作為めいた知らせ
さぁ、5章始まります。
よろしくお願いします!
さて、この写真を撮ったのはいったい誰なのだろうか。
可能性として考えられるのは、白河一派(板倉を含む)が一番あり得そうだと思った。
嫌がらせのほとんどはこいつらだし。
もう一つ考えられるとすれば、それは園田だ。
現状、他に考えられる人はいなかった。
まぁ、わからないものを考えてたって仕方がない。
それよりも、気になることがある。
白河たちと園田は、お互いの事情を知っているのだろうか。
そもそも白河たちがやってきたことを、園田はどこまで把握しているのだろうか。
てか、白河たちは本来の目的を達成できているのだろうか。
多分、白河はできていないと思う。あいつのターゲットのことを考えると、白河に靡くような性格はしていないと思う。
だけど篠原はどうなんだろうか。
きっと目的は園田に取り入ることだろう。それであわよくば付き合うところまで……って感じだろうか。
人を出汁にするのはやめて欲しいものだ。
ともかく、これ以上は俺の心情的に見逃せなくなってくる。
今までのもぶっちゃけライン越えはしていたけど。
これもなんだ、心境の変化の一つだろうか。
いや、環境の変化といった方が正しいかもしれない。
きっと取り返しがつくから。仮に何かを失っても、自分の居場所があるってわかってるだけで人はこんなにも変われるって、やっとわかった。
かつての自分ほどとは言えないけれど、少しは福村の考えが理解できる気がした。
そして考えれば考えるほど、彼女のその考えは、俺にとっての「理想」そのものだった。
だからこそかもしれない。俺が彼女と相入れなかったのは。
その理想を壊してしまうのが、自分であることがたまらなく恐ろしかったのだ。
思い上がりもいいところかもしれない。だけど、それを経験してしまっている俺としては、どうしても彼女が他人とは思えなかった。
どうしても、自分と重ねてしまった。
これ以上彼女が関わってくることはあまりないと思う。
だけど彼女が置かれている現状によっては、俺はアクションを起こすべきなのだろうか。
逆の立場なら、ノーと言いたい。自分の招いた結果に、他人を巻き込みたくないから。
だけど「理想」を語るならイエスだ。
その「理想」は、彼女の中にはまだあるだろうか。
彼女との会話はめっきり減った。理由はわかる。福村にも何かあったんだ。
詳しくはわからないが、それはきっと園田が関係している。
俺にとっての分岐点。福村と関わるか、否か。
責任は感じる心が半分。忠告はしただろうという、突き放す建前が半分。
結局答えは出せず、俺は問題の先延ばしという最低な答えを出すのだった。
ーーーー
そして昼休み、衝撃の知らせが舞い込んできた。
「おい聞いたか?篠原のやつ、園田と付き合うことになったらしいぜ!?」
「うお!まじかー。え、それってどっちから?」
「どっちからっていうか、前の告白をやっぱり受けたって感じらしいぞ」
何とまさか、園田のお付き合い情報だった。
相手は篠原。今まさに俺を悩ませる問題の当事者ではないか。
つまり、彼の目論みは成功したということか?
いや、どうにもきな臭い。というより、タイミングが良すぎると思った。
色々事態が起こっている中での、これだ。
そのままその情報を受け入れるほど、俺は楽観的ではなかった。
きっと作為めいた何かがある。俺はどこか確信に近いものを感じ取っていた。
ーーーー
そんなことはあったが、放課後俺はいつも通りバイトに勤しんでいた。お金は大事。
すると榊原がこんなことを言ってきた。
「先輩、悩み事ですか?」
その言葉に少しドキリとする。悩みは確かにある。
「あー、もしかして顔に出てた?」
「顔っていうか、なんか雰囲気的な?」
雰囲気か。そんなつもりはなかったんだけどな。どちらかといえば平静を装っていたぐらいなのに。
しかしただの後輩から見てそうなら、きっとあからさまに態度に出てしまっていたのだろう。
注意しなければ。俺はひとつ気を引き締めた。
「悪いな。気をつけるよ」
「別に迷惑とかじゃないですよ」
返ってきたのはそんな言葉。迷惑とかじゃない?
「え?それってどういう?」
「だから、少しはその、相談してくれたりとか?」
控えめな上目遣いで、彼女はそう言ってきた。
これはどうやら気を遣わせてしまったようだ。
とはいえこれは学校のこと。バイトの後輩にまで迷惑はかけたくない。
「いや、バイトのことじゃないしな。大丈夫だよ」
「そういうことじゃないんですけどねー」
「え?」
「なんでもないですー!さ、そろそろシゴトしましょシゴトー」
なんだか逆にはぐらかされてしまった。
(てか、何か普通に話してるな俺)
出来るだけ距離を取ろうと、最低限のコミュニケーションしかとらないようにしていたが、なんだかいつのまにか彼女とも距離が近くなった気がする。
それがいいことなのか悪いことなのか、判断に迷うところだが。
きっかけはやはり、幸との会話だろうな。
何か、妹に助けられすぎて情けなくなってきたな。
俺は気を紛らわすためにも、仕事に集中することにした。皿を下げ、洗い物を片付ける。
そしてあらかた仕事が落ち着いた時だった。時刻としては8時過ぎ。
そろそろ店を閉めようという時、店の外に俺はある人物を見つけた。
「あれ、あの人って福村さんですか?」
「お、おう。多分そうだな」
横からにゅっと榊原が顔を出してきて、その近さに少したじろいでしまう。
ともかく、その人影は福村だった。
「先輩、あの人と付き合ってるんですか?」
「からかうなよ、って榊原?」
最初、榊原はからかってきたのかと思ったが、なにやら真剣そうな目で俺を覗き込んできていた。
誤魔化しは許さないような、そんな目だった。
「別に、ただの同級生だよ。クラスも違うしな」
嘘じゃないし、これ以上の答えはないだろう。
胸で何かが引っかかった事実に俺は目を逸らす。
しかしその答えに、榊原はどうやら納得しなかったようで。
「本当ですか?」
またしても上目遣い。なんだ?なんかこの感じ身に覚えがあるんだよな。
(あぁ、幸に似てるのか)
なんというか距離感というか、仕草が似てる。
「本当だよ。別に恋仲とか、そんな話じゃないから」
「ふーん。ならいいですけどね?」
ならいいって、何がいいんだか。
もう少し離れてもらえないですかね。そう直接言えたらどんなに楽か。
多分言ったらまた不機嫌になるんだろうな。だから言えないし言わない。
「とりあえず、中で待っててもらったらどうです?もう少しで先輩上がりですよね?私もですけど」
「そうだな。ちょっと行ってくる」
これで俺に全く用がなかったら完全に赤っ恥だけど、流石にここで待っててそれはないだろう。
店を出て、福村に声をかける。
「福村」
「ひゃ、ひゃい!?」
聞いたことのない声で驚かれてしまった。
後ろから声をかけたのが悪かった。
「その、どうしたんだ?」
一応聞いておく。
「あ、その、少し話がしたくて、喜多見と」
俯きながら福村は、予想通りの返答を返してくる。
「俺、もう少しでバイト終わるからさ。中で待っててくれ。別に何か頼んだりしなくていいから」
店長もそれぐらい許してくれるだろう。
「あ、ありがと。そうさせてもらうね」
福村は素直に店内に入り席についた。頼まなくてもいいとは言ったが、福村は律儀にカフェラテを注文していた。
俺は残りの業務を片付ける。程なくして仕事は終わり、俺は制服に着替えた。
すると、店長が話しかけてきた。
「お店、少し開けとくから中で話してもいいぞ?」
ありがたい申し出だった。きっとこの前のこと絡みだと察してくれたのだろう。気遣いに胸が熱くなる。
「ありがとうございます」
俺は店長のお言葉に甘えて、少し店内を借りることにした。
「お待たせ」
そう言って俺は、ミニケーキを二つテーブルに置いて、座った。
「店長から、気にしないで」
「そんな、その、ありがとう」
しおらしいな。そう思った。
少なくとも以前との関わり方とは大きく違う。
なんというか、遠慮がちというか、そんな感じだ。
「それで、話って」
俺は彼女に話を振った。
彼女はゆっくりと口を開いて、話し始めたーー。
「えっと……どこから、話そうかな」
ゆっくりと、言葉を一つ一つ拾い上げるように、彼女は話し始めた。
口を挟むことなく、俺は黙ってそれを待った。
一口カフェラテを口に含み、それを飲み干すと彼女はこう言った。
「とりあえず、謝らせて欲しい」
そう言って彼女は、目を少しだけ伏せた。
肩を少し震わせ、まるでこれから叱られるのがわかっている子供の姿を想起させた。
かなり緊張しているようだ。傍目から見てもそれがわかった。
「今まで勝手なことばっかりして、迷惑かけたりしてごめんなさい」
そう言って彼女は頭を下げた。その姿はひどく小さく見えた。
そんなことをさせてしまったという、自分の不甲斐なさが胸の中で渦巻く。
理解はしている。彼女の自業自得だと。
別に俺が悪いわけじゃないってことを。
そこを間違えはしない。彼女の謝罪の意味を履き違えることはしない。
だから俺はその罪を否定しない。
その時俺は確かに彼女を煙たがったし、迷惑だと思ったから。
そのことを含め俺は、正直な気持ちを告げようとする。
しかし、それはある人物によって遮られてしまった。
「ちょっと舞華!?そいつに何されたの!?」
口を開きかけたその時だった。
店内に入ってきたのは、板倉瑞樹だった。
というわけで、5章の始まりでございます。
色々と回収していければなと思う次第です。
現在、少しずつこれまでの回に加筆修正を行なってます。
主に情景描写とか、その辺ですね。
物語に影響は一切ないので、一応のお知らせという感じです。
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