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謎現象を不思議がりつつもヨンの街の神殿で登録を行い、カリスマさんは明らかにおかしかった今の狸と兎の情報を掲示板にあげようと葛篭の中身を検めていた。


「これ、山葵よねえ……?いったい何種類入ってるのかしら」


二人であれこれ葛篭の中身を検分する。醤油と味噌は予想通りだったのだが、濃口醤油、薄口醤油、溜まり醤油、再仕込み醤油、白味噌赤味噌麦味噌米味噌豆味噌……拘り過ぎだろう。鰹節や昆布など出汁の類にカリスマさんの言った山葵や辛子、山椒など思いついた限りとりあえず詰めました!みたいな内容であった。一番腑に落ちなかったのは大葉と茗荷である。完全に生もので日持ちしないのだが大丈夫なのだろうか?


「どうしましょ。こんなにあったらスクショをアップするのも一苦労だわねえ。醤油と味噌だけでもみんな盛り上がるだろうし……とりあえず2枚だけあげときましょうか」


カリスマさんが眼にもとまらぬ指さばきでウィンドウを操作している。ヨンの街のボス攻略スレと料理人スレ、変わり種アイテム情報スレと言う所に投稿したそうだ。


「さあて、これで後は検証班が色々調べてくれるでしょ」


にこにこしているカリスマさんは、茗荷を興味深げに匂うイルの横顔にうっとりしている。よっぽど好みなんだろうなあ。


「ああ、イルちゃんが後60センチ背が高かったら良かったのに~」


心の底から残念そうなカリスマさんだったが、ウールちゃんの顔がさっきから凄く膨れているのに気が付いてあげて欲しい。視界に絶対入らない位置関係なのだが、どうにか気付いてあげて欲しいのである。ほら、イルも気まずそうだ。


「……なんかごめん」


「……ンメ……メ」


「え?どうしたのウールちゃん?おやつ欲しいの?」


イルが謝り、ウールちゃんががっくりしながら首を振り、カリスマさんはひたすらに鈍感であった。ああ、私にもわかるウールちゃんの想いが切ない。でもおやつは食べるのか。


アケビを分け合い、私達は別れた。カリスマさんはヨンの街の周りにいるビロードカウと言う牛を狩りに行くのだと言う。名前の通りビロードをドロップするそうだ。ランランルーと歌いながら去っていった。


「俺らはどうするんです?」


イルと一緒に神殿へ歩く。正直、さっきの山にとんぼ返りするか初志貫徹でゴーの街で蜂の巣を採るか悩んでいるが。いややっぱり蜂の巣だ。ガラス瓶が浮かばれない。神殿からゴーの街を選択して移動した。


「なんか賑やかな町ですね」


神殿の中がすでにかなり騒がしい。イルは優しい、これを賑やかと表現したのだから。四方八方で楽器が鳴り響いており、正直私には騒音としか受け取れない。


「音楽の好きな町なのかね」


「ああ。道理であちこちで踊ったり歌ったりしてると思いました。毎日こんな感じなんですかね?悩みがなさそうだ」


神殿を出てギルドを探している道でもあちこちで派手な衣装の人達が踊っている。びっくりするくらい衣装に統一性がない。露出度も様々ならば振り付けもばらばらである。悩みがないかは分からないが少なくとも今は楽しそうである。


この街はとにかく道が真っ直ぐなので、ギルドもすぐに見つかった。ストレッチワスプはどこに生息しているか尋ねると、受付嬢はイルをじっと見つめながら教えてくれた。


「あ、あの、ゴウエスト林の中のフコイダンフラワーの周りに沢山巣を作ってます。もしよかったらあのこれ私の住所なんですけど」


ふむふむ、ゴウエスト林ね。メモ帳に書き留めた。イルは困った感じで受け取り拒否をしている。


「すみません、俺そう言うの興味ないんです。他を当たってください」


「ええっそんな、受け取るだけでも~」


受付嬢が食い下がるが、イルが一歩下がったのが合図だったのか他の受付嬢が彼女を抑えてくれた。まあ、仕事中だし諦めてください。一礼してギルドを出る。


「あの人感じ悪かったです。話しかけたの辰砂なのに無視してた。ああ言うのは嫌、ですね」


西門に向かう途中で、イルが不意に呟いた。あれをどうとるかは人それぞれだと思うが。


「んー。まあ、どんな人からも学んでいけばいつかアルフレッドさんみたいな大人になれるんじゃないか」


あれこれ思いついた台詞はどれも説教臭く、結局口に出したのは無難極まりない台詞であった。イルは素直にそうすると頷き、何となく後ろめたい気持ちになる。あまり下らない事を言わないで良かった。


ゴウエスト林にはフコイダンフラワーの群生地が点在するそうで、その周りを探せばすぐにストレッチワスプの特徴的な巣が見つかるそうだ。あまり人気の無いスポットなのか殆ど人がいない。出てきた雑魚は栗鼠とモモンガである。


「辰砂、採集してたらいいですよ。感覚掴みがてら雑魚は引き受けます」


イルが有難い申し出をしてくれて、そのまま離れて行った。500年ほど龍の身体だったのだから、今の身体はさぞかし違和感だらけなのに違いない。指が沢山あって落ち着かないと言っていたし。無意味に飛んだり跳ねたりしているのが見えた。


生えている植物類を鑑定していくと、多分これはスーパーシリーズの上位互換だと思われる薬草群が見つかった。その名もハイパーシリーズである。ゴーの街でまた薬草図鑑を探そうかな。とりあえず採集しておこう。


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