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一人と独りの静電気   作者: 枕元
第五章 その救いは誰のものか

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真相

お待たせしました。

 俺は板倉の方に顔を向け、こう聞いた。


 「あのさ、板倉の中で俺は何をしたことになってる?」


 とりあえずそこを確認しておこう。


 「あんたが恵美のことをいじめて、それがバレてハブられたりしたんじゃないの?ハブられたのは自業自得もいいところ、被害者ぶったりするんじゃないわよ?」


 板倉がそう答える。先程とは変わって、今は落ち着きを取り戻している。


 「それで学校来なくなったあんたは、そのまま転校。雲隠れした。要するに逃げたってことよ」


 逃げた、とはっきりと板倉は言った。


 (確かに、俺は逃げたのかもしれないな)


 だけど逃げるのが間違いなんて、今も昔も思わない。


 辛いことから逃げることの何が悪いのか。


 苦しいことを避けようとするのが間違いなのか。


 そんなはずはないだろう。


 「二つ間違ってることがある」

 「言ってみなさいよ」


 板倉は聞く姿勢を見せる。福村も同様に、俺が真相を話すのを待っていた。


 「まず最初にいじめられてたのは園田。それは間違ってないよ」


 順を追って説明する。


 「だけどいじめてた奴らは他のクラスメイトで、俺は関係ないんだ」

 「なっ、そんなはず……ないでしょ!?」


 俺の言葉に驚きを隠せない板倉。


 それもそうだろう。俺にかけた罵倒の全ては、俺が園田をいじめていたという前提で放たれたものだ。


 その前提が今、全て崩されたのだから。


 「悪いけど本当だ。俺が園田をいじめてた事実は存在しない」

 「嘘よ!だって恵美は、あんたにいじめられたって!」


 正確には恵美はそう言っておらず、周りがそう判断しただけなのだが、この二人には知る由もなかった。


 「それが嘘なんだよ」

 「そんなわけないでしょ!!だって、だったらなんで!なんであんたは今まで何も言い返さなかったのよ!」


 理由は簡単だ。

 だけど確かに板倉からすれば、それが一番気になるだろう。


 「当時は言い返したさ。でも、誰も信じてくれなかった。それで真実がそうなってしまった。それを覆すだけのものがなかった」

 「そうだとしても!だったらなんで恵美はあんたを犯人になんかしたのよ!そんなの恵美になんのメリットもないじゃない!」


 ここまでの情報なら、板倉の言う通りだ。

 だけど、彼女と俺では前提が違う。


 「続きを話すよ」


 そう前置きして、続ける。


 「園田をいじめていた奴らの次の標的は俺だった。それで俺はいじめられた。それが板倉が聞いていた、俺がハブられたりしたっていう話のことだ」

 「尚更わかんないわよ。だって、その話が本当なら二人ともただの被害者じゃない!嘘つくのやめなさいよ!」


 そうなのだ。それでよかったのだ。


 二人とも被害者なら、きっと結末は違っていた。きっともっといい着地点が見つかっていたはずだった。


 でも、それは叶わない。なぜなら。


 「もしかして、恵美が加害者になったってこと?」


 そう言ったのは、俺ではなく福村だった。


 「なっ、恵美が加害者って、いじめ側ってこと?」


 板倉が、その言葉に唖然とする。


 「そういうことだよ。俺をいじめていたのは、もともと園田をいじめていたやつと、園田自身だよ」


 「そんなっ、そんなこと、あるわけ」

 「悪いけど、嘘じゃない。これが本当のことなんだよ」


 俺は諭すように、板倉にそう言う。

 

 だけど、板倉はまだ信じられないようで。


 「そ、そんなの!でまかせかもしれないじゃない!あんたが嘘ついてない理由なんてあるの!?」


 確かに、板倉からしてみれば俺が嘘をついているように見えるだろう。


 だけど、すでに揃っているのだ。


 「喜多見ーーあるんでしょ?証拠」


 福村が俺の目を見据え、そう問いかけてくる。


 そう。証拠はあるのだ。


 「さっき言ってたでしょ?覆すだけのものがなかったって。今話してくれたってことは、それだけのものがあるんでしょ?」

 「ああ、ある」


 俺は目を逸らさずに、福村の問いかけに答えた。


 もちろん証拠とは宮島のことだ。きっと彼女なら、正しいことを証言してくれるだろう。


 しかし、その話を聞いてなお納得できない板倉だった。


 「で、でも、それでも恵美が悪いなんて、恵美だけが悪いなんて思えない……」


 まだ諦めきれないと言う表情のまま、彼女は続ける。


 「なんか!なんか事情があったのかもしれないじゃない!例えば、もともといじめてたやつに脅されたとか……。とにかく、恵美はただの加害者なんかじゃ……!」


 板倉は語気を弱めながらも、そう言った。

 

 「そうかもな」


 俺はただ一言、そう返した。


 それは本心からの言葉だった。


 「っー!だ、だったら!」

 「悪いけど、それとこれとは別なんだよ。園田がどうであれ、やられっぱなしにはならないよ」


 今は、と。そう心の中で付け足す。


 以前の俺なら、きっとここで踏みとどまった。

 

 だけど、今はそうでない。それだけの話だ。


 「信じられないわよ、そんなの」


 「そうかもな」


 きっとショックだろう。信じてた人が、自分に嘘をついていたのだから。


 その辛さが、俺にはよくわかっていた。


 「帰るわ。その……悪いけど、また話がしたいんだけど」

 「わかった、また今度な」


 板倉はおぼつかない足つきで、店を出ていった。


 その背中は、俺の瞳にひどく寂しく映ったのだった。




ーーーー


 店内には俺と福村、そして榊原が残った。


 「悪いな榊原。こんな話聞かせちゃって」

 「いえ、むしろ聞かせてもらえて、その、嬉しかったです」


 それならよかったけどと言って、俺は再び福村に向き直る。


 「だいたいこんな感じだ。納得したか?」


 納得も何もないか。福村にしてみれば、やっと聞けた真相だ。


 「ううん。全然してない」

 

 返ってきたのは、そんな答え。

 意外な返答に、少し驚く。


 「え」

 「だって、まだ教えてもらってないことあるもん」


 福村は少し俯きがちに、少し拗ねたような言い方でそう言った。


 おしえてないこと。その心当たりが、俺にはあった。


 そして予想通りの質問を、福村はしてくるのだった。



 「どうして標的が、喜多見に変わったの?」


 決して誤魔化されることはないと、そう福村の瞳は語っていた。


  どうして標的が俺に移ったのか。


 そう聞いてきた彼女の瞳から、俺はある仮説を立てた。


 「もしかして、だいたい気づいてる?」

  

 すでにバレてるんじゃないかって、そんな気がした。


 「わかんない。でも、喜多見が悪くないってのは、()()()()


 わからない。でも、信じてる。


 それは俺がかつて手を伸ばし、当時掴めなかったもの。


 それが今差し出されている。心強いなって思った。




 「もしかして先輩が巻き込まれたのって、その、園田?って人を助けたからですか?」


 ここで口を挟んだのは榊原だった。話を聞いているのはわかってた。彼女ならいいかなと、そのままにしていた。


 そしてそれは、正解だった。


 「ああ、そうだよ」

 「やっぱり」


 そう言ったのは福村。なんだ、気づいてたんじゃないか。


 「だとしたら、許せないですね」


 榊原は怒りをあらわにして、そう呟いた。


 なんていうか、自分のことで誰かが怒ってくれるって、ありがたいことだって思った。


 「てか、だったらなんでさっき言わなかったんですか?まるで庇っているみたいじゃないですか」

 「それは」


 自分でもうまく言語化できなかった。


 確かに俺はわざと、意識的にその事実を伏せた。

 それは間違いない。


 でもなぜかって問われると、分からなかった。



 「喜多見はさ、優しすぎるんだと思う」

 「……優しすぎる?」


 福村はそう言った。俺が優しすぎると。


 それはつい最近、幸にも言われたことだった。


 「聞くね?喜多見はさ、結局のところ恵美のことを被害者と加害者、どっちだと思ってる?」

 「園田が、どっち……?」


 答えがすぐに出ないことに、自分で驚く。そして福村が言いたいことを、あの時幸が俺にかけた言葉を、少しだけ理解できた気がする。


 「多分喜多見はさ、さっきの瑞樹の話に納得したんじゃない?その、恵美にも事情があったっていう」


 そうかも、しれない。


 「まだ喜多見の中では、恵美が被害者のまんまなんだよ、たぶん。だからこんなことになっても、恵美に気を使う。悪者にするのを避ける」


 ストンーーと。その言葉を納得することができた。


 ああ、そうだ。俺はずっとそうだった。


 「確かに裏切られたのがショックだっただけで、俺は園田を責めたことがなかったかもしれないな」


 確かに憎いと感じたし、その立場に嫉妬さえ覚えた。


 だけど俺は園田を責めるということはしてこなかった。


 自分でも気づくことができなかった。それを気づかせてくれた。


 「それは喜多見の良いところかもしれないけどね」

 

 そう言って福村は、少し自嘲するように笑った。


 その微笑が何を表すかは、この時の俺にはまだわかっていなかった。



 

 「なんですかそれ、意味わかんないです」


 そう口を挟んだのは榊原だった。


 「榊原?」

 「そんなの、はっきり言って異常ですよ。先輩、悪いですけど間違ってますよ、それ」


 間違っていると、彼女は言った。


 そしてその考えに同調するものがもう一人。


 「うん。私もそう思うかな。なんていうか、自分のことを大切にしてないっていうか」

 「自分のこと?」

 

 「はい。まぁ、いじめから助けてあげる際の自己犠牲?はわかるんですけど、その後。もちろん他のいじめをしてた人も悪いですけど、明らかに園田って人だって悪いじゃないですか。その人に対して、許す許さないの次元にいないのが不思議っていうか」


 確かに許すとか許さないとか、そういうふうに考えたことはないかもしれない。


 「私だったらもう、憎しみですね。恨みつらみで呪ってやるぐらいに思いますけど」

 「呪いって、そんな大げさな」


 「はっきり言いますけど、大げさじゃないです。先輩がおかしいんです。結局聞いてれば、今回なんか色々決心ついたのも福村さんのためなんでしょ?お人好しなんてレベルじゃないですよ、正直」


 そこまではっきり言われると、何も言えなくなる。


 「まぁそれが、その、ーーーーかもですけど」

 「え?」


 急にもぞもぞと喋り出して何を言ったか聞こえなかった。


 「何でもないですよ!ま、ともかくもっと自分を大切にしてほしいって話です」

 「わかった。気を付けてみるよ」


 後輩からのありがたい忠告だ。肝に銘じておくとしよう。


 「その、今日はありがとう、喜多見。わざわざ押しかけちゃって、ごめんね?」

 「いや、俺も色々話せてよかったよ。それじゃ、そろそろ帰るか」


 俺たちは店の裏の方で待機していてくれた店長にお礼を言って、一緒に店を出た。結局車を出してもらうことはなく、俺が家の近くまで送っていった。


 やることはたくさんある。


 だけどまずは、帰りを待ってくれている人にお土産でも買って帰ることにしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鬱(と言うほどではないにせよ)な描写は書き手もストレス溜まりますよね。 作者様の仰有るモチベ低下も、私の勝手な印象ですがコレにかなり影響されているように感じます。 作品中では作者様の丁寧な…
[気になる点] すごく面白いんだけど、今回のとか庇ったことを話さなかったり回りくどく、1回に進むペースが遅いのに更新が遅い。
[一言] さっさと証拠見せろや。回りくどいんだよ意味が分からん
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