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機巧れないの恋  作者: 東メイト
第1章:メイルシュトローム 編
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第8話:愛に死す


 メイル達が城から逃げ出して3ヶ月が経過しようとしていた頃、彼女達はようやくバレンシアの国境の付近までやって来ていた。


「あと少しじゃな……」

「そのようですね……」


 あの日の夜の出来事以来、2人の関係はどことなくギクシャクとした感じで互いに視線を合わすことができなかった。


 メイルはエルフレッドのことを、エルフレッドはメイルのことを、意識するようになっていた。


「凄い数の警備ですね」

「どうしたものか……」


 そこまでやって来ると敵軍の主力も大分揃いつつあった。


 メイル達の目の前にはバレンシアの国境が見えているのだが、その前には2メートル程のバリケードが作られており、さらにその周りには敵軍の兵士や戦車などがこれ見よがしに陣取っていた。


 そのうえ上空では戦闘機が絶えず旋回しており、国境の周りを下手に動きまわれば、すぐに発見されてしまいそうであった。


 彼らとしてもこのままおめおめとメイルをバレンシアに亡命させるわけにはいかなかった。なぜならば、ここで彼女に逃げられてしまえば、新たな国で新たな驚異となる可能性が非常に高くなってしまうからである。


 それに加えて国民への見せしめを行わなければ、各地で起きている反乱が収まりそうにもなかった。


「場所を変えますか?」

「う~む……このぶんだと何処へ向かおうとも無駄であろう」

「それでは強行突破しますか?」

「それも無謀な気がするのじゃが……」


 いくら剣の達人とはいえ、エルフレッドの腕前だけでは戦車や戦闘機にはとても敵いそうになかった。


 メイルの頭の中ではこの状況を打開する案が思い浮かんでいたが、それを実行する気にはなれなかった。その作戦とは……


 エルフレッドを囮にする方法である。


 彼が敵軍の注意を引き付けている内に風魔法を付与して彼女の動くスピードを加速させれば敵の陣を突破することは充分に可能であった。


 ただしっ……その手段を実行すれば、敵の真っ只中に取り残されるエルフレッドは確実に死ぬことになる。つまり、彼に死刑宣告をすることに等しかった。


 以前の彼女であれば、そのような非情な手段を取ることなど何とも思わなかったのだが、エルフレッドのことが気になっている今の彼女には何とも酷な話であった。


「何を悩んでおられるのですか?メルシア様」

「……何でもないのじゃ」

 メイルは首を降ると頭の中に浮かんだ以外の方法はないかと模索した。


「メルシア様……」

「何なのじゃ?」

「この状況を打開できる何か良い方法を思い付いておられるのでは?」

 エルフレッドの核心を突くような発言に彼女に埋め込まれた魔石が揺れた。


 人間の言葉で表現すれば心臓が高鳴ることを意味するのだが、彼女が機巧人形に魂を移して以来、そんな現象など1度も起こっていなかった。


「何で……そう思うのじゃ?」

「何か思い詰めたような顔をしておられたので……」

 メイルの表情は機巧人形であるがゆえにほとんど変わらないのであるが、何時も彼女のことを意識していたエルフレッドには、その微妙な変化を感じ取れたのであった。


「気にするでない……大した作戦ではないのじゃ」

「やはり、何か妙案を思い付いておられるのですね」

 エルフレッドはメイルの蒼い瞳をじっと見つめた。


「何を考えておるのじゃ?」

「その作戦……実行されてみてはどうでしょうか?」

「簡単に言うでない。お主が思っているほど容易な作戦ではないのじゃ」

「何を躊躇っておられるのですか?このまま、何もせずに無駄に時間を費やしても敵軍が集まってくるだけですよ」

 彼の言うとおり、このまま何もせずにこの場に留まっていれば、各地に散っている敵軍が集まってきて不利になる一方である。


「じゃがのう……」

「僕のことなら気にしないでください。この命、あなたに捧げた身っ。例え、敵の戦地であろうとも突っ込んでいく覚悟はあります」

 メイルの作戦を知ってか、知らずかはわからないが、彼の気持ちもまた彼女の思いと同じようであった。


 そんな彼の気持ちを知って彼女は作戦を実行することを決意した。


「わかったのじゃ……なれば、わらわのためにその命を捧げよ」

「お任せくださいっ」

 自信満々な様子で眩しい笑顔を覗かせた。


「それで……メルシア様の作戦とは?」

「まぁ、作戦と言えるほどのものではないが……お主にはあの付近で敵の注意を引き付けてほしいのじゃ」

 メイルが見通しの開けた場所を指差すとエルフレッドは納得したように首を縦に振った。


「理解していると思うが、それを実行すれば、お主は確実に死ぬことになるであろう。じゃから……嫌なれば拒否しても構わんのじゃぞ?」

「……構いません。それでメルシア様のためになるのであれば」


 それはこれから死ぬことを宣告された者の姿ではなかった。彼の信念は微塵も揺らいでおらず、死の恐怖を全く感じていないようだった。


「全く以て理解できぬ奴じゃ……」

 彼女は心の底からそう感じていた。


「それでは……行って参りますっ」

 エルフレッドは木陰の繁みから飛び出すとメイルの指定した場所まで一目散に駆け抜けた。


「敵襲っ!敵襲っ!敵襲だあああ」

 敵軍は突如現れたエルフレッドに動揺しながら彼の周りに兵士達を向かわせた。


「我が名は……エルフレッド=クラウニング=プラウドっ!ラクトネシア国の騎士なりっ!いざ、尋常に勝負せよっ!」

 エルフレッドは長剣を振りかざすと敵軍に1対1の闘いを申し込んだ。


「へっ、1人で一体何ができるというのだ」

 敵兵は敵の真っ只中に飛び出してきた愚かな彼のことを馬鹿にして、その実力を軽んじていた。まさか周辺の騎士達がみんな倒される事態になろうとは思ってもみなかったようで彼の名乗りに1対1の闘いで応じた。


「せやっ!」

「ぐはっ」

 目の前から襲い来る敵をエルフレッドが1人、1人、また1人と撃破していくと周囲の人間が減るに連れて兵士達は次第に焦りを感じ始めていた。そして、1対1から1対2、1対3と対戦相手の数を増やした。


 だが、本気を出した彼の勢いは止まらなかった。


「やばいな、あれは……」

 次から次へと倒されていく仲間を見て、敵軍も余裕をなくし、遂には鉄の馬(戦車)を動かしてきた。


「今なのじゃっ」

 狙い通りに敵軍の意識がエルフレッドに向くと隙をみてバレンシアの国境へと近付いた。


「あと少し……あと少しなのじゃ……」

 メイルがあと1歩のところまでバリケードに近付くと戦車からエルフレッドに向けて砲弾が発射された。


「ぐわあああ」

「エルフレッドっ!」

 メイルは砲撃を受けたエルフレッドのことを心配して思わず叫び声を挙げてしまった。


「め、女神だっ!常勝無敗の女神じょうしょうむはいのめがみがいたぞっ」

「しまった……わらわとしたことが……」

 敵兵達は一斉にメイルの方に視線を向けた。そして、身を翻すとエルフレッドから彼女の方へと対象を変更した。


「うおおお」

 大声を挙げるとエルフレッドは傷を負いながらも自らに注目を集めるように背を向けた兵士達に斬りかかった。


「やっ、奴を止めるのだっ」

 迫り来る恐怖に再び身体を彼の方へと向けた。


 その頃、メイルの方は数名の兵士達に取り囲まれながら何とか逃げる隙を伺っていた。


バニッシュメント(光の空間)リレーション(弾けよ)っ」

 光の魔法を唱えると周囲の兵士達から視界を奪った。そして、自らの身体に風魔法を付与するとバレンシアの国境を目指して走り出した。


「打てえええ」

 戦車に乗っていた兵士はエルフレッドに標準を合わせると再び砲弾を放った。その砲弾は真っ直ぐに彼目掛けて飛んでいこうとしていた。


「エルフレッド……」

 砲弾が打ち出される寸前、彼女は戦車の前に飛び出すと自らの身体にその鉄の一撃を受けた。


「……かはっ」

 めきめきと嫌な音を響かせながら彼女はエルフレッドのすぐ近くまで飛ばされていった。


「メルシア様っ!」

「……唸れっ、アブソレート(暴風竜の)メルス(裁き)っ」

 メイルはエルフレッドの腕を掴むと魔石に残された魔力のほぼ全てを費やして風による特大魔法を放った。


 特大の風魔法を受けた兵士達は戦車諸とも吹き飛ばされて、辺り一面に砂埃の粉塵を巻き起こした。


「メルシア様……何で……」

「何でじゃろうな……わらわにもわからぬ」

 エルフレッドの腕の中で弱々しく答えた。彼女に残された活動限界の時間は僅かで魔石に込められた魔力は風前の灯であった。


「こんな作戦ではなかったはずですっ」

 悔しそうに奥歯を噛み締めると彼は強く彼女の拳を握りしめた。


「すまんな……お主にもう会えぬと思うと身体が勝手に動いておったのじゃ……」


 それは仮初めの身体に自我が芽生えたが如く彼女の意思とは異なる動きをしていた。もしかしたら、彼女の本心を汲み取ったがゆえの行動だったのかもしれない。


 いずれにせよ、この事態を彼女は全く予期していなかった。


「そんな……あなたを失ったら、僕はこれからどうすれば良いのですか?」

「それはお主が決めるのじゃ……もう、お主を縛るモノは何もない。わらわをここに置いて……早う去るのじゃ……」

「そんなの嫌ですっ、あなたを置いてなど行けませぬっ」

 エルフレッドは壊れゆくメイルの身体を抱き締めながら、ぼろぼろと大粒の涙を溢した。


「何を……そんなに泣いておるのじゃ……」


 彼の大粒の涙を浴びながら彼女はふと思ってしまった。


 この男の腕に直接抱かれてみたいと……


 この男の流す涙を直に肌で感じてみたいと……


 そんな願望を懐いてしまったのだ。


 その気持ちこそが彼女が最も知りたがっていた『愛』ゆえの感情であると理解せずに……


「エルフレッドよ……最後に1つ願いを託しても良いかの?」

「……何をでしょうか?」

わらわの心臓に埋め込まれている宝石を持って……最果ての地にある氷の城……その奥にある祭壇にその宝石を……掲げてほしいのじゃ」

「なぜ、そのようなことを?」

 エルフレッドには意味がわからなかった。


 何でそんなことをする必要があるのか?


 それは……メイルが本体に戻るための手段であった。そして、彼女の望みを叶えるための唯一の方法でもある。例え、それで自らが死ぬことになったとしても彼女には後悔はないだろう。


「頼むのじゃ……エルフレッドよ……」

「……」

わらわの言葉を信じて……わらわの最後の願いを叶えてくれ……」

 メイルは最後の力を振り絞ってエルフレッドに懇願した。


「……わかりました。メルシア様の願いっ!必ず叶えてみせますっ!」

「頼んだ……のじゃ……」

 魔石の魔力が尽きると彼女は自らの魂をその宝石の中へと封じ込めた。そうすることで魂を現世へと定着させたのであった。


 あとはエルフレッドが彼女の指示通りに宝石を所定の位置へと持って行ってくれることを祈ることしかできなかった。


 それはメイルにとって、とても大きな賭けである。もし、エルフレッドが彼女の思いを裏切れば、彼女は一生宝石の中で魂を捕らわれ続ける存在となるのだ。


 彼女を生かすも殺すもそれは全て彼のこれからの行動にかかっていた。


「絶対にっ……あなたの願いを叶えてみせますっ」

 エルフレッドは彼女の指示通りに身体の中の宝石を取り出すと力強く握り締めた。そして、彼女の身体を残したまま彼女の願いを果たすべくバレンシアへと走り出したのであった。


※ここまで辛抱強く読んでくれた読者の皆様……


誠にありがとうございました。


これにて、この物語は終了になります?




……はい。嘘です。終わったのは第1章です。


ですので、この物語はまだ暫く続きます。


以降の話は願いを託されたエルフレッドを中心にして描かれていきます。


来週以降も楽しみにしていただけると幸いです。


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