第3話 油脂。
一
「あの日」の次の次の日。
教室に入ると、クラス中の人々に取り囲まれた。
「ど・・・どうしたの?」
そう聞いた瞬間、皆が口々に喋りだした。
「お前凄かったんだな!」
「指が物凄い敏感って本当!?」
「指紋とかも読み取れるんじゃね?」
・・・どこから漏れたのだろう。まあ事実だから、否定も出来ないしな・・・。
「まあ、そうだけど・・・」
「じゃあ俺の手触ってみてよ!」
「私も!」
「・・・本気ですか・・・」
そして結局、クラス中の人の手を触る羽目になった。
「どよ!俺の手!」
「うーん・・・ここら辺に古傷があるような・・・」
「あ、そうそう!さすがだな!」
「次は私よ!」
「・・・えー・・・なんかカサついてない?」
「え・・・そうなの?」
「うーん、なんか角質が剥がれてきてるから・・・」
「そうなの?ありがとー」
「いやいや・・・」
なんか、休み時間、延々に同じことを繰り返しているような気がする。なぜだろう。
まあ、別に悪いことではないし、「バレる」というリスクが消滅した分だけスクールライフを送りやすくなったわけだが、なんだかなぁ・・・。
そうして地味に触りまくっていると、後ろからあの声がした。
「へぇー、水谷君ってそうなんだ」
二
「え?」
僕が振り向くとそこには、沖さんの姿がいた。
「それって、生まれつきなの?」
「え、ま、まあ・・・」
「すごいねー」
「う、うん」
なんか、緊張してしまう。そんな時だった。
「それじゃあ私のも、触ってみてくれる?」
「・・・え?」
「触ってみてよ」
「は、はあ・・・」
そう言えば、この人の肌は触ったことがない。どんなのだろう・・・。
試しに触れてみた。・・・その瞬間、僕はのけぞった!
「・・・な、何ですか、これは・・・」
「え?どうだったの、水谷君」
「い、いや・・・あまりにもすべすべだから・・・」
「そうでしょ?肌には気を遣っているから」
「そ、そうですか・・・」
気を遣っているなんてもんじゃない。なんなんだ、この肌は・・・。
普通、人の皮膚は、凹凸があり、毛穴から毛も生え、時として傷や傷跡があり、皺もある。ホクロなんてしょっちゅうだ。そして表皮常在菌が1平方センチメートルあたりウン千万個以上も存在する「すみか」でもある。
だから皮膚を触ると、指紋等の凹凸は勿論微生物の蠢きまで分かる。悲しいが、それが現実なのだ。
しかし彼女は違う。そんな凹凸が全くといって良いほどない(流石に汗を出すための汗孔は開いているが・・・)。辛うじて指紋等の紋様や関節部の皺はあるが、それぐらいだ。菌もほぼ存在しない。つまり、普通の人の肌ではないのだ。
そんなことを考えながら他人の皮膚を触っていると、チャイムが鳴った。
三
それから数日後。事件が起きた。
教室に入ると、二人の同級生が言い争いをしている。
「お前この携帯弄っただろ!」
「弄ってないよ!」
「嘘つけ!」
「・・・何があったんですか・・・」
「実は・・・」
・・・聞くところによると、どーやら携帯のメールが一部消されていると言う。届いている筈のメールが存在しないと言うのだ。
「そんな訳無いでしょ・・・もう一度確認してみたら・・・」と僕が返そうとしたその時。
二人が同時に喋りかけてきた。
「『なあ水谷』」
「な・・・何?」
「『お前だったら分かるよな?』」
「・・・え、何が?」
「『携帯を触っているかいないかどうか!』」
二人曰く、指先が敏感だったら指紋も読めるよな、ということらしい。どうやら、僕の能力に目を付けたようだ。僕も暇だったので、快く承諾した。
・・・しかし。これほど面倒だったとは。
自分の手の指紋を無くすために手を石鹸で洗い、拭いた後すぐに携帯を触って指紋を紙に書き写し、そして相手の手を触ってその指紋を確認・・・・・・。恐ろしく長時間の作業となった。
・・・そして。携帯から最後(42個目)の指紋を取って照合した時。
「・・・これも違うね・・・」
「・・・そうか・・・」
「結局、『触ってない』ってなったのか・・・あ」
「え、何?」
「もしかしてカード(携帯に挿している)の方にバックアップ取ってるかも・・・!」
「・・・えええ!?」
すぐに調べてみると、確かにメールの存在が確認された。思わず喜び合ったが、今までの苦労は何だったんだ・・・。
思わずへたり込んだ時、チャイムが鳴ったのだった。
すいません、遅くなって・・・。
次は早く書きますので。