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一人と独りの静電気   作者: 枕元
第五章 その救いは誰のものか
34/75

三者三葉

 家に帰って、お母さんが入れておいてくれたお風呂に浸かりながら、私は今日のことを思い返していた。


 思い出すだけで、顔を覆ってしまうような場面がいくつもあった。


 「ちょっと、偉そうだったかなぁ」


 第三者でありながら、少し色々と言い過ぎだったかもしれない。


 「だけど、頑張るって決めたもんね」


 実際に声に出し、自分を奮い立たせる。そうだ、一歩踏み出すって決めたんだ。


 こんなことで、いちいちクヨクヨとしてられない。

 

 それに、いや、だけど。


 『福村が、辛そうだったからーー』


 

 ーーーーこれは、やばい。


 全身が熱を帯びるのがわかる。うん。嬉しかった。


 その言葉の意味を、私はしっかりと理解していた。

 その優しさに触れて、心が温かくなった。


 だから、だからこそだ。自分の動機が少し情けなくなる。


 確かに、最初は純粋な心配だったと思う。


 出会いは疑問で、それが心配に変わって、あの子の笑顔が浮かんできて、ほっとけなかったのだ。


 だけど今はどうだろう。


 もちろん彼のことは心配だ。恵美のことも含め、白河たちのこともある。


 だけど彼が私のために動こうとしてくれていること、それに喜びを感じてしまっている自分に、私は少しの嫌悪感を覚えていた。


 彼とは違う。もう私の動機はそんなに綺麗な物じゃない。


 そんな心持ちで踏み込んだ私を、彼は受け入れてくれた。


 きっとこの気持ちは、彼にはまだ気付かれていない。

 彼の中で、私はきっと綺麗なままだ。


 でも、それがバレてしまった時、彼は私をどう思うだろうか。


 自分でもわかってない。これが恋愛感情なのか。


 私は彼のことが好きなのだろうか。正直自分でもわからなかった。


 嫉妬はした。彼を慰めるのは自分でありたいと、そう思った。


 でもそれは歪んだ正義感から。蚊帳の外にいるのが嫌だっただけ。


 引き返す選択肢はもちろんない。そのつもりもない。


 もとより自分が決めたこと。そこに関して後悔はない。


 だけど胸の中にある不安は、いつまでもいつまでも残り続けていた。



ーーーー


 「やっぱり、話したくないよね」


 「ごめんね、瑞樹」

 

 中学2年の頃、友達がいじめにあった。


 彼女はすごく落ち込んでいて、それをどうにかしてあげたいと思い、私はたびたび彼女を遊びに誘った。


 それでもなかなか彼女は、普段の笑顔を見せてはくれなかった。


 別に明るい子ってわけではない。どちらかと言えば大人しいタイプ。


 彼女をいじめたやつに、一言言ってやりたかった。

 顔と名前は知ってるけど、どんなやつかは知らなかった。


 その時からすでに、私の中の喜多見という少年は、最低な人物として認識された。


 だけどいじめが発覚して、私がそれを知った頃にはすでに、彼は学校には来なくなっていた。


 その後程なくして転校が決まって、とうとう一度も文句を言うことは叶わなかった。


 「いいよ、恵美。辛かったもんね」

 

 彼女は、具体的に何があったのかを頑なに話そうとはしなかった。


 ただごめんね、ありがとうね。そう何度も何度も、彼女は繰り返した。


 何があったのかを話さないことは、私は仕方ないと思った。辛い思い出を言葉にさせるのは彼女の負担になると思い、無理強いもしなかった。


 ただ、彼女を苦しめた喜多見への怒りだけが溜まっていった。


 

ーーーー

 

 そしてカフェで喜多見を見つけた時、一瞬で血が頭に上ったのがわかった。


 しかも喜多見は、舞華とも知り合いなようだった。


 許せなかった。


 友達を傷つけておいて、逃げた喜多見が。


 そんな奴が、今度は舞華と関わりがあることを看過することが、私にはできなかったのだ。


 だからつい、罵声を浴びせてしまった。


 別に後悔はしていなかった。だって事実しか言ってないはずだったから。


 舞華と同じ学校に通っていた白河に、喜多見の過去のことをばらしたのは二人のためだった。


 白河とは家が近くで、友達というよりは知り合いってニュアンスの方が強いかもしれない。

 別に仲がいいわけではないけど、悪いというほどでもなかった。


 過去をばらしたこと。そこに喜多見に対する個人的な怒りが無かったかといえば、それは否定できない。


 だけど別に、陥れてやろうとかそこまでのことではなかった。


 ただ舞花が、恵美が、他の誰かが喜多見に騙されて、傷つけられることを見逃したくなかっただけ。


 だけど、そんな私の思惑なんて、彼には関係ない。


 今日、喜多見の話を聞いて私は、取り返しのつかないことをした、ということを自覚した。


 いや、正しくは半分。


 私はまだ、喜多見の話を信じきれてはいなかった。


 というよりも、恵美のことを信じてあげたかった。


 あの頃の恵美の表情。辛そうな態度。

 それらが嘘だなんて、私には信じられなかった。


 それほどに彼女は思い詰めていて、本気で悩んでいるように私には見えた。

 

 そんな彼女を、ただ悪者になんて私には出来なかった。


 だけど舞華の態度を見て、きっと喜多見がデタラメを言っているわけではない、というのが伝わってきてしまった。


 舞華は正義感の強い子だ。嘘をついているところも見たことがなかった。


 しかも、恵美とはかなり仲が良かったはずだ。


 そんな彼女が、喜多見の話を信じていた。それだけのことがあることは、すぐにわかった。


 だから否定しきることができなかった。


 だけどきっと事情があるはずだ。そう言い聞かせて、自分の罪を誤魔化した。


 だけど一度自覚した罪は、中々自分じゃ消し去れない。


 この先私はどうすればいいのだろう。


 その答えは、一晩経っても出ることはなかった。



ーーーー



 話を聞いていて一番思ったことは、「ズレているのは私なのか」ってこと。


 話が進むにつれて、私のイライラは募っていった。


 だって、先輩が怒らないから。


 どうしてあんなに相手の立場になって考えられるのか。


 どうしてあんなに冷静でいられるのか。


 どうしてあんな理不尽を、さも当然のように受け入れてしまえるのか。


 私にはさっぱりわからなかった。


 まるで第三者のようだった。自分のことじゃないかのようだった。


 そして多分、それは当たっている。


 きっと先輩は、福村さんのために動こうとしているんだ。


 「いいなぁ」


 その事実に、不謹慎なのはわかっていても、ついそう呟いてしまう。


 だって私は蚊帳の外。正真正銘部外者。


 どうして一緒に話を聞かせてもらえたのかさえ、私にはわからない。


 まぁそれはともかく、とにかく先輩はどこかズレていると思う。


 ここまでされて、結局動く理由は他人のため。自分のためじゃない。


 このままだと、あの板倉って人まで許してしまいそうだ。


 そもそも、今日の態度を見ると怒っているのかすら怪しいが。


 どうしてだろう。憎くないのだろうか。


 帰り際に、福村さんに板倉さんのことを少し聞いたけど、どう考えても板倉って人が悪い。


 というか普通に、誰がいじめたとか関係なしに、度が過ぎた行為をしていると思った。


 いろんな噂も流されたみたいだし、普通にライン越え。一発アウトだ。


 なのに、なのにだ。


 なんてことない表情でそれを流す。怒りをあらわにしない。


 それどころか直接目の前にいるのに文句も言わない。


 私だったらあんな味方の方が多い状況で、それこそ憎い相手が目の前にいたら、思っていることや、怒りの二つや一つ浴びせていたかもしれない。


 というか、今日ですらそうしたかった。


 そう思う私は、どこかズレてしまっているのだろうか。



 確かにそれは美徳なのかもしれない。それが先輩のいいところなのかもしれない。


 でも、それが「正しい」とは到底思えなかった。


 欲張りになるべきだ。もっと自分から求めるべきだ。

 

 「迷惑かなぁ」

 

 私がそうさせてあげたいと思う。もっとわがままを言えるようにしてあげたい。


 これは私のわがまま。正義感とか、そんな大層なものじゃない。


 私がそうしたい。寄り添ってあげたくなる。


 色々思ったけど、結局私はーーーー






 ーーーーそんな先輩が好きだから

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いです! ドロドロな感情が混ざりあって複雑な気持ちですが、何となく、「あぁ、そうなんだろうな」と共感できます! ・・・ちゃんと★★★★★しときましたよ?
[良い点] まだまだ更新有るんだガンバです。 [一言] まあ彼と同じ道行くと決めた以上、頑張んなですわ。 ただ、その先に今までの友人関係の解消が待ってはいるんでしょうが。
[一言] あと2人分頑張れ(期待の眼差し
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