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空気をつかむ者  作者: YSR
1/9

第1話 空気。

     一


 空気は、さらさらしているものだと思っていた。

 水は、ざらざらしているものだと思っていた。

 布も、ビー玉も、人の肌も、みんなざらざらして、つるつるなんて無いものだと思っていた。

 それなのに。

 周りのみんなは違う。手を振ってもなにも感じないし、水もさらさらとか言うし、「つるつるの氷」なんてことも言う。みんな、どうしたんだろう。

 ・・・あ。

 もしかして、自分がおかしいのかもしれない。


 そう悟ってから、かれこれ10年。あれは5歳のときであった。

 保育園のころである。友達に、こう聞いてみたのだ。

「水って、ざらざらしない?」と。

 すると友達は、こう答えたのだ。

「そんなわけないだろー、お前、なんかおかしいぞ」

 子供とは残酷なものである(自分もまだ子供だが)。その発言で、自分の感覚は人とは何か違うのではないかと悟ったのだ。


 そこから、特訓が始まった。人におかしく思われたくない。その一心で、見た目からつるつるかざらざらかを見分けるために練習した。暗記した。努力した。

 その努力あってか、どうにか「変なやつ」呼ばわりされず、平和に過ごしてきた。


 しかし。15歳、中学三年の卒業式の日、ハッとした。

 これは、間違っていることなのではないのか。自分の感情をひた隠しにして、それで一生を過ごすのか。いや、違う。そうであってはならない。僕はそう気が付いたのだった。


 これからは、自分の気持ちに正直になろう。水谷空(みずたにそら)、15の悟りであった。


     二


 それから二日間、考え、調べ、また考えた。自分のその感触は、いったい何なのか。

 皮膚の病気でもない。神経でもない。ましてや脳の異常でもない。なんとか今までやってきたのである。

 あれこれ探しても分からず、悶々とした。


 分からぬまま、次の日の昼。

 ふと、中学時代の教科書が目に入った。

 懐かしいなあ、と思いながら、パラパラとページを捲っていく。

 そうしていると、ふと、あるページに目が留まった。

 理科の教科書の、「原子」についての項であった。

 それに載っていた電子顕微鏡写真(※1)を見て、ハッと閃いた。

「これだ!」

 そう、気が付いたのである。自分のこの感触の理由を・・・。


 自分だけがなぜそんな感触を覚えるのか。それは、指先が異常に鋭かったからだ。人の指はただでさえ感覚神経が多い場所。自分の場合、それがより鋭敏になっていて、それで、原子「自身」を触っていると感じるのではないのだろうか。

 これなら、空気がさらさらし(※2)、水がざらざら(※3)と感じ、布やビー玉もざらざら(※4)に感じることも説明できる。

 このことを悟って僕は、思わず「ばんざーい」と叫んでしまった。直後に母に「どうしたの、空?」と尋ねられ、「いや、なんでもないよっ」とごまかしたのは言うまでも無い(※5)。


     三


 そこからは発見の連続だった。時々触れる大きな塊が、実は菌やウイルスだったり、物質によって表面の触り心地が微妙に違ったり、指紋も感じ取れたり(手を洗ってから、だが)。とにかくメモしないと忘れそうなほどであった。


 そうして、北上高校の入学式を迎えた。

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注訳:

※1・・・確か銀の表面写真だったような気がする。いつか触ってみたい。高そうだけど。

※2・・・酸素や窒素分子などが空気中を漂っているから。時々アルゴン原子やクリプトン原子とかに触れることもある。

※3・・・ものすごい数(1立方センチメートル中に6.02×10^23個)の水分子が水の中にあるから。

※4・・・布の繊維やビー玉表面の細かな傷に触れるから。

※5・・・自分の不思議な感覚は、両親にも秘密なのである。なぜかって? だって、気を遣われたら嫌だし、第一、両親が絶対秘密を守るとは限らないから。

完全オリジナル小説第一弾が、この小説です。

頑張って書きますので、どうかコメントよろしくお願いします。

・・・え?注訳が多い?すいません。この小説ではよく出てきます(たぶん)ので、どうか許してください。

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