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第16話 まだ、負けていない



 ――そんな彼女にも一つ、不満に感じていることがあった。


 男爵令嬢と言う貴族としては最下位の身分の彼女を、軽視する勢力がいることである。


 それは、爵位持ちの上位貴族たち。通常なら身分差からむやみに近づけない上、既に婚約者もいる高貴な身分の青年貴族達に高額なプレゼントを浴びるように貢がれ、彼らの差し出す愛を受けとっている彼女のことを非難し、受け入れようとしない。特に令嬢や貴婦人たちにその傾向が強かった。


 悔しい気持ちは年々大きくなっていく。


 どうすればいいのか考えて……なら、もっと上を目指そうと思った。誰も文句を言えないくらい、高貴な身分の男性に愛されるようになってみせればいいい、と。


 そう決意した彼女が、次のターゲットにしたのが、ロバート第一王子だった。


 欲望の赴くまま貪欲に求めている内に、第一王子の側近候補者達を籠絡することには、すでに成功していた。その為、王子に近づくのはそこまで難しくなかった。


 才色兼備の婚約者にコンプレックスを持っていることもユーミリアにとって都合がよかった。劣等感のある人間ほど付け入る隙が多いからだ。


 そしてこれまでと同様、たちまちのうちに彼を魅了してしまう。




 自分の魅力は王子にも通用した……この国で一番高貴な血筋を持つ男性が、ユーミリアのことを、まるで高貴な身分の女性を守る騎士のように優しく扱ってくれている。

 身分差など何程のことか……現に今、王子は婚約者の生まれながらに高貴な身分のご令嬢よりも、自分と結婚したいと熱烈に望んでくれているではないか。



 ――王子と結婚できればもう、貴族社会で自分を認めぬものなどいない。王子妃という高貴な身分を手に入れた後なら、幼い頃に否定された聖女になるという夢も実現できるだろう。



(努力してようやく頂点まで上り詰めてきたのに! あと少しだったのに! このままじゃ、せっかく娼婦の娘という底辺から這い上がって、築き上げてきたものが破綻してしまうわ!! 何とかしなくては……)






 舞踏会会場から飛び出し無我夢中で闇雲に逃げていたユーミリアは、自分が今、広大な王城のどの辺りにいるのか分からなくなったまま、これまでの道程を思い、悔しさに身を震わせていた。


 逃げ疲れて廊下に座り込んで暫し、息を整えていた時……。


「ユーミリア、何処へ行った!?」


「返事をしてくれ、ユーミリア!!」


 必死に彼女を呼び、探してくれている声が聞こえてきた。


「……ロバート……さま、達なの?」


「ユーミリア!」


(王子達だわっ、追いかけてきてくれた! 公爵令嬢じゃなく、この私を!) 


 体中を薄暗い歓喜が駆け巡った。


「良かった……まだ私を選んでくれているっ)


「大丈夫よ。私は負けていないわ。いいえ、負けてたまるものですか!」


 怒りではち切れそうだったが、醜く歪んだ顔は彼らに見せられない。


(さあ、ユーミリア、いつも通り、演じなさい。高慢な公爵令嬢に不当に虐げられた可哀想な女の子になるの……。彼らの庇護欲を刺激する泣き顔を作って魅了するのよ。大丈夫、今度もちゃんとできるわ……)



 そう、自分に言い聞かせると、座り込んだまま、涙が次々と頬を零れ落ちるにまかせて振り返った。


「ロバートさまぁ……追いかけて、来て……くれたんです、か?」


「おう、俺達もいるぜ」


「あぁ、アンディ様っ。それにレオンさま、ルーフェスさま、オリバーさまも……みんな、私を追って?」


「当たり前じゃないか、ユーミリア!」


「僕達は皆、君を信じている」


「もう、大丈夫だ。私たちが守ってあげますから」


「嬉しい……みんな。わ、わたし、アンドレア様に嘘つきって責め立てられて、こ、怖くて、怖くて! 咄嗟に逃げ出してしまったのっ。い、今でも、ほら……震えが、止まらなくって」


 ハラハラと涙を流しながら、震える両手を差し出してきたユーミリアの前に膝をついたロバート王子。慰めるように、そっと両手を取って自分の手で包み込む。


「可哀想に、こんなに震えて……怖かっただろう?」


「ええ、とっても恐ろしかったわ。あんな、突き刺すような恐ろしい目で睨み付けられて……わ、わたし、あの場で殺されてしまうかもしれないって……思ったの」


 そう言うと、もう耐えきれないと言うように王子にすがりつき、声をあげて泣き出した。


「チッ、あの高慢な公爵令嬢め。ユーミリアが大人しくて言い返せないのをいいことに、随分と言いたい放題言ってくれたものです」


「ああ、こんなに傷つけて……許せないな」


「全くだぜ。ちくしょう、これが王城のパーティーじゃなければあの場で斬って捨ててやれたんだが……帯剣出来なかったからな」


 剣の腕に自信のある白の騎士団長の次男、アンディがくやしそうに言う。


「わ、私、これからどうなるのかしら?」


「大丈夫、君は心配しないで」


 ユーミリアの不安を慰めながらも、男達は今後の相談をする。


「レオン様……追っ手がかかると思いますか」


「そうですね……あの場には国王陛下もいらっしゃいました。いくら我々が正義のために行動したとはいえ、場を騒がせましたし詰問くらいはされるかもしれません」


「キャメロン公爵家も動くだろうな。あっちは私達を、特にユーミリアを捕まえようをするはず」


「まあ、ルーフェス様の言う通りでしょうね。公爵の追っ手からは絶対に逃げ切らないといけません」


 警備兵や近衛に見つかる前にキャメロン公爵家の者に捕らえられるのはまずい。ルーフェスの指摘にオリバーも賛同する。


「近衛にも公爵の手先がいるはずだ。それに、王妃様派の者達も……信用しない方がいい」


「そ、そうですね」


 王族を警護するための近衛だが、彼らの中にはキャメロン公爵家と同等か、それ以上に厄介で恐ろしい王妃の手の者もいる。信用するなというロバート王子の言葉にリオンも真剣に頷いた。


「いやぁ……こ、こわいわっ。助けて、皆!」


「大丈夫ですよ、ユーミリア。追っ手なんて、蹴散らしてやりますからねっ……アンディが」


「俺かよ!?」


「何です? 不服ですか?」


「そんなこと言ってねぇっての。ユーミリアの為ならなんでもしてやるさ。だが、その為にもまずは剣を手に入れないと……」


「そうですね。それにここにいると、いつ誰に見つかるか分かりません。早く移動しましょう」


 追っ手を気にして、ルーフェスが皆を急かす。


「賛成だ。たが、どこに行けばいい」


 ロバート王子が側近達に尋ねる。それを受けてレオンが言った。


「私たちは王宮の外へ脱出すると思われているでしょう。なのでそれを逆手にとって、騒ぎが収まるまで王宮内の一室に隠れている……というのはどうですか?」


「成る程。それで追っ手が外へ探しに出て、警備が手薄になった時を狙って私たちも外へ出るんですね」


「ええ。どうでしょうか、殿下」


「いいだろう、それでいこう。ユーミリア、私達が守ってあげるからね。さあ、移動しよう!」


「ええ、ロバート様」



 ――悔しいけど今は逃げることに専念しよう。



(今に見てなさいっ。あの女の居場所を全て奪い取って、絶対に見下してやるんだから!!)






 読者の皆様、いつもお読みいただきありがとうございます。


 ここまででユーミリア視点のお話が終了致しました。

 加筆部分は当初、二話程の予定でしたが、最終的に新エピソードは第13話後半~第16話部分、8000文字弱くらいになりました。



 今後、最新話の更新にはまたお時間をいただくことになりますが、再開できましたら読みに来ていただけると嬉しいです。


 それでは、ユーミリアの物語にお付き合いいただきましてありがとうございました( ⁎ᴗ_ᴗ⁎)ペコッ



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