甘酸っぱく、ほろ苦い
「美味いな、これ」
夏みかんって、皮ばかり厚くて、中身はもっとすかすかしてるイメージがあったけど。
すごい瑞々しい。
寝そべったまま、2つ目を食べ始めてしまった。
果物って、あまり買わないもんな。
ゼリーくらいか。
基本、外食か、ほか弁か冷凍食品かレトルトだもんな。
でもコンビニ弁当とカップ麺は好きじゃない。
それにしても止まらない。
なんか、喉を鳴らして夏みかんを食べている自分に気付いた。
身体を起こして、布団の上に座り直す。
車もハイブランドも、今は無い。
貯金は、やっと年齢掛ける万円だ。
麻雀やってる時の方が絶対、羽振り良かったよな。
そう思うこともあるけど、それだから30代半ばまで定職に付けなかったんだ、とも思う。
いつの間にか、3つ目の夏みかんに手が伸びていた。
でも、間違いなく自分は、今の堅実な生活を好んでいる。
もうちょっと早く、社会人としてキャリアを積み始められていたら?
いや、でも麻雀もネトゲも、自分の大切な一部だ。
例え今は遠ざかっていても。
今の生活には浪費をする要素が無い。
煙草は吸わないし、酒は時々、お気に入りの米焼酎を口にするくらいだ。
女は居たり居なかったり。
同棲したことはあるが、結婚したことは無い。
こうやって緩やかに、死というものに向かっていくのかもしれないな。
4つ目の夏みかんは、無心で食べた。
食べ終えた時、突然、立ち眩みのようなめまいに襲われて、視界が目映い光に包まれた。