その瞳に映る姿は
お ま た せ
嵐は突然やってくる。それはもう、事前予告なんてありはしないものだ。
予測ができる分、台風の方がましだとさえ思えてくる。
ここで言う嵐とは、もちろん天気の話ではない。
「おい、ちょっとツラかせや」
朝っぱらから俺に絡んできたのは篠原だった。
その後ろには白河もいる。
「嫌だけど」
そんな誘いにホイホイついていくわけもなく、俺は堂々と断ってみせる。
「あん?拒否権があると思ってんのかよ」
逆に何でないと思ってんだよ。何だ?考えることをやめているのか?
「あるに決まってんだろ。んな時代錯誤なこと言ってんなよ」
令和だぞ。拒否権ぐらいあって然るべきだ。いや、これ時代関係ないな。
ともかく、一歩も引く気はないので語気を強めてはっきりとそう言う。
さて、どうでるか。
「いいのか?俺は知ってるんだぜ?昔お前が何したのかとかさ?」
あぁ、そういやそうだった。
今篠原は園田と付き合ってるんだったな。色々聞かされててもおかしくない。
まぁ俺にはどうしても、園田に思惑があるって勘ぐっちゃうけどな。
そしてそれは多分間違ってないのだろう。
「関係ないね」
だってそれ、事実じゃないし。
てか今更脅しって言っても、お前ら十分暴れてるからさ、もう脅しにもなってないんだよね。
「ふーん。もしかしてただの脅しだと思ってる?だったら遠慮なく」
そう前置きして、篠原は周りに聴こえるように言い放つ。
「お前確か言ってたよな?本人に聞けってな?聞いたぞ?お前が恵美のことをいじめてたってなぁ!?」
篠原の発言に、教室がざわつく。
まぁ、そうくるよな。なんたってお前は彼氏さんだもんな。
「やっぱり本当だったんだ」「さいてー」
何て言葉が至る所から聞こえてくる。
以前とは違う彼氏という存在の言葉は、さぞ信憑性の高いことだろう。
これでよっぽどのことでなければ、俺の罪は確定してしまうだろうな。
少なくとも、無関係な奴らからすれば。
さて、ここで声を上げるのは簡単だ。
俺はやっていないと。これは誤解なんだと。
そう言うのは簡単だ。
だけどそれは悪手だろう。宮島というカードは、あくまで園田たち当事者にしか有効じゃない。
結局何を言ったって、俺に対する疑惑は拭えないのだ。
仮に拭えたとて、わだかまりは残る。
それがいじめの本質。遺恨が本当の意味で無くなることなんてない。
見て見ぬ振りができるなら、それに越したことはない。誰だって面倒ごとに首を突っ込みたくないから。
見ないフリをするのも共犯って聞いたことがある。
そんなの嘘だ。100%いじめた奴らが悪いに決まってる。
自分可愛さにそうすることが、悪いことなんて思わない。
そして残る結果は孤立だ。腫れ物みたいに扱われるだけ。本質的に解決は訪れない。
辿る結果が同じなら、俺は違う道を選びたい。
勝った負けたで語ってしまうと、園田が転校してきた時点で負けている。
勝利条件を思い出せ。もっとも、勝利なんて綺麗なものではないけれど。
きっと怒られるんだろうなぁ。たくさん文句を言われるに違いない。
だけど俺は決めた。やり通すと決めた。だから間違えない。
決してこれは、自己犠牲なんかじゃない。
「もしそうだったとして、お前は俺にどうしてほしいんだよ?」
告げる。何事もないように、できるだけみんなに聴こえるように。
まるで自分は悪くないと言わんばかりに、傲岸不遜に言い放つ。
「んなっ、開き直りやがった……」
きっと俺の苦しむ姿が見たかっただろう。困り果てる姿を望んだだろう。
チラリと篠原の隣のやつの表情を伺う。
「……」
そこには何ともいえない表情をする白河の姿があった。
薄々思ってたことだけど、これはもしや?
どちらにせよ白河がそちらにいる以上、俺の負けはない。
「話は終わりか?」
俺は座ったまま、見下ろす位置にいる篠原にそう言う。
篠原の目には、俺の姿がさぞ気味悪く映ったことだろう。
追い詰めるはずが、こうも堪えてないのだから。
「最低のクズだな、お前」
そう言い残して、篠原は教室を出た。それについていく形で、白河も。
思い出したかのように、喧騒を取り戻す教室。しかし視線は俺に集まったままだ。
辛くはなかった。それはもう、強がりでも何でも無くだ。
こんな茶番に、どうして俺が付き合ってやらなければいけないのだろうか。
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