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楽園転生  作者: うさぎのけーせい
1章:家族と旅立ち編
10/21

9話 もう一度あの樹の下で

「まーったく、結局なにもわからなかったしグネマには追い出されるし。」

「まーまーそう怒りなさんなって。」

「モモが言うかなそれ。」


 自宅に戻ったコルトとモモリエ。

 真夜中になるまで読書してわかったことは結局なにもなく、グネマに叩き出された以上やれることは何も無くなってしまった。

 そうして今は自室のハンモックに寝そべり雑談している。


「はぁ、もう寝ないといけない時間なのに。」


 明日もやらなきゃいけない仕事がある。

 けれど不完全燃焼な探求心が未だにくすぶっており、静かな夜を迎え入れられずいた。


「コルトはさー。」

「ん?」

「ホントにあったことだと思う?あの話。」

「トライア神話のこと?ていうかモモ、あのお話どこまでちゃんと聞いてたのさ。」

「神様がいなくなってリングス時代が始まりましたったところまで。」

「ちゃんと起きてるじゃない!」

「コルトうっさいぞー…」

「と、ごめんブロねーねー。」


 横で寝ている姉を起こしてしまい謝るコルト。

 先程グネマにやかましいわと叩き出されたというのに懲りないものである。

 マイペース過ぎるモモリエに振り回されているのが原因ではあるが。


「なんで寝たふりしたのさ。」

「やー、シリアスなのはガラじゃないというか。」

「まったくもう、それであのお話が本当にあったのかなって?」

「本当かどうかってよりもさ。コルトはもしも本当だったら、どう思う?」


 問われてコルトは思考を巡らせる。

 モモリエが聞きたいのは恐らく、トライア神話に登場した者達へ抱いた感情だ。


「うーん…ホントにあったのかな?っては何度も考えたりしたけれど…。」


『神様』『堕天使』『呪い人』

 いずれもコルトには壮大過ぎて想像に余る存在たち。

 それらがもしも本当にいたとしたら?



「…いたとしたら、コルトは会ってみたい。」

「え」

「…気がする。」


 それはモモリエにとっては意外な答えだったらしい。


「…怖くないの?その、大勢の人が死んでしまったって…天使にデーモンとかって凄い人たちまで。」

「コルトもよくわかんないんだけどさ。」


 一呼吸おいてからコルトは続ける。


世界ナラカヘイルを独り占めしたかったって物語では悪党扱いだったけれども、そういう風に思ったのってきっと、堕天使だとか呪い人だとか、そういう『生まれ』だけが理由じゃないって気がするんだ。」


 生まれだけが理由じゃない。

 そう思ったのはコルトが、自身の境遇をどこか何かに重ねての言葉だったのだろう。


「物語だけじゃ伝わらない、そういう『想い』みたいなのに、コルトは触れてみたい。」

「……」

「…気がする。」

「そっか。」


 その答えは、モモリエの望んだものだったのだろうか。

 その「そっか」はどことなく穏やかな口調だった。


「ああ、もういい加減寝ないとね。おやすみ、モモ。」

「……ねえコルト。明日の仕事が終わったらさ、連れて行って欲しいところがあるんだ。」

「?」

「アタイ達が最初に出会った場所。」




 そして翌日


「う”-あ”-。」

「まったくもう、育ち盛りに夜更かしなんかするから。」

「コルトは子供じゃない!背はこれからも伸びるけど!」


 案の定、夜更かしをしたコルトの翌日は散々なものだった。

 流れでモモリエと一緒に寝てしまったせいで、コルトの体質「毎朝異常に伸びる髪」とモモリエの粘液状の身体がこんがらがって地獄の朝を迎えたところから始まり。

 家の建ってる木から降りようとして、足場を踏み外して地上に顔面ダイブ。

 鼻の穴に血止めの草を詰めた情けない姿を村人にからかわれてしまった。

 とどめに花畑の管理中にも再び最悪な場所で転び肥料まみれになってしまう。

 泣きベソかきながら花畑の仕事を終え、温泉に入って肥料の汚れを落とし、衣類を洗濯し終わった頃にはとっくに予定の時間をオーバーしていた。



 そんな訳で少々駆け足気味に石大樹へと向かうコルト、そしてその頭に乗っかるモモリエの2名。

 道なりに進んでいると道中、どこからか空気の震える音が聞こえた。

 言葉にすると「ウ”-」という感じの小刻みに震える音は少しずつ大きくなり、ソレがこちらに向かってきているのをコルトは察知した。


「コルト、何かが近くを飛んでる。」

「わかってる、じっとしてて。」


 コルトは一度モモリエを地面に下ろし、星杖せいじょうを構える。

 アルムの密林で出会う生き物、となればこちらを餌とみなす捕食者である可能性が高い。

 なのでコルトはモモリエを守りながらそれを退治しなければならない。


 バサッ!ヴヴヴヴヴヴヴヴ!!


 藪を裂いて現れたのは、全長が大人の男性程はある巨大な蜻蛉とんぼ

 真正面からコルトを見据え、ガチガチと牙を鳴らす。


「動きが単調!」


 敵を補足したコルトは角から魔法の弾丸を連射する。

 真っ直ぐコチラに向かってくるだけの敵を、コルトは正確に狙い撃つ。

 巨大な分いい的であるトンボの複眼に何発もの弾丸が容赦なく降り注いだ。


 ガィン!!


 しかし弾丸は相手の目を奪うどころか、トンボの堅い眼球によって弾丸は弾き飛ばされた。

 トンボの丸い目に受け流され、弾丸など最初から無いかのように攻撃を全く意に返さないまま直進してきた。

 そのままコルトはなす術ないままやられる…かに思われたが


 バチィン!!


 そのトンボの顔面に星杖せいじょうの先端星部分がクリーンヒット。

 弾はダメージを与えられはしなかったものの、視界を奪う役割は十分に果たしていたのである。

 星形魔石の形成するバリアーの衝撃によって顔面は潰れ、目も口も失ったトンボはそのまま地面に落ちてヴヴヴ…と力なく痙攣けいれんした。



「ふぅ、オッケー。持って帰りたいんだけれど、ここに放置するしかないかなぁ。」

「え、これ食えるの?」

「おいしいよ。羽と脚を取って焚き火に突っ込んで…」




 ヴヴヴヴヴヴヴヴ!!

「あっ!」


 談笑するコルトの背後から迫ってきた巨大トンボ。

 倒したことで油断していた、敵はもう1体いたのだ。


「っのぉ!!」


 コルトの首筋に迫る牙。

 その鋭いやいばが差しせまらんとした刹那せつな


 ガンッ!

 ピギュッ!


 トンボは何かをぶつけられたかのように体勢たいせいを崩し、攻撃が一瞬遅れた。

 それでもひるまずガチリとコルトに噛みつかんとするも、その牙が挟んだものはコルトの首ではなく髪だった。


「んぐぐぐ!」

「これでも喰らえやァ!」


 プシャア!とモモリエの身体から謎の液体が吹き出しトンボにかかる。

 するとトンボは髪を放してその場でのたうち回る。


「んの、とどめ!」


 すかさずコルトがスイングした星杖せいじょうの一撃によって2匹目の頭部もあえなく破壊された。



「っはー、今のはアブなかったぁぁ油断大敵。」

「おつかれぃってあれ、なんで髪の毛切れてないの?」


 トンボに噛みつかれた部分のコルトの髪は、切断されるどころかキューティクルすら損なわないサラサラのままであった。


「コルトが固くなれーって思うとそうなるの。」

「実にいい加減な回答だ。」

「そういうものなんだからそーとしか、むしろモモがぶっかけたヤツこそ何これ?」

「ふふふ、ヒントは香り!」

「んー‥?あ、リコの花!」

「あたりー、あれを抽出したものなのじゃ!」


 戦闘力が皆無かいむと思われていたモモリエから唐突とうとつに吹き出された、トンボを苦しめた謎の液体。

 その正体は村の花畑で育てられた花の成分の抽出物だった。

 リコの花には虫除け成分が含まれており、これの花弁をサラダのように食べる村人は体臭がこの花の匂いになっている。

 それの濃縮液、コルトが畑仕事をしている間につまみ食いして得たものが先ほどの殺虫液の正体だった。


「モモったらこんな真似出来たんだ。」

「アタイも何とかして戦える方法は欲しいんだよね。この身体は貧弱もいいとこだから。」

「この身体は?」

「ああーうん、後で話すわ。」

「ん。けどなんだろうさっき、噛みつかれる直前にひるんだように見えたんだけど。」

「さあ?なんにせよラッキーじゃん。」

「まぁいいか。じゃ、行こうかモモ。」




「………。」




 数分後、2人は再び石大樹に到着していた。

 相も変わらず見上げる程に堂々とそびえ立っている此処ここは、スライムの楽園にしてモモリエの生まれ故郷。


「到着、いやぁ懐かしいなココー。」

「懐かしいって、モモが村に来てまだ1週間ちょっとじゃない。」

「そだっけ?まぁココじゃ本当に何もなかったからねぇ、アタイが産まれて6000日ずっと。」

「えっ同い年なんだ!」

「ん、んん?…あっそうか。」

「何が?」

「そりゃ違うか…寿命も公転日数も…10歳ってそういう…。」

「モモ?」

「ああ、なんでもないおっけおっけ。アッチ登ってちょうだい。」


 コルトはモモリエの指示に従い登り始める。

 ここまで姉を連れずに来るのは初めてだが、登頂とうちょうするなら身軽なコルト1人の方が圧倒的に早く、スイスイと目的地へ進んでいく。


 とある開けた場所、みきの一部にひびが入っている場所に辿り着くと、モモリエがそこを指してコルトを止めた。


「ここ、ここ。アタイが寝床にしていたところ。」

「ただのヒビにしか見えないけれど?」

「ちょっと待っててー。」


 にゅるんっ。と

 そのわずかばかりの隙間に、モモリエのゲル状の身体を滑り込ませて中へと入っていった。


「なるほど。」

 確かにここならスライム以外は侵入できない、まさにうってつけの安全地帯だった。




 そこから数分、中で何かごたごたしている音が聞こえた後にモモリエは中から這い出て来た。


「おまたせー。」

「おかえりモモ。何していたの?」

「私物を取りにね。…まあそこのヒビから取り出せたのは、一番小さなこれだけだったけど。」


 と言ってコルトに見せたのは、モモリエと同じ色をした桃色水晶…で作られた小さな少女の形をした彫像だ。


「何これ?水晶で出来た彫像?」

「アタイが自作したフィギュア。このヒビの中はけっこう広くてね、その中にあるこの色した水晶食べて生活していたんだけれどこれがもう暇で暇でー。」


 石大樹に自生する水晶は、ここに生きるスライム達の食糧源だ。

 モモリエはこのヒビの中で安全な寝床と食料を確保した。

 しかしそうなると次にモモリエを襲うのは退屈という名の病だ。

 それを紛らわせる目的で、水晶を人型になるよう消化して遊んでいたらしい。


「ということはこのヒビの中にはもの凄い数の彫像が…?」

「デカいのだと等身大のものまで作ったかな。」

 この中を知る機会が永遠に訪れない事をコルトは願った。


 しかし見せてもらうと、実に精巧に作られた彫像であった。

 普通の石像が削って作られるのに対して、モモリエの場合は溶かして作る。

 さらに関節のない自由なモモリエの身体は、意外と精密作業に適したものなのかもしれない。



「この女の子、耳はコルトと一緒だけれど角も尻尾もないってことは…トールマン?あれ、モモがトールマンを知ったのって昨日が初めてのはずじゃ?」

「それは、人間って言う種族なの。」

「人間?それってトールマンとどう違うの?」


 そうね…と一呼吸置いて、モモリエは静かに答える。



「地球っていう、別の星に住んでいる人種ってとこかしら。」

「…え?」


 別の星と、モモリエは確かにそう言った。

 物語に書かれていただけの、本当にいるかどうかも不確かな存在。


「アタイもね、この身体になる前はその人間だったの。」


「コルト、アタイがいろんなことを知っているのを不思議に思っていたよね…それが、その答え。」


桃田ももた理恵りえ。それがアタイの前世の名前。」


 ドクンッ…!と。

 その名前を聞いてコルトの胸は鼓動を高める。



「アタイね、違う世界からやってきたんだ。」


 ピンクの親友が告げた真実に、コルトは次の言葉を紡げないでいた。

果たしてここまで誰が予想できたであろうか!?衝撃の展開が来たぜ!

高評価とブックマークをしたら続きを見るんだ!

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