一品目 なりたいのは料理人
天道龍也君の人生はこれからどうなるのやら?
天道龍也17歳 『天道流武術』の後継者
龍也の師である『天道龍玄』の死により、弱い12歳で最強の称号と名高い『天道流』を受け継ぐ。
親は俺を置いてすぐに亡くなり赤ん坊の時に孤児院預けられた。
『この子には天賦の才がある』と孤児院を訪れた天道龍玄に引き取られた。
幼少からずっと武術漬けの生活を送り、師匠の病死後も敵に追われ、味方を救い、様々な困難を越えてきた。
しかし17歳の冬、誘拐された友人を助けに敵のアジトに乗り込み、敵の策略に嵌められ絶対的不利な状態に追い込まれた。
結果友人は助け出したが龍也は死んだ、そう死んだのだ。
そして死んだ龍也は現在ふわふわと空中に浮き金髪美女と話している。
「それで俺はなんで生きてるんだ?」
「そう思うのも無理もないですね天道龍也さん」
含みのある笑みを浮かべながら龍也を見つめる
「説明をする前に自己紹介からしませんか?」
「そうだな……俺は天道龍也だ」
ぺこりと頭を下げお辞儀する
「ふふっこう見ると本当に可愛らしい青年ですね龍也さんは!」
「とりあえずあんたも自己紹介をしてくれ」
呆れながらも催促する
「私は人類の皆さんには女神と呼ばれる存在です!」
見た目の美しさとは裏腹に可愛らしく胸を付きだし自慢げに話す。
「名前はーーーーーです!」
「ん?名前をもう一度言ってもらってもいいか?」
「ーーーーーですよ?」
「……聴力には自信があるが、名前の部分だけ聞こえない」
あーっと自己解決をする女神となのる美女
「女神の真名を教えるのは御法度なの忘れてました……」
「……あんた本当に女神なのか?」
「歴とした女神ですよ!」
子どもっぽく怒り出す女神、白いワンピースがふわふわと動く。
(……確かに俺の本気の一撃を無傷で受け止め、しかも本能的に敵わないと悟らさられる程の存在)
真剣な眼差し女神を見る、なぜか顔を赤く染め「きゃ!」とか言ってるが敵わない人物には変わりない。
(そして死んだ筈の俺がこうして話して動けてる時点で既におかしいんだ)
「そうですよ!おかしいと思ったら攻撃する前に冷静に考えてくださいよ!」
「…………今声に出していたか俺」
「いえ?心の中で話してましたよ?」
「……とりあえず女神なのは信じるよ」
「なんか尊敬の眼差しとかじゃなくて不気味がられてません私?」
ずぅーんと落ち込む女神、さっきからテンションの浮き沈み女神に飽きれ始めるが真意を聞くため仕切り直す。
「女神、改めて質問させてくれ俺は死んだのか?」
空中でのの字を書いていた女神は真面目な表情に変わる。
「正確にはまだ死んでいません、天国に行く一歩手前です。」
「一歩手前……」
女神に視線を向けると、なぜか先程まで何も持っていなかった女神がファイルらしき物を手に持ち、知的なメガネをかけている。
「天道龍也17歳 血液型はAB型」
「身長178㎝ 恋人はなし」
「武術家のわりにはとても可愛らしい顔付きで一部の女性ファンからは『天龍様』と呼ばれ『天龍ファンクラブ』も存在」
「……ファンクラブ?」
「『可愛らしい顔なのに脱いだら引き締まった体……最高です!』とファンの中ではそのギャップも人気」
「……誰だよそれ言ったの」
「髪は黒髪のショートヘア、一時期髪を切るのが面倒で後ろに一本結びをしていた時期がある、今じゃその写真はプレミヤが付くほどの価値がある。」
「……確かにそんな時期あったけど」
ふへへと不気味にファイルを見つめる女神。
「そして!今ここにいるのがその本人『天道龍也』君!!」
キャーとファイルで顔を隠し足を空中でバタバタさせる。
「………………」
「ちらっ」
なぜかファイルから少し顔を出し、効果音付きでちらっと見てくる。
「……あの女神さん」
「そんな畏まらなくていいですよ?カミちゃん、めーちゃんとか愛嬌あるあだ名とかで呼んでくれても良いですよ?」
「…………それ俺がここにいる理由関係ないですよね?」
「なんでさっきから敬語なんですか!?」
「とりあえず落ち着いてくれ女神」
ぶすーっと不機嫌になる女神を気にせず質問も続ける。
「俺はなんでまだ体があるんだ?普通なら幽霊みたいに魂とかになるんじゃないか?」
「鋭いですね!実は今の龍也君の状態は『神の力』を使って特別に実体と魂を分離するまえでキープしているんです!」
またもキリッとした表情に戻り説明し出す
「なぜそんなことを?」
「それは……」
少し押し黙る様にうつむく女神
「……俺は本当に死ぬ前に罪滅ぼしをしなきゃいけないとかか?」
頭に過ったのは死ぬ前に戦った刀使いの少女の事。
(あの子は俺ら『天道流』の性で生まれてからずっと奴隷紛いの扱いをされ、『天道』を殺すために作られた……それなのに俺は救えず殺した……)
(たとえ俺を殺しに来たとしてても、彼女を殺ずに無力化して救うべきだった……しかし俺の実力が足らないばかりに)
終わってしまった過去であるが悔しさで自然と拳に力が入る。
「…………ちっ」
「…………今舌打ちしたか女神」
「し、してないですよ!?別に今女の人の事心の中で考えてたからムカついたとかじゃないですからね!!」
プイッとそっぽを向く女神
「……お前は俺に何がしたいんだ」
思わずため息が出てしまう、シリアスに考えていた自分がアホみたいに見える。
「…………呆れませんか?」
「仮にも女神の事をそんな風に思うことはない……多分」
「た、多分って…………わかりました真実を語ります。」
空気が変わる様にピリッとする……重大な真実を語る時によくある緊張感だ……
「頼む話してくれ」
すっと深呼吸した女神は俺の目の前に来て四角い板の様な紙を向ける。
「サ、」
「サ?」
「サイン下さい天龍様!!!!!!!!!」
「…………」
「…………て、天龍様?」
俺はすっと色紙なる紙を受け取り
「ね、念願のサイン……」
キラキラと輝いてる目する女神に全力でぶん投げた。
「きゃ!?」
当然透明の壁に阻まれ紙は爆発したように飛び散る
「あぁ!?せっかくこの日の為に用意した色紙が!?」
飛び散った色紙を必死に集める女神
「お前こんな事の為に引き止めてるなら……」
馬鹿みたいな解答に思わず殺気を込めた目線を向ける
「あぁ///天龍様にやって頂きたいランキング第4位!!」
「はぁ?」
「殺気を込めた目線をもらう……あぁ……やばい///」
「…………」
「な、なんで顔背けてるんですか天龍様?」
「…………」
「あ、あの無視はちょっと……」
「…………」
「うぅ……」
「泣くなよ!?」
なだめるのに少し時間が掛かったがしょうがない事にしておこう……
「落ち着いたか?」
「えへへ天龍様に頭撫でてもらえた///」
ぽわーと笑みを浮かべ空中をくるくるしている、おいおいパンツ見えそうだぞ。
「て、天龍様なら!!」
「そんなことはどうでもいいから本題話せ」
「ど、どうでもいい……」
「すぐショボくれるな女神」
「は、はい!えっと本題はサインの話し……す、すみません違いますね!」
思わず殺気を向けてしまう
「私的にはサインも本題なのに……」
うぅと涙目になりながら話し出す。
「天龍様は現世で17歳という若さで亡くなられました」
「しかしその若さで救った命の数、世界を悪党から救った功績」
「神々からも一目置かれる存在でした」
「後数年もすれば誰もが敵わない世界最強になっていたでしょう」
少し悲しそうにして俺の事を見つめてくる
「ここまで世界に貢献したのに……と思った神々は決めました」
そして悲しい表情から一転キラキラと嬉しそうに笑みを浮かべ
「天道龍也さんを神候補として天界に招こうと決めたのです!!!!」
「……はぁ?」
「ふふふ!驚くのも無理もないことです!えぇ!異例中の異例ですもん!!」
鼻息を荒くし意気揚々に語り出す。
「なんせ私が押しきったからです!!実はこう見えて私天界でかな~り地位高いんです!!!偉いんです!!」
「……な、なぜ俺なんだ?強いやつなんて他にも居ただろうし、先に死んだ師匠とか居たろ?」
手で顔を隠しキャーと乙女な反応を示す女神
「実は神って暇な時多くて天界から下界を見ていたんです……」
「その時まだ幼い天道龍也君を見つけて……」
「俺を?」
「はい///可愛い子だな~って見てたんですけど、成長していく天道龍也君を見ているうちに貴方の強さ、優しさに虜になっていて///」
「毎日欠かさず見ていたら気付いたらファンになっちゃいまして!!」
ゾワッ、うぉ……なぜ美女に対して寒気がしたんだろ……こいつやばいやつだ。
「へへへ///なので私が迎えに来たんですよ!!天界に行けば名前呼びもしてもらえて……ふへへ///」
「…あの女神様」
「はい!なんでしょう?」
「お気持ちだけ受け取らせて頂きます。」
ぺこりと頭を下げお断りを入れる、一応礼儀正しく。
「…………えっ?」
「なので天国でも地獄でもいいので送ってください」
「ま、待ってください!?か、神になれるんですよ!?私と一緒になれるんですよ!?」
「…………すみません」
「な、なんで私と一緒の部分で顔ひきつるんですか!?」
わーわー騒ぎだす女神、あーこりゃ厄介だ
「落ち着いてくれ女神、神は凄いと思うが俺がなりたかった者ではないんだ」
わんわん泣いてる女神が目を擦りながらこっちを見る
「なりたい者?やっぱり最強の武術家ですか?」
「お前俺の事毎日見てたんじゃないのかよ……」
「さ、さすがプライベートの天龍様をガン見するのは失礼なので///」
「顔を赤らめるな」
「なので基本誰かと居たときしか見てないんです……」
「それでも凄いわ……」
女神が緊張気味に龍也に質問をする。
「天龍様のなりたい者とは?」
現世では誰にも話してなかった夢……ほぼ諦めていた夢
もしそれが叶うのなら
「俺は料理人になりたかったんだ」
「俺の夢は料理人だ……」
生まれてから一度も口にしなかった思い、誰かに伝えたかった夢
我慢していた分もう止まらない
「料理ってすごいだろ!様々な食材を調理し料理する!」
「人の心もお腹も充たさせる料理人ってのは本当にすげぇ!!」
「料理人のいる数だけオリジナルの料理も生まれ、たくさんの食材から生まれる可能性!!」
「俺は人を幸せにする料理人が大好きだ!!」
「天龍様……」
ふと目を瞑り大きく息を吐き、上を向き後悔した様に顔歪める
「……でも俺は武術家をする道に入り辞めることも逃げることも出来なくなってた」
「確かに救った命は多い、世界も救った事もある」
「だけど人も殺した、俺は力でしか解決出来なかった人間だったから」
「そんな自分が料理人なんてって……」
涙なんて生きていた中で殆ど流さなかった。
最強だったから泣くわけにいかなった、泣けるわけなかった、でも今は最強なんかじゃない。
「憧れた最初の理由は死んだ親が料理人をやっていたからって聞いたのがきっかけ」
「でも世界を飛び回り食事する度に想像したんだ……」
「俺も死んだ親みたいに料理作れないかなって」
ポタポタと涙が落ちる
「一回で良いから料理勉強して、誰かに振る舞ってあげたかった」
不意に顔を柔らかい感触が覆う。
「天道龍也君……夢を話してくれてありがとね」
目をあけ顔を上げると俺よりも少し高い位置に移動した女神が俺を抱いていた。
生まれて初めて声をあらげて泣いた。
「あの女神……もうそろ離してくれないか?」
「まだ駄目です、もっと甘えてください」
「充分甘えさせてもらったから……」
「嫌です!!まだぎゅっとしてたいです!!!」
「…………」
「だってこんなに強くて可愛らしい天龍様が私に甘えてくれたんですよ!?そりゃ離れたくないですよ!!!」
「………はぁ言わなきゃ良かったかもな」
素早い動きで離れ頭を下げる
「すみませんでした!!だから嫌わないで……うぅ」
「嫌わないから安心してくれ、むしろ死ぬ前にオレの夢を聞いてくれてありがとう」
素直に感謝の気持ちで頭を下げる。
「……天道龍也、貴方に選択肢を与えます。」
「…………選択肢?」
真剣な表情で語りかける。
「貴方は神になる権利を断りました」
「……はい」
「しかし神の恩恵を無下にすることは死ぬよりも悲惨な事になります」
「…………」
「なので私の独断で恩恵の内容を変えさせて頂きます」
「……えっ?」
「料理人になりなさい」
「で、でも俺は死んで……」
女神らしい慈愛の笑みを向ける
「なので!異世界で生き返ってもらって17歳からではありますが!第二の人生を歩んでもらいます!!」
先程の少しお茶らけた雰囲気で俺に恩恵を授ける。
「で、でも」
「ふふふ!何を言っても無駄ですよ!現世であれだけの貢献をしてもらったので無理矢理にでも行ってもらいます!!!」
突然俺の体が光だす
「な、なんだ!?」
「安心してください!!ちょっと無理矢理恩恵の内容を変えてたので……座標は……てきとうになってるけど……オマケのスキルもちょっとしか渡せないけど……」
「なんか後半頼りなくなってるぞ!?」
「だ、大丈夫な筈……」
「うぉ!?足が消えてる!?」
どんどん下半身から粒子になっていく
「後で絶対会いに行きますからね!!」
俺は抵抗することを止め女神に頭下げる。
「どんな世界に飛ばされるかわからないけど」
「それでも俺にチャンスをくれてありがとう女神」
「えへへ///天龍様のためなら!!」
そろそろ全身が消える
「絶対飯食わしてやるから食べにこいよ女神!」
「はい!当然です!」
そして俺は第二の人生に向けて旅った。
異世界料理人目指していざクッキング!!