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機巧れないの恋  作者: 東メイト
第2章:エルフレッド 編
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第26話:裏切りのバルサック


「セティアはそこの茂みから魔法を唱えてくれ。良いかい?」

「うんっ、わかった」

 エルフレッドはミュラに指示された場所に辿り着くとセティアとの陣形を整えた。そして、敵から狙われないように茂みの裏側から魔法を唱えるように指示を出した。


「そろそろか……」

 近づいてくる複数の足音から敵が近いことを悟ると息を整えた。


「なんだ、貴様はっ」

「悪いけど……ここから先には行かせるわけにはいかない」

「それは我らクルストライゼンツの海軍と知っての狼藉か?」

「……知っている。無実の女性を捕らえにやって来たのだろう?そんな輩達を通すわけにはいかないと言っている」

「ふん……どこの馬の骨かは知らんが、余程命が入らないと見える。構わんっ!殺せっ!」

 海軍の隊長は手を挙げると部下達に剣を握らせた。


「絶対に……ここを通さないっ」

 エルフレッドも剣を抜くと戦闘を開始した。


 その頃、カルミラの下ではミュラがバルサックの策略について暴露していた。


「ふ~ん……バルサックがね。あたしのことをね……」

 狙われている当の本人はミュラの話を全く信じていなかった。


 それだけ彼女は海賊の絆が強いものだと信じていた。そのため、長年の付き合いであるバルサックがそんな謀反を起こすなど微塵も思ってもいなかった。 


「嘘じゃないっ!あたいのことを信じてくれっ」

 カルミラの瞳を捕らえると必死で嘘でないことを訴えた。


「それを信じる証拠はあるのかい?」

「それは……」

 言葉以外の証拠を持たないミュラは彼女の質問に口を籠らせた。


「どうしたんだい?答えられないのかい?」

「……」

「だったら、あんたの言うことを信じるわけにはいかないね……」

「……そうだっ!1つだけ嘘を言っていない証拠があるっ」

 ミュラはこの島にクルストライゼンツの海軍が来ていることを思い出した。


「今、この島に海軍の船が来ていてる」

「なんだって……」

「あたいが嘘を吐いているならば、そんな船など存在しないはずだろ?」

「確かに……」

 カルミラは彼女の言うことに耳を傾けると唇に右手を添えた。


「その船はどこに停まっているんだい?」

「あっちの灯台近くの浜辺だよ」

 海軍の船が停まっている方向を指差した。


「灯台にいる部下達に見知らぬ船が停泊していないか、連絡を出しな」

「あいあいさ~」

 命令された部下達は灯台の方に松明で作った明かりを向けると手旗信号の要領で灯台の部下達に合図を送った。


「ん~……見知らぬ船が停まっているようです」

 返された信号を解読するとそのままカルミラに伝えた。


「やれやれ……まさか身内に売られる破目になるとはね……」

 悲しそうな表情を浮かべると彼女は自らの頬を思いっきりひっぱたいた。


「すぐにバルサックの奴をここに呼び出しなっ」

 気持ちを切り替えると事の真相についてバルサックを問い質すことにした。


「あんたはそこの物陰にでも隠れておいてくれ」

 窓の方を指差すとミュラへ観葉植物の後ろに身を隠すように命令した。


 それから間もなくして、バルサックが部下達を引き連れてやって来た。


「おいおい……こんな夜分遅くに一体何の用だ?」

 部屋に入るなり、苛ついた様子でカルミラを睨み付けた。


「すまないね……ちょっとあんたに聞きたいことがあって呼び出したんだよ」

「聞きたいことだと?それは一体何だ?」

「あんたが謀反を企てているとの報告が入ってね……」

「謀反だと?この俺が?一体何のことだ?」

 バルサックは飄々とした様子で会話を続けた。


「俺があんたを罠に嵌めて一体何の得があると言うんだ?」

「……そうだよね。いくらあんたがあたしのことを嫌っていたとしてもそこまではしないよね」

「当たり前だっ!俺達海賊の絆は切っても切り離せない絆だろ?」

 白々しいほどに仲間であることを強調すると何食わぬ顔で笑みを浮かべた。


「なるほどね……確かにあんたの言う通りだ。あたしらの絆は絶対だっ。疑って悪かったね」

 バルサックの言うことを認めるように振る舞うと頭を下げた。


「別にいいってことだ。疑いが晴れたのならばな……」

 そう言うと彼はそそくさとその場を離れようとした。


「最後にもう1つだけ質問しても良いかい?」

「これ以上、一体何を聞こうと言うんだ?」

「彼女のことは知っているかい?出ておいで……」

 ミュラに合図を送ると姿を現すように促した。


「き、貴様は……」

 バルサックは彼女の姿を見るなり声を震わせた。


 まさか死んだと思っていた相手が目の前に現れるなど動揺を隠せないようであった。ましてや自分にとって不利な情報を持った相手であれば尚更である。


「どうやら説明する必要はないみたいだね」

 彼の反応を見て謀反を企てていることを確信した。


「あんたの企みは全て報告させてもらったよ。もう諦めなっ」

「糞がっ!あと少しで俺がこの島の頭領になれたというものを……」

 忌々しそうにミュラのことを睨み付けた。


「残念だよ……バルサック……あんたのことは好きな奴ではなかったけど部下としては心強かったんだけどね」

 手を挙げるとバルサックの身柄を押さえようとした。


「こうなったら……最後の手段だっ!」

 彼女の部下の手を払うと自分の部下に命令した。


「まじでやるんですか?」

「貸せっ!」

 躊躇う部下の持っていた筒を奪うとその尖端をミュラの方へと向けた。


「危ないっ」

 咄嗟にミュラの身体を庇うと地面に伏した。


 次の瞬間、バルサックの持っていた筒から火薬の玉が飛び出した。そして、窓を突き破るとそのまま部屋の外で破裂した。


「一体何を……」

 カルミラが立ち上がろうとした瞬間、外から次々と爆発音と悲鳴が鳴り響いてきた。


「何をしたんだっ、バルサックっ!」

 外の異変は彼が引き起こしたことに間違いなかった。


「俺の息のかかった部下達が仕掛けておいた火薬の樽に火を着けて回っているのさ」

 万が一にも作戦が失敗した時のために他の陽動作戦も考えていた。そして、その混乱に乗じて自分だけは逃げ去るつもりであった。


「何ってことを……」

「どうする?俺をこのまま捕らえるか?」

「あんたなんかに構っている暇はないっ!さっさと失せなっ」

 大きく手を振るとバルサックに立ち退くように命令した。


 彼女としては彼の身柄を押さえるよりも下の町で起こっている騒ぎを沈めることの方が重要であった。


「そうかよ。だったら、行くぜっ!もう会うことはないだろうが……あばよっ」

 薄ら笑いを浮かべると彼は部下達と共に逃げていった。


「あんな外道を見逃して良かったのか?」

「どうせ、あんな奴に行く先なんかないよ。それよりも早く下の混乱を沈めないと……」

 そう言うと側近の部下達を引き連れて火災現場や救助が必要な場所へと向かった。


「エルの方は大丈夫かな?」

 エルフレッドの身を案じるとミュラは彼が戦っている場所へと足を向けた。


 その頃、当のエルフレッド達はたった2人でクルストライゼンツの海軍を圧倒していた。


ショウ()ウェル()メルツ()っ」


 セティアの魔法のお陰で彼は終始全力で戦うことができた。そのため、様々な技を駆使して海軍の行く手をことごとく遮っていた。


「一体何なんだ……あの化け物は……」

 海軍の隊長は部下達が倒されるに連れて焦りの色を濃くさせた。


 既に彼の連れてきた部隊は5分の4が倒されている。


「諦めて帰ってもいいですよ。僕の目的はあなた達をここから先に進ませないことですから」

 余裕の笑みを浮かべると素直に撤退することを提案した。


「ふざけるなっ!貴様1人に返り討ちにあったとなれば我らはいい笑い者だっ」

 怒りを露にすると尻込みする部下達に発破をかけた。


「「「うおおおっ」」」

「仕方がありませんね……ショウ()ウェル()メルツ()っ」

「ぐはっ」

「うがっ」

「げほっ」

 次から次へと海軍達はエルフレッドの前に倒れていった。


「糞があああああ」

 最後の1人になると海軍の隊長は大きな声で叫びながら突進してきた。


「はあああ」

 相手に負けじと気合いを込めるとエルフレッドは最後の敵を空高く舞いあげた。舞い上がった隊長はそのまま地面に顔を打ち付けると気を失った。


「これで終わりか……」

 全ての敵を打ち払うと安堵の溜め息を吐いた。


 いくらセティアが治癒魔法を掛けていたとしても流石に彼1人で40人近くの兵士を相手するのは実に骨の折れることであった。


「これは……一体何の冗談だ……」

 縛り上げられた海軍達を見てバルサックは驚きの声を漏らした。


 彼は海へ逃れるため、エルフレッドの所までやって来ていた。


「貴様がこれをやったのか?」

「ええ、彼らには無実の女性を捕まえに来た疑いがあったもので……」

 エルフレッドはバルサックの顔を知らなかったため、目の前にいる人物が敵だとは思っていなかった。


「何ってことをしてくれたんだ……」

「えっ?」

「危ないっ!エルお兄ちゃんっ」

 バルサックがエルフレッドの隙を突いて斧を振り下ろそうとした瞬間、彼の悪意に気が付いたセティアが叫び声を挙げた。


「くっ」

 間一髪のところで彼の攻撃をかわすと剣を構えた。


「そうか……あなたがミュラの言っていた……」

「貴様のせいで何もかもが水の泡だっ」

「無実の人を貶めて無理に奪おうとするからこのような目にあうんだ。素直に投降して罪を償え」

「俺達は海賊だっ!人から奪って何が悪いっ」


「仁義がなければ、それはただの略奪にすぎない。そんなことを見過ごすわけにはいかない」

 バルサックをこのまま放置していては更なる悲劇を生むと判断したエルフレッドはここで彼の身柄を押さえることにした。


「野郎共、この糞野郎をぼこぼこにしやがれっ」

 連れていた部下達を焚き付けると彼はエルフレッドにけしかけた。


「うおおお」

「でやあああ」

「はあああ」

 向かってくる敵を打ち倒すとバルサックの身柄を押さえようとしたが、その中には彼の姿は見えなかった。


 自分1人だけ別の方向へと走り去るとそのまま戦線を離脱した。


「ま、待って……」

「誰が捕まるものかっ!あばよっ」

 慌ててバルサックの後を追ったが、彼の逃げ足には追い付けなかった。


「エルっ」

「ミュラ……すまない。バルサックを見失ってしまった……」

「多分、あいつはあそこにいる」

 ミュラはバルサックが停めていた船のことを思い出すとエルフレッドをそこへと案内した。


「どうやら一足遅かったみたいだ……」

 彼らがバルサックの停めていた船の場所に辿り着いた時、彼の船は既に出航しており、地平線の彼方へと遠ざかっていた。


「仕方がない。僕達もカルミラさんの手伝いに向かおう……」

「うん……」



『やれやれ……相も変わらず、詰めの甘い奴じゃな』

 遠ざかる船をエルフレッドの瞳から見ていたメイルは溜め息を漏らした。


 彼女はセティアの魔法を受けて意識を覚醒させていた。


『あのような小物、見逃したところで問題はあるまいが……いづれエルフレッドの邪魔になるかもしれぬ』

 そう危惧するとメイルは魔法の杖を具現化した。


『危険の芽は早い内に取り除いておいた方が良かろう……海の生物達よ。あの船を海の藻屑と化すのじゃ』

 海の生物達に呼び掛けるとバルサックの船を襲わせた。


 こうして彼は大きな野望と共に深い海の底へと散っていったのである。


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