四品目 元武術家の実力
龍也さんファイト
「「料理人で武術家???」」
仲良し姉妹は龍也の自己紹介にポカンとする。
「元武術家だ、とりあえず詳しい事は後でな」
そんな姉妹をよそに、背後飛びかかってくる黒い影を迎撃するため、生前何千回も行った『天道流武術』防御型『不動』で迎え撃つ。
『天道流』には基本型と呼ばれる型が存在する。
攻撃型『逆鱗』防御型『不動』
基本はこの攻守の型を基本として戦う。
型と言っても構え方があると云うわけではなく、気の運用、意識付けといったところが主だ。
現在龍也が行っている防御型『不動』
気の循環を行い器官など生死に関わるとされている箇所をより強化し、攻撃に行う気を全身強化に回し防御力をより強固とする。
『不動』を行う龍也の左腕と影ヘルウルフの右腕がぶつかり合う。
『!?』
攻撃を仕掛けたヘルウルフは推進力も乗った打撃をするが、龍也はピクリとも動かず受け止める。
「『不動』を使わなくても良さそうだな」
そう言うとぶつかりった影ヘルウルフの腕を掴み重心を龍也側に引く。
引かれるまま重心を操られ、慌てて左腕で突きはなそうとするも
「影が掴めるなら攻撃も通るだろ」
その左腕を弾き右手を影ヘルウルフの腹に添える、その直後凄い勢いで後方に飛んでいき、水切りの様に水面を跳ねた後水に沈んだ。
「『崩牙』」
手のひらに気を凝縮し、触れた部分に浸透系と呼ばれる衝撃と気の爆発を与え体内を破壊する。
相手の防御を貫くための技だ。
「…手応えがほとんどないな」
本体を倒さないと意味がないと理解し湖を見つめる。
すると突然水面が爆ぜヘルウルフが地面に着地、獰猛な目を龍也に向ける。
「こんな強者はどの戦場にもいなかった」
ヘルウルフは歓喜し、濡れた黒毛は膨大な魔力により逆立つ。
「俺は魔王軍『六魔将』の一人『黒拳』のグラード」
「ずっとお前みたいな強者を待っていたんだ」
龍也の前に立ち、殺意を込め構える。
「魔王軍?」
魔王軍と云う存在がわからず首をひねると
「「魔王軍六魔将!?」」
背後からは姉妹の悲鳴にも似た声が聞こえる。
「六魔将の名を聞いてその余裕か」
何だか勘違いをしているようだが、ただ単にわからないだけなんだが…
「そこの男!もういいから逃げるにゃ!?」
振り向くとポーナを抱えて震えている。
「そこまで恐れる存在なのか?」
「確かに俺は他の奴らに比べたら有名ではないな」
構えをときカカカっと笑う。
「大戦でも大きくな戦果も上げてないからな」
狼って笑うと少し愛嬌がでるな。
「そうなのか」
大戦とか魔王とか知らないから、ふ~んとしか思えないな。
「あぁ、俺が六魔将をやっているのは強者と戦うためなだけだからな」
嬉しそうに龍也を見る。
「はぁ~俺って何でこんな奴に好かれるんだよ…」
世間話をするように受け答えする。
「何言ってるにゃ!?殺されるにゃ!?」
「さっきからうるさいぞ、ポーナの姉ちゃんも戦ってたろ?」
「私もそれなりに腕は立つし、そこら辺の奴に負けることないにゃ」
「そうだな、俺から見てもいい腕なのもわかるから疑問なんだ」
「お前は魔王軍の強さを知らないからにゃ!!しかも六魔将にゃ!!!戦況を単騎でひっくり返す力をもってるやつらにゃ…」
「テティお姉ちゃん…」
絶望する二人を見ると世間的にも有名なやつなんだな
「そこまで有名なら、なんですぐ気がつかなかったんだ?」
自然と疑問が出てくる、普通なら危険と分かってるなら手も出さない筈。
「それは俺が新参者だからだ」
俺の質問にグラードが応えてくれる。
「大戦の時はまだ『六魔将』になっていなかったから、俺自身はそこまで知られていない」
「なるほどな」
確かにそれなら即逃げるとはならないか……しかしまだ疑問が残る
「お前が新参者だとしても、ここにいる二人を狙う理由がわからない」
グラードは腕を組み考えた素振りを見せる
「信じてはもらえないだろうが偶然だ」
「どうやって偶然でそうなるんだよ!!」
異世界はアホばっかりなのか…
「俺はあまり族同士の争いに興味はない、あるのは強者と戦う事だな」
「全然理由になってねぇ…」
これだからバトル脳は…
「俺はたまに領地を抜けだして、こうやって様々な所で強者を探している」
「そんでたまたまテティ達に出会ったと?」
「そうだ」
(なるほど…感じた違和感はこれか)
龍也はグラードからあまり残虐性を感じていなかった、しかしポーナの状況を見ると疑問に思えた。
今グラードの話を聞いて納得した。
普通なら快楽の為、勢力排除の為、名誉の為戦ったりするもんなんだが…たまにいるんだよ…
自分の力量を測るためとか、自分を鍛えるために周りの状況を気にせず突っ込んでいくやつ。
まさに典型的なそれだ。
「お前みたいな奴は何度か会った事あるが説得しても無駄だよな…」
「ほぉ、俺以外にもそんな奴がいるんだな」
グラードは嬉しそうに殺気混じりの笑いを龍也に向ける。
「グラードだったか?俺と戦うならポーナ達に手を出すな」
「「えっ!?」」
「良いだろう」
「「ええっ!?」」
こうゆう奴は矛先が変わったら強い方と戦うしか脳がないんだよな
「タ、タツヤさん!?」
「死ぬ気かにゃ!?」
龍也とグラードは攻撃の構えとる。
グラードは殺気と魔力により周囲を歪ませ、龍也は気で対抗する。
「さぁ殺し合おう!!!!」
その声を皮切りに爆音が響き、お互いの地面が爆ぜる。
「きゃ!?」
「ポーナはお姉ちゃんの後ろにいるにゃ!!」
ポーナを戦闘の衝撃から守るため二人の周りに魔力を含んだ水展開する。
龍也とグラードの拳がぶつかり合う。
「さっきの狼とは段違いだな」
「ラドューとザンクか、お前程の手練れでは相手にならんな」
龍也の気の衝撃を避け大きく飛び退く。
「全力でいかせてもらう!!!!」
「『影狼』」
グラードが魔力を高めると先程の影が三体現れる。
「気配を持つ分身か…しかもダメージは通らない、なかなかデタラメだな」
「まだだ…『月光紅眼』」
するとグラードの筋肉が隆起し目が赤く染まる。
「グガガガァァァ!!!!!!」
「「ひっ!?」」
そら怯えるは…正直めちゃ怖いもんな
「イクゾ!!」
先程と比べ物にはならない速度で突っ込んで来る。
向かい討つためカウンターで迎撃しようとするが
『『……』』
「ちっ」
絶妙なタイミングで左右から影が襲いかかる。
瞬時に左右の影を掴み、龍也を中心に回転し向かってくるグラードに放り投げる。
しかし残りの影も空中からの踵落とし。
『!?』
しかし冷静に避け、拳でカウンターを決める。
そして最初の影がグラードにぶつかる瞬間を狙う。
右手に気を圧縮
影がぶつかる瞬間『崩牙』を繰り出す。
「なっ!?」
しかしグラードは影にぶつかる事無く、影を通り抜ける。
「ガァァァ!!!!!!」
瞬時に『不動』を行う、それと同時にグラードの拳が龍也の腹に入る。
「ぐぁ!?」
衝撃ではじかれた様に後方に飛ぶ。
「…バカナ」
グラードの『月光紅眼』は身体能力を高める代わりに判断能力が低下する、それを補うのが『影狼』。
複数の攻撃で相手の隙を作り、本体で叩く。
グラード程の身体能力なら大抵の実力じゃ瞬殺だ。
「俺もかなり驚いた」
龍也はダメージを感じさせず立ち上がる。
グラードは戦慄していた。
先程の攻撃は腹だけでなく、顔面に一撃、下半身に蹴りを入れたが腹部以外の攻撃は完全に防がれ、しかもダメージがほとんど通ってないのも分かる。
「見たことない技…元武術家として少し血が滾る」
「!?」
龍也の体が少し発光して、気が漂い周囲にも認識させる。
「綺麗…」
後ろで恐怖を忘れ龍也に見とれるポーナ。
「なんなのにゃ…」
テティはあまりの力に驚愕する。
「イケ!!!」
グラードは龍也の力に恐怖し、影達を突貫させる。
「例え身体能力が上がっても冷静になれないと意味がないぞ」
影達に蹴りを繰り出す。
「『天龍脚』!!」
次の瞬間、影が形も残らず消える。
「ナッ!?」
そしてグラードは影が消えた瞬間、目の前にいる龍也に驚きを隠せない。
「どんな時でも油断大敵だ」
グラードの腹に添える様に右手を置く。
「『天崩龍牙』」
「スバラシイ…」
満足げな笑みを浮かべ、すさまじい勢いで湖に飛んでいった。
湖に飛んだ狼を見て、苦笑いし空を仰ぐ。
「異世界に来てもやること変わってねぇな…」
上で見ているであろう女神に向かって愚痴を溢すのであった。
料理させてくれw