幼少期
そびえ立つ城壁に囲まれ、その内側には煉瓦造りの建物が立ち並ぶ。そんな街の中心部、そこから石畳が敷かれた道をしばらく辿り、街のにぎやかな喧騒から離れた場所にその店は建っていた。店は大きくはないが、外観からはその年期が見て取れ、その営業が長い間続いてきていることがわかる。煉瓦造りのその建物の扉の上には看板があり、そこにはシンプルに「ミリアム書店」とある。
この名前からわかる通り、この書店はミリアムという人物に経営されている。彼女は父方と母方両方の家業を継いでおり、父方の家業がこの書店の経営である。
街の中心地からは離れており、通常の客がここに迷い込むことは珍しいが、珍しい本や、古い本が多くあるということで、一部の人々には人気の場所だ。その、一部の人々の中にはミリアムの母親も含まれる。
彼女の母親はこの書店が位置する国、その国の中でもかなりの力を持つ家、ウォーカー家の令嬢だった。
彼女の名前はマリアン・ウォーカー、貴族家庭の出とは思えない自由さと持ち前の明るさで領民からは広く慕われており、彼女がこの書店のことを聞いたのも領民の一人からである。
当時、古代からこの国に伝わる呪術の研究に没頭していたマリアンは家の書庫の蔵書は読み尽くし、その飽くなき知識欲を満たすために、古文書の類を取り扱っている場所を探していた。ちょうどその時、この書店の噂を聞きつけたのだ。彼女が飛びついたのは言うまでもない。
マリアンが初めてこの書店、当時は「サルヴァドール書店」を訪れたとき、ミリアムの後の父親、サルヴァドールは不在だった。というより、不在という事になっていた。マリアンがこの領主の令嬢だと気づかなかった店番は、店に訪れたマリアンに対して、
「サルヴァドールは領主のところに面白い本が見つかったから買わないか、そういう相談をしに行ってるから今は店にはいない。また別の日に来てくれ。」
そう言った。
当然マリアンは領主の元にそのような相談が頻繁に来ている事は知っていた。それもそのはず、領主がそうやって手に入れた本はすべてマリアンの元に行っていたからだ。そして、そんな相談は今日は予定されていないという事も知っていた。
この店番は何かを隠そうとしていると感じたマリアンが店番に対してその嘘の真意を問いただそうとしたところ、
「おや、マリアン様ではございませんか。貴族家のご令嬢ともあろう方がこのようなこじんまりとした書店にどのような御用でしょうか?本に関してはご注文を頂ければいつでも領主様の元にお届けしますよ。」
そんな事を言いながら、店の奥から20代後半のように見える若い男性が現れた。モノクルをした、身長は175センチ程度に見える、やや細身の彼は、服が埃で薄汚れていて、さっきまで本の整理をしていたようにも見えた。
「ああ、申し訳ありません。貴族様の前に出るような恰好ではありませんよね。どうかご無礼をおゆる・・・」
「そういうのは結構だ。さて、お前がサルヴァドールだな。単刀直入に聞くが、さっきまであの奥でお前は何をやっていた?」
「何をって・・・本の整理でございます。少々奥の本棚のスペースが少なくなってきたのでこの際にいらない本を処分してしまおうと思いまして。」
マリアンはやれやれといった様子で軽く肩をすくめてみせると、そのままサルヴァドールの目の前まで歩いて行って、彼の目をしっかりと見据えて、こう続けた。
「そういうのも結構だ。ここにいる店番はさっきお前が外出をしていると私に嘘をついた。お前がこの店の中で何か人に知られたくないようなことをやっている証拠だ。秘密にしておいてやるから、その奥で何をやっていたのか私に教えてみろ。まあ、教えなかったところでこの店を潰すだけだがな。私は領民たちに優しい人だと思われているようだし、それは事実だと思っているが、私が興味の追及のためなら手段を択ばないというのもまた事実だ。さっさと言った方が身のためだぞ。」
「・・・・・・はあ。わかりました。では私についてきて下さい。口で説明するよりも見せた方が早いでしょうから。」
「ふふ・・・物わかりが良いようで何よりだ。」
サルヴァドールは一度非難するような目を店番に向けた後、マリアンを部屋の奥に連れて行った。店番がそれを気にした様子はあまり無く、軽く謝るような動作をしてみせた後、本棚の整理に戻った。
マリアンが連れていかれたのは、書店の最奥の部屋、そこに敷かれた絨毯の下から行くことができる、小さな地下空間だった。部屋は小さなもの一つしかなく、しかも部屋の中には大量の本が乱雑に置かれていたため、余計に手狭に感じられた。
「私がやっていたのは、これです。」
サルヴァドールがそう言って指したのは、部屋の隅に置かれた一つの机だった。机の上の壁には簡易的な照明が吊るされており、机の上にはそのランプに薄暗く照らされ、不気味な雰囲気を放つ数冊の本が広げて置いてあった。
「これらの本を解読しようとしていたんです。実は私、呪術というものに興味がありまして、それらに関する記述のある本を片っ端から集めては解読して内容をまとめているんです。ご覧になりますか?」
「・・・いや、今はいい。なるほど・・・そうだな・・・よし、明後日、ここに馬車を送る。それにここにある本全てとお前が今までで調べることのできた内容を全てを積み込んで、私の家まで運べ。私はもう帰る。見送りの必要はないから、今起きたことはあまり深く考えずに解読に戻るといい。」
「ア、ハイ・・・。」
マリアンが去った後、一人部屋に取り残されたサルヴァドールは、
「美人だったなぁ。」
と、一言つぶやいて、言われたとおりにあまり深く考えずに解読の作業に戻った。
【二日後、ウォーカー邸】
ウォーカー邸の前にはサルヴァドール、マリアン、さらにウォーカー邸の召使いが総出で馬車の積み荷を家の中に運んでいた。
「ところでマリアン様、私の荷物はどうしてこの家に運び込まれているのでしょうか?」
「ああ、そういえばまだ言っていなかったな。お前は今日からここに住むんだ。着替えとかは持って来ていないだろうが安心しろ。私がお前がこの家に住むにふさわしい服を用意してやろう。感謝するんだな。」
「え・・・いやでも私の店は・・・」
「ほら、つべこべ言わずに私について来い。店はちゃんと対処してあるから安心しろ。あの店番は今頃金貨の入った袋を片手に小躍りしてるだろうさ。」
するとマリアンは大事な事言い忘れていたといった表情をして、
「そういえばお前がなぜここに呼ばれたのかを言っていなかったな。お前は私の趣味の呪術研究を手伝うためにここに呼ばれたんだ。お前がここに泊まる期間は呪術の研究が完成するまで。ここに居る間お前は呪術の研究だけをすれば良い。それにだ、自分で言うのも少し変だが、私のような美女と一つ屋根の下に居れると思えば役得だろう?」
「うーん、確かにそうなのか?」
「あんまり深く考えるな。さて、一緒に住むというのにお前と呼ぶのは変だな。よし、お前のことはサルヴァと呼ぼう。改めてよろしく頼むぞ、サルヴァ。」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
その日はサルヴァドールの部屋の整備や屋敷の案内などに費やし、その次の日から二人は呪術の研究を始めた。
二人はかなり別の視点から呪術を研究しており、それぞれの研究に新たな視点が加わることにより、また、サルヴァドールが今まで財政的な事情から、理論だけをまとめ実際には研究することができなかったいくつかのことを、ウォーカー家の資金力により実験に移すことができたことにより、二人の研究は爆発的な進展を見せた。
三年の月日が流れた頃には、すっかり仲良くなった二人は呪術の基本的な部分を体系的に理解し、小規模な超常現象なら自在に発生させることができるまでに至っていた。
しかし同時に、二人は眼前に巨大な壁が立ちはだかるのを感じていた。
「サルヴァ・・・私たちはここまで研究を進めてきた。呪術の基本的な部分は完璧に使いこなせるようになった。しかし、これ以上は無理だと思う。すまない・・・私の力不足だ。」
「いえ、そんな事はありません。私がここまで頑張ってこられたのはマリアンのおかげです。ですが、これ以上は厳しいというのは同意します。私たちは呪術を使い始めるのが遅すぎました。体が呪術を使うのに適した構造をしていないんです。まあ、私たちが研究している呪術というのはほぼ古代人の秘術のようなもの。これだけ長い時間が経ってしまっているのに体が未だに呪術に適した構造をしていると考える方がおかしいのかもしれません。」
サルヴァドールは少しだけ間をおいてから、マリアンを勇気づけるように、
「・・・ですがまあ、今までやってきたような実際に呪術を発動させる実験を進めることができなくなっただけで、古文書を読み解いて呪術理論を体系化することまでできなくなったわけではありません。研究のスピードはずっと遅くなってしまうと思いますが、続けられないわけではありませんよ。」
「・・・サルヴァ、その事でなんだが、私たちの夢、私たちの子供に託してみないか?子供に若いころから呪術を使わせれば呪術を基本以上のレベルで使いこなせるようになると思うんだ。そうすれば私たちの研究も大幅に進展する。どうだ?」
サルヴァドールはついさっきマリアンに言われたことを頭の中で噛み砕くのにたっぷりと1分間かけて、
「・・・え?何を言ってるんですか?アイディアそのものには賛成ですが、そもそも私たちに子供なんて居ませんよ?養子でもとるんでしょうか。」
という結論に至った。マリアンは苦笑いするしかない。
「・・・はぁ。いいか、お前みたいな鈍感野郎でもちゃんとわかるように説明してやるから耳の穴反対側とつながるまでほじくり返してよく聞くんだ。いいな?」
「いやそんなことしたら死んじゃうんですが・・・。」
「そういうのは結構だからちょっと黙ってろお前は。よく聞け。私はサルヴァ、お前に対して、私とせ、せっくs・・・子作り!そう子作りをしろと言っているのだ!わかったか!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「あれ・・・サルヴァ?おーい?・・・き、気絶している・・・!?サルヴァお前、いい年こいて案外初心なんだな・・・。」
その次の日、目を覚ましたサルヴァドールに対してマリアンが改めて説明し、二人は、自分たちの夢を子供に受け継ぐことにした。
そしてその日の夜、マリアンの、善は急げ!という発言により、二人の子作りが始まった。
二人は子作りをしまくった。メイドがシーツを取り換えるのが面倒だと二人に文句を言うまで子作りした。研究の合間に子作りした。研究しながら子作りした。子作りの合間に研究した。マリアンの両親が二人の健康状態を心配するようになるまで子作りした。
そして、マリアンの父親が『俺の娘が子作りをやめない件について』という官能小説を発売して莫大な利益を手にしつつ、官能小説家としてその名を大陸中に轟かせるようになった頃、ついにマリアンの妊娠が発覚した。
マリアンとサルヴァドールの希望によりこのことは秘密にされ、マリアンは子供の身に何も起きないようにと、ウォーカー邸の中でひっそりと暮らすようになった。突然マリアンを見なくなった民は心配したが、マリアンの父親が、マリアンは軽い怪我をしただけで、何も心配することは無いとの宣言を出したことにより、民の心配は多少は収まった。
マリアンが妊娠している間、マリアンとサルヴァドールは自分たちの今までの研究内容を教科書形式に纏め直すのに全力を尽くしていた。また、それと同時進行で、さらにそれが終わるともっと本格的に、ある程度成熟してきたマリアンの腹の中の子供に対して様々な呪術を使用するようになっていた。
呪術の研究中に、赤ん坊を強くする方法、という趣旨の古文書があったのをサルヴァドールが思い出したのだ。
その古文書によると、まだ母親の胎内にいる胎児は、未だに肉体が完全に形成されていないことから、出産してからに比べて、様々なものに対する吸収力がずっと高いという事だった。
マリアンとサルヴァドールは自分たちが使える基本的な呪術の範囲で、胎児に対して恒久的に良い影響がありそうなものを、自分たちが憔悴しきって、呪術が使えなくなるまでかけるという事を、毎日寝る直前にした。
そんなことが続き、マリアンの妊娠から約十か月の月日が流れた。
その日、ウォーカー邸で非常にめでたいことが起きた。そう、マリアンの出産である。
生まれた子供は、胎児の段階でかけられた大量の呪術によってか、髪の色はサルヴァドールの黒、マリアンの金とも異なり、煌くような銀色だった。また、生まれたばかりにもかかわらず、その碧眼は深い知性を宿しているように見えた。
「マリアン、この子、とても賢そうな瞳をしていますね。生まれたばかりとは考えられないほどです。今も、私が発した言葉を理解しようとしているようにも見えます。」
「当然だ。いくら基本的なものだけと言ってもあの量の呪術を浴びせたんだ。このくらいのことで驚いてたんじゃこの先やっていけないんじゃないか?」
「ふふ、そうですね。それにしても・・・この子力がとても強いですよ。既に首がすわってますし、さっき私の指を握った時も、私の半分くらいの力がもうあるように感じました。」
マリアンは生まれたばかりの子供の手を軽く握り、その力強さを感じると驚きに目を見開いた。
「それはさすがに冗談・・・じゃないみたいだな。だとすると、将来が非常に楽しみだ。」
「さて、子供と言えば、名前を付けなきゃですよ。女の子みたいですし、事前に決めておいた名前で大丈夫ですか?」
「そうだな。それで問題ないだろう。さて、私の娘よ。今からお前の名前はミリアムだ。私がお前の母親のマリアン、そしてここでバカ面さらしてる奴がお前の父親のサルヴァドールだ。これから先、私たちの夢のため、お前には苦難を強いてしまうかも知れないが、どうか私たちを許してほしい。」
だがいくら賢そうな瞳をしているといっても生まれたての子供。
「う?」
「まあ、さすがにそんな事いきなり言われても理解できませんよね。追々話していきましょうか。それじゃあマリアン、あなたは出産でかなり疲れているでしょう。今日はもう休んでください。」
「そうだな、確かに疲れた。それじゃあ、また明日だ。」
「はい。マリアン、今日まで頑張ってくれてありがとうございます。また明日からも力を合わせて、私たち二人だけじゃなくて、ミリアムも一緒に三人で頑張っていきましょう。私たちはまだ、夢へ向かう道半ば、その道中の壁を1つ乗り越えただけです。私たちはこんなところじゃ止まりませんよ。それじゃ、お休みなさい。」
その後、ミリアムはすくすくと成長し、1歳の誕生日には言語を完全に理解し、3歳の誕生日を迎える頃には成人男性と同程度の身体能力を手に入れた。4歳になる頃には呪術理論を勉強し始め、マリアンとサルヴァドールの研究内容について疑問を呈したり、一緒に研究をするようにもなっていた。
ミリアムという新たな刺激が加わって、三人の研究は今までとは別方向への進展を見せていた。今までは使える呪術の種類を増やすために、新たな呪術が書き記された古文書を読み解いていくことを研究の中心としていたが、ミリアムが研究に加わってからは、呪術の原理に関する研究が中心となった。呪術そのものを体系的に説明するのではなく、呪術の原理に迫り、呪術の根源を理解しようとしたのだ。
その過程でされたもっとも大きな発見は、間違いなく呪素の共鳴現象の発見だろう。
呪素とは、ミリアムたちが存在する物質世界と重なり合うようにして存在する呪素世界を構成するもので、物質世界の物に対応するようにして様々な種類の呪素が存在する。
ミリアムたちによって発見され、マリアンが呪素と名付けた。呪術がどれだけ扱えるかというのはこの呪素を呪素世界からどれだけうまく引っ張って来れるかによる。
そして、呪素の共鳴現象という発見の最もすごいところは、人が持っている呪素世界とのつながりの強さを呪素の種類ごとに調べることができるという事だった。
それはすなわち、人が呪素をどれだけの効率で呪素世界から引き出せるかを知ることで、その人の特定の種類の呪術に対する適正が調べられるという事である。
この共鳴現象を通して、ミリアムの呪術の適性が調べられた。だが、その結果がわかった時、マリアンとサルヴァドールは素直に喜ぶことができなかった。ミリアムが最も強い適性を示したのは、血の呪術と呼ばれるもので、マリアンたちが解読した古文書によるとそれは、血を操り、血を触媒として呪術を発動するものであり、たった1人で小国の軍を壊滅させるほどの力を持つ呪術であると記されていた。
だがそのすぐ次に記されていた内容は衝撃的で、その絶大な力の代償として、血の呪術の使用者つまりはミリアムは、血の供給者として自傷を繰り返さなくてはならないと書いてあったのだ。しかも、繰り返し大量の血を失うことで術者の体内機能は徐々に停止していき、血の呪術を日常的に使用した場合、若くして死に至るともあった。
血の呪術とは、強大な力と引き換えに術者を破滅へと導く、諸刃のグレートソードとでも呼ぶべき代物だったのである。このことが記されていた古文書が「禁忌」の文字と共に閉ざされ、人目につかない場所に保管されていたのも頷ける。血の呪術、破滅の術を使おうと思う人を生み出したくなかったのだろう。
マリアンとサルヴァドールはミリアムの両親として、このような術をミリアムに使わせることは到底できなかった。結局、ミリアムの適性はミリアムには明かされず、ミリアムには、時が来たら教える。その時に自分で決めろ、とだけ伝えられた。
既にそのころ一般的な成人と同程度の知能を持っていたミリアムは、自分の両親が自分に対して何かよくない事を隠そうとしていることを理解していたが、それと同時に超人的な第六感とも呼ぶべき感覚で、両親の苦痛を感じ取り、だからこそ自分の適性についてできるだけ触れないでおこうとしていた。
その後数年間、ミリアムは自分の適性が気になりながらも、その好奇心を隠し、両親の研究を手伝うという日々を過ごした。ミリアムは両親と過ごす時間に満足しながらも、自分の満たされない好奇心に悶々としていた。
そんなミリアムに転機が訪れたのは、ミリアム8歳の誕生日の時である。その日、マリアンとサルヴァドールは数か月前から決めていたことを実行に移そうとしていた。
「ミリアム、誕生日おめでとうございます。」
「うん、お父さんありがとう!」
「誕生日おめでとう。」
「お母さんもありがとう!」
ミリアムは、知能はすでに一般的な成人を超越しているとは言え、精神年齢はまだ若く、自分の誕生日だという事が嬉しいようで無邪気にはしゃいでいる。これもひとえに誕生日の度にシェフに作らせている誕生日ケーキのおかげだろう。
ミリアムがケーキをもらう事で喜んでその満面の笑みを見せてくれるというのなら、ケーキを作るための高価な材料費も、ケーキを作る料理人を雇うための高価な費用も安いものだ。
しかし、誕生からの時間の経過を記念して、喜びはしゃぐのだけが誕生日ではない。誕生日は大人へと近づいていく、その一つ一つの節目である。この節目に日に、ミリアムは自分の力とその代償を知ることになる。
「さて、ミリアム。」
「ん?お父さんどうしたの?急に畏まっちゃって。何か言いづらい事でもあるの?」
「はは・・・ミリアムはなんでもお見通しですね。まあ、そういう事です。ミリアムの適性について今まで黙っていましたが、それを教えようと思います。」
ミリアムの表情が驚愕に、その直後には歓喜に塗り替えられる。
「今まで習った呪術の種類は全て覚えていますね?」
「もちろん!」
「あなたの適性が最も高かったのは・・・血の呪術です。その他の呪術は私とマリアンよりもずっと上手だったのですが、それでもそこには血の呪術とは隔絶した差があります。つまりあなたは、自分の最も得意とする呪術を使うたびに自傷行為をしなくてはならないのです・・・。」
「それって・・・・・・・・・・ロマン溢れすぎててやばいね。」
「え?」
自分の娘が言い放った言葉をいまいち理解できずに間の抜けた表情をさらしているサルヴァドールの肩にマリアンがポンと手を置いて、彼を安心させるように優しく声をかける。
「言っただろ?ミリアムは強い子なんだ。私たちが心配することは何もない。」
「そう・・・でしたね。」
そこまで聞いて満足したのか、マリアンはすっかり不思議な感じになってしまった雰囲気を晴らすように手をパンパンと叩いて、
「さあ、話も終わったことだし街に飯を食いに行くぞ。ケーキを食べてしばらく時間が経つし、腹も減ってきただろう。私はさっきから腹の虫が鳴りっぱなしだ。ほら、街一番の料理屋を予約してあるんだ。早くついて来ないと置いていくぞ?」
「やったぁ!お母さんありがとう!」
「マリアン超愛してます大好きです一生ついて行きます。」
こうして3人は仲良く街へ出かけるのであった。
読んでいただき有難うございます。
次話以降もよろしくお願いします。