わたあめ
甘いものが好きだ。
私が好きなのは特にわたあめ。
好きだからと言って、毎日食べるわけでもない。食べるのは年に何度か、お祭りとかでだ。
甘いものが好きだ。食べてて幸せになれる。
嫌なことがあった時は、いつだって甘いものに逃げる。そして気持ちを切り替えるのだ。
だけどそれは、甘いものが好きなだけで、元となる砂糖が好きなわけじゃない。
甘みの元は砂糖だ。それは間違いない。でも、だからって砂糖を舐めたりしない。
剥き出しのそれは、受け入れるには強すぎる。
必要な過程を経て、甘さは人に受け入れられるようになるのだ。
あの時の私は、その過程を経ていなかった。
ただ責めて、ただ貶めて、ただ許さなかった。
本人の弁解すら聞かずに、ただ決めつけたのだ。
実際私は、怒ってもいたのだ。いけないことをしたお兄ちゃんに本心から怒ってた。
もはや、それは糾弾とは呼べない。ただの一方的な暴力だ。
それでもいつか、ちゃんと元通りになるって、そう信じてた。
だけど気づいた頃にはお兄ちゃんは、すでに不登校になってしまった。
それでも当時は、いじけているだけだと、自業自得だと思っていた。
いつかきっと立ち直るって、底に叩き落とした当人のくせに、そう思っていた。
でも、兄が立ち直ることはなかった。それどころか、家族との距離はたちまち離れていった。
1番の原因は、お母さんの態度。明らかに、お兄ちゃんのことを煙たがっていた。
そしてついに、兄は家を出ていってしまった。
私はお母さんに止めるように言った。お母さんは止めなかったけど、ここで止めなきゃ、取り返しがつかなくなると思ったから。
私はお兄ちゃんに、どうして出ていっちゃうのって聞いた。
「言っても信じないだろ」
私にとって、決定的な一言だった。
取り返しのつかない事態は、とっくに過ぎていたのだ。
あの時話をちゃんと聞かなかった時点で、すでに手遅れだったのだ。
そんな事態を引き起こした自分の罪を、今更ながらに自覚したのだった。
そしてお兄ちゃんは独りになった。
家を出て行かれてからも、私は何度かお兄ちゃんに会いに行った。
繋がりが完全に途絶えてしまうのが怖かった。
お兄ちゃんは、優しい人だった。そんなお兄ちゃんを私は大好きだった。
そんな大切な人を傷つけた。
私がわたあめを好きなのは、お兄ちゃんがわたあめを好きだったからだ。
一つのわたあめを、二人で分け合った。そうやって育ってきた。
そんな日々を、私は取り戻したい。
だから私は、ある計画を実行に移すことにした。
迷惑を承知で、それでも私はするんだ。
私は覚悟に満ちた目で、お母さんにそれを打ち明けた。
「私、お兄ちゃんとまた一緒に暮らしたい」
次回から本格的に二章が始まります。
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