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空気をつかむ者  作者: YSR
6/9

第6話 弗素。

     一


 それは、家庭科実習の時だった。

 班の分担で、僕は洗い物係となった。別に好きではなかったが、料理が得意なわけでもなかったので、まあいいかな、と思ってのことだ。

「これ洗ってー」

「あいよ。あ、これ洗い終わったから拭いてー」

「おっけー」

 そんな感じで、僕は順調に洗い物を済ませていた。

 そして、大方の調理が済み、大きなフライパンがこちらに運ばれてきた。

「最後にこれ頼むー」

「おー」

 そんなことを言いながら、僕はそのフライパンに触れた。

 その時。その感触に、僕は大きくのけぞった。

 ・・・・・・つるっつるだ!!

「どうした水谷ー」

「・・・何かあったの?」

「どう見ても普通のフライパンだろ?洗っちまえよー」

「あ、ああ・・・」

 だがしかし。僕は、その感触を、忘れることは出来なかった。


 調理実習も終わり、最後に後片付けとなった。

 この時も、僕は洗い物を担当した。しかし今度は、自分から洗い物を担当した。

 理由は簡単である。そう、あのフライパンである。

 改めて触ってみる。つるっつるである。

「まだ気になるのかよ」

「ま、まあ・・・」

 とはいえ、そんなにのんびり出来る訳ではない。普通に洗い物を済まし、僕らは調理実習室を出たのだった。


     二


 つるっつる。

 普通の人ならば、ガラスとか金属とかを触ったときに、そんな風に感じるのだろう。

 しかし、僕は違う。

 ガラスですら、ざらざらに感じる。そもそもが非晶質なので、結構でこぼこしているのだ。金属にしても同様。どうしても、分子レベルではでこぼこになるのだ。

 ・・・しかし。あれは違った。

 見た目は普通のフライパン。しかし表面はつるつる。そんな感覚は、今まで初めてだった。


「どうしたのよ」

「・・・え?」

 休み時間。僕は、となりの沖さんにそう聞かれた。

「なんか、考え事してたじゃない」

「そんな、考え事って・・・」

「ずーっと手を当ててうつむいているのが『考え事をしている』ってことじゃないの」

「・・・」

 その通りである。

「いや、実は・・・」

「言わなくてもわかってるって」

「え?」

「あれでしょ?ほら、調理実習室のフライパンのことでしょ」

 ・・・あれ?

「え、なんで沖さんがそのことを?」

「そりゃ、あんなにわかりやすくのけぞっていたら分かるわよ」

「・・・」

 内心、驚いていた。僕は、洗い物をしながらちょくちょく彼女の方を眺めていたのだが、彼女もこっちを見ていたのである。

「あれさ」

「うん」

「実はとっても簡単なことなのよ。みんな知ってるんだけど、黙ってる」

「え・・・何で?」

「そりゃあなたが特別だからに決まってるじゃない」

「!」

 特別。そんなこと、考えたことも無かった。

 いや、人とは違うことは分かっていた。でも、それで人に試されたりすることなんて今まで無かった。

「まあ、ホームセンターに行けば分かるかもね」

「え?」

「じゃあね。私、選択で移動教室があるから」

 そう言って、彼女は教室を後にしたのだった。


     三


 後日。

 僕は、ホームセンターの前に立っていた。

 勿論、今までホームセンターに言ったことが無い訳ではない。しかし、いちいち休みの日に、それも一人で行くことなんて今まで無かったのだ。

 店に入ると、僕は真っ先に、調理道具が並べられているエリアへと向かった。

 そして、手近にあったフライパンを手に取って触った。

 すると。

「おお・・・」

 これだ。この感触だ。この、つるっつるな感じだ!

 しばらく撫で回していると、ふと、あることに気がついた。

 そのフライパンには、こんなシールが貼ってあった。

「汚れに強いテフロン加工!」

 その瞬間、僕は、全てを理解したのだった。


 テフロン、つまりポリテトラフルオロエチレンとは、アメリカのデュポン社が発明したフッ化炭素樹脂である。耐熱性や耐薬品性(フッ化水素酸や六フッ化ウランにも耐える!)に優れ、地球上で摩擦係数の最も小さい(!!)物質でもある。

 そんなテフロンだが、そのきっかけは、テトラフルオロエチレンのガスを詰めていたボンベが、その圧力からかいつの間にか重合して出来たものだという。そう、つまり、偶然の産物だったわけだ。


 発明は、偶然によって起こることもある。

 ・・・ええ。テフロンです。タイトルでバレバレでしたかね・・・。

 フライパンでおなじみのテフロンですが、改めて見ると凄いですね!

 『テフロン』と言えばフッ素樹脂を指すほどに、身近になりました。

 ・・・とは言え。高熱で分解されるのも事実。260℃で劣化が始まり、350℃で分解されてしまうそうです。・・・まあ空焚きしなければ大丈夫ですが、くれぐれもお気を付けを。

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