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一人と独りの静電気   作者: 枕元
第五章 その救いは誰のものか

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それぞれの思惑

お待たせしてすいません!

リアルが忙しくて・・・って感じです!モチベはあります。がんばります。

それと後書きに皆様へのお願いがあるので、一読していただけると幸いです。

 「ただいま、幸」

 「ん、おかえり」

 

 家に着いた俺を、幸が出迎えてくれた。

 リビングの方からは、いい匂いが漂ってきている。

 

 どうやら俺が帰ってくるのを待っていてくれたようだ。


 先に食べててよかったのに、なんて無粋なことはもう聞かない。きっと幸が求めているのはそんな言葉じゃない。


 「とりあえず、ご飯にしよ?」

 「ああ、ありがとな」


 席について、二人揃って食べ始める。

 特別なことは何もない。いつもと変わらない。


 だけどそこに俺は、どこか寂しさを覚えた。

 本来いるはずの存在。それに想いを馳せる。


 いつかまた、本来の形を取り戻す事が出来るだろうか。

 すごく先の長い話だと、そう思った。


 しかし今は直近の問題だ。一度その感情に蓋をする。

 

 とにかく今日あったことだ。

 それに今までのことも、幸に話さないという選択肢は、すでに俺には無くなっていた。


 義務感に駆られているわけではない。ただ、そうしたいと思ったから。


 幸には知っておいて欲しいと、俺がそう思えるようになったのは、紛れもない彼女自身の献身のおかげだ。


 「あのな、幸」


 俺は今までのことを、ゆっくりと話し始めた。


 それを幸は、ただ黙って聞いていてくれた。



ーーーー


 「って、感じなんだけど」


 あの時園田に裏切られたこと、いじめられていたのは俺だったこと、そして今日何があったのか。それらを順に追って説明した。


 それを幸は、一言も発さずに聞いていた。


 ところどころ表情が変わっていたのが、少し可愛らしかったのは黙っておこう。きっと拗ねてしまうからな。


 「お兄ちゃん、本当に大変だったね。ううん、辛い思いさせちゃって、本当にごめんね」 


 そう言って幸は、ぎゅっと俺の胸元に顔を押し付けるようにして抱きついてきた。


 きっとそれは、自分の表情を隠すためなんじゃないかと思う。きっと幸は今、想像よりもずっと暗い顔をしているだろうから。


 彼女の胸は、後悔に塗りつぶされているだろうから。


 俺は幸の頭を撫でながら、言った。


 「いいんだよ、幸」

 「私もありがと」


 でもとか、だって私が、なんてことを幸は言わない。


 その会話が不要なことは、すでにお互いわかってる。


 たった一言、許す言葉と感謝の言葉。


 それが成り立つ関係性を、幸は俺と築いてくれた。


 本当に、俺にはもったいない妹だと思う。


 「じゃあちょっと、私からも言っていい?」

 「ん、いいぞ」


 胸に顔を埋めたまま、幸は話し始めた。


 「お兄ちゃんさ、当時の園田さんのことは、実際悪いと思ってないでしょ」

 「悪いと、思ってない?」


 幸の言葉に、綺麗なおうむ返しをしてしまう。


 「私さ、正直園田さんの考えは分かるっていうか、理解はできるんだよね」

 「と言うと?」

  

 本当は俺もわかってる。でもそれを俺は、改めて幸の言葉で聞きたかった。


 幸は続ける。


 「多分だけど、きっと園田さんって人は脅されたりしてたんじゃない?それでお兄ちゃんのことをいじめてしまった、とか」

 「ああ、それは俺も考えたことはあるな」


 というか、そうなんだろうとは思っていた。


 だけど、それを仕方ないと片付けられるほど、当時の俺は大人では無かったのだ。


 「もし全部裏で手を引いてて、最初からお兄ちゃんがターゲットとかならもうお手上げだけどさ、そうじゃないとしたら、裏切ったその過程と感情は理解できるんだよね。というか、それは最初からお兄ちゃんもわかってるんじゃない?」 

 「そうかもな」


 こうして言語化したのは初めてだったが、確かにそれを理解はしていたと思う。


 「やっぱり、俺の中で園田は被害者なのか」

 「そうだと思う。さっきの話を聞いてて、そんな印象だったし」


 となると、やっぱり福村が言ってたことは当たっているのだろう。


 「だけどじゃあどうしたいかって言われても、お兄ちゃんは別にどうもしたくないんでしょ?」

 「それは、まぁぶっちゃけ関わらないでいてくれたらそれが一番だな」


 今回どうにかしたいのはあくまで福村のことで、俺と園田の関係性をどうにかしたいわけじゃないしな。


 「良くも悪くも、理解してしまっていると言うか。園田さんに「裏切られた」って言うことがお兄ちゃんにとって重要なはずなのに、その理屈がわかっているから責められない。悪者にできない。それは美徳なのかもしれないけど、現にお兄ちゃんはそれに苦しめられてる。だから選ばれたのが、不干渉。関わらないことなんだよ」

 「そうかもしれない」


 幸の言葉には、納得できる部分が多い。


 「私はそれでもいいと思う。別にお兄ちゃんがそれでいいなら、関わる必要なんてないと思う。だってお兄ちゃんにとっては、どちらも被害者で園田さんのことを悪く思ってないんだから」


 確かにそうだ。


 あの時俺が彼女の手を振り払ったのは、あくまで俺の胸中に渦巻いた劣等感がさせただけ。


 別に過去の憎しみとかがそうさせたわけじゃない。


 だったら、確かにそうだ。


 だけどーーーー


 「だけど、今回その一線を超えてきたのは向こうだからね。もうその理論は通用しない」

 「そうだな」


 向こうから何かをしてくるなら、やはり抵抗するべきだろう。現状維持ができるなら、それに越したことはないが。


 今は以前と違って、切れるカードも揃っていることだしな。


 「多分多分ってなっちゃうけど、多分お兄ちゃんは園田さんに謝られてたら許してたと思うよ」

 「そうかもな」


 あの時、手を振り払う前に、もし彼女が俺の元に来て、謝っていたら?


 もうわからない。だけど、きっと今とは違う未来になっていた。それは断言できる。


 きっと白河と篠原は止まらない。あそこまでやっておいて、後には引けないだろうから。


 となれば、園田もまた然りだ。


ーーーー


 家に帰って、お母さんが入れておいてくれたお風呂に浸かりながら、私は今日のことを思い返していた。


 思い出すだけで、顔を覆ってしまうような場面がいくつもあった。


 「ちょっと、偉そうだったかなぁ」


 第三者でありながら、少し色々と言い過ぎだったかもしれない。


 「だけど、頑張るって決めたもんね」


 実際に声に出し、自分を奮い立たせる。そうだ、一歩踏み出すって決めたんだ。


 こんなことで、いちいちクヨクヨとしてられない。

 

 それに、いや、だけど。


 『福村が、辛そうだったからーー』


 

 ーーーーこれは、やばい。


 全身が熱を帯びるのがわかる。うん。嬉しかった。


 その言葉の意味を、私はしっかりと理解していた。

 その優しさに触れて、心が温かくなった。


 だから、だからこそだ。自分の動機が少し情けなくなる。


 確かに、最初は純粋な心配だったと思う。


 出会いは疑問で、それが心配に変わって、あの子の笑顔が浮かんできて、ほっとけなかったのだ。


 だけど今はどうだろう。


 もちろん彼のことは心配だ。恵美のことも含め、白河たちのこともある。


 だけど彼が私のために動こうとしてくれていること、それに喜びを感じてしまっている自分に、私は少しの嫌悪感を覚えていた。


 彼とは違う。もう私の動機はそんなに綺麗な物じゃない。


 そんな心持ちで踏み込んだ私を、彼は受け入れてくれた。


 きっとこの気持ちは、彼にはまだ気付かれていない。

 彼の中で、私はきっと綺麗なままだ。


 でも、それがバレてしまった時、彼は私をどう思うだろうか。


 自分でもわかってない。これが恋愛感情なのか。


 私は彼のことが好きなのだろうか。正直自分でもわからなかった。


 嫉妬はした。彼を慰めるのは自分でありたいと、そう思った。


 でもそれは歪んだ正義感から。蚊帳の外にいるのが嫌だっただけ。


 引き返す選択肢はもちろんない。そのつもりもない。


 もとより自分が決めたこと。そこに関して後悔はない。


 だけど胸の中にある不安は、いつまでもいつまでも残り続けていた。



ーーーー


 「やっぱり、話したくないよね」


 「ごめんね、瑞樹」

 

 中学2年の頃、友達がいじめにあった。


 彼女はすごく落ち込んでいて、それをどうにかしてあげたいと思い、私はたびたび彼女を遊びに誘った。


 それでもなかなか彼女は、普段の笑顔を見せてはくれなかった。


 別に明るい子ってわけではない。どちらかと言えば大人しいタイプ。


 彼女をいじめたやつに、一言言ってやりたかった。

 顔と名前は知ってるけど、どんなやつかは知らなかった。


 その時からすでに、私の中の喜多見という少年は、最低な人物として認識された。


 だけどいじめが発覚して、私がそれを知った頃にはすでに、彼は学校には来なくなっていた。


 その後程なくして転校が決まって、とうとう一度も文句を言うことは叶わなかった。


 「いいよ、恵美。辛かったもんね」

 

 彼女は、具体的に何があったのかを頑なに話そうとはしなかった。


 ただごめんね、ありがとうね。そう何度も何度も、彼女は繰り返した。


 何があったのかを話さないことは、私は仕方ないと思った。辛い思い出を言葉にさせるのは彼女の負担になると思い、無理強いもしなかった。


 ただ、彼女を苦しめた喜多見への怒りだけが溜まっていった。


 そしてカフェで喜多見を見つけた時、一瞬で血が頭に上ったのがわかった。


 しかも喜多見は、舞華とも知り合いなようだった。


 許せなかった。


 友達を傷つけておいて、逃げた喜多見が。


 そんな奴が、今度は舞華と関わりがあることを看過することが、私にはできなかったのだ。


 だからつい、罵声を浴びせてしまった。


 別に後悔はしていなかった。だって事実しか言ってないはずだったから。


 舞華と同じ学校に通っていた白河に、喜多見の過去のことをばらしたのは二人のためだった。


 白河とは家が近くで、友達というよりは知り合いってニュアンスの方が強いかもしれない。

 別に仲がいいわけではないけど、悪いというほどでもなかった。


 過去をばらしたこと。そこに喜多見に対する個人的な怒りが無かったかといえば、それは否定できない。


 だけど別に、陥れてやろうとかそこまでのことではなかった。


 ただ舞花が、恵美が、他の誰かが喜多見に騙されて、傷つけられることを見逃したくなかっただけ。


 だけど、そんな私の思惑なんて、彼には関係ない。


 今日、喜多見の話を聞いて私は、取り返しのつかないことをした、ということを自覚した。


 いや、正しくは半分。


 私はまだ、喜多見の話を信じきれてはいなかった。


 というよりも、恵美のことを信じてあげたかった。


 あの頃の恵美の表情。辛そうな態度。

 それらが嘘だなんて、私には信じられなかった。


 それほどに彼女は思い詰めていて、本気で悩んでいるように私には見えた。

 

 そんな彼女を、ただ悪者になんて私には出来なかった。


 だけど舞華の態度を見て、きっと喜多見がデタラメを言っているわけではない、というのが伝わってきてしまった。


 舞華は正義感の強い子だ。嘘をついているところも見たことがなかった。


 しかも、恵美とはかなり仲が良かったはずだ。


 そんな彼女が、喜多見の話を信じていた。それだけのことがあることは、すぐにわかった。


 だから否定しきることができなかった。


 だけどきっと事情があるはずだ。そう言い聞かせて、自分の罪を誤魔化した。


 だけど一度自覚した罪は、中々自分じゃ消し去れない。


 この先私はどうすればいいのだろう。


 その答えは、一晩経っても出ることはなかった。



ーーーー



 話を聞いていて一番思ったことは、「ズレているのは私なのか」ってこと。


 話が進むにつれて、私のイライラは募っていった。


 だって、先輩が怒らないから。


 どうしてあんなに相手の立場になって考えられるのか。


 どうしてあんなに冷静でいられるのか。


 どうしてあんな理不尽を、さも当然のように受け入れてしまえるのか。


 私にはさっぱりわからなかった。


 まるで第三者のようだった。自分のことじゃないかのようだった。


 そして多分、それは当たっている。


 きっと先輩は、福村さんのために動こうとしているんだ。


 「いいなぁ」


 その事実に、不謹慎なのはわかっていても、ついそう呟いてしまう。


 だって私は蚊帳の外。正真正銘部外者。


 どうして一緒に話を聞かせてもらえたのかさえ、私にはわからない。


 まぁそれはともかく、とにかく先輩はどこかズレていると思う。


 ここまでされて、結局動く理由は他人のため。自分のためじゃない。


 このままだと、あの板倉って人まで許してしまいそうだ。


 そもそも、今日の態度を見ると怒っているのかすら怪しいが。


 どうしてだろう。憎くないのだろうか。


 帰り際に、福村さんに板倉さんのことを少し聞いたけど、どう考えても板倉って人が悪い。


 というか普通に、誰がいじめたとか関係なしに、度が過ぎた行為をしていると思った。


 いろんな噂も流されたみたいだし、普通にライン越え。一発アウトだ。


 なのに、なのにだ。


 なんてことない表情でそれを流す。怒りをあらわにしない。


 それどころか直接目の前にいるのに文句も言わない。


 私だったらあんな味方の方が多い状況で、それこそ憎い相手が目の前にいたら、思っていることや、怒りの二つや一つ浴びせていたかもしれない。


 というか、今日ですらそうしたかった。


 そう思う私は、どこかズレてしまっているのだろうか。



 確かにそれは美徳なのかもしれない。それが先輩のいいところなのかもしれない。


 でも、それが「正しい」とは到底思えなかった。


 欲張りになるべきだ。もっと自分から求めるべきだ。

 

 「迷惑かなぁ」

 

 私がそうさせてあげたいと思う。もっとわがままを言えるようにしてあげたい。


 これは私のわがまま。正義感とか、そんな大層なものじゃない。


 私がそうしたい。寄り添ってあげたくなる。


 色々思ったけど、結局私は




 そんな先輩が好きだから

単刀直入に言いますと、運営様からメールが来ました。

簡単に言えば悪口が感想欄に書かれまして、それの対応をしていただきました。

もちろん作者にペナルティ等はありませんが、そういったことで運営様にご迷惑はかけたくないので、少々自治を強めたいと思っています。

もちろん酷評は受け止めます。「面白くない」「つまらない」は悪口ではなく、感想です。

決して悪いものではございません。受け止めさせていただきます。

ですが今後は、理由なくそう書かれたものに関しては削除させていただきます。

また、運営の名を騙る不届き者がいますが、それの対応は作者がしますので、見かけてもスルーしていただくようお願いします。

ご理解の程よろしくお願いします。


ぜひ!下の☆☆☆☆☆から評価の方をお願いします!

 


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― 新着の感想 ―
[一言] 色恋沙汰が絡んだ暴走は、簡単には止まらないからね。
[良い点] 学校生活における汚いもの、納得いかない事にたいして、 作者なりのアプローチで描写し、小説化している点。 [一言] 起こったことに対する、対応の選択や紡がれるストーリーは作者が決めることで…
[良い点] 妹ちゃんとの相互理解と、その上での擦り合わせ。 互いにために考えて行動する関係になれてよかった。 [一言] 実際園田が何をしたか、伝聞や憶測の部分を使うのは危険なんですよね。 あくまで当…
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