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空気をつかむ者  作者: YSR
8/9

第8話 肌。

遂にクライマックス!

     一


「の、ノート?」

 僕はきょとんとした。

「見てて」

 そう言うと、彼女はノートを開き、そのノドの部分に人差し指を滑らせた。

 ・・・すると。

「えっ」

 ノートのページが、綺麗に1枚分ノートから離れた。彼女の手を丹念に見つめたが、刃物を仕込んでいる訳ではないようだ。

「え、何で?どうなってるの?」

「待って。ここからが面白いわよ」

 そう言うと彼女は更に、その紙を机に置いて、指で何か文字を書いた。すると。

「・・・えええ!?」

 彼女が指で書いたところには、黒い焦げ目が付いていた。念の為、紙を手にとって嗅いでみる。・・・焦げ臭い。

 僕は彼女に聞いてみた。

「・・・これって、何かの手品なの?」

 そうとしか考えられなかった。だが。

「正解・・・ではないわね。正確には」

「『手品』じゃなきゃ魔法とか・・・」

「そっちでも無いわね。魔法だとしたら、こんなショボイ魔法なんて使わないわよ、普通」

「・・・」

 ・・・じゃあ、一体どう言うことなのだろう。

「分からない?そんな素敵な手を持っているのに?」

「『素敵な手』?・・・あ」

 そうか。僕は、その紙を手に取った。

 そして、ノートから分離された断面を触ってみた。すると、まるで元からそうだったかのように断面は滑らかだった。

「おお・・・」

 思わず僕は唸った。すると、彼女はとんでもないことを口にした。

「当然よ。私の能力(ちから)を持ってすればね」

 ・・・ち、力?

「え、どう言うこと?」

「まだ分かってないようね・・・」

「そりゃそうですよ!どんな力なんですか!」

「そんなに焦らなくても・・・。まあ、言葉で使えるのは難しいんだけど、正確に言うなら・・・」

「正確に言うなら?」

「私は、


  肌に触れた物質の結合を解いて、それを再構築する能力(のうりょく)


があるのよ」


     二


「・・・再構築」

「そ、再構築」

「再構築ねえ・・・」

「再構築ですから・・・」

「再構築なんだ」

「・・・もしかして、良く分かってない?」

 よく分かっているでは無いか。

「まあ、ね・・・」

「ま、こんなこと一発で理解できたら変態よね」

「『変態』って・・・」

「まあ分かりやすく言うと、物質の表面を作り変えられるってことよ」

「はあ・・・」

 とりあえず返しはしたが、よく分かってはいない。

 それを知っていてか、彼女は1から説明してくれた。

「例えばさっき、ノートから紙を分離させたけど、あれはなぞる際に触れていたところの紙のセルロースの結合を切っていたのよ。焦げ目にしてもそう。なぞったところの紙と空気中の酸素を化合させて、ああいった組織を作り出したのよ」

「そう言われれば、そんなような・・・あ、じゃ、泳ぎが異様に速かったのは?」

「あれは肌に触れていたところの水を水素や酸素の気体にして滑りながら泳いでたのよ」

「机の上のあの突起は・・・」

「私が書いたわ。ナノレベルのカンペなんて素敵じゃない?」

「じゃあ、肌が異様につるつるだったのって・・・」

「ニキビや傷なんて私の能力の敵では無いわ。全部消したわよ。勿論、痛かったけどね」

「おお・・・」

 なんと言うことだ。よりによって、沖さんもそんな凄まじい能力を持っていたとは!

 あまりの真実に、僕は空いた口が塞がらないでいた。

 すると、彼女が次の言葉を口にした。

「・・・あのさ」

「え?」

「私の中では、『この私の能力を知っていてかつ秘密を守る人』が『私の友達』なの。あなたは記念すべきその第一号ね。・・・もちろん、あなたがOKすればだけど」

「は、はい。よろしくお願いします」

「いいわ。そろそろ人が来るから、続きは放課後にね」

「・・・『続き』ですか」

「そうよ」

 言っている間に、教室のドアが開き、他のクラスメイトが教室に入ってきた。

 とりあえず教科書等を開いて、その場をやり過ごした僕であった。


     三


 その日の放課後。僕と彼女は、教室に残っていた。もっとも、彼女の方は、一旦どこかに行ってしまって、それから40分もしてからの帰還だったが。

「・・・どんな偽装工作(アリバイ)なんですか」

「ごめんごめん。2人だけが教室に残ってたら不自然かと思って」

「こっちはのんびり待っていたお陰で鍵閉め役ですよ・・・」

「まあ、後で返せばいいじゃない。・・・話の続き、する?」

「お、お願いします」

「いいわ。早速始めるわね」


「私がこの能力に気が付いたのは・・・そうねえ、5歳ぐらいの時ね」

「・・・同じだ・・・」

「同じなの?まあ、しばらくは、良く分からずに物を壊したりしたわ」

「はあ・・・」

 あの能力である。そんなのが連発されたら、家族や周りはたまったもんじゃないだろう。

「でもね。私は気が付いたの」

「?」

「これは、天が私に与えてくれたチャンスじゃないかって」

「・・・チャンス?」

「そう。これは、天が私に、この能力を周りの人のために使いなさいってことで与えてくれた能力なのよ」

「!」

 ・・・気づかなかった。天から遣わした力。そう言った考えもあったのか。

「それから、私はこの能力を色々と試した。どこから出るか、どこまで届くか、何が出来るか。一年もしない内に、それを感覚的に知った」

「・・・」

「そして現在に至ると言う訳。・・・何か聞きたいことある?」

「聞きたいこと・・・」

 そんなこと、幾らでもある。

 今までどんなことに使ったのか、とか、副作用が無いのかとか。

 でも。その時、僕がした質問はただ一つだった。

「その力・・・親とかには話したの?」

 そう聞くと、彼女は即答した。

「したわよ」

「・・・ためらいとかは無かった?」

「なに言ってるの。天から授かった力だもの、命を授けてくれた両親に明かすのは当然じゃない」

「そ、そうか・・・」

 その発想は無かった。よく考えたら、至極真っ当な話ではないか。

「・・・その様子だと、あなたは明かしてはいないようね」

「まあ・・・。駄目だったかな・・・」

「いや、別にその選択もあるかもね。ここまで話が広まっちゃったら意味無いけど」

「・・・」

 ・・・さっき言ったことと違ってないか?これがいわゆる「建前と本音」というやつなのだろうか。

 そんなことを考えていると、彼女がふと、壁の時計の方を向いた。そして。

「あ!」

「・・・え?」

「時間!もう5時回ってるし・・・」

「・・・あ」

 時計を見ると午後5時過ぎ。ちょっと喋りすぎたようである。

「外、真っ暗ですね・・・」

「ねえ水谷君」

「ん?」


「暗いし、一緒に帰ろっか」

 ・・・これで、彼女の謎も判明しました。あ、まだ読み終えないでくださいよ。

 まだ、続きがありますから。

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