第12話:新たなる仲間
「てめえっ、舐めた真似をっ!追えっ、てめえらっ」
「へいっ」
「行かせないっ」
手下達がミュラの馬車を追いかけようとした瞬間、彼は剣を引き抜いて威圧をかけた。そして、彼らの脚を疎ませた。
「何をやっているっ、てめえらっ」
「ですが、お頭……」
野盗のお頭は尻込みする手下達に発破をかけたがエルフレッドのことが気になって追いかけることができなかった。
「どうやら、馬車を追いかけるにはてめえをぶちのめすしかなさそうだな」
大きな斧を振りかざすと邪魔をするエルフレッドを睨み付けた。
「僕がここに立っている限り……あなた達には1歩も先へと進ませないっ」
野盗のお頭の重圧をものともせずに真っ向から睨み返した。
「うおおお」
お頭は砲口を轟かせると斧を振り下ろした。
「はあああ」
彼は紙一重でその攻撃をかわすとお頭の懐へと飛び込んだ。そして、脇腹を斬り付けて距離を取った。
「ぐぬっ」
「お頭っ!」
「騒ぐなっ!これしき掠り傷だっ」
傷口を薬草で塞ぐと再びエルフレッドの方へと対峙した。
「打たれ強いな……」
奥歯を噛み締めると長期戦になることを覚悟した。
時間が経つに連れて洞窟の中からは手下が出てきて何時までたっても手下の数が減らなかった。
「これじゃ、きりがないな……仕方がないっ」
彼は心を沈めると全身の力を隈なく抜いた。そして、立っているのがやっとの筋力を残した状態で野盗達を見据えた。
「なんだ?覚悟を決めたのか?」
急に動かなくなったエルフレッドに対して斧を振りかざした。そして、その攻撃が当たるか、当たらないかの瞬間になった時、彼は再び口を開いた。
「ショウ=ウェル=メルツっ」
彼がそう叫ぶと彼の動きの早さは何倍にもなって野盗達の間を擦り抜けた。そして、彼が鞘に剣を納めると一斉に野盗達は地に伏した。
「いっ、一体何が……」
「あなた達の負けだよ。この技は身体の筋肉を瞬時に引き締めることによって自らの動きを加速させる剣技なのさ」
自身の技の説明をしながら剣の鞘でお頭の溝を軽く突いた。
「ぐっ……ぐほっ」
最後の気力を打ち砕かれると遂には野盗のお頭も力尽きて地面へと倒れた。
「ふう……」
大きな溜め息を吐くと顔に疲労感を滲ませた。それだけ、彼の放った技は身体への負担が大きかった。
「早く追いかけなきゃ……」
戦いで消耗した身体に鞭を打ちながら野盗達が囮に使った馬車の馬に跨がると先行するミュラのことを追いかけた。
「本当に追い付いて来るなんて……」
「約束したからね……」
彼が馬を走らせてから15分後くらいで先行していた彼女の馬車に追い付いた。
「野盗達は?」
「彼らならほとんどがおねんねしている頃だよ」
彼は連れてきたもう一頭の馬にも手綱を繋ぐとミュラの隣へと座った。
「まさかっ……あの数を全て倒してきたのか?」
彼の実力を聞いて驚きの声をあげた。
「まぁ、全員じゃないけど……洞窟から出てきた奴ならやつけてきたよ」
「あんた……本当に強いんだねっ。って……ちょっ、ちょっと何してんのさ?」
「すまない……少しの間、肩を貸して……くれ……」
疲労のピークを迎えたエルフレッドは彼女の肩に寄り掛かると静かに目を閉じた。
「たくっ、しょうがないな……」
無防備に眠る彼に眉をひそませる彼女であったが、なぜか口許は緩ませていた。
『無事に取り戻せたようじゃな……良かったのじゃ』
彼が睡眠状態に入ったことで彼とのリンクが再び繋がった。
それまでの間、メイルはエルフレッドから魔力を吸い取るのを止めていた。それは彼の身体を気遣ってのことであった。
「よくぞっ、やってくれたっ」
エルフレッド達が港町に辿り着くとマスターが大手を振って出迎えてくれた。
「すみません。到着が遅くなってしまいました」
「何を言っておる。ほぼほぼ予定通りの日程じゃないか」
彼は無理をして日程を早めていたため、結果的に予定通りの日程となっていた。
「ところでそちらのお嬢さんは誰かね?」
「えっと……」
いきなり話を振られてミュラは戸惑っていた。
「実はここに来る途中で野盗達に積み荷を奪われてしまいまして……」
「何だってっ」
「彼女にはその積み荷を取り戻す際に多大なるご助力を頂きました」
「そいつは……ありがとよっ」
「ど、どうも……」
マスターに感謝されて引きつった笑みを浮かべた。もともと彼女は積み荷を盗もうとした側の人間であったため、素直に喜ぶことはできなかった。
「それよりも早く薬を……」
一刻も早く病気に苦しむ人達を助けたくてエルフレッドはマスターを促した。
「おお、そうだった。みんな、頼んだぞ」
「親方っ、任せてくださいっ」
マスターが連れてきた商人達は木箱の中から薬の入った瓶を取り出すと次から次へと自前の鞄の中へと詰めていった。
「それじゃ、行ってきますっ」
商人達は港町の各地にある商店へと薬を届けに向かった。そして、商店に買いに行けない者の所には直接薬を売り歩いた。
「これでこの街の住人達も救われるだろう……ありがとな」
屈託のない笑顔を浮かべるとマスターは心の底からエルフレッドに感謝した。
「とりあえず、御礼を兼ねて君達を歓迎したいのだが……」
「お気持ちは嬉しいのですが、先に休ませてもらってもよろしいですか?」
ここに辿り着くまでに多少は眠ったとはいえ、彼の疲労はまだまだ充分に回復していなかった。
「それもそうだな……それじゃ、この宿に向かうと良い……」
マスターは鞄から紙を取り出すとさらさらと宿の場所を書き記した。そして、その紙を彼に手渡した。
「俺からの紹介だと言えば、格安で停めてくれるだろう」
「ありがとうございます」
「夜になったら商人ギルドに来なさい。そこで君達の歓迎と報酬の支払いを行うとしよう」
「わかりました」
「それじゃ……」
手を振るとマスターは商人ギルドの方へと歩いていった。
「君は夜までどうするんだい?」
「あたいかい?あたいはちょっと野暮用があるから……」
「そう……それじゃ、また後で……」
「うんっ、また後でっ」
ミュラは手を振ると何処かへと走り去っていった。
「僕も行くとしよう……」
彼女を見送るとエルフレッドも宿屋へと向かって歩いていった。
『無事に任務を果たしたようじゃな……お疲れ様なのじゃ……』
メイルは彼が無事に任務を果たせたことを自分のことのように喜んだ。以前の彼女には見られなかった心境の変化である。
彼女はエルフレッドと感覚を共有することで少しずつだが、心境に変化が生じつつあった。
「乾杯っ!」
夜になってエルフレッド達が商人ギルドに訪れると酒場ではたくさんの酒と料理が用意されていた。
「えっと……ミュラ?君はお酒を飲んで大丈夫なのかい?」
「はあ?あたいは16歳を越えてるんだから大丈夫に決まってるだろ?」
この国では16歳を越えていなければ、お酒を飲んではいけないことになっているのだが、彼女の見た目はどう見ても16歳未満に見えていた。
「もしかして……あたいが16歳未満に見えるっとでも言うのかい?」
「いや、別にそういう訳じゃないんだけど……」
内心、彼はそう思っていた。
「失礼なっ、あたいはこう見えても18だよっ」
彼女は怒りを露にさせると手前のお酒を一気に飲み干した。
「どうだい?ちゃんと飲めただろう?これであたいも立派な18歳だっ」
「そんなに一気に飲まなくても……」
顔を真っ赤に染めあげる彼女を見ながら「酒が飲めたからと言っても18歳にならないのでは?」と密かに心の中で突っ込みを入れるエルフレッドであった。
「だ・か・ら・あんたは……馬鹿真面目すぎるんだってえええ」
「ちょっ、もうちょっと静かに……」
完全に酔っ払ってしまったミュラに絡まれながら彼女のことを宥めていた。どうやら、彼女は絡み酒タイプの女性のようであった。
「どうだい?楽しんでいるかね?」
「マスター……」
エルフレッドはミュラの扱いに困惑していた。
「お連れさんは随分とでき上がってるみたいだが……」
「迷惑をお掛けしてすみません……」
「誰がめいわくだってええ?あたいは誰にもめいわくはかけてないぞおおお」
「それが迷惑だって言っているでしょ。これ以上は飲むんじゃいけません」
彼女からジョッキを取り上げると彼女の飲酒を阻止した。その姿はまるで母親のようであった。
「返してええ、返してえええ、もっと飲む~~」
「マスター、お水をお願いします」
「お、おう……」
彼に促されるままマスターは水を用意させると彼女に飲ませた。
「そういや、まだ、金を払っていなかったな……これは御礼だ」
銀貨2枚を腰の袋から取り出すとエルフレッドの目の前に置いた。
「……この報酬は受け取れません」
横に首を振るとマスターからの報酬を拒絶した。
「なぜかね?君はちゃんと薬を届けてくれたではないか?」
「僕はこの任務を1度失敗しています。運良く積み荷を取り戻せましたが、やはり、その報酬を受け取るわけにはいきません……」
彼の決意は固いようで断固として受け取る気はないようであった。
「それに……僕は感謝してさえもらえれば、それで充分です」
活気に溢れる酒場を見回しながら満面の笑みを浮かべた。
彼らもみな商売が上手くいったり、人の命を救ったりと遣り甲斐のある仕事を達成して満足しているようだった。
「……がははは。やはり、君は俺が見込んだだけのことはあるな」
マスターは口を大きく開き、豪快な笑い声をあげると机の上の銀貨をエルフレッドの手に直接握らせた。
「君の謙虚さは実に素晴らしい。だが……これは正当な報酬だっ。受け取っておきなさい」
「なぜですか?」
「君の剣の腕を見込んで依頼を出した時点で仮に奪われたとしても取り戻してくれると信じていたからな」
戸惑う彼の背中を後押しするとマスターは親指を立てた。
「現に君はちゃんと取り戻してきてくれたからな。だから……何も問題はない。君はこの報酬を受け取るべきだよ。わかったかね?」
「マスター……」
手の中の銀貨を握りしめながら彼はマスターに心の底から感謝した。
次の日の朝……
「それじゃ……もし、何か旅先で困ったことがあれば、何時でも俺のことを頼りたまえ」
「……わかりました。その時はよろしくお願いしますね」
マスターと固い握手を交わすと宿屋を後にした。
「痛たたた……待ってくれよ」
2日酔いにより頭を抱えながらミュラが彼の後を追い掛けてきた。
「君はお酒を飲みすぎだよ」
酒に酔って暴れる彼女を抱えて宿屋まで運んだ彼は眉間にしわを寄せていた。
「そんなに言うなよ……」
「とにかくこれを飲んで……」
マスターから貰っておいた酔い止めの薬を彼女に飲ませた。
「それじゃ、僕はそろそろ行くよ」
「お待ち……」
「どうかしたのかい?」
彼女に呼び止められて足を止めた。
「あたいも連れて行きな……」
「えっ?」
「だ・か・ら・お人好しのあんただけじゃ心配だから……あたいも付いて行ってやるって言っているのっ」
顔を真っ赤に染めながら旅に同行することを申し出た。
「本当にいいのかい?僕の旅はとても長いものになるけど……」
「ああ、構わない。あんたといれば、また、面白いことにありつけるかもしれないし、何よりもあたいも世界というものを見てみたいしな」
彼と別れた後、彼女は長旅に出る準備を進めていた。
「あんたにとっても決して悪い話じゃないだろ?あたいを仲間にしておけば、こないだの洞窟みたいに役に立ってみせるからさ……」
「……わかったよ。君がそこまで覚悟を決めているなら僕に断る理由はないからね」
エルフレッドはミュラに手を差し出すと改めて旅の仲間として歓迎した。
「よろしくね」
「ああ、あたいの方こそっ」
差し出された手を強く握り返した。
『やれやれ……何とも騒がしい者が同行することになったのじゃ。じゃが……なぜ、あやつはエルフレッドに付いてくると言ったのであろうか?』
メイルにはミュラが彼の旅に同行したいという気持ちがいまいち理解できなかった。わざわざ大変なことに身を投じようなど愚かとしか思えなかった。
『まぁ、何にせよ。エルフレッドの旅の邪魔にさえならなければよいのじゃが……』
こうして、エルフレッドに新たな旅の仲間が加わることになった。




