一歩
「ねぇお兄ちゃん、やっぱり何かあった?」
「や、別に何にもないって」
一昨日、俺が宮島と会って帰宅してから、幸はこんな感じだ。
「無理はしないでね?」
「わかったよ」
なんだか幸には、隠し事ができないようになってしまった気がする。
多分俺が隠すのが下手とかではなく、彼女の察する能力が高いのが原因だろう。
とはいえそれは不快なものではないし、妙なくすぐったさがあるものの、むしろ心地よいものに思えた。
(それに、無理してないのは本当だしな)
たしかに「何か」はあったけど、それは必要なことだった。
俺が前を向くために、宮島との対話は避けて通れないものだったと思う。
「じゃ、私日直だから先にでるね!」
そう言って幸は学校へ向かった。
(ほんと、幸には頭が上がらないな)
俺にはもったいないぐらいに、よくできた妹だと思う。
最近の俺は、幸に頼ってばかりだ。
俺はそれに応えたい。どんな形でも、俺が納得できる形で、だ。
ーーーー
自転車を走らせ登校した俺を迎えたのは、一枚の写真だった。
俺の机の上に乗せられたそれは、一昨日宮島と店で会った時の写真だった。
(めんどくせ)
胸中でいつぶりだかの毒を吐き、俺は携帯を使ってその光景を写真に収めた。
いつか役に立つかもしれない。保険のようなものだ。
というか、今までのもの撮っておくべきだったな。
まぁ、過ぎたことを考えても仕方ない。
写真を撮り終え、俺はカバンに写真をしまった。
その写真では、俺の顔が見えない代わりに、宮島の泣き顔がはっきりと映っていた。
そこに俺は作為めいた悪意を感じた。
(まさか嵌められたのでは?)
一瞬そう思ったのだか、俺は即座にその考えを振り払った。
もしあの涙が嘘なのだとしたら、もうその時は俺の負けでいい。
何をもって負けなのか、そもそも勝負なのかは一考の余地ありだが、俺は彼女の気持ちは受け止めると決めたんだ。
それが間違いだったら、その時はその時。全部投げ出して逃げてしまうとしよう。
ともかくだ、別にこの写真が出回っても問題はない。仮に聞かれたら、宮島ご本人に説明をして貰えばいいのだ。
問題はなかったと。きっと頼めば、彼女はそうしてくれるだろう。
そもそも聞いてくるような友人はいないし、あるとすれば奴らぐらいか。
ともかく、俺は積極的に問題を解決しにいく気はない。
あくまで、現状維持ができるならそれでいい。
仮に園田の罪を暴露したとて、俺にとってはなんの得にもならない。学校生活が気まずくなるだけだ。今でも十分居心地が良いとは言えないが。
気がかりと言えば、福村のことだけ。
昨日は学校に来ていたようだが、そうだな、一度話をしたほうがいいかもしれない。
現状を踏まえ、問題がないか確かめたほうがいいかもだ。
あるいは、彼女になら、なんて勝手なことを思ってしまう。
それが許されることじゃないことも、同時に理解しながら。
(想像以上に、どうでもいいや)
自分の心が驚くほど揺らいでいない事実に少し苦笑い。大事なのは、大事なものを間違えないこと。
写真の件も、白河の件も、俺にとってはそうじゃないと。ただそれだけの話だ。
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