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ミリアム・ウォーカーの秘密  作者: 怪魁(かいかい)
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入学式の一日

遅くなってすみません。


実はこれには私の懐よりも広く深い事情がありまして・・・イカ2たのちい・・・。

 バルドーン国立魔法学校には様々な施設がある。それはもちろん、この魔法学校が国内最高峰として国から膨大な資金援助を得ているからだ。運動場、魔法試験場、食堂、図書館、専門の魔法分野ごとの教室など・・・その全てが巨大かつ魔法に耐えうるよう堅固、そして高い芸術的意匠性を持っている。もちろん、今まさに入学式が執り行われようとしている式堂も例外ではない。


 その空間は一般的な家が丸々6軒ほど収まるのではないかと思うほど広く、また、高級そうな絨毯が敷かれていたり巨大なシャンデリアが垂れ下がっていたりで、有名貴族のボールルームと見紛うほどだ。そしてそこをびっしりと埋め尽くす新入生の姿は圧巻だ。いったい何人いるのだろうか。


 だが、たとえそれがどんなに凄い部屋で、大人数の生徒がいたとしても所詮は校長の話。やはりつまらないらしく、既に顔が下を向いてしまっている生徒もちらほらいる。


 それを見かねた副校長が手を打つ。副校長が掲げた右手に握られているのは魔法学校にて開発された大量殺戮兵器・天使の猛襲・・・の、弱体化バージョン、天使のデコピンである。天使のデコピンは副校長の手の中で光ったかと思うと、その光を収束させていき複数に分けて射出する。射出された光の個数は37、寝ている生徒数と同じである。それぞれの光は寝ている生徒にロックオンすると猛烈な速度で彼らの額にぶつかり、ペチンッ!という子気味のいい音を立てると消失した。


 ぶつけられた生徒は何が起きたのかわからずあたりをキョロキョロするが、その時にはすでに副校長は元の姿勢に戻っている。中には隣の生徒を疑わしげに見ている人もいるが、事情を聞くと恥ずかしそうに俯き、最終的には校長の方に目を向ける。


 この一連の流れは毎年の恒例なのか、校長や式堂の左右に待機している教師も微笑ましいものを見るように、怒ることなくむしろニコニコとしている。


 その後は無事に校長も話を終え、連絡事項が伝えられたところで入学式は解散となる。次に控えている行事はクラス分けだ。


 この魔法学校では、基本の座学など一部の授業を除き、得意な魔法の種類ごとに分かれて授業を受けることになる。最も多くの生徒が割り振られるのは基本属性魔法のクラスだ。火、水、風、土、雷、光、闇属性の基本的な属性魔法が対象となる。このクラスは毎回生徒数が多く、属性ごとに分かれることとなる。次に多いのが一般特殊魔法。矛盾するような表現であるが、要は上の7属性に収まらない魔法のうち比較的一般的な魔法のことを言う。こちらは一般的とはいえあくまでも比較的であり、使用できる絶対数は少ないため一くくりにされ、年によって数十人の1~2クラスで展開する。


 最後に、最も少ないのが特殊魔法。ナナの生成魔法などがここに位置する。入学者のうちここに分類される魔法が使える人は非常に少なく、数千人という大量の入学者がいる国立魔法学校であっても10人を超せばかなり優秀な年だとされるほどだ。ここに分類される生徒は有望株として学校内でも最上位の待遇を受け、ほぼマンツーマンで指導を受けることとなる。


 これらのクラスに生徒を分類するにあたって、最初に行われるのは各生徒の適性検査である。といっても数千人の検査を敢行するの大変なので、基本は自己申告制である。そして、自分の適性がわからない生徒や珍しい魔法を申告した生徒などのみが教師による厳密な検査を受けることとなる。


 自己申告の後に残った生徒は88人。このうち一般特殊魔法使いに分類されたのは76人。残りの12人は特殊魔法使いに分類され、ここにはナナとミリアムも含まれる。ナナは生成魔法という魔法の特殊性で、ミリアムは魔法の適性は無いものの、呪術を使えるという特殊性から特例として特殊魔法使いに認定された。


 そんなミリアムとナナであるが、今はクラス分けも終え、食堂で昼食をとった後、特殊魔法使いクラスで他の10人とともに待機している。ほぼ全員が自分が最高レベルの魔法使いであるという自負を持って入学してきて自尊心が高いのか、ほとんどの生徒がお互いににらみ合うという状況になっており、教室の中には居心地の悪い緊張感が漂っている。その中でも特にピリピリしているのがアレン・バルドーン。この国の王子にして、数日前に食堂でミリアムたちに突っかかってきて、脅しだけで返り討ちにされた男だ。


 彼は誰彼構わず周りの生徒を睨みつけており、今にも喧嘩でも始めてしまいそうな勢いである。しかし、食堂での一件をやはり根に持っているのか、特にミリアムを目の敵にしているようだ。当のミリアムは特に気にした様子はなく無視を決め込んでいるのだが、かえってそれがアレンのイライラの火に油を注いでいるようだ。お前から見てこの僕は取るに足らない存在なのか、と。


 そうして教室内の緊張感が高まっていき、ついに限界を迎えたかと思われたその時、


 ガラガラ・・・


「いやあ遅れてすまない。流石に生徒が12人もいると書類を用意するのに手間取ってしまってな。特例も一人いることだし・・・。」


 そんなことを言いながらクラスに入ってきたのは、銀髪のオールバックにモノクルをかけ、濃い赤のロングコートといういで立ちの長身の男性だ。腰には特殊な形状のものではあるが、帯剣している。彼は気怠そうにしながらもクラス全体を隙なく眺めており、見た目や振る舞いは教師ではなくどう見ても戦闘を生業とする者のそれだ。


 彼が放つ威圧感は相当のもので、さっきまで互いににらみを利かせあっていた生徒たちがほとんど尻込みしてしまっている。強気を保っていられたのはわずが数人で、ナナに至ってはミリアムの腕にしがみつきながらプルプルと震え「ちびりそう・・・」と涙目になる始末である。


「私はジルバというものだ。このクラスを受け持つことになった。よろしく頼む。早速だが、配る物がある。この資料には年間の予定やこのクラスの教育方針、校内見取り図などが含まれている。後々必要になるだろうから、なくさないようにな。」


 ミリアムたちが受け取ったのは10枚ほどの紙の束で、様々な情報が記載されている。特に目を引くのは見取り図で、そこの情報によるとこの学校の地下には空間魔法によって繋げられた空間があり、学校と同程度の広さの空間が魔法練習場として確保してあるらしい。


「さあ、貰ったものが気になるのは分かるがそれを確認するのは後にしてくれ。まずは魔法の登録だ。この目録に自分の魔法が載ってるか確認してくれ。載ってた場合はこの紙に名前と魔法の種類を記載。載ってなかった場合は私に言え。その場で新発見の魔法として登録するための書類を用意する。」


 一人ずつ魔法を確認していき、最終的に新発見の魔法と認定されたのは2つ、アレンの爆炎魔法、そしてマルゴのいう名前の屈強な肉体をした男子生徒の衝撃波魔法だ。


 最後に残ったのはミリアム。ミリアムが使えるのは魔法ではなく呪術なので、事前の検査では適正なしと出ている。ジルバもこのことは把握しているので、ミリアムには別のことをしてもらう。


「さて、最後にミリアムだがお前には他の奴らとは別のことをしてもらうことになる。登録する魔法が無いからな。代わりにこっちの書類に目を通してくれ。」


 そう言ってミリアムに手渡された書類は【カリキュラム変更許可願い】というものだった。


「普通このクラスでは各生徒に専属の教師をつけて魔法技能を伸ばすのだが、何せお前の使う術は未だ解明されていないし、教師をつけようにもこの学校で一番詳しいのはお前だろう。この書類に署名してくれれば、基礎教養と実戦訓練、あとは校外実習以外の授業は全て免除され、さらに余った時間は全て自由行動だ。何やら研究用の資料を持ち込んでいたようだし、その研究に明け暮れても構わないし、他の生徒の授業を覗き見てもいい。この学校の図書館は大きいことで有名だ。そこに入り浸るのも良いかもな。自慢ではないがこの魔法学校から出なくとも退屈することは無いだろう。」

「随分と好条件のようですが、何か代わりに要求されるのでしょう?」

「まあそうだな。学校側の要求はシンプルに言うと、呪術の秘密を教えてもらうことだ。」


 ミリアムは瞬時に頭の中で呪術の秘密を明かすリスクを計算し、結論を出す。


「うーん、それはできませんね。」

「ほう?」

「他の皆が呪術を使えてしまっては私の価値が相対的に減ってしまいますからね。代わりと言っては何ですが、研究過程で出てきた呪術の理論をもとにした魔法の研究結果は全て開示してかまいませんよ。実は既にいくつか面白い研究対象を発見していて、もし見ていただければ興味を持っていただけると思いますよ?」

「ふむ・・・、この件についてはまた後程話そう。」


 ジルバはミリアムを席に座らせると、


「今日はここまでとする。明日からは通常通り授業を行うから、教室と時間を間違えないように。持ってこなくてはならないものは授業ごとに資料に書いてある通りだ。それでは解散!それとミリアムは教室に残るように。」


 生徒は全員寮に泊っているからか、大した荷物を持っているわけでもなく受け取った紙束だけ持つと席を立って教室を後にする。


 しかしそれを良しとしない者が一人。


「おい待て!」

「ん?アレンだったか、どうした。」

「さっきから気に食わないんだよ・・・そこのミリアムとかいう頭おかしい女ばっかり特別扱いして、それとその口調だ。僕はこの国の王子だぞ!口を慎め!!だいたい・・・」


 おそらくミリアムの5歳以上年上であろう彼は、少年のように喚き散らす。これがただの一般人であったなら、冷たい目を向けるだけであっただろうが彼は自分で言っていた通りこの国の王子だ。だんだんとクラス内がいたたまれない感じになっていく。それは彼の年齢でありながら、そして王族でありながら身勝手な少年のように振舞っていることに対して。そして、このような王族がいてこの国は大丈夫なのだろうかという未来に対する一抹の不安によるものだ。


 ジルバは最初こそどこ吹く風で無視していたものの、だんだんと腹が立ってきたのかゆっくりと口を開き、腹の底に響くような声で、


「チッ、五月蠅いなぁ。お前はここでは王子じゃなくて生徒なんだよ。わかったらさっさと寮に帰れ。」

「なっ!?・・・こ、この僕に対して・・・」

「聞こえなかったのか?」


 最後にジルバに凄まれてビビってしまったのか、彼は荷物をまとめると「くっ、覚えてろよ!」といかにも小物らしいセリフを残して部屋から出ていった。何か光る雫のようなものが見えたのは気のせいだろうか。


 部屋に残っていたのは固まった生徒たちと微妙な静寂だ。しかしそこは流石先生といったとこか、壊れてしまった空気を気にした様子もなく口を開く。


「はぁ・・・さて、お前らも早く帰ることだ。このに残ってても何も良いことはないぞ。」


 そう言われて、硬直していた生徒たちが行動を再開する。アレンの一幕のせいで妙な連帯感が生まれたのか、雑談しながら帰る生徒もいる。


「ん?ナナだったか、帰らないのか?」

「えっと、ミリアムを待とうと、思いまして・・・。」

「そうか、そういうことならあまり長く待たせるわけにはいかないな。ミリアム、早く行って済ませてしまおうか。」

「はい。じゃあナナ、できるだけ早く終わらせるから待っててね。」

「うん・・・待ってる。」


 ミリアムとジルバはすぐに出発し、校長室で校長も交えてミリアムの待遇について話した。校長が条件を飲むふりをしながらこっそりと新たな注文を追加しようとするという場面もあったが、当然ミリアム相手には通用せず、むしろそれを逆手に取られ、最終的に交渉はミリアムの条件を学校が全面的に飲むことになった。ミリアムが最初に提示した条件が学校側にとってもそれほど悪くなかったのも効いたのだろう。


 しかし校長が頑なに条件を飲もうとしなかったのもあり交渉は想定より長引いてしまい、ミリアムが教室に戻ったころにはすでに1時間以上が経過していた。


 ミリアムはジルバに一言告げてからすぐに教室に戻った。ミリアムの超人的な身体能力をフル活用した爆走である。すでにミリアムの頭の中にはナナが怒っていることに対する心配しかない。驚異的な短時間で教室に到着したミリアムはバン!と勢いよく扉を開けて真っ先にナナに対する謝罪を言う。


「ごめんナナ!交渉が長引いちゃって・・・ってあれ?寝てる?」


 しかしその心配は杞憂か、当のナナは教室の机に突っ伏して爆睡していた。


「はあ、良かった・・・。でも遅れてしまったのは変わらないし、また今度埋め合わせしなきゃな。うーん、起こしちゃうのは申し訳ないし・・・よしっ。」


 ミリアムはそう言うと二人分の資料を丸めてポケットに詰め込み、ナナの背中を支えながら太ももの下に手を滑り込ませて優しく抱きかかえる。ナナを起こさず快適に運ぶための持ち方、いわゆるお姫さまだっこである。


 ミリアムはナナの体勢が安定したことを確認すると、お姫さまだっこの状態のまま寮まで歩く。通りかかる人は皆驚いたようにミリアムを見るが、当の本人は全く気にした様子はない。


 ミリアムは寮の部屋に到着すると、ベッドにナナを寝かせ、自分もその隣に滑り込む。ここ数日で日常化したいつもの寝る姿勢だ。


 ミリアムはしばらく今日起きた出来事について考えたり、ナナの寝顔を眺めて楽しんだりしていたが、やがて睡魔に負けたのか「ふぁ・・・ぁ・・・」と大きな欠伸をして、眠りについた。

読んでいただき有難うございます。

今回みたいに遅れてしまうことはあれど(すみません・・・)失踪予定はございませんので、ぜひ次話以降もよろしくお願いします。

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