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機巧れないの恋  作者: 東メイト
第1章:メイルシュトローム 編
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第6話:常勝無敗の女神


「いずれにしろ。このままではわらわは愛を知らぬまま活動限界を迎えてしまう……」

 メイルが依代として使っている機巧人形は彼女が魔力を込めた宝石を動力として動いている。つまり、その魔力が尽きてしまえば身動きが取れなくなるのである。


 とはいえ宝石の魔力が尽きるまでまだ120年ほど余裕があるので焦る必要はなかった。


「……仕方ないのじゃ。こうなれば、向こうがわらわに会いに来たがるようにするまでじゃ」


 このまま篭の鳥を続けるよりも王の興味を惹く行動を起こすことにした。そこでまず彼女が思い付いた方法はこの国を豊かにする方法であった。


「王様……少々、よろしいでしょうか?」

「なっ……なぜ貴様がここに……確か塔の部屋には鍵が掛かっていたはずだが?」

 そんなものなどメイルの魔法を使えばいくらでも何とかなった。


「さては……兵士の誰かを誘惑したのであろう?」

 王は彼女が兵士を拐かして扉を開けさせたのではないかと疑っていた。彼女の扉の前には常に兵士が張り付いており、食事の差し入れなどを行っていた。現在は彼女の魔法により眠っている。


「違いますわ」

「ぬう……」

 推理が外れると王は悔しそうに呻き声を漏らした。


「そんなことよりも……大切な話があります」

「大切な話だと?」

「そうですわ」

「その話とは何だ?」


「北の土地に小麦を植えてみてはいかがでしょうか?」

 メイルは国を豊かにするため、まずは生産能力の底上げを行うことにした。その手始めとして国の主食である穀物を増産させることを考えていた。


「何を馬鹿な……あの土地はあの災害以来、すっかりと寂れてしまっているではないか。そんな土地で小麦が育つわけがなかろう」

 王が口にした災害とはメイルとプロミネンスの戦いのことである。彼女達の戦いによって北の大地は草木も生えぬ不毛な地と化していた。


「お任せください。1年もあれば金の粒をたわわに実らせた黄金の大地へと変えてみせましょう」

 メイルにはそれを実現することができる充分な勝算があった。


 それはかつての文明人達の残した知識。彼女が蓄えてきた知識の中にはそういった作物を画期的に育てる方法も存在していた。


 それに加えて様々な土地を旅してきた彼女にとって何の作物がどの土地に適しているのかを割り出すことなどいとも容易いことであった。


「本当にそんなことが可能なのか?」

「もちろんでございます」

「……わかった。あの土地はお前に任せる。好きにするが良い」

 王は半ばメイルの言葉を信じてはいなかったが、彼女が失敗して泣き付く姿が見られるならばそれも良かろうと許可を出した。


「確かに承りましたわ。1年後を楽しみにお待ちください」

 メイルは王の許可をもらうと数人の農民を連れて土地の開発を行った。


 まず、彼女は土地を耕す前に近くの枯れ木や葉っぱをかき集めてくるとそれらを燃やして枯れた大地の上へと灰を積もらせた。そして、近くの酪農家から動物の糞を大量に集めてくると大量の藁と一緒に灰の上に敷き詰めさせた。


「あとは……」

 メイルは風魔法を使って大地ごと軽くかき混ぜるとすぐさま水魔法を使って雨を降らせて存分に大地を湿らせた。


「これで下地は充分なのじゃ。ここから先は人の手で行うとするかの」


 それから1週間後、彼女は充分に土地を寝かせると小麦の作付けを開始した。


 こうして、1年の歳月をかけて不毛の大地に大粒の小麦を実らせるとそれらを持って王都へと凱旋した。


「まさか……本当にやりおるとは……」

 メイルの言葉を信じていなかった王は大いに驚愕した。


わたくしに任せてもらえば、他の土地でも同様に耕してみせますが?」

「それは誠のことか?」

「はい」

 メイルは自信あり気に答えた。


「わかった……全てお前に任せる」


 今度は大いに期待を寄せながら彼女に農作物全般の育成を任せることにした。


 メイルは過去の文明人の知識と自身の経験を生かしながら次々と農作物を豊作へと導いた。


 彼女の活躍によりラクトネシアの食生活は大いに潤ったが、それらの出来事は新たな火種を生むこととなった。


 それは近隣の諸国が豊富な作物を見て、その土地を奪おうと戦争を仕掛けてきたからだ。


 周辺の諸国もまたメイル達が引き起こした週末戦争により農作物を育てられる場所が限られていたため、貧しい食生活を送っていた。


 そんな諸国の王達がたわわに実る作物の大地を見れば、誰だってその土地を奪おうとするのは当然の考えであろう。


「本当に人間とは愚かな生き物よ……」


 メイルは変わらぬ人間の行動に呆れながら王にそれらの対処を任せてもらえるように交渉した。


「さて……どうして、くれようかのう?」

 地図と睨めっこしながら相手の国の兵士をどう退けるべきか、思考を張り巡らせていた。


「確かあの辺りには地盤の弱い地形があったはずじゃが……」

 過去に旅した経験から地形の利を生かした作戦を提案した。そして、僅かな兵士を率いて大軍の敵兵を退けたのであった。


 彼女の1000年の歴史にも匹敵する知識を持ってすれば、この国を勝利に導くことなど赤子の手を捻るよりも簡単である。


 こうして、メイルは数多くの勝利をもぎ取ると国の人々から『常勝無敗の女神じょうしょうむはいのめがみ』として崇め奉られた。


 かつて『暴虐の覇王(ぼうぎゃくのはおう)』と呼ばれた魔女が勝利の女神とは何とも皮肉な話であろう。


「他愛ないものじゃ。それにしても……何時の世も争いに絶えぬとは何とも悲しい生き物たちよ」

 敵国の兵士を退けながらメイルは争いを続ける人間に対して心を痛めるようになっていた。


 勝利の女神の活躍により人々の生活はより豊かに、より快適になっていった。そして、人々はメイルに感謝し、尊敬の念を懐くようになっていった。


 彼女は多くの人々から必要とされ、多くの人々の信頼を獲得したが、愛は得られなかった。


 人々がメイルに懐いた感情は感謝であり、敬意であり、信頼である。それらの感情は彼女が求める愛情とは異なっていた。


 それに加えて彼女自身が人間に対して懐いた感情は怒り、悲しみ、そして、失望といったマイナスの感情であった。


 それらの相容れぬ感情が互いに隔たりを作っていた。それゆえにメイルは誰かを愛することなく、誰からも愛されることはなかった。


わらわは一体何のために……戦っておるのじゃろうか?」

 メイルは何時の時からか、そんな疑念に捕らわれるようになった。


 戦っても戦っても人間達は決して諦めることなく何度も何度も勝てぬ戦争を繰り返してくる。メイルは自国の民を守るため、この無益な戦いを続けなければならなかった。


 それなのにその人々からは一向に愛を得られる気配は見えない。まるで目の前に垂れ下がった旗を一方的に押すが如く……


 彼女からしてみれば、踏んだり蹴ったりの話である。


 メイルはそんな戦いに明け暮れる日々に憔悴し、目的を見失いつつあった。そのような虚しい生活を100年近くも続けていた。


「もう限界なのじゃ……」

 メイルは部屋の中にある鏡を見つめながら変わらぬ人間の様に溜め息を吐いた。機巧人形ゆえにその表情から読み取れないが、確実に落ち込んでいた。


「一体どうすれば……」

 何千何万回と繰り返してきた問い掛けであったが、その答えを導き出せたことは1度もなかった。


「……そうかっ!これは神の戯れ言なのかもしれぬ」

 メイルは悩み抜いた末に愛の呪いなど始めから存在しないのではないかと思い始めた。


 こんなに人間に寄り添ってみても愛が芽生えぬのであれば、これから先もずっと人間との関係において恋愛感情など起きようがないと気が付いたのであった。


「くっ、神の奴めっ!たばかりおって……まんまとのせられてしまったのじゃ」

 少なくとも250年の間、メイルは人間の前から姿を消して大人しくしていたのである。神に騙されたと感じるのも無理もない話だ。


「なれば……すぐにでも身体に戻り、わらわの理想の世界を取り戻してくれようぞっ」

 これ以上、神の戯れに付き合う必要がないと判断するとこの愚かな世界に終止符を打つことを考えた。


「じゃが、困ったのう……」

 彼女が身体に戻るには1つ大きな問題があった。それは彼女があまりにも有名になりすぎてしまったことである。


常勝無敗の女神じょうしょうむはいのめがみと呼ばれるようになって、かれこれ100年、彼女の顔は国内外問わずに知れ渡っていた。


 そのため、彼女が表に出れば、すぐさま人集りができてしまい、彼女の行く手は塞がれてしまう。また、敵国に入れば即お尋ね者として指名手配されてしまい、多くの人間から逃げ回らねばならなかった。


 皮肉なことに彼女の見た目は完璧であるがゆえに最大の足枷となってしまっていた。


「強行手段で切り抜けようにもわらわにはもうあまり猶予が残されていないのじゃ」

 メイルの心臓部に埋め込まれた宝石にはほとんど魔力が残されていなかった。人間との戦争に気を取られて、タイムリミットが迫っていたことをすっかりと忘れていたのである。


「まさか、このような状況に追い込まれようとは……」

 従来の状態であれば、人の追っ手などいとも簡単に振りほどけるのであるが、帰り着くのがやっとの今の状態では無駄な魔力を使うわけにはいかなかった。


「さて、どうしたものかの……」

 メイルは最果ての地まで戻る方法について頭を悩ませていた。


 そんな最中、彼女の下に吉報が届く。この国の人間からすれば訃報になることだが……

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