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聞こえない振りをしているうちに、服が素早く仕上がったらしい。一番数があった翼竜の素材は気に入らなかったという事で、銀背猿の素材とカリスマさんの手持ちの材料で作られていた。白と紫の長袍チャンパオである。飾り紐が銀で、さすがの趣味の良さだ。


「やっぱり龍と言えば中国服だと思うのよね。おまけに洞窟百足ケイヴセンチピードの素材が役に立つ日が来るなんて嬉しいわぁ、もう倒す時半泣きだったけどこれだけで報われた感じよ」


紫、この場合は蟲紫か。合わせ目から方袖だけに使われているのは百足素材なのか。まあ、私が着るんじゃないからいいか。イルもズボンになったので満足げに頷いている。


「すーすーしなくなって落ち着きますね。まあ顔だけなら我慢しましょう」


腰帯の結び方を教えて貰ってうまく結べたらしく、イルがドヤ顔になっている。ここでドヤ顔になっていいのはカリスマさんだけだと思うが。カリスマさんは胸の前で手を組んでうっとりしている。


「ああ……王子様にアタシが作った服を着て貰いたいわ……。良い予行練習になったわ、ありがとね。そうねえ、超特急でちょっと高めにしても、素材持ち込みだし上下セットと靴で100000エーンで良いわ。うふふ」


案外安かった。どうも百足素材はカリスマさん的にも不良在庫気味だったらしい。お金を渡して、一安心である。と、カリスマさんが良い笑顔で私を見ている。


「お姫様?もうイルちゃんは隠れなくていいじゃない?だから、上着もお役御免なんじゃないかしら」


確かにそうだが。属性防御の付いているこれを脱ぐのはいかにも惜しいと答えると、もう一枚外套を作ってくれると言う。フードのないタイプらしい。服を仕立てるのに30分かからないのだから、高レベルの裁縫師と言うのは末恐ろしい。


あっという間に翼竜製の上着が完成した。今回は体型や顔やイルを隠す機能を全部省いたそうで、ごく普通のノーカラーコートだ。前のよりも薄手なのに性能は同じと言うのが不思議である。超特急手間賃だけで済み、30000エーン。


「新しいアイディア膨らませとくから!たくさん街中とか歩いて頂戴、また明日ね」


明日はヨンの街のボスに挑戦する約束をして、キラキラしい笑顔のカリスマさんと別れた。このまま調薬に励もう、もう一つ部屋を借りた。イルは【調薬】を持ってないので、再び根付を制作することになった。


「こんなに簡単だったかな?糸が切れないですよ」


不思議がるイル。それは進化してDex値が1000超えているからだろう。350であれだけ作れていたのに、仕上がりが楽しみなような怖いような気分である。


調薬を繰り返しているうちに夜になった。ウールちゃんのレベル上げに付き合って採集した薬草が末恐ろしい量だったのである。たかがプラス1、されどプラス1。2倍と言うのは馬鹿にならない。


残念ながらまだ蜂の巣は手に入れられていないので、詰めるのは今日も割られる運命の瓶である。明日ヨンの街に着いたらゴーの街に移動して、蜂を探した方が精神衛生上良いかもしれないな。


翌朝。再び神殿前に集合。サンの街の宿屋は良くも悪くもビジネスライクであった。焼き魚と藻塩亭の人間臭さが懐かしい。一旦ニーの街に移動して、北門を目指して出発する。


「それにしてもよく似合ってるわねえ。アタシ鼻が高いわ」


ご機嫌のカリスマさんだが、私たちはどちらも大して拘りがないので正直よく分からない。まあ作者が気に入っているのだからいいのだろう。途中屋台でお弁当を買い込み、北門を抜けた。


雑魚を適当にあしらいつつ北の関所を抜ける。ここでもMPKに関する注意がなされた。決まり文句なのかもしれないな。関所を抜けるといい感じの里山である、蕗や蕨を探せそうだ。そこここに鑑定をかけて――昨夜とうとう識別を進化させた――急に植生が違うことを確認する。季節を無視して各種山菜が生えている、私が料理人だったら躍り上がって喜ぶところだ。


「採らないのですか?手伝いますよ」


辺りを見回しては喜んでいる私にイルも立ちどまって尋ねてきた。いや、いつかは採集したいけれど今はいいのだ。この世界において通常の食事が嗜好品に過ぎない以上、いつかやろうくらいで留めておいた方がいい。あれこれ手を出して既に手一杯でもあることだし。


「暇になったら採りに来よう、食用だけど薬草じゃないから」


そう、だから落ち着け私。たとえ好きなウドを見つけても落ち着くのだ。しかしなんだってウドの側にアケビが生ってるんだろうなあ。


「カリスマさん、アケビお好きです?お昼にでも食べませんか」


「まあ、あれ凄く甘いのよねえ。懐かしい。頂くわ」


追いつくついでに沢山生ったアケビを人数分だけもいでゆく。そろそろ狸の出る辺りだと思うのだが、一向に場所が広がらない。


『Warning!! Ill-Natured Tanuki Appeared!!』


唐突にウィンドウが出現、文字だけが表示された。カリスマさんと無言のうちに近寄り、それぞれ戦闘準備を取った。しかし、何でラクーンじゃなく狸なのか?性悪狸って。


「きゅう、きゅう」


道の側、木の下に狸が蹲っているのが見えた。ものすごく普通の狸だ。可愛いのだが、後ろ足を怪我しているらしく動けていない。様に、見える。


「……はっ!」


カリスマさんの渾身の一撃が狸の頭頂部を襲った。が、狸は間一髪で転がって棒を避け、逃げだした。やはり演技だったか。と言うか、あのウィンドウが出た後現れた狸に騙される方がどうかしているだろう。遁走した狸は古典的な煙を出して、ゆるキャラみたいな狸に変身を遂げた。


「いたいけな狸が怪我してるのにぶっ殺そうとするなんてお前ら鬼畜か!鬼!悪魔!オカマ!オラオラかかってこいや!」


特大の地雷をフライングアタックでぶち抜いた狸は、幻を操ったものの分身の術で2体になるのが精いっぱいと言う残念さを露呈させてカリスマさんとウールちゃんに袋叩きにされていた。人語を使う初めての魔物だったはずなのだが、何とも薄い印象しか残らなかった。


「……バカだなあの狸。俺でも言って良い事と悪い事くらい解りますがね」


途中で仲間を呼んでみたり、砂で目つぶしを図ってみたりと決して頭は悪くなさそうだったのだが。ひたすらに残念感だけが募っている。ドロップ品も変なものばかりであった。しかも各種1個ずつしかない上、二人なのに被り無しである。


「『老婆の皮』、『かっちかちなたきぎ』、『ミニ泥船』『ミニ木船』『芥子からし』、『木のかい』……」


どんなに鈍くてもここまであからさまならば気が付くだろう。かちかち山である。しかしそうすると兎が結局登場しなかったな。


「もし、そこのお方。この辺りで性悪狸を見かけませんでしたか」


ドロップ品の意図と用途について話し合っていると、背後から声を掛けられた。見ればそこにはちょこんと兎が立っている。これもゆるキャラ仕様で頭が大きい。跳んだら頭から落ちそうである。


「そうねえ、さっき一匹ぶちのめ……おほほ。倒したけれど、何かあったの?」


カリスマさんが応えると、兎は大きな頭と長い耳を片方倒した。


「性悪狸に、私のお世話になったおばあさんを殺されたのです。おまけにおじいさんにおばあさんで作った鍋を食べさせたのです。なので私も狸を殺そうと思って」


ああ、子供に優しくない方の話だった。兎のつぶらな瞳も、話を聞いた後だと狂気に満ちて見えて恐ろしくもある。


「しかしそうですか、狸は既に死んだのですね。もしよろしければ、倒した証拠を見せてもらえませんか」


首が反対側に傾けられる。カリスマさんは素直にドロップ品を並べてあげているので、私も出す。それらを兎は一つ一つ眺めていた。


「間違いなく、私の狙う狸だったようです。私の仕掛けた罠にまつわる品々ばかり。不躾なお願いですが、これらを頂くことはできませんか?おばあさんの想い出に」


「え、ええ。お姫様も良いわよね?……どうぞ」


アイコンタクトで兎にこれらを譲渡することを一瞬で決定した。明らかに一連のイベントのようであるし、兎に渡す以外の使い道などなさそうである。


「ありがとうございます。これからはおばあさんを偲んでおじいさんと生きていきます。お礼と言っては何ですがこちらを差し上げます」


兎がどこからか取り出したのは一抱えほどもある葛篭つづらである。人数分あるのか2つ出してきたそれを、カリスマさんと私が1つずつ受け取った。鑑定すれば『調味料・香辛料セット(日本)』とある。え?


「それでは、この度は誠にお世話になりました。さようなら」


兎がぺこりとお辞儀をした途端、私たちはヨンの街の前に立っていると言う不思議体験をしたのであった。


辰砂しんしゃ Lv.86 ニュンペー

職業: 冒険者、調薬師、魔法道具職人

HP:1425

MP:4180

Str:470

Vit:250

Agi:550

Mnd:630

Int:630

Dex:600

Luk:230


先天スキル:【魅了Lv.9】【吸精Lv.10】【馨】【浮遊】【飛行】【緑の手Lv.2】【水の宰Lv.7】【死の友人Lv.8】【環境無効】

後天スキル:【魔糸Lv.27】【調薬Lv.27】【鑑定Lv.1】【自動採集Lv.9】【自動採掘Lv.8】【蹴脚術Lv.16】【魔力察知Lv.20】【魔力運用Lv.22】【魔力自動演算Lv.1】【宝飾Lv.7】

サブスキル:【誠実】【創意工夫】【罠Lv.16】【漁Lv.2】【魔手芸Lv.10】【調薬師の心得】【冷淡Lv.4】【話術Lv.6】【不退転】【空間魔法Lv.8】【付加魔法Lv.13】【細工Lv.5】【龍語Lv.8】【暗殺Lv.2】【料理Lv.4】【夜目Lv.4】【隠密Lv.12】【魔法道具職人の心得】【文字魔法Lv.20】【木工Lv.5】


ステータスポイント:0

スキルポイント:80

称号:【最初のニュンペー】【水精の友】【龍人の標】【熊薬師の愛弟子】【絆導きし者】【老職人の一番弟子】


イルルヤンカシュ Lv.1 龍人

HP:10000

MP:7000

Str:1000

Vit:1000

Agi:1200

Mnd:800

Int:800

Dex:1200

Luk:100

スキル:【水魔法Lv.28】【治療魔法Lv.5】【高速飛行】【強靭】【環境低減】【手芸Lv.22】【アヴァンギャルド】【風魔法Lv.25】【雷魔法Lv.28】【龍化】【身体強化Lv.1】【息吹Lv.1】【龍眼Lv.1】【人語Lv.5】


スキルポイント:13

称号:【災龍】【水精の友】【ツンデレ】【絆導きし者】

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