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楽園転生  作者: うさぎのけーせい
1章:家族と旅立ち編
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0話 新世界

プロローグ

正直ここで出てくる名前は忘れて構いません

「あれがデネブで、アルタイル、ベガ。3つを合わせて夏の大三角形って言って……」

つむぐ、あんたそれ絶対アニメから得た知識でしょ」


 金髪の青年、金宮かねみやつむぐが披露しようとした無駄知識は女友人の桃田ももた理恵りえによって一蹴いっしゅうされた。

 続ける言葉を無くして固まるつむぐを他の友人達は容赦なく追い越し階段を登っていく。



理恵りえが可愛い女の子出てくるアニメ把握してない訳ないだろ。ボクはキメ顔でそう言った」

「その台詞を言うなら真顔で言え、マジのキメ顔やめろ」


 小柄な青年、青柳あおやぎ 京吾けんごが同作品のセリフで追いうちする。



「アニメ?ロボット出るやつ?」


 大柄な青年、緑間みどりま円治えんじは相も変わらず自分の趣味の話しかしない。


「出ねぇよ」

「ふーん」


 秒で話題が終わるが気にする様子はない。良くも悪くもマイペースな連中だ。


「まあまあ、メジャーな歌詞を引用したくなる気持ちはわかるよ」


 温厚そうな顔立ちの青年、赤羽あかば りょうつむぐのフォローに回る。

 自分達が10歳にもならない頃の深夜アニメソングをメジャーと認知する辺り、彼も大概に良い趣味である。




 ここはとある片田舎の街。

 その郊外にある丘に設立された展望台へと向かう階段。


 彼ら5人はペインターズ。

 そう自分達の間で名乗りあっていた。


 バカ騒ぎが大好きな5人は騒いでも迷惑をかけないその場所へと向かう為、菓子と少々のアルコールが入った袋を片手に長い階段を上っている最中だった。


 ふわりと、ふと夜風がほおでる。

 夜になってもまだ暖かさが残る初夏の風、その流れの向くままつむぐは振り返り夜の街並みに目をやる。

 丘から見える景色は、下に向けば人工の灯、上を向けば星の灯。

 そのどちらでもない場所に立っている。

 階段を登るほどに日常の世界から離れていく光景を見て、このまま登り続ければ別の星に辿たどり着けるんじゃないかな?などと子供じみた考えが横切った。


 今の自分は大人と子供のどちらなのだろう?と思う。

 法律で言えば、自分達は半年前に成人を迎えた。

 しかし世間の言う大人と自分達は随分とかけ離れた立ち振る舞いをしている。

 けどその一方、年上の人達は大人というより「子供でいられなくなった」姿のように自分には映る……そういう人も見かけてきた。

 多分、大人になる事と子供でなくなる事は同じ事ではないと、つむぐは考えていた。


「何やってんだつむぐー?ギックリ腰か?」

「まだそんな歳じゃねえよ!?」


 何歳になっても変わらないな、と。

 それは子供っぽい性格だけではない。


 金宮かねみや つむぐ

 桃田ももた 理恵りえ

 青柳あおやぎ 京吾けいご

 緑間みどりま 円治えんじ

 赤羽あかば りょう


 この5人組みこと「ペインターズ」は一緒にツルんでもう何年にもなる親友グループだ。

 互いに互いの事はよく知ってるし、いつも何かにつけては楽しい事はないかとバカ騒ぎを起こしてきた。


 同世代の連中は、就活生だとか社会人とかそういう立場を手に入れ、それを守る為に次第大人へと変わりだした。

 親になった奴もいる。

 子供のままではいられないと、それに見合った立ち振る舞いを身に着け、横でなく縦の関係を築くようになり、自分達と関わらなくなっていった。

 学生時代に登録した連絡先は、もう何年も繋がっていない顔も忘れてしまった奴が過半数だ。


 みんなそうして社会へと旅立っていった。

 けれども未だこうして友人と一緒にいることを選んでいた。

 他の皆が自然と大人になる道を選んだように、つむぐとペインターズにとっては、それは当然の選択だった。

 それ程に、今あるこの瞬間が、つむぐにとっては何よりも大切だった。

 だからきっと、何年先も…爺さん婆さんという年齢になったとしても、変わらず一緒にいるんじゃないか。

 そういう妙な確信がソコにはあった。



 だが




「クソがああああアアアーーーッ!!!!!」

「!?」




 そんな確信は、いとも容易く打ち砕かれる事となるのであった。



「何!?誰の声?」


 突如として、静寂な夜の展望台に響き渡る謎の罵声。

 理恵りえは周囲を見渡し声の主を探す。

 少なくともペインターズの誰かの声ではない。


「ふざけるな!クソ!ふざけるな!!ふざけるなぁァー!!!」


 身を裂くように放つ慟哭どうこくの叫び。

 こんな穏やかな夜には、余りにも似つかわしくない。


 声がするのは上の方角。声の主はこの先、展望台にいるようだ。

 ならば先に上がった他のメンバーと遭遇している事だろう。

 心配になるつむぐは急いで階段をけあがる。

 一緒にいた理恵りえも1歩遅れでついてくる。


「何だお前らっ!離せっ、汚らわしい!!」


 登り切ったその先に広がる光景。

 そこはいつもの、小さな町に相応しい、小さく古い展望台。

 照明が薄暗く照らすそこに、1人の老人が暴れていた。


 色褪せ所々破れたボロボロのコート、伸びきったボサボサの白髪しらが

 深い皺の刻まれたかおは、まるで鬼でも宿っているかのように怒りに歪み切っていた。

 恐らく老人はその怒りのままに暴れたのだろう、目の前の看板は壊され机や屋根の柱には拳の形をした血が付着している。


 先に上に上がっていた円治えんじりょうが必死に老人を押さえつけている。

 その両腕は真っ赤に染まり指は骨折で腫れあがり。爪も何枚か剝がれている。

 だが老人はその痛みを気にする様子すらない。

 いや、それ以上の怒りで完全に我を忘れているのだ。


 ……一体この老人の身に何が起きたのか。


 わからない

 平和な日本で生きてきた人間の怒りとは余りにも異質いしつの、

 何をどうしたら、このようなかおを人がせるというのか…


「落ち着いてください、そんな怪我で暴れまわらないで!」

「黙れぇぇぇ!!お前ら人間に誰が指図を受けるか!!!」


 老人を押さえつけながらもりょうは落ち着かせるように説得する。

 しかし聞く耳持たないとばかりに老人は拒絶する。

 発せられる言葉もどこかおかしい。危険人物として関わらないという選択肢もあるかもしれない。

 だけどこの怪我を前に放っておく気には、その場の誰もがなれなかった。

 なので老人との攻防は堂々巡りとなってしまう。


「あっ、つむぐ。お前も押えるの手伝ってくれ!」


耐えかねた円治えんじがそう言った、その直後であった。


つむぐ……だと……?」


 老人の動きがピタリと止まる。

 円治えんじの言葉……いや正確にはつむぐという名前を聞いた瞬間だった。


 老人は目の前の青年、つむぐの顔を見る。

 とてもとても、不思議なものを見た、という顔だ。

 そして老人はその他ペインターズの4人を見渡し目をぱちくりさせる。


「落ち着いた……のならいいんだが。爺さん、一体何があってそんな叫んだりして」



「ペインターズ……なのか?お前ら」

「……え?」



 ペインターズ。

 確かに5人は自分達の事をそう呼んでいる。

 だけどそれは世間に公表していると言う訳でもない、言うならば身内ネタのようなものだ。

 だからその名を呼ばれる覚えは、その場の誰にも全く心当たりが無かった。


 ペインターズの名を出され、つむぐは他のメンバーの顔を見るが全員首を横に振る。

 この老人と面識めんしきのある者はいない。

 老人は確かに今日、ここで、初めて会ったはずなのだ。


「確かにそう名乗ってるけど……爺さんどこかで会ったか?」

「…………」


 老人の言葉を肯定する。

 すると先ほどまでの気迫は失せ、質問に答えるより先に、しきりに周囲を見渡し始めた。


 ペインターズの顔ぶれ

 血にまみれ爪のがれた己の両手

 星空

 展望台

 そして


「そう……か……」


 まるで全てに納得したかのように、老人から怒気が立ち消えた。

 もう暴れる様子は無さそうだと判断した円治えんじりょうは老人を押さえつけていた腕を離す。

 そして老人はゆっくり立ち上がり、まっすぐにつむぐを見つめた。


金宮かねみやつむぐ

「!?」


 苗字も込みで名前を呼ぶ。

 やはりこの老人は自分達の事を知っている、つむぐは確信する。

 そしてそれと同時に、まるで心臓を鷲掴みにされたかのような緊迫感が襲う。

 それは老人のまとっていた気迫が変わったからだ。

 抑えきれないばかりの怒りの感情が、そのままの大きさで覚悟の顔へと変化していた。

 焦点の合わなかった瞳は燃えるような熱を秘め、直立した背はまっすぐで、本当に先ほどまでの老人と同一人物かと疑いたくなる程であった。


 わからない

 老人が怒り狂っていた理由もそうだが、その老人をここまで変えてしまう程の何が?

 自分達ペインターズを見て彼が何を思ったと言うのか。


 あまりにも取り留めのない状況、謎を探る糸口も見つからない状況にペインターズ達は困惑するしかなかった。


「まだ希望はある……!お前が!お前達だけが最後の……!!」


 そう言いながら、老人は右手を天にかざす。そして


「何が!?さっきから一体何を言って……!?」



 その手から突然放たれた光によって、夜空に大穴が開いた。



「……え?」

「……は!?」


 まるでSFやファンタジーのような光線。

 それが1人の老人の手から放たれたという、ありえない光景。

 ペインターズのメンバーはその光景にただ驚く事しかできない。

 非現実の出来事が、今ここに現実となった。


 この老人は……一体誰だ?


 そう考えながら老人をにらんで警戒していると、理恵りえが服を引っ張り、何かを指さす。


理恵りえ、今度は一体どうし」

「どうしよう、アレ……」


 彼女が指さしたのは夜空に空いた大穴。

 その方向に視線を向けるとそこには……


「……冗談だろ?」


 あか

 あかくて、果てしなく巨大な

 夜空を煌々(こうこう)とかがやかせる

 燃え盛る隕石が、大穴の中から出現していた。



「なんで……どうして……!?」

「逃げ、逃げないと!」

「どこにだよ!!目の前じゃねえか!?」


 わからない、謎だらけのこの状況。

 ただ一つわかるのは、この状況を生み出したのが、この謎の老人によるものだという事のみ。


「おい爺さん!なんなんだよアレは!?」


 つむぐは老人に詰め寄り、問う。


「一体何をする気なんだ!お前の目的は!答えろ!!」

「俺は……コルトを救いたい」

「コルト?」

「他の何を犠牲ぎせいにしてでも……アイツだけは……!」


 出てきたのは謎の名前。

 それが自分達と、この状況と何の関係があると言うのか。

 それを聞き出すより早く、隕石が彼らを襲った。

 止めることも逃げる事も叶わない。

 全ては隕石の光に呑まれ……


「うわあああアあああぁーー!」

「皆ぁァーーーー!!」



 そして隕石は光と共に消え去り、後に残っていたのは無人の展望台だけだった。









 ------異世界ナラカヘイル。リングス歴982年。


 リカート大陸南方に位置する辺境、人口50にも満たない常夏の集落アルム村。

 そこに突如としてソレは落下し、村中に轟音を響かせる。


「うわっ!?」

「なんだなんだ!?」


 音の元へと住民が集まるとそこには土煙が立ち込めており、みんなびくりびくりと猫のような耳を揺らす。

 空気をビリビリ震わせる衝撃が消え、土煙が晴れてきたその先にあったのは、真っ黒な球体だった。


「なん……だこりゃあ?」


 黒曜石のような黒、大きさは成人男性の胸辺りまである。

 住民皆が恐れ恐れに見守る最中、それにパキリとひびが入った。


「!?」


 住民達は驚き1歩引き下がる。

 ひびはその間もピシリパシリと横に広がる。

 だけどその異様な光景に恐れない者もいた。

 それは3歳を迎えたばかりの双子の姉妹。


「あ、こら2人とも離れなさい!」


 父親からの忠告を無視して、幼い2人の少女が球体の前に立った時、ひびは球体の上辺を切り離し、蓋を外したようにゴトリと落ちた。

 2人は割れたその中に吸い込まれるように顔を覗かせる。


「シルヴィア!ブロン!」


 両親は娘2人を止めるべく近づく。

 そんな心配を他所に2人は球体の中に手を伸ばし

 そして


「アアァー!」

「!?」


 中から聞こえたのは泣き声。


「よしよしー。」

「だいじょぶだよー、こわくないよー。」


 2人が泣き声の主をあやす。

 そこにいたのは……


「あ、赤ん坊……?」


 シルヴィアとブロンが球体から救い上げたもの。それは赤ん坊だった。

 2本の角と、黒い尻尾。

 そして信じられない程長い金の髪を携えた赤ん坊を、2人は笑顔で抱きかかえていた。

高評価とブックマークよろしくねー

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