断る理由はない。
ただ、俺は一つ彼女にお願いをした。彼女はそれを二つ返事で了承してくれた。
突然だが、時間は今日の放課後になった。明日はバイトがあるし、できれば早めに話しておきたかったからだ。
ともなれば、待ち合わせ場所に向かおう。
その前に俺は、隣のクラスを訪れた。
「あっ、喜多見?」
「ちょっといいか?」
もちろん福村に用があってだ。
「この後、時間あるか?」
「へ!?い、いや、あるけど……?」
どうしたんだろうか。いきなり慌てふためく彼女。
俺は本題に入ることにした。
「実はさ、この後ある人と会うんだけど、くる?」
「え、あぁそういうこと。てっきり」
「てっきり?」
「いや、なんでもないから!で?どんな人なの?」
はぐらかされてしまったが、仕方ない。俺はご要望通りに宮島のことを少し説明する。
「行く!でも、向こうは大丈夫なの?私が行っても」
宮島のことを説明し終わり、彼女はすぐにそう答えた。だけど、向こうの都合が気になるようだ。
「大丈夫。確認は取ったから」
「なるほど、じゃあ安心だね」
というわけで、俺と福村は二人でその場所へと向かうこととなった。
福村と俺はバイト先へと足を進めていた。やっぱり話し合いをするなら、あそこが一番都合がいいからな。
その途中、福村は気づいていなかったようだが白河と目が合った。
十中八九なにか言われるだろうと身構えていたのだが、やつは俺に鋭い視線を向けただけで何もしてこなかった。
意外だった。あいつの狙いは福村だから、もっと突っかかってくるものだと思ってたんだが。
とはいえ、このまま現状維持が一番なのに変わりはない。向こうから何もしてこないのなら、こちらからは何もしないのが一番だ。
「どうかした?」
「や、何でもないよ」
考え事にふけっていたら、隣を歩く福村にそう聞かれる。福村に話すことでもないと思い、俺は適当にはぐらかす。
でも、そんな態度がお気に召さなかったようで。
「ふーん。そうやって隠し事しちゃうんだー」
なんて困ることを言ってきた。
「別に隠し事ってわけじゃ」
「ふふっ。冗談だよ。困らせちゃった?」
からかわれたようだ。困っていたのなんて、わかってるくせに。
「いいから行くよ」
そう言って少し歩を速める。
福村は特に文句も言わずについてきた。
そんなこんなで到着。店内を見渡す。宮島はすでに席についていた。向こうもこちらに気づいたようだ。
「え、加奈?」
「もしかして、まいちゃん?」
二人はお互いを見て、お互いに驚いたようにそうつぶやいた。
あ、そっか。もしかしてこの二人って。
「ちょっと、喜多見こっちきて」
「えっ?ちょ、福村!?」
急に福村が、俺の腕を引っ張って店の外まで連れ出した。
「なんで加奈がここに居るのよ!」
「いやなんでって、彼女が今日会うって言ってた人だし、てか、もしかして知り合い?」
「そうよ!小学校が同じで……その、中学では疎遠になっちゃったけど、仲が良かったのよ」
「あーなるほど」
仲がいい云々はともかく、知り合いだっていう可能性は普通に考えられることだったな。福村は中学が園田たちと離れたと言ってたし、それまでが一緒でも全くおかしくない。
「そ、それで、その」
「ん、どうした?」
福村は何か言い淀むようにしてもじもじとしていた。
「あの子とどういう関係なのよ。その、仲いいの?」
あーそっか。まだどんな人に会うかって話してなかったな。一応顔を合わせてからのほうがいいかと思ったんだけど、知り合いならまぁいいか。
どちらにせよ、福村には知ってもらうつもりだしな。
「例の証拠だよ。まぁ、詳しくは三人でな?」
「え、証拠?……ああ!そういうこと!」
明らかに動揺している福村。そこには安堵も見て取れた。何を危惧していたんだ?
あ、もしかして?
「別に付き合ってるとかじゃないから」
何に向けての言い訳なんだと思いながら、俺はそう言った。でも、俺の予想はおそらく当たっていたようで。
「ふーん。な、ならいいけど」
ならいいけどって、聞きようによっては、だよなぁ。
ここで余計なことを言って機嫌を損ねるのも嫌だしな。
そうやって俺は目をそらした。
「とりあえず。入るぞ」
「ん、そうだね」
そう言って俺と福村は、宮島のいる席へと向かっていった。
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で、宣伝なんですけど。短編書いてみました。重すぎず軽すぎないやつです。よければどうぞ!
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