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第59話 因縁 前編



「しかし魔封じが施されているとはいえ、精神系の魔法の使い手相手の尋問は神経を使うな……」


 長時間の尋問で凝り固まってしまった体をほぐしながらマリエッタが呟く。


「ええ。得体の知れない新魔術かも知れないんでしょう? 対処方法が確立されていないというのは不安です」


 信頼する分隊長の指摘にシンディも心配そうに答える。


「早くゲロってくれるといいんですが……残念ながらこれまでの様子ですと期待できそうにありませんね」


「そうだな……」


「やれやれ。自白させるまではずっと我々も黒の塔勤務ですか。はぁ、堪りませんねぇ」


 副長の意見には皆が賛同し、深く頷く。


 そして、これからも続くであろう尋問の日々を思い、うんざりした気分になったのだった。




「あの囚人ですが……自分はいつか、たらし込んだ男たちの争いに巻き込まれて自爆するんじゃないかと思っていたんですがね」


「……ほう?」


 当てが外れたと苦笑する副長に、その根拠はとマリエッタは目線で促す。


「手当たり次第に誘惑するだけして、後始末を考えてなさそうでしたから。ですが魅了された男達の間で余計な諍いが起きなかったでしょう? 恋情なんて厄介な感情をきちんと管理出来ている。予想外に凄腕で驚きました……」


「なるほどな。副長はこう言っているが、お前達は彼女の人となりをどう見る」


 シンディとリリィの二人に問いかけた。


「同性に嫌われる典型的な女ですね。男の前では可愛い子ぶって分厚い猫を被っているんでしょう」


「ギャップが酷いです……。見た目が華奢で可憐な美少女なだけに、苛烈で醜悪な中身がより際立つと言うか? 追い詰められて利己的で自己中心的な素が出たんでしょうが、なんとも強烈でしたよねぇ」


 リリィも先程、女だけしかいない尋問の場では取り繕うこともせず、鬼の形相で怒鳴り散らしていたユーミリアを思い出しながら答える。


「百年の恋も冷めそうな勢いでしたね。あの豹変ぶりを見せていれば、どんな男でも引いたでしょうに今まで馬脚を現さなかった。中々見事な自己コントロールじゃないですか?」


 つまりシンディは、先ほどユーミリアが晒した醜態もどこまでが演技なのか分かったものではないと指摘しているのだ。リリィが言うように、女ばかりと油断して素の部分を出したわけではないと。




 これまでの調査で、彼女の精神攻撃系の魔法は同性には効果が低いことが分かっている。


 感情を爆発させたのが狙い通りなのだとしたら、ユーミリアはマリエッタ達にどんな効果を与えるつもりなのだろう?


 そのことについて尋ねられたシンディは、少し考えてから言った。


「例えばですが……彼女の怒りの感情に同調するよう誘導、我々の負の感情を増幅させる……とかですかね?」


 それを聞いたマリエッタは、心当たりがあったようだ。


「……そういえば先ほどの尋問、いつもより集中出来なかった。腹立たしさが増して冷静でいられず、いつもより短期間で切り上げてしまったな」


「分隊長、それはっ!?」


「自分もです」


「ええぇっ、副長もですか?」


「はい。今考えると、ですが。分隊長のおっしゃるように確かに自分も変でした。尋問のための演技ではなく素でイライラして声を荒げてしまっていた……と思います」


 副長のレイラも、言われるまで気づかなかったと愕然としている。



「これは魔術なのか、ただ単に彼女が人の心理に特別詳しいのか……判断が難しいな」


「あっ!? そういえば尋問中、囚人から魔力は検出しませんでしたよ?」


 魔力計測器の担当だったリリィが、ふと思い出したようにいった。


「ほう、そうだったのか? そこら辺はまだ報告書に書いていないな。後で記入しといてくれ」


「はっ、分隊長。了解です!」


 マリエッタから指示され、リリィは背筋を伸ばしてビシッと敬礼したのだった。






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