5話 今生の叫び
「そ、そうは言ってもだなコルト…?スライムだって人を襲う歴としたモンスターで…」
「この子は大丈夫です!ほら、ずっと持っているけど何ともないないでしょう?」
「今がそうでも、もし寝込みでも襲われたら大変だろ?」
「そんなことしま…しません!」
「今何で詰まった?」
謎のスライム探しの冒険から帰ったコルト一向。
出会いと馴れ初めはすったもんだの一悶着あったものの、コルトとスライム…ことモモリエは和解し友達になった。
しかし3姉妹は実家暮らし。
モンスターをいきなり連れてこられた父親ことポスリオは当然の事ながら反対した。
だからとてコルトも引き下がる気は一向に無し。
かくして親と子、互いが互いを説得する為の緊急家族会議が始まっていた。
「それにこの子と、モモリエと約束したのです。友達でいようって。とーさまはコルトを、友達を屋根もない場所に放っておく非情な子供に育てたのですか?」
「う、ぐぐぐ…」
娘の人柄、すなわちそれを育てた父親というポスリオの沽券を突かれ言葉に詰まるポスリオ。
その横では母、ナトレアがお茶を淹れながらシルヴィア、ブロンと今日の出来事について話している。
こういう時のナトレアは基本、口出しはあまりしない。
最終的な決定権は旦那に渡すことで大黒柱の威厳を立て、妻は隣で見守るもの、という姿勢で事を構える。
「コルト、ちょっといいかしら?」
「はい、何でしょうかーさま。」
しかし事の流れが変わりつつあったタイミング、ナトレアは黙ったポスリオに代わって話を進める。
「2人から聞いたのだけれど、その子、モモリエちゃん?の声がコルトにだけ聞こえるって本当なの?」
「そうです。何故だか理由はわからないですが。」
シルヴィアとブロンから聞いた話と一致する証言を聞き、ならばと1つ提案をする。
「じゃあねぇ、私と約束して欲しいって、伝えてくれないかしら?」
「約束、ですか。」
「そ。コルトが友達を守るように、モモリエちゃんにもコルトを守って欲しいって。コルトや皆に変な事はしないって、約束してもらえるかな?」
「!はい、約束させます!…いい?モモリエ…」
コルトは膝に抱いたモモリエに向かって、今の話を再度告げる。
その話が終わるとモモリエは、ナトレアに向かってにょろりとそのゲルの体を細長く伸ばす。
指を伸ばしてきた、つもりなのかな?
「こうやって指を絡ませればいいの?それじゃ、はい約束!…凄いわ、本当にコルトの言葉がわかるのね。」
「そうです、モモリエはとっても賢いんです!と、言う訳でいいですよねとーさま?」
「あ…あ、ああ…。本当に大丈夫…なんだ、な?」
明らかに、モモリエがコルトの言葉を理解して、そしてそれを示す為の行動を起こす姿を今まさに見て、流石のポスリオも折れざるを得なかった。
コルトとモモリエが会話できることと、モモリエが賢く、そして根は優しい性格であった事。
ポスリオがコルトと討論する横で、ナトレアはシルヴィアとブロンからその重要な情報を聞き出して、流れを見事にまとめさせた。
「決まったようね、それじゃあ今日から我が家の一員としてよろしくね、モモリエちゃん。」
ナトレア=ラストレア。
控えめな佇まいとは裏腹な立ち回りの上手さこそが、ラストレア家の実権を裏で握る手腕の程である。
「よし、と。これで話もまとまったことだし、みんな行きましょうか。」
----------------------ここからモモリエ視点----------------------
…おーし?
どうやら話はついたっぽいかなこれ。
なんだか金髪のチビ助ことコルトが父親と言い争っていたが、アッチの方が折れてくれたっぽいな。
これで屋根のある生活が出来るし、何よりアタイを認知してもらえれば、ここの村人に襲われる心配がなくなる。
これまでにもアタイは一応、ここの村人と思わしき人影を目撃したことはあった。
だが見かける彼らはスライムを狩っていた。
だから存在は認知していても、コンタクトを取る事が今まで出来なかったのだ。
スライムなんぞ倒して何になるんだ?…もしかしてゲームや小説よろしくレベルとか経験値とかある世界だったり?
ともかく意思疎通の手段が無かったアタイにとって、この世界の人々は捕食者であり、話の通じない危険な存在だった。
だからコルト…どういう訳だかアタイと話せる娘と偶然出会えたというのは、アタイにとってこの上ない幸運だった。
…ところでコイツ等家族でいーんだよな?コルトも「とーさま」って呼んでいたし。
髪の色が全員バラバラというのはまぁ、アタイのいた世界の法則からすると異質なんだけども「ねーね」達の顔立ちと「とーさま」「かーさま」の顔立ちにはどこか似通うところがあるし、血は繋がっていると思う。
まぁ、1人を除いて…。
いや、止そう。
本人達が気にしている様子も無い家庭の事情だ、アタイが詮索する事ではない。
そもそもこの世界はアタイの知らない事でいっぱいだ。
猫耳に悪魔っ娘が魔法使って、村には変な黒い石が奉られ、家は木の上に建っている。
ここまでツッコミどころが満載の世界でそんな些細な事を気にしてられるかってんだっ!!
それにしても、今日一日で本当に色々な事が起きた。
寝てたらいきなり美少女が降ってきた時は、パニックとすべすべお肌の感触でちょっとおイタをかましてしまった。
そしてどういうわけだかこのコルトっていうちびっ子は、アタイと喋れてそこから互いを理解し、まぁちょっちトラブルはあったものの最終的には仲直り出来た。
…けどコルト?コルトっていう名前、なーんか昔どっかで聞いたよーな覚えがあんだよな?…んまぁいいか!
とにかく今日からは、この美女集団+1と1つ木の上、屋根の下生活が始まるのだ!
そりゃもういろいろと期待しちゃいますよアタイは!!
「モモリエ何してるの?行こ。」
と不意にコルトから声がかかる。
ひと段落した事で気を抜いてる間に何かが決まったらしく?家族全員でどこかへ向かいだしていた。
《…行くって、どこへさ?》
「温泉。気持ちいいよ。」
《へ?》
ええええええええええええええええええ!?
目的地は村から徒歩で(アタイはコルトに抱えてもらい)数十分。
小山をから流れる川のほとりにソイツは沸いていた。
立ち込める湯気の霞と硫黄の香り。まさしく天然の温泉が湧いていた。
仕切りも無い無骨な温泉に、一糸纏わぬ若い男女共が一日の汚れを落とす為に混浴していたのだった。
ええ、お…おお!!
なんというか、物凄い光景が目の前に煌々(こうこう)と広がっている。
しかも、こちらの世界は何故だか夜でもほのかに明るい。
星や月がよく見えるというのもあるが…、とにかく理屈はわからんが光源がどこかにあるような謎の明るさがそこにはあった。
そんな訳で夜でもそこそこ見えてしまう全裸の美女達。(※男は視界に入れないものとする)
村に来てすれ違う人々全員がやたら若くて美形だなーとは思っていた。
偶然だとか、美形が多いのかなとか思っていたがそうじゃない。
全員が若くて美しいのだ。しかも猫耳のオプション付き!
そう、全員が。
コルトの母上様もそうだったけど、子連れの方に至るまで!
そんな見た目若くて猫耳猫しっぽというフェチぃお姉様方がその麗しい裸体を惜しげも無く晒し、気持ちよさそうに入浴している様子が目の前に広がっていたのだ。
マズい。
何が?とは言わないのだけれど、とにかくコレはマズい。
ていうか…なんだコレはこの状況は?
村人達何と言うか、入浴を楽しんでいるだけという様子ではない。
互いの距離感が妙に近くて、表情はどこか艶めかしくて、直接身体でスキンシップをしている者までいる。
楽しそうな喋り声の中には黄色い声もどこからか聞こえ、湯気で全部が見えないせいで想像力を画き立てさせるものがそこにはあった。
日本の公衆浴場とは完全に違う、もっと別の目的が含まれた娯楽施設と温泉は化していた。
いや確かに、アタイとしてはそういうのアリ、むしろバッチ来いなんだけど、そのはずなんだけれど…。
コッチに来てからずっと樹上で生活、つまり禁欲状態だったところにいきなりこの光景は刺激が強すぎる。
ていうかエッ?ここにアタイ達混ざるの?ねえ?
《待ってコルト待って。まずは風呂に入って落ち着かせて…》
「いやそのお風呂に入るんだけど…」
パサリ
言うや否や、コルトが服を脱ぎ払う。
突如目の前に現れた少女の裸体は彫刻かと思う程、穢れの1つも無い美しさだった。
それが、仄かに輝く夜空の下に惜しげもなく晒され、生気を纏ってこちらに近づく。
抱き上げられたアタイの身体にトクントクンと熱と鼓動、それが呼吸に合わせて上下する慎ましやかな胸から伝わってくる。
あ、ダメだわやっべぇ。
ぺたんこよりはワガママばでーなお姉様がど真中のアタイだけれどもコルトだって十分、むしろ断然魅力的な訳で。
そんな小悪魔ちゃんと一緒に湯舟に入ったらアタイ…!アタイ…!!
…ん?湯?
ここでふと気付く。
あたい、スライム。
スライムの身体って!早い話がゲル状で出来ている。
だから水が無いとカピカピになって死んでしまうけど、かといって多すぎると今度はドロドロに溶けて死んでしまう。
爆弾豪雨が降った日なんかに逃げ遅れたスライムがそうなってしまうのを、アタイは何度か目撃していた。
つまり…このまま湯舟にあたいがドボンしたら…死ぬんじゃね?
あ、ヤバ。今度はちゃんとした(?)意味でやんべぇ。
コルト、コルト!ちょっと止まって!スターップ!!
アタイは慌ててコルトを呼び止める。
しかしどうした事か、コルトはアタイの声を無視してそのままアタイごと湯舟に浸かろうとする。
思いっきり叫んでいるんだぞ、聞こえてないはずがない。
コルトの意地の悪い態度に業を煮やしたアタイはコルトの裸体にゲルを伸ばしてちょっかいをかける。
先程のコルトの親とのやりとりもあるのでセクハラは良くないが背に腹は代えられない。
これにはコルトも流石にビックリしたらしく、身体を仰け反らせコチラの方を見る。
やいやいどうしてアタイの話を聞いちゃくれないんだ!
とアタイが文句をつけるとコルトもアタイへ言い返してきた。
「ゼア、モモリエ!?トゥハグィン、イェーハ!」
…………?
ええ、なんて?????
コルトの言い放った言葉は、何と言うかいきなり別の国の人になってしまったかのように訳の分からない言語に変換されていた。
いや、違う。
そもそもがおかしかった。
コルトの声だけが、何故か日本語に聞こえていたのだ。
それがいきなり他の人と同じような異世界の言葉になった。つまり元に戻ってしまったのだ。
なんで?どうしてよりにもよってこのタイミングで!?
コルトはアタイが慌てふためいている姿を見て不思議そうな顔をする。
だからアタイ沢山の水はヤバいんだって!といくら叫んでも届く様子が無い、どころかコチラが喋っている事すら認識していない。
どうやらアッチの言葉がわからないだけでなく、コッチのコルトにだけ聞こえる声もシャットアウトされてるっぽい。
マズい!本当に、これ本当にピンチじゃん!!
このまんまだと本当に湯舟にドボンされてアタイはドロドロになり人生ならぬスライム生が終了してしまう!!
ここにきて本気で危機を察したアタイはなんとか身振り手振りで伝える事が出来ないかとゲルの身体をうねうねさせる。
それを見たコルトも何か様子がおかしい事には気が付いているようだけれど、それが事態を好転させているのか悪化させているのかもアタイにはわからない。
言葉が通じないのがこんなに恐ろしいだなんて!
全裸の美女達に囲まれ(男は視界に入れないものとする)スライム生最高の瞬間が訪れた瞬間、一気に生の終わりを迎えようとしていた。
流石にこんな美女の目の前でお預け状態の死は嫌だ!
せめて…せめてコルトのお姉さまといちゃつくまでは…!!
そう叫び声が誰にも聞かれないのを良い目に好き放題言っていた矢先であった。
「コルトー、モモー。」
遅れて2人の姉が全裸でやってきた。
全裸で!
全裸で!!!!!
命の危機に瀕してはいるがそれはそれ。
条件反射のごとくアタイの視線は2人の裸体に釘付けになる。
銀髪の方のお姉さまはまさにモデル体型。その豊満なバストだけでなくその全身余すとこなく柔らかそうである。
現代人から見れば十分に鍛えられた筋肉によって肌をピンと張りつめさせ、細身でありながら不健康さを微塵も感じさせない。
片や茶髪のお姉さまは6つに割れた腹筋の浮き出たスポーツウーマン体型。
鍛えられた無駄のない身体に相反するように、同じくらい豊満なバストが無防備に揺れて見た目と相反する無邪気さを演出している。
コルトも決して魅力がないわけではない…だが、だがこの極上を前にしてはちんちくりんと評価する他あるまいて!!!
そうしてアタイが2人に目を奪われていると(無いけどな、目!)コルトが駆け寄り何かを言ってアタイを2人に預けた。
その途端、むにゅっと。
スライムのアタイよりも柔らかい4つの感触に包まれる。
おっぱいだ。
2人の姉の、豊満なおっぱいにコルトはアタイを乗っけたのだ。
…そう理解した途端、アタイの何かがプツンとキレる感覚があった。
死の恐怖をも凌駕するリビドーがアタイの心を支配した。
うん、もうこれ命の危機とかどーでもいいな。
3姉妹だけではない、何人もという猫耳美女達がスライムのアタイを物珍しそうに見つめているのだ。
美女に囲まれお風呂に入るなんて前世じゃ一生経験することのないであろう志向の時間。
例えそれがアタイがドロドロに溶けきる僅かな時間だとしても…
我が人生に一片の悔い無し!!!!!!!!!!
アタイは心の右手を天に掲げて満足した笑みで死を選んだ。
コルトが脱いだ服から何かを漁っているがまあどうでもいいか。
大丈夫、アタイがお湯に溶けたらそのままお湯へと生まれ変わるのだから。
そうなれば毎日美女の全身にご奉仕出来る!
さあさ、いざ参ろうぞ楽園へ!!
そんなアタイは、心の中であらん限りの声を張り上げ…
にゅぷっ
…る直前にコルトが奇妙な三角形のオブジェクトをアタイに突き刺した。
「溶ける身体がなんぼのもんじゃあああい!!お姉様方と一緒にお風呂ぉぉぉー!!!」
轟き叫ぶ欲望の叫び。
固まる周囲の人々。
その視線が一様、アタイへと集まった。
「あー、ヒッコから貰ったお守り。それのおかげで声が聞こえていたんだ。」
そんな最中、唯一状況を把握しているコルトの声だけがやたらと冷静だった。
こうして身体が溶ける事が周知され、命は助かったもののアタイはお風呂禁止となるのだった。
お風呂回に挿絵も用意しない無能作家め!
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