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機巧れないの恋  作者: 東メイト
第1章:メイルシュトローム 編
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第4話:奴隷商人とオークション


「ほう……これは、これは……」

「大した掘り出し物だろ?」

「そうですな……」

 奴隷商人はまじまじとメイルのことを見つめるとソロバンを弾いた。


「こんなものでどうでしょうか?」

「もう少し色を付けてくれねえか?」

「仕方がありませんね……これでどうでしょうか?」

 奴隷商人はソロバンを弾き直すと1割増しで値段を提示した。


「交渉成立だな」

 野盗のお頭は満足そうな笑みを浮かべるとメイルを奴隷商人に売り渡した。


「それじゃな」

「お世話になりました……」

 メイルは静かに頭を下げると自らの意思で奴隷商人の馬車の中へと入っていった。そんな様子を盗賊の下っ端は悔しそうに見つめていた。


 もし、下っ端にもう少し知恵があったならば、彼女のことを助けられたかもしれない。だが、それは叶わぬ夢であった。


「しくしく……」

 メイルが馬車に揺られながら檻の中で過ごしているとあちらこちらから啜り泣く少女達の声が聞こえてきた。


「何を泣いておるのじゃろうか?」

 メイルには少女達が泣いている意味がわからなかった。


 彼女達はみな貧困に喘ぎ、両親から仕方なく身の上を売られた身、少なくともそのままの現状よりはひもじい思いをせずにすむというのに……メイルはそれが不思議でならなかった。彼女のように自らの意思で進んで奴隷商人に売られることを望む者などいようはずもないのに……


 メイルが奴隷商人に買われてから1週間が過ぎた頃、彼女が見る景色は随分と文明が発達した街並みに変わり始めていた。


「おしっ、お前達、外に出るのだ」

 奴隷商人はある大きなお屋敷にやって来るとメイル達を馬車から降ろした。そして、地下にある各部屋に少女達を押し込めるとそこで身形を整えるように命令した。


 部屋の中には身体を洗うための水場が設置されており、部屋の奥の方にはベットと化粧台が置かれていた。どうやら、この部屋は普段、娼婦達が商売を行うために使われている部屋のようであった。


「なるほどの……これで身体を洗うのか……」

 メイルは野盗から渡されたみすぼらしい服を脱ぎ捨てるとシャワーを手に取り、肌に付着した埃や泥などを洗い流した。そして、身を清めると化粧台の横に設置されたハンガーラックにかけられた衣服の中から似合う物を選び出した。


「……こんなもので良いかの?」

 メイルは化粧台で自分の姿を確認すると最後に朱色の口紅を唇に塗った。化粧などせずとも充分に彼女は魅力的なのだが、見たことのない化粧品に興味津々であった。


 少なくとも彼女が生まれた時には化粧品などの贅沢品は存在していなかった。彼女が知らない間にそれだけ人類の文明が進歩していることを意味していた。


「おお、これは……」

 奴隷商人は身形を整えたメイルを見て言葉を失った。


 サファイアのような瞳に太陽のような髪、そして、雪のような肌を包み込むバラの飾りをあしらった赤と黒のドレスがこれでもかというくらいに彼女の存在を際立たせていた。


「まるで女神のようだ……」

「どうかなさいましたか?」

 メイルは呆然とする奴隷商人に話しかけると不思議そうに首を傾げた。


「うおっふおん……付いてきなさい」

 奴隷商人は我に返るとメイルを連れて地下の部屋を出た。


 変わり果てた街並みに心踊らせながら奴隷商人の後を付いて歩いた。彼女が書庫に籠っていた100年間の間、人類の技術は彼女の予想以上に発展していた。


 少なくとも100年前には空を飛べる者は魔法使いしかいなかったのだが、今は飛行機という乗り物が発達しており、普通の人間でも空を飛べるようになっていた。


「……着きましたよ」

 奴隷商人は大きな建物の前までやって来ると足を止めた。


「ここは何ですか?」

「この場所は……多くの人達に公演や演奏、演技が見せることができる建物です。まぁ、貴女のような田舎者には無縁の場所でしょうけど……」

 奴隷商人はメイルのことを鼻で嘲笑うと公演会場について説明した。


 人間達は彼女が大人しくしている間に娯楽を行うことができるまでゆとりを持つようになっていた。もし、彼女が現役で世界を闊歩していたならば、とても考えられないことである。


「それで?わたくしはここで何をすればよろしいのでしょうか?」

 まさかここで彼女に歌や踊りでも披露させる気なのだろうか?


 確かにメイルの声は小鳥が囀ずるような美しい声ではあるが、とてもではないが人間の真似事など機械人形のような彼女にはできるはずがなかった。


「別に何もする必要はないですよ。貴女はここでただ立っていれば良いのです」

「立っているだけ?」

 メイルは奴隷商人の意図が伝わらず困惑していた。


「そうです。あとは向こうが勝手に貴女に値段を付けてくれますから」


 公演会場は表向きには娯楽などを披露する場所であったが、裏向きには秘密裏に貴重な品を取引するためのオークション会場などを担っていた。


 奴隷商人はそこでメイルのことを目玉商品として競売に出す気満々であった。


「なるほどの……人間とは随分と面白いことを思い付くようになったな……」

 メイルは奴隷商人の言葉から大体の状況について理解した。


「こちらに来なさい」

 奴隷商人はメイルを連れて会場に入ると彼女の参加登録を手早く済ませた。


「それでは時間になりましたら会場までお戻りください」


 奴隷商人は彼女を連れて今度は市場の方へと向かった。


「さてさて、貴女のような宝石にはどのような装飾品が似合いますかな?」

 奴隷商人は少しでも高くメイルを売り飛ばすつもりで彼女の見た目をもっと派手にさせようとしていた。


「そうですね……」

 メイルは辺りの様子を見回すと自分の見た目に似合いそうな銀のネックレスと金の腕輪を指差しした。


「お客さん、お目が高いですね。うちのは純正のもので混ぜ物はほとんど入ってないんですよ」

「混ぜ物なしですか?どれどれ……」

 奴隷商人は少しでも安く買い叩こうと装飾品の粗を探したが、ほとんど見つからなかった。それもそのはず、メイルの眼力をもってすれば高価なものを見抜くことなど、いとも容易いことであった。


「仕方がありませんね……その値段で手を打ちましょう」

 奴隷商人は露天市場の商人の言い値でそれらの装飾品を買い取った。


 こうしてメイルは万全の体勢でオークションに望んだ。


「続きましては……今宵の目玉商品となります。生ける宝石のような女性、この女性の競売になります」

「何と美しい……」

「目が洗われるようだ……」

 メイルが舞台に姿を現すと一斉に観客席からざわめきの声が巻き起こった。彼女の美しさは一瞬で多くの観客を魅了していた。


「それではオークションを開始いたします。まずは10000リゼアから」

「11000っ」

「12000っ」

「14000っ」

「16000っ」


「20000っ」

 メイルに20000の大台が付けられると会場から驚きの声があがった。


「20000っ、20000リゼアっ、他に札を挙げられる方はおられませんか?」

「25000っ」

「30000っ」

「35000っ」


 35000リゼアの値段が付けられると会場は静まり返った。そこから先は手持ちの限界に達した者が多く、迂闊に値段を吊り上げることはできなかった。


「35000っ、35000リゼアっ、他に札を挙げられる方はおられませんか?」

 進行役は静まり返った観客たちに檄を飛ばすが如く木槌を打ち付けた。


「……36000」

「37000」

「38000」

「40000っ」

 40000リゼアの値段が告げられると観客たちは完全に沈黙した。


「40000っ、40000リゼアっ、他に札を挙げられる方はおられませんか?」

 進行役は静まり返った会場を確認すると諦めたかのように木槌を大きく振り上げた。そして、再び木槌を叩こうとした瞬間、予想外の声があがった。


「45000っ、45000ゼリアだっ」

 その声に会場がどよめいた。まさか、この状況でそんな高額が出ようとは誰も予想していなかったようであった。


「45000っ、45000リゼアっ、他に札を挙げられる方はおられませんか?」

 進行役は最後通告を告げるように辺りの様子を伺ったが、それ以上の値段は付けられそうになかった。


「それでは……77番の方に45000リゼアで落札になります」

 進行役は勢いよく木槌を叩くとオークションの終了を告げた。


「それではお支払をお願い致します」

 公園会場の舞台裏では先程メイルのことを競り落とした男が支払いを求められていた。


「これで……良いか?」

 77番の貴族の男は部下である執事に大きめな袋を持ってこさせるとオークションを取り仕切る黒い服の男の目の前に置かせた。


 袋の中にはぎっしりと金貨が詰まっており、金貨の価値は1枚に付き100リゼアになる。ちなみに1000リゼアあれば、家1件を余裕で建てることができる。つまり、メイルの価値は街1つ分をゆうに作ることが可能な金額であった。


「……449、450。確かに金額通りにありますね」

 黒服の男はそこから金貨90枚を抜き取ると残りの金貨を奴隷商人へと渡した。抜き取られた金貨はオークションの参加費となる。


「大儲けですな~♪それでは~♪」

 奴隷商人はメイルを競り落とした貴族の男に引き渡すと上機嫌にその場を去っていった。それもそのはず。メイルは彼の予想の2倍以上の値段で取り引きされていたのだから。


「それでは御主人様……わたくしめのことを存分にお愛しくださいませ」

 メイルはスカートの両端を軽く掴むと丁寧に頭を下げた。人からの寵愛を受けるため、彼女は人に尽くすための所作をひと通り身に付けていた。


「よく調教されているな……それでは望み通り、存分に可愛がってやるぞっ」

 貴族の男は満面の笑みを浮かべながら彼女の身体を抱き寄せるとベタベタと彼女の柔らかい肌に触れまくった。


「それで……お前の名前は何というのだ?」

 一頻りメイルの感触を楽しむと貴族の男は彼女に名前を訊ねた。


わたくしの名前ですか?」

「そうだ。お前は今まで何と呼ばれていたのだ?」

わたくしの名前は……メ……」

 メイルは自分の名前をそのまま言いそうになったが、咄嗟に思い止まった。仮にも伝説となっている凶悪な魔女の名前を口にするのは相手に不信感を与えかねないからである。


「……メルシアと申します」

 メイルは自らの名前を短縮させるとそう名乗ることにした。


「メルシアか……美しいお前にぴったりの名前だな。これからもお前のことをそう呼ぶとしよう」

 貴族の男はメイルの名前を決めると再び彼女を引き寄せて執事に用意させた馬車の中へと乗り込んだ。


「ふふ……これからの生活が楽しみだよ」

わたくしもですわ」

 メイルは貴族の男に同調するかのように静かに頷いた。


「これで……わらわの望みも成就するであろう」

 メイルは心の中で勝ち誇ったかのように不適な笑みを浮かべていた。貴族の馬車に揺られながら……

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