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最愛のあなたと


「ようやく戻ってきた」


 会場から連れ出された先は、カイデンの住まう離宮だった。応接室に入ると、ぎゅっと抱きしめられる。思わず彼の背中に手を回したけど、何が何だかさっぱりだった。


「あの、どういうこと?」


 どうしてミューだと知っているのか、それが一番の不思議だった。ぎゅうぎゅうに抱きしめられていたが、少しだけ腕の力が緩む。カイデンはじっとわたしの顔を見つめた。わたしも彼を見上げるようにしてみる。


「黒毛と紫の瞳は昔から神の愛し子だと伝えられているんだ」

「そうね」

「俺が拾った猫はまさにその色だった。母上に神からの祝福だから大切にしろと言われて」


 なるほど。

 拾ってきた猫を飼ってくれた理由はその色合いだったのかと初めて知る。


「でも、それだけでどうしてミューが死んだ後に戻ってくると思ったの?」


 ミューが神の愛し子であったと知っても、あの時死んでしまったのだ。戻ってくるなどという表現はおかしい。


 カイデンは小さく笑った。


「ミューは自分が時々寝ぼけて小さな女の子になっていたのを知っているかい?」

「え?」

「夜になると、猫の姿が女の子になるんだ。その姿を俺は知っていた」


 びっくりして目を見開いた。


「それに、ミューが死んだときに神さまに言われたんだ。仕事の手伝いが終わっていないから、もう一度下界に生まれると」

「そういうことなのね」


 愛し子の姿を知っていて、しかも神さまから何らかの言葉があったらしい。

 それならわたしが愛し子でミューであることも分かる。


「本当は見つけた時に攫っていきたかった」


 うん?


「だけど俺の周りは本当に危険で、前と同じように危険にさらすわけにいかなくて接触できなかった」


 あれ?


「いつもいつもあいつらが報告を上げてくるけど、それすらも苛立たしくて」

「それって護衛騎士の人たちのこと?」

「そう。俺と縁を繋ぎたい奴らにミューの存在が気づかれないように、できる限り俺に近寄らせなかったんだ」


 何?!


 初めて知ることに愕然とした。あれほど力を尽くして接触しようとしていたのに!


「本当に長かった。見つけてから、12年もかかった」

「……ありがとう」


 本当は沢山文句を言おうと思ったけど、あまりにも切ない顔をされて文句が出てこなくなってしまった。カイデンはふわりと笑う。ミューであったときによく見た大好きな笑顔だ。


「ミュー……ミンディ、俺の側でずっと一緒に生きてほしい」


 彼は真剣なまなざしをわたしに注ぎながら、そっと囁いた。あまりに切なくて甘い響きに、彼が本当に望んでいるのだと心に届いた。


「わたしもずっとカイデンに会いたかった。ずっとずっと待っていたけど会えなくて、見つけた後も近づこうと思っていたのに近づけなくて、神殿に入ってからは危なすぎて会いに行けなくて」


 本当に会えない時間が長かった。


「ミンディ、結婚しよう」

「わたしもカイデンと一緒にいたいから……結婚したいわ」


 恥ずかしく思いながらも素直に言葉にすれば、カイデンは晴れやかに笑った。そして少し屈んでわたしの唇にそっとキスをする。


「うん。やっぱり猫にするよりもとても気持ちいいね」

「……カイデン、猫の時に沢山キスしたのって、女の子だと知っていたから?」


 もう一度唇が塞がれた。その答えは貰えなかった。








 その後は忙しかった。


 第二王子の婚約者になったことで、様々な行事に出席、大祭には天にいる神に歌を捧げた。無事に届いたのか、その日は虹がかかり、世界中が穏やかだった。


 ようやく落ち着いたのは、歌姫となって2年後だった。

 今日、わたしはカイデンとようやく夫婦となる。


 結婚式のために用意されたドレスは引き裾が長く、贅沢にもレースがふんだんに使われていた。それでいてカイデンの要望で首までしっかりと覆われた意匠だ。わたしに合わせて作ってあるので、とても素敵に見える。


「綺麗だ」


 支度が終わったわたしを見てカイデンが目を細めた。


「ありがとう。カイデンも素敵だわ」


 彼は黒の騎士服だった。式典用のため様々な飾りがついている。彼によく似あっていて、ぽーっと見とれた。あの時の男の子がこんなにも素敵になるなんて、と感慨深い。


「では行こうか」


 白の手袋に包まれた手が差し出された。彼の手のひらに自分の手をそっとのせる。

 ぎゅっと握りしめられたので、彼を見上げた。


「愛している」

「わたしもよ」


 そっと唇が合わさった。



Fin.



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