5月25日
オリンピックをしのぐ規模、世界最大のスポーツイベント。それがワールドカップ。
全世界がスタンドで、スポーツバーで、街中で、自分の家で、それぞれの思いをピッチに送る。
勝てば歓喜が爆発し、負ければ落胆や涙が待っている。
3日前まで無名だった選手でも一躍スーパースターになれる。1時間前は救世主だった選手も戦犯に堕ちる。無名の新人が、頼れるベテランが、あの名将が、そして審判でさえ、たったの90分で人生を評価される。
まあ、こんなことはみんなわかっていることだ。今の話をしよう。
昨日行われたチャンピオンズリーグ決勝は、下馬評通りレアルが勝った。結果を見れば3‐0。くそ面白くない。しかし私は、その試合を目の前で見た私は、実に60年ぶりに涙を流したのだ。父が大事にしていた車にボールをぶつけて怒られて泣いたのが6歳だったか。
話がそれた。それで、わたしは敗者に涙を惜しみなく流した。あのレアルに立ち向かい、私の眼には十分苦しめたように見えた、勇敢な戦士たち。あれを見て泣かない人間は、レアルのサポーターくらいだと思う。あれ以上の気持ちの高ぶりを経験することはないだろう。わたしが次に泣く日は、玉ねぎを剥きでもしない限りは来ないだろう。
いや、その日はすぐ来てしまうかもしれない。私はこんなに涙もろかったかな?宣言しておこう。7月1日だ。
前回ブラジルがカップを掲げてから、1430日後、オランダ・ベルギーワールドカップ、通称ベネルクスワールドカップが開幕する。今から6日後だ。そのさらに32日後の決勝で私は泣くだろう。
なぜこうも自信満々に言えるか。それは行われるのが、前回ワールドカップのあの退屈さとは無縁の土地だからだ。そしてメンツを見れば誰でも納得するだろう。あの猛者たちが本気で戦い、それを潜り抜けた2チームの死闘なのだ。泣かないはずがないだろう。それまで涙はとっておきたい。
こんな爺さんでも熱狂に浸れるのは、フットボールの素晴らしい点だ。でも、こんな爺さんに心臓発作を起こさせそうになるのは、フットボールの悪い点だ。(笑)
選手にはベストコンディションで試合を迎えられるように、監督には切れた頭で試合に臨めるように、審判には冷静な心で試合を裁けるように、観客にはワールドカップを味わい尽くせるように、心から祈っている。
38日後にアムステルダム・アレナで会おう。
―ディートヘルト・クラン(サッカー記者)、オランダのホテルにて。
作業用BGM:Just the way you are (billy Joel)