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機巧れないの恋  作者: 東メイト
第2章:エルフレッド 編
22/26

第22話:海賊女王カルミラ


「うっ……まさか、こんなことになるなんて……」

 船の1室で呻き声を漏らすエルフレッド。


 彼は船に乗るのは初めてのことであったため、慣れない足場に揺れる波と強い船酔いに悩まされていた。


 その影響は感覚を共有しているメイルにも伝わっていた。



『何なのじゃ……この込み上げてくる気持ち悪さは……』

 彼女自身も船に乗るのは初めてのことであったため、どう対処してよいのか、方法がわからなかった。


『まるで地面が蛇のように畝っておるようなのじゃ……こんな感覚……初めてなのじゃ……』

 得体の知れぬ感覚に襲われながらも、なぜかエルフレッドとのリンクを切ろうとはしなかった。


 まるで苦楽を共に味合わんとする鴛鴦おしどりのように彼と彼女の中には強い絆が結ばれつつあった。



「エルお兄ちゃん……大丈夫?」

 彼の傍では不安そうな瞳で見つめるセティアがいた。


「大丈夫だよ……セティア。もうしばらくすれば、治ると思うから……」

 精一杯の笑顔を浮かべると問題ないことをアピールした。


 これ以上、彼女に心配を掛けさせまいと強がって見せていた。


 セティアは辛そうな彼の額に両手を翳すと可愛らしく呪文を唱えた。


「……シェフト(大地の)プレル(祈り)


 身体に取り付けられていた魔石を外されたことにより彼女は簡単な治癒魔法なら唱えられるようになっていた。


 外された魔石の欠片は全てメイルが彼の長剣を修復する際に使用した。


 彼女は魔石に蓄積された魔力を全て吸い上げると錬金魔法を発動させた。そして、魔石の欠片と剣を融合させて最強の魔法剣を作り出した。


 剣の刀身に魔法が触れれば、魔法の魔力は即座に吸収され、剣の塚の部分に取り付けられた魔石へと蓄積される。そして、その蓄積された魔力は彼の身体を通じてメイルが自由に使うことができるようになっている。


 そうすることで彼女は少しでも彼の戦闘のサポートを行えるようにしたのであった。


 剣にそんな細工を仕掛けられていることを彼は知らない。


「……ありがとう。少し気分が楽になったよ」

 ベッドから上半身を起こすとふさふさな彼女の頭を優しく撫でた。


「えへへ……エルお兄ちゃんの役に立てて良かった」

 嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべた。


「そういえば……ミュラの姿が見えないけど?」

「ミュラお姉ちゃん?ミュラお姉ちゃんなら海を見てるって上の方に登っていったよ」

「そうなんだ。セティアも退屈なら海を見に行ってきても良いんだよ」

「ティアはエルお兄ちゃんと一緒にいる。お兄ちゃんと一緒にいる方が楽しいから……」

「そうなのかい?」


「うんっ」

 すっかりとセティアは自分の親のようにエルフレッドのことを慕っていた。


 2人がほのぼのと過ごしていると唐突に船が大きく傾いた。


「きゃあああ」

「……危ないっ」

 セティアが床に倒れそうになると彼は慌てて彼女の腕を掴んでベッドの上へと抱き寄せた。


「一体何が……」

 突然の揺れに身体を強ばらせていると何やら甲板の方から騒がしい声が聞こえてきた。


 それから間もなくしてミュラが叫び声を上げながら部屋の中へと入ってきた。


「大変だっ、エルっ」

「何やら上の方が騒がしいけど……どうしたんだい?」

「海賊だっ、海賊が攻めてきたんだ」

「海賊が?それは大変だっ」


 エルフレッドはベッドから慌てて飛び起きるとその脇に置いておいた剣を手にして臨戦態勢を整えた。


「どうする気?」

「とりあえず、甲板にいる海賊を制圧してくる」

「船酔いは大丈夫なの?」

「ああ、セティアが治癒魔法を掛けてくれたから……」


 本当は気持ち悪さが完全に消えたわけではなかったが、そうは言ってられなかった。彼女達に不安を感じさせないように何でもないように振る舞った。


「へぇ、この子にそんな能力があったなんて……流石はエルフの子ってところだね」

 セティアの方に視線を向けると彼女に感心を示した。


「ミュラ達はここで待っていてくれ」

「やだっ、ティアも一緒に行くっ」

 エルフレッドの脇腹にしがみつくと離れることを拒絶した。


「困ったな……」

「セティア……一緒にここで待とう……」

 辛そうな表情を浮かべながらミュラはセティアを説得した。


 本当であれば、彼女も彼と一緒に戦いたかったのだが、自分が足手まといになることは百も承知であった。


 ましてや、ろくに戦えないセティアを連れていては更に彼の邪魔になってしまうことは目に見えている。


「ミュラお姉ちゃん……」

「大丈夫……エルなら絶対に負けないから……ねえ?」

「ああ、約束するよ。上の海賊達を倒したら必ず迎えに来るから」

 彼はセティアに対して拳を作ると親指を立てた。


 それは約束の誓いである。


 彼女は同じように拳を作ると彼の親指に当てた。


「それじゃ、行ってくる……」

 気を引き締めると彼は甲板から降りてきた海賊達を倒しながら上を目指した。


 彼が甲板に辿り着くとそこでは雇われ冒険者と海賊達があちらこちらで戦っていた。


「さて、どうしたものか?」

 どこから手を付けて良いのかがわからずに悩んでいた。


「とりあえず、近くの敵から……」

 エルフレッドは負けそうな冒険者の下に駆け付けると海賊達を次から次へと倒していった。


 そうしている内に形勢は冒険者側へと傾きつつあった。


「これは一体どういうことだい?」

 海賊達が次々とやられているのを知って海賊本船から親玉らしき人物が攻め込んできた。


「何をちんたら遊んでいるのだい?何時までも遊んでいる奴は海の藻屑にするぞっ!お前達っ!気合いをお入れっ」

 女海賊は真っ赤な髪を靡かせながら夕暮れ時の太陽のようなオレンジ色の瞳を大きく見開くと部下達の士気を煽った。そして、大きな斧を振り翳すと船内を目指すように命令した。


 統率のとれた海賊達はとても厄介である。


 倒れても倒れても鼓舞され、立ち上がり、一丸となって指示された目標に向かってくる。それは川の流れの如く塞き止めることは難しかった。


 その結果、優勢だった形勢が再び脅かされていった。


「本船からも何発か砲弾を放ちなっ」

「ですが……それだとうちらにも被害が……」

「ふんっ、多少の被害など気にするなっ。このまま押し返されれば、どのみち獲られるものはないよ」

 女海賊は海賊船から大砲を何発か発射させた。


 弾が船に被弾する度に冒険者は右往左往と蜘蛛の子のように逃げ惑った。


「あれは何とかしなければ……ショウ()ブライ()フレイト()

 エルフレッドは烈空旋を使って飛来する砲弾を次々と撃ち落とした。


「何なんだい?あいつは……」

 彼の存在に気が付くと女海賊は脇目も振らずに彼の下へと駆け寄ってきた。


「ちょっとお前っ、一体何者だい?」

「僕ですか?僕の名前はエルフレッドと言います」

 自分よりも大きな彼女に対して全く怯むことなく対等に自己紹介した。


「そうか、そうか……あたしの名前はカルミラって言うって……ちっがーーうっ」

 1人乗り突っ込みを入れると彼女は身の丈以上の斧を振り下ろしてきた。


「うわっと……いきなり、何をするんですか?危ないじゃないですか?」

「違うだろっ!あたしとお前は敵同士だ。自己紹介してる場合じゃないよ」

「別に僕は敵だとは思っていませんが?」

「それなら、あたし達の邪魔をするんじゃないよっ」

「そういうわけにはいきません。僕達もこの船が目的地に着いてもらわないと困るので……」


 巧みに彼女の攻撃を避けながら対話を続けた。


「あなた達の目的は何ですか?」

「あたし達は海賊だっ。それなら……目的は1つだろ?」

「金品目的ですか?」


「その通りさ……あたし達みたいなのが生き残っていくにはどうしても必要なものなのさ」

 彼女にも女だてらに海賊をやるだけの理由があるようだった。


「あんた、かなり強いみたいだけど……海の上での戦いには慣れていないみたいだわね」

「どうして、そう思うのですか?」

「それはだね……動きがなっちゃいないんだよっ」

 カルミラは斧の柄の部分を甲板に突くと足を繰り出してきた。


「うわっ」

 彼女の足払いを喰らって大きくバランスを崩した。


「海の上は常に足場が微妙に上下してるんだ。それに合わせて重心を変化させなければ、ろくに力も踏ん張れないだろ?」


 常に足場が固定された大地と違って海の上では波の動きに合わせて踏ん張らなければ力を上手く振るうことができなかった。


 幼い頃より海の上で育った彼女にはその微妙な波の動きに合わせて動くことができた。


 それに対して彼の方は慣れない船酔いに足場の悪い甲板、出しきれない実力と悪条件が重なっていた。


 彼の技のほとんどは強固な足場がなければ、発することはできなかった。弱い足場だと跳躍する力のせいで地面に穴が開いてしまうからである。


 その結果、実力的にはエルフレッドに劣っているにもかかわらず、彼女の攻撃に圧倒されていた。


「そろそろ、大人しくしたらどうだい?」

「……まだですっ」

 彼女に負けられない何かがあるように彼にもまた負けられない理由があった。


 それはミュラを、セティアを守るという使命感、それにセティアと交わした絶対に負けないという約束。


 それらの思いに支えられてエルフレッドは立ち上がった。


「やれやれ……本当にしつこいわね。しつこい男は嫌われるわよっ」

「……はっ」

 彼はカルミラの斧が当たる瞬間、微かに横に動くと彼女の攻撃をかわした。そして、彼女が斧を振り上げるより先に斧の柄の部分に乗ると剣先を彼女の喉元に突き付けた。


「くっ……」

 突然の形勢逆転に彼女は言葉を失った。


 この状態であれば、いくら足場が揺れようが関係がない。彼女が動けば、足元の斧を破壊して戦闘は終了である。


「そこまでだっ」

 勝利を確信したエルフレッドであったが、再び形勢は逆転した。


 声が聞こえてきた方には喉元に剣を突き付けられたセティアとミュラの姿があった。


「エルお兄ちゃん……」

「すまない……エル……」


 船に砲弾が撃ち込まれるとセティアは彼のことを心配して我慢できずに部屋を飛び出してしまった。そして、それを追いかけたミュラ共々、海賊に捕まっていた。


「……わかった。抵抗はしない……だから、その2人には手を出さないでくれ……」

 エルフレッドは斧から飛び降りると自らの剣を手離した。


「とんだ甘ちゃんだわね……」

 無防備になったエルフレッドの後頭部にきつい一撃を与えるとカルミラは気絶した彼を担ぎ上げた。



『全く何と愚かな……まあ、あやつらしいと言えば、あやつらしいが……』

 メイルはエルフレッドの行動に呆れながらも感心していた。


 彼と感覚を共有する内に誰かのことを思いやる気持ちについて何となくだが、彼女にも理解できるようになっていた。


『さて、どうしたものかのう……』

 彼の視界を奪われた状態だと彼女には何もしてやることができなかった。


 彼女にできるのは彼の身が無事であることを祈ることだけであった。


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