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一人と独りの静電気   作者: 枕元
第五章 その救いは誰のものか

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33/65

それぞれの

 「それにしても本当に久しぶりだね、加奈」

 「そうだね、まいちゃん」


 席について、二人はそんな言葉を交わす。しかし明らかに宮島の声色は暗いものだった。


 それもそうだろう。なんせ彼女はこれから、自分の犯した罪を友人に明かすのだ。


 俺以外の人間が来るのは事前に伝えていたから、覚悟はしてきただろう。だけど、かつての友人だったことまでは予想できていただろうか。


 仮にできていたとしても、彼女はこの場に来たと思うけど。


 「あのね、まいちゃん」

 「ん、どうしたの?」


 宮島の態度から、真剣な話が始まると察したのだろう。彼女は聞き入れる姿勢をとった。


 「私ね」


 彼女は話し始めた。その姿は、あの日と変わらず断罪を望む子供のようだった。


 それだけで彼女の、この場にかける思いが伝わってきたのだったーー



ーーーー


 「ってことなの」

 「そう、だったんだ」


 宮島は全てを打ち明けた。俺に告白したことを、彼女にとって関係のないはずの福村に全てを話した。


 それを聞いた福村は、しばらくの沈黙の後、こう語り出した。


 「正直、私から言うことはないかな?」

 「え?」


 そんな言葉に疑問符を浮かべる宮島。

 

 きっと彼女は、福村に責められると思っていたのだろう。だけどそうはならなかった。


 「そりゃ腹は立ったし、ひどいとも思った。でも、許すか許さないかは喜多見次第だし、そもそもそれを望んで行動したわけではないんでしょ?」

 「うん。これは私がそうしなきゃって思ってるだけ。許してもらえるかは、関係ない、かな」


 たしかにそうかもな。福村に宮島をどうこうする権利は無い。大事なのは俺と宮島の意思だ。


 それに宮島は許されることを望んだわけではない、か。それって実はすごいことなんじゃないかって思う。


 謝るのは、許してもらうためだ。許してもらえなきゃ意味がない。少なくとも、俺はそう思っていた。


 許してもらえるようにと彼女は言っていた。でもそれはあくまで、許されることが彼女の罪滅ぼしに繋がるからそう言っただけか。


 謝るという行為にも色々あるんだな。


 そしてそれを、宮島は実行している。きっと、たくさんの勇気が必要だったことだろう。


 「喜多見がいいっていうなら、もちろん私はいいと思う。それになんていうか……加奈の反省が伝わってきたっていうか、それをただ否定するのも、違うかなって」

 「ありがとう、まいちゃん」


 まぁなんだ?二人が納得できる形になって良かった。


 ここで仲違いされても困るし、実を言うと少し懸念していたことでもある。


 晴れて本題に入れると言うものだ。




ーーーー


 「で、宮島。話って?」

 「うん。まずはこれをみてほしい」


 そう言って彼女は携帯を差し出してきた。その画面には、メールが表示されていた。 


 なんかデジャブ。


 【☆速報☆喜多見、また色んな人に迷惑をかけてる模様!!反省の色なし!!】

 

 「まじか」

 「また?」


 誹謗中傷、再びである。


 「またこんなメールが回ってきてね、しかも送信元が、その」


 彼女は画面をスクロールして見せてくれる。


 画面には【Itakura@zmail.com】と書かれていた。


 「板倉か…」

 「そんな、瑞樹、どうしてよ」


 隣の福村は、俺以上にショックを受けていた。


 まぁそれもそうか。もしかしたらわかってくれるかも、なんて期待が彼女にはあったのかもしれないしな。


 「その、他にもあって」

 「これだけじゃないのか」

 

 そう言って宮島は、似たようなメールを2.3通見せてくれた。


 「一応伝えておいたほうが、いいと思って」

 「ああ、助かるよ。ありがとな」


 その後、宮島はすぐに帰った。といっても帰らせた、と言ったほうが正しいか。


 この後俺はそのままバイトだし、用もなくこの場には留まりたくないだろうしないな。だけど多分俺が促してやらないと、帰りづらいだろうし。


 福村は宮島と一緒に店を出た。きっとこの後、色々と話すのだろう。


 「先輩、お疲れ様でした」

 「ん?ああ、ありがとな」


 俺がシフトに入っている時間まではまだ時間があったので、少しゆっくりしてたのだが、そこに榊原がお茶を持ってきてくれた。


 「今お客さんいないからゆっくりしとけって、店長からです」

 「ああ、あとでお礼言わなきゃな」


 榊原は二人分のお茶を机に置いて、隣に座った。


 「いいんですよ、お礼なんて。こんなの、あの時の分ですって」

 「ああ、あの誤解の話か」


 俺がクビになったと勘違いした事を言ってるようだ。それにしたって引っ張りすぎでは?


 「いいんです!!だって、ショックだったのは先輩だけじゃないんですから」

 「え?俺だけじゃない?」


 それってつまり、榊原もショックだったってことか?


 「さ、早く飲まなきゃさめちゃいますよ!てか、この気温ならあったかい必要ないかもですけど」

 

 何だかはぐらかされた気がするが、まぁいいか。


 最近どんどんあったかくなってるし、今こうして心が落ち着いてきたのも、きっとそのおかげもあるのだろう。


 「あったかいですね」

 「そーだな」

 

 だけどそれは、きっとそれだけが理由じゃないってことを、俺はしっかりと自覚していた。



ーーーー


 私は再会したかつての友人、加奈と駅に向かって二人で歩いていた。


 喜多見はこの後バイトらしい。長居するのもアレなので、二人して出てきたというわけだ。


 私の家は駅とは反対なんだけど、そんな距離もないし、何より今は彼女と話がしたかった。


 「ごめんね、こんな再会になっちゃって」


 加奈が神妙な面持ちで、そんなことを言ってきた。


 たしかに、理想とはかけ離れた再会と言えるだろう。


 「いいよ、別に。その、すごい反省してるみたいだし」


 今日少し話しているだけでも、それがわかった。


 彼女は後悔している。過去の行いを、自分の犯してしまった罪を。


 その後悔を行動に移している。それが簡単なことでないことは、私にだってよくわかる。


 それに喜多見が、加奈の行動を受け入れているんだ。私がとやかくいっても仕方ない。


 「彼、不思議な人だよね」

 「不思議な人?」


 彼、というのはもちろん喜多見のことだろう。


 「うん。なんていうか自分の痛みにというかさ、正直私ね、もっと恨まれていると思った。少しも受け入れてもらえなくて、はっきり拒絶されると思ってたんだよ」

 「それは」


 違うよ。そう、言うつもりだった。


 だけどついで言葉が出ることは無かった。私はその言葉を飲み込んだ。


 「確かに、そうかもね」


 違う。本心ではそう思ってない。


 彼は変わったんだ。以前に比べて、なんていうか余裕ができただけだ。


 別に痛みに無頓着なんじゃない。彼は目を逸らしてるだけ。


 実際に彼は、「辛かった」と言っていたわけだし。


 本当は人並みに傷ついてるし、人並みに悲しんでる。


 でないと、私が感じていた苦しみに気づけるはずがないから。


 ただ、それを表に出さないだけ。


 私は思うのだ。


 彼が私の立場を案じてくれるのは、自分の痛みから目を逸らそうとしてるだけなんじゃないかって。


 つまりは自分と似た境遇(噂や誤解による立場の悪化)に陥った私を助けることで、自分を助けたつもりになりたいんじゃないかって。


 人を助けることは、時に自分を助けることになるから。


 かつて喜多見に話しかけた私だって、「あの子」に対する後悔があったわけだし。


 つまり彼は私に、自分自身を重ねてるんじゃないのだろうか。


 要するに、「自分と似た境遇の人」を助けようとしているだけで、私を助けたいわけではない、ということ。


 私が特別なわけでは、ない。


 そう思ってしまったのにも、理由がある。


 だって彼が加奈に向けていた目は、すごく優しいものだったから。


 端的に言えば、嫉妬した。


 何でもないように受け入れ、彼女と話す喜多見。それを受ける加奈に、嫉妬した。


 そうだ。彼は誰にだって優しいんだ。私にだけ特別優しいわけじゃない。


 だけどそれを認めたくはなかった。


 「ちょっと抜けてるところがあるからね、喜多見は」


 だから誤魔化した。嘘をついた。


 本当は彼が優しいからって、そう言うべきだ。痛みは感じてるし、悲しいことだってあるんだよって、伝えるべきだ。


 だけど私にはできなかった。彼を、喜多見を優しい人間って言ったら、自分の特別が消えてしまいそうだから。


 そしてそんな私欲に満ちた、自分の思考に嫌気がさす。


 駅で彼女と別れた後、まっすぐ帰宅した私はすぐに寝る準備をした。


 一刻も早く眠りにつきたかった。これ以上の自己嫌悪には耐えられそうになかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] みんなごちゃごちゃ考えすぎ。 理不尽には敢然と立ち向かえ。実力行使もありだ。 悪党や外道って輩はこちらが期待するほど人の心なんか持ち合わせていないぞ。
[一言] 福村にとっては、宮島に対して、どうするかよりは、アレへの態度をこれ聞いた以上はどうするかでしょうしね。 又、宮島以外にもあの時の真実知ってる人間(要は苛め側)が最近の動き見て、どう動くかも有…
[一言] 板倉くんおバカなのかな? メアドに名前つけちゃってw 先が見えるねー
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