①騎士を目指したけど門前払いされました。②騎士を目指したけど食糧難になりました。③騎士を目指したけど目が回りました。④騎士を目指したけど下僕になりました。
騎士を目指して村を飛び出し、行商人の荷馬車に乗せてもらって身ぐるみを剥がされたり、物乞い染みた事をしたら殴る蹴るの暴行を受けたりと、散々な目に遭ったけどわたしは元気です!
「――だから俺は怪しい者じゃないのです。寧ろ哀れで貧しい子羊なのです! さあ! このどうしようもない羊に同情するなら金をくれぇー!」
「申し訳ないが乞食はNG。人目につかない場所で一人寂しく死んでくれ」
「そんなぁー」
遠路遥々命懸けでやって来たというのに、町に入る事を許されないとはこれ如何に。
確かに、今の格好は襤褸シャツと捨てられた窓掛けを腰に巻いているだけだ。おまけに何日も体を洗っていないから臭いし汚い。何処からどう見ても病気を持ってそうです本当にありがとうございました!
けれど信じて欲しい守衛さん! 僕は健康体なんです!
「とっとと野垂れ死ね。次!」
このきったない体に触りたくないのか、俺を乱暴に蹴り出す守衛さん。門の前で順番待ちをしている人達はまるで汚物でも見るような視線をぶつけてくるが、今の格好じゃしょうがない。
中には同情の様な視線も混ざっていたが、ぐるりと首を巡らせると無くなった。関わりたくない感がひしひしと伝わってきますねー。
仕方がないので出直す事にする。でも、このままさよならは悔しいので捨て台詞を残す事に決めた。
「このくそったれめ! 何時かこのきったねぇ服をプレゼントしてやるからなー! 顔覚えたかんなー!」
何か言われる前に走り出す。後ろから何か聞こえたが、気にせず無視した。同情するなら風呂をくれぇー。
。・゜゜(ノД`)
門前払いされてから三日経ち、とうとう食う物に困りました。
今日まで、街道を通る馬車を襲ってみては返り討ちに合うを繰り返し、結局収穫は見逃してくれた冒険者がくれた干し肉のみ。
けどそれも尽きて、お腹がぐーぐー鳴ってます。
限界です。限界なんです。
今の今までは安全第一で、明らかに武装している集団は避けていたが、もう知るか。
「腹、減った。腹、……減った。は、らへ、った」
ふらふらと立ち上がり、辺りを見回すが上手く処理できない。
今何処に居る? 人は? 町は? 食べ物食べ物食べ物。
覚束ない足取りで森から出て、街道に入る。
太陽の位置から、何時もなら人が良く通る時間帯である事に気づいた。
豪華な馬車が、裕福な老夫婦が護衛を付けて何処かへ行く時間。
本来なら避けるべき相手なのだが、そんな冷静さはとうに消え失せていた。
身長と同じ、170㎝くらいの木の棒を手に、辺りを見回す。
丁度良く、別の町からやって来る豪華な馬車が遠目に見えた。
「るびぃ」
胸の辺りから小さな赤い光玉が飛び出る。村を飛び出るずっと前に契約した、炎の精霊。それがるびぃ。
体の回りをくるくると楽し気に舞うるびぃに、豪華な馬車を力なく指差して告げる。
「燃やして」
瞬間、爆音が轟き、紅蓮の炎が大空を赤く染め上げた。
(/--)/⌒●~*
燃え盛る炎をぼんやりと眺めていると、次第に意識がはっきりしてきた。
煌々と照りつく炎に目を痛くさせ、ポトリと木の棒が手から落ちる。
「なぁーにをしてんだおれぁあーーーー!!!」
頭を抱えて思わず空へ向かって絶叫した。
幾ら意識が遠くなっていて思考が纏まらなくなったからって、これはまずいでしょうに! るびぃは褒めて褒めてと言いたげに頬擦りしてくるし! この可愛いやつめ!
そもそも豪華な馬車を狙わなかったのは相手が貴族かそれに準ずる何者かの可能性が高かったからだろう! 老夫婦はそこまでやりたくないっていう最後の良心的な何か!
今の今まで見逃してもらえそうな相手を襲っていたのはさくっと殺されるのを避ける為と、もしも襲撃に成功して指名手配でもされたら騎士に成れないからっていう不安が有ったからだ。それだってのにもーー!
どうしようどうしようまじやべぇよこれぇ。とべそをかいている時だった。
激烈な風が吹き荒れ、雨雲もないのに豪雨が降り注いだ。渦巻く風は煙を晴らし、燃え盛る炎は雨に叩かれ鎮火する。
跡形もなく吹き飛んだ豪華な馬車、それが有ったであろう場所に二人の女が居た。
どちらも金髪碧眼、だが大人と子供という違いと、大人は軍服を着込んで子供を護っているという立ち位置。
「あー、無事だったのは良いけど、良くないけど良いけど、見逃してはくれないよねー」
苦虫を噛み潰したかの様な憤怒の表情が遠目でもはっきりと分かる。着飾った子供の方は未だ目を白黒とさせているが、突然襲った俺を助けてくれる程お人好し、である事に期待したいところ。
だが、その前に、
「無理、腹減って目回ってきた」
飢え死にするかもしれない。
俺は倒れた。
(×Д×)
目が覚めた時、「ああ、またか」と嘆いた。
溜まりに溜まった疲労がついにダムを越えてしまったのだ。元々体がひ弱だから仕方がない。生まれてからずっと付き合ってきた体だ。既に諦めもついている。
それでも、あのタイミングはないだろう
己の失態につい両手で顔を覆ってしまう。
空腹だった。確かに空腹だった。けど奇襲してすぐに倒れるのはない。相手さんも何事!? っと驚いたに違いない。
なんて気配りの出来ない奴なんだ俺は……。
違う、そうじゃない。
自分の思考にツッコミを入れてしまう。
思っているよりもかなり混乱しているようだ。まず考えるべきは気配り云々ではなくどうして生きているのかだろうに。
今更になって現状の確認をしてみる。
ずっと着ていた汚い服は脱がされており、変わりに病衣を身に纏い清潔なベッドに寝かされている。
部屋は案外こじんまりとしていた。今寝ている寝台と勉強机に棚、だが決して窮屈には思わない程度の空間がある。
絨毯が敷き詰められていて、素足で降りても問題ないだろう。
換気の為か、窓は開け放たれており柔らかな風を頬に感じる。窓掛けが風に煽られゆるりと靡いていた。
そこから麗らかな日差しが室内に差し込み、明るく照らしている。
雨上がりなのか、不快ではない湿った空気が鼻についた。
確認を終え、少しの疲労を感じ息を吐く。
どうやら随分長い間眠っていたらしい。体が重く感じる。
体から力を抜いて、ベッドに埋もれる。
すると、天井の一部がぱかっ、と開いて、薄い紫色の頭が出てきた。
そして髪とは対照的に濃い瞳を持つ少女が、アンニュイな様子で言う。
「うん、起きてますね」
突然の事に驚いて、唖然としていた意識が何が起こったのかを理解するのと、メイド服を着た少女が降って来たのは同時だった。
腹の上に股がるように着地する少女。意外にも、瞬時に覚悟したような衝撃は感じなかった。
「早速ですけど、貴方は私の下僕です。拒否権はありません」
何やら突然訳の分からない事を告げられた。
「三ヶ月間、こうして様子を見に来ていた私の時間と労力分はきっちりと働いてもらいますので、そのつもりで」
まるで決定事項であるかのように淡々とした口調。
だが、紫メイド少女の言葉から、気を失ってから三ヶ月が経ち、更に何処かの誰かに拾われたのだと分かる。
現状と、自分の置かれた立場を理解し、静かに言葉を紡いだ。
「ご主人様、て呼べばいいのかな?」
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顔文字は区切りで使っているだけで他意はありません。大体気分です。