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機巧れないの恋  作者: 東メイト
第2章:エルフレッド 編
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第24話:ミュラの行方とバルサックの策略


「はあ……何をやっているんだろう、あたい」

 溜め息を吐くとミュラは先程口にした自らの台詞を思い返した。


「あれじゃ、好きだって言っているようなもんじゃないか……」

 その場の勢いに任せて、ついつい吐き出してしまった本音は彼女の顔を真っ赤に染めていた。


「最初はただただ、からかいたい、見返してやりたいって気持ちだけだったはずなのにな……」

 ミュラはエルフレッドに助けられて彼の優しさに触れている内に彼のことを本気で好きになってしまっていた。


 それ故にカルミラの要求を認めさせるわけにはいかなかった。


 彼女の右腕になることは彼女の一生の伴侶になることに等しいことだからだ。


「この先、どんな顔をしてエルに会えばいいんだよ……全く……」

 ミュラは夕陽で赤く染まる海を眺めながら、これからのことについて思考を張り巡らせた。


「……んっ?何だ?あれは……」

 彼女が海を見つめていると人気のない岸壁に停まっている1隻の船に気が付いた。


 その船は2、3人が乗るような小さな船で中には食料や宝飾品などが積まれていた。そのような船がこんな人気のない場所に停泊しているなんて明らかにおかしかった。まるで何かを隠しているようであった。


「何でこんな場所に船が?」

 不振に思ったミュラはその船の方へと近付いていった。


 彼女が船に近付くと中から複数人の男達の声が聞こえてきた。


「バルサックの旦那、本気でやるんでやんすか?」

「当たり前だろっ!何時までもあの海女(あま)に舵取りを任せるわけにはいかねえ」

「ですけど……」

 バルサックと違って彼の部下は彼の作戦には乗り気ではなかった。


「思い出してみろっ!俺達の取り分がどれだけ減らされているのか……」

「それは……」

「それもこれも全てはあの海女(あま)のせいだろっ!あいつは奴隷と見ると誰でも彼でも受け入れちまう。そのせいで俺達の取り分は減るばかりじゃねえかっ」

 彼のようにカルミラのやり方を快く思っていない部下は少なくなかった。特に彼女よりも年上の男連中は不満を募らせる一方であった。


「もともと次の頭領には俺がなるはずだったのに……先代の気紛れであんな小娘にかっさらわれたんだっ!納得できるわけがねえだろ」

 忌々しそうに地団駄を踏むと苛立ちを露にした。


「だから……そろそろあの小娘を頭領の座から引き摺り下ろして俺達の理想郷を取り戻すんじゃねえかっ」

「ですが、本当にうまくいきますかね?」

「そのために何ヶ月もかけて帝国の奴らと取り引きを交わしてきたんじゃねえか。今さら無駄になんかできるかっ」

 後ろの箱から果物を取り出すとそれを力強く噛み砕いた。


 彼はカルミラの知らない水面下で密かに帝国の人間と交渉を進めていた。そして、彼らとの交渉のためにたくさんの宝飾品や食料を溜め込んでいた。


「そろそろ船を出せっ!先方との待ち合わせの時間に遅れちまう」

 バルザックは部下達に発破を掛けると船を漕ぎ出させた。


「いいか?くれぐれもカルミラの奴に見つかるんじゃないぞ」

「何やらきな臭いことになっているな……これはもう少し情報を集めておいた方が良さそうだね」

 彼女はバルサック達に気付かれないよう素早く船の中に忍び込むと彼らの尾行を開始した……



「ミュラは一体どこに行ってしまったのだろうか?」

 ミュラがバルサックの後を追いかけている頃、エルフレッドも彼女のことを探していた。


「ミュラお姉ちゃん、見つからないね……」

 セティアは不安そうな表情を浮かべながらエルフレッドの服の後ろを掴んだ。


「そうだね……」


 本当にどこに行ってしまったんだろうか?ミュラ……


 それに……どうして、あんなに怒っていたのだろうか?


 ミュラの心配をよそに彼には彼女の気持ちがさっぱりと伝わっていなかった。


 幼い頃から剣一筋の生活でろくに同世代の少女と会話をしてこなかった彼にとって恋愛という感情は未知なものであった。


 ここ最近ようやくメイルと知り合って女性に対して淡い気持ちを懐くようになったが、それが恋愛感情というものであるとは理解していなかった。そして、それはまたメイルも同様であった。



『全く以て理解できぬことじゃな。たかだか手下になれと言われたくらいであんなに感情を剥き出しにするとは……』

 やれやれと呆れた様子で首を横に振った。


『じゃが……何でじゃろうな?この胸のざわめきは……』

 メイルは自らの胸に手を当てると悩まし気な表情を浮かべた。


 先程のカルミラの思い出すと胸の中でもやもやとした感情が沸き上がっていた。


 彼女にとって自らの願いを叶えた後、エルフレッドがどうなろうともどうでもよいことなはずなのに……


 彼が誰かのものになってしまうのはミュラと同様に何とも面白くないと感じるようであった。


 その感情が何なのか、未だに彼女は知る由もなかった。



「これだけ探しても見つからないのであれば、カルミラさんにも協力してもらうしかないかな……」

 困り果てたエルフレッドはこの島で一番顔の利く彼女に頼ることにした。


「こんな時間に一体誰だい……」

 エルフレッド達が彼女の下に辿り着いた時には辺りは薄暗く太陽の半分以上が地平線に沈んでいた。


「おや?エルフレッドじゃないか?こんな日暮れにどうしたんだい?」

 カルミラは不思議そうに首を傾げていたが、彼らのことを家の中に迎え入れるとホットココアを差し出した。


「ありがとうございます……」

「それであたしに何か用かい?それともさっきの答えを聞かせてくれる気になったのかい?」

「そうではありません」

「それじゃ、一体何の用だい?」


「実は……」

 エルフレッドはミュラが飛び出していってしまった経緯について簡単に説明した。


「なるほどね……それで彼女は飛び出していってしまったと……」

「はい……」

「彼女が飛び出してしまった理由はわかっているのかい?」

「それがさっぱりわからないんです……」


「やれやれ……あんたも罪作りな男だね」

 彼女は呆れた表情を浮かべると両手を軽く上げた。


「僕はどうしたら良いのでしょうか?」

「彼女の捜索はあたしに任せてあんたらはあの家で待ってな。情報が入り次第、使いの者を出すから……」

 そう言うと彼女は部下達にミュラの足取りを調べるように伝令を出した。


「……わかりました。よろしくお願いします」

 ミュラの行方が掴めるまで彼女の指示に従うことにした。



 その頃、当のミュラはバルサックの船に忍び込んで海の上にいた。


「一体どこまで行くつもりなんだ?」

 船が出てから30分以上の時間が流れていた。


「おしっ、そろそろ待ち合わせの海域だ。辺りに船がないか、確認しやがれ」

「バルサックの旦那、南東の方向に船が……」

「多分、その船だな……ゆっくり近づけろ」

 バルサックの指示で静かに船を漕ぎ出すと発見した船の方へと近づいていった。


「クルストライゼンツ帝国の者か?」

「ああ、そうだ」

 バルサックの言う帝国の奴らとはクルストライゼンツのことであった。


「それで……考えは決まったのか?」

「ああ、こちらはあんたらの条件を飲んでも良い。ただし、取り分は7、3でなきゃ割りが合わねえ」

「7、3か……」

 船長は渋い表情を浮かべるとバルサックの要求を突っぱねようとした。


「当たり前だろ。お前らは何もせずに俺達の盗ってきたものを持っていくだけだろ?5分と5分じゃ正直割りが合わないだよっ」

 バルサックは相手が口を開くよりも先に捲し立てた。


「う~む……だがな……」

「もし、この取り分で文句があるんならば他の奴らに頼むんだな。まぁ、この界隈で俺達以上に幅を利かせている奴はいねえだろうがな」

「それは困るっ!貴殿らには何としても協力してもらわねばならない……」

 クルストライゼンツの海軍は他の部隊に比べると大した活躍ができていなかった。だが、それは仕方のないことである。


 目の敵にしていた常勝の女神は大陸の中におり、外の大陸には存在していなかったからである。そのため、他の部隊が飛行機や戦車を開発している最中、海軍だけは未だに木造船までしか開発が進んでいなかった。


 そんな肩身の狭い思いを払拭すべくクルストライゼンツの海軍はこの海域を生業としている海賊達と協定を結ぶことに身を乗り出した。


 そうすることでバレンシアなどの諸国に流れる物資を奪うと共に外側の大陸を侵略するための足掛かりにしようと企てていた。


 なので、バルサックの要求を認めざるをえなかった。


「そうだろ?だったら俺達の要求を素直に飲むんだな」

 バルサックは勝ち誇ったように下衆な笑みを浮かべた。


「しかしな……お前達が大規模に海賊家業を行うには我らの後ろ楯がなければできないであろう?」

 彼の言うとおり、バルサックのような海賊達は正規の軍隊が動き出してしまうと活動ができなくなってしまう。


 そのため、活発的に行動するためにはクルストライゼンツのような国の軍隊による牽制が必要不可欠であった。


「だから、取り分の3割はそちらに渡すと言っている。謂わば、それはしょば代がわりのようなものだ」

「随分と高いしょば代だな……」

「その分、しっかりと働かせてもらう。言うなれば、俺達は運命共同体だ。俺達の利益はお前達の利益となり、お前の蓄えとなるだろう」

 言葉巧みに今の関係が今後の相手の利益に繋がることを強調すると条件の承諾を求めた。


「……仕方あるまい。その条件で納得するとしよう」

「よしっ。交渉成立だっ」

 バルサックは手を差し出すと相手の手をしっかりと握りしめた。


「それじゃ、お互いの今後を祝して……」

 船長はグラスを傾けると乾杯を求めた。


「とその前に……あんたに1つ、頼み事があるんだが……」

「頼み事だと?これ以上、俺達に何を求めようと言うのだ?」

「まあ、そう警戒するな。これは個人的なお願いだ。俺達のこれからの関係には関係ない」

 警戒する相手を宥めるとバルサックは改めて頼み事の内容について話し始めた。


「実はな……俺があんたに協力するのに反対しそうな女がいるんだ」

「ほう?それで?」

「その女を何らかの罪で俺達の島からしょっぴいてほしいのさ」

 バルサックは帝国の人間を利用してカルミラを島から追放することを考えていた。そして、彼女がいなくなった海賊団を率いるつもりであった。


「しょっぴくのは簡単だが、そのあとはどうすれば良いのだ?」

「あんたらが好きにすれば良いさ。囚人にするも奴隷にするも。俺達の島に2度と戻って来れないようにしてくれればな……」

「なるほどな……」

 船長はその女のことを交渉材料にできないか思考を張り巡らせた。


「勿論、ただでとは言わないぜ」

 手を叩くとバルサックは部下達に船に積んであった宝飾品を持ってこさせた。


「これは、これは……」

「俺からのほんの気持ちだ。是非とも受け取ってくれ」

 カルミラのことを交渉材料にさせないため、わざと条件を締結した後に持ちかけた。そして、相手がその隙に漬け込もうとする前に貢ぎ物で塞いだ。


「どうだ、お願いできるか?」

「そうだな……」

 目の前に置かれたお宝を目の前にして船長の思考は欲望へと傾いた。


「わかった。協力しよう……」

「そうか、そうか」

 交渉がうまく纏まるとバルサックは安心したように笑みを溢した。


「それじゃ、今度こそ……」

 バルサックはグラスを手に取ると乾杯しようとした。


「誰だっ!」

 持っていたグラスを窓の方へと投げ付けると睨み付けた。


 そこにはバルサックの後を付けていたミュラがいた。彼らの密談に気を取られて身体を乗り出しすぎていた。


「どうやらネズミが紛れていたようだな」

「すまねえ。俺の乗ってきた船に紛れ込んでいたようだ」

「まぁ、安心しろ。すぐに捕まるだろ。なんせここは船の上だからな」

 ミュラに追っ手を差し向けるとくまなく船内を捜索させた。


「あたいとしたことが……」

 彼女は必死で船内を逃げ回ったが、狭い船室は隠れる場所が少なくやがて船の先端の方へと追い詰められた。


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