表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一人と独りの静電気   作者: 枕元
第二章 一人と独りの中間地点
13/75

濃口の味噌汁

 身体が,重い。

 熱はなかったけど体調が最悪だったため、幸が家に来てから2日間学校を休んだ。


 幸は何か言いたげだったが、体調不良ならと、深くは聞いてこなかった。


 というわけで木曜日。最近学校を休みすぎた。そろそろ授業についていけるか心配になってきた。


 それにバイトも探さなくてはいけない。

 後回し後回しにしていたが、いつまでも避けて通れる問題でもない。


 まぁこれに関しては学校から距離さえあれば問題ない。別に働くのが下手なわけじゃないしな。


 「お兄ちゃん、起きてる?」


 幸は布団からひょこっと顔を出して、こちらの顔を覗くようにして、俺が起きているか確かめてきた。


 「どうした?」

 「えっと、私も今日は学校休もうかなって」


 何を言い出すかと思ったが、そういうことか。

 まぁ大方理由は想像つく。


 「そうか、俺は今日学校行くから」

 「え!ほんと!?だったら私もいく!……家一緒にでよ?」


 上目遣いで幸がそう提案してきた。断っても一緒に行くことになるのはわかってたので、適当に流した。


 「母さん、ここに泊まることに対して、何か言ってないのか?」


 ふと、そんなことを聞いた。


 「お兄ちゃんに迷惑かけないようにね、って。それとちゃんと戻ってきなさいって」

 「そうか」


 少々、予想外の返答だった。大方、早く帰ってこいだの、怒っているもんだと思っていた。


 だが案外そうでもないらしい。母さんの思惑がいまいち掴めない。

 俺のことはできるだけ、幸とは遠ざけておきたいものだと思っていたんだが。


 「朝ごはん作るね!お兄ちゃんも準備して!」


 元気だな。そう思った。


 今の俺はそこまでポジティブにはなれない。学校に行く行為すら、段々とストレスになっていたらしい。


 とはいえ、行かないわけにはいかない。


 俺は幸の作った朝食を食べ、二人一緒に家を出た。


 味噌汁が濃かったのは、言わないでおいた。


 たしかに昔は、この味が好きだったはずなんだけどな。


ーーーー


 嫌がらせがエスカレートしてたりはしなかった。


 しかしクラスメイトの視線から、噂が完全に広がっているのが、どうしようもなく伝わってきた。


 「俺はそんなことしていない!」

  

 そう言って解決するなら、どれだけマシか。

 少なくとも、誰があの紙をばらまいたかがわかるまでは、どうしようもないだろう。


 (これはこれで楽だな)


 一人と独りの中間地点。誰からも話しかけられなくて、楽だ。


 「一人」と「中間地点」、どっちがいいかって問われたら、間違いなく前者だが。


 でも、そんな束の間の平穏はあっさりと崩れ去る。




 それは昼休みのことだった。


 「おい、テメェ何をした」

 「はい?」


 俺は教室でお弁当を食べようとしていたのだが、そんな俺に話しかけてくる奴がいた。


 見覚えはあった。名前まではわからないが、確か隣のクラスの生徒だった気がする。いつも騒いでる部類の人間だから、俺にも見覚えがあった。いわゆる、カースト上位ってやつだ。


 そんな奴が、俺に何のようだろう。


 「とぼけるんじゃねぇよ。怪しいのはお前なんだよ!」

 「いや、だから何がです?」


 だから!!と俺を睨みつけながら彼は言った。


 「なんでお前じゃなくて、()()がハブられてんだって聞いてんだよ!!」


 は?どういうことだ?


 意味がわからなくて俺は、少しの間黙りこくってしまうのだった。


 「おい()()!お前、何やってんだよ!」


 言葉を発せずにいた俺と、なお詰め寄ってきていた男子の間に、割って入ってくる人物がいた。


 あ、こいつは俺も名前知ってる。


 「し、()()。っち。何でもねぇよ」


 大袈裟な舌打ちを一つして、健司と呼ばれた男は一歩下がる。


 「いいから。とりあえず行くぞ」

 「わかったよ。ったく。おいお前、覚えておけよ」


 覚えておくも何も、こんなことになって忘れる方が難しいだろアホ。

 口には出さないが、そんな悪態を胸中で吐いた。


 「ねぇ、今のどうしたの?」

 「やっぱり、そういう奴なんじゃね?」


 だから、聞こえているっての。


 健司とかいう奴がかなり大きな声で問い詰めてきたせいで、かなりの数の視線が俺に突き刺さっていた。


 後始末ぐらいしていって欲しいものだ。


 とはいえ、もっと大事なことがある。


 (福村がハブられている?)


 いや、意味は理解できるのだ。でも、なぜ?


 なぜ?の理由は二つ。


 一つは単純になぜハブられているのか、だ。言い方は悪いが、カースト上位の存在だと認識していたが。


 そして二つ目の理由は、なぜ俺に言うのか?である。


 仮に奴らが「喜多見は福村をいじめている」と認識していたとしても、福村は被害者で、それが理由で福村がハブられることにはならないだろう。そもそもここに因果関係はないように思える。


 あくまで、ハブられたのは福村自身の問題であるはず。


 なのに、それをなぜ俺に聞く?



 (とりあえず行くぞ?)


 ふと、篠宮が放った言葉が引っかかった。


 なんかニュアンス的に、いずれ俺に接触するつもりだったように聞こえる。とりあえず、ということはその後があるということだ。


 俺に接触する理由は何だ?ああそうだ。一つしか思い浮かばない。


 あの紙を入れた奴らは、あいつらか。


ーーーー


 福村舞華に彼氏はいない。それは彼女自身が言ってたことだ。


 そしてあの紙の内容と、健司という生徒のあの福村の()()()

 目的がうっすら見えてきたな。


 つまりは俺が気に食わないのだろう。彼女の隣にいた、俺が。


 まぁ、そこまでいいだろう。醜いが、嫉妬ということで理解はできる。


 だけど、福村に何があった?そもそも、なぜあの一件のことを知っている?

 

 「まさか、園田か?」

 

 最悪の想定が頭をよぎる。


 もはや、そうとしか思えなかった。


 (だけど、ならどうしてあんなに焦ってたんだろか)


 少なくとも彼らにとって、福村が仲間外れにされているのは予想外らしい。


 (そもそも、福村は本当に仲間外れにされてるのか?)

 

 情報が少なすぎると、そう悩んでいるところで、俺はふと思う。


 (別に、俺が悩む必要はないか)


 そうだ。今回俺は嫌がらせを受けているだけだ。

 福村をいじめてなんかいなければ、悪く言われる覚えもない。

 堂々としているべきだ。だって俺は被害者なんだから。自分を責める必要は全くないじゃないか。


 

 『ーーーーだったから』


 『ーーーーないから』


 頭をよぎる言葉を振り払う。


 これは、いらない。


 知ってるはずだ。踏み出せば何があるか。

 覚えているはずだ。それが何かを。

 案の定だ。踏み込んできたから、そうなる。


 

 忠告した。警告した。

 止めた。拒絶した。

 突き放した。拒否した。

 そのあり方を、否定した。


 だから、俺は関係ない。

 俺はもう、踏み込むことはない。


 身勝手な自己満足の結果だ。

 親切の押し付けの結果だ。


 ()()()()()()()()()()()


 

 なのに、なのに、どうして。



 「くそっ」


 掠れた声で、そう呟いた。


 聞こえててもいい。だってこんなに、カッコ悪いと自覚しているのだから。


 いっそのこと、誰か俺を馬鹿にしてくれ。

ぜひ!まだの方は下の☆☆☆☆☆から評価の方をお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「私いつも被害者でかわいそう」な園田と、本当に被害だというのに、福村に大して責任を感じてしまう主人公が対照的でいいですね。 [気になる点] さっき読み始めたんですが、きっとすぐ追いついてし…
[一言] まあ、事件は短編と違い解決する未来予想だが、そこまでがデスロードだな。 高校もただで済まんだろうな。
[一言] 人の正しい在りかた、言い換えると正義(ある行動の正当性)という事になりますね。難しいテーマに取り組まれてますね。 全ては相対的であるし、全ては変化する、変化するという事だけが変化しない。この…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ