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 意気揚々と地に足を付けて歩く。向かう先は生活雑貨店と金物店だ。鋏やスコップ、袋類、つるはし等の基本的な採集グッズを買い求めなければ。品質指定があるのなら、ただ引きちぎればよいというものでもないだろう。


 道を一本またいだ少し細い道に、可愛らしい店があった。生活雑貨と言うにはいささかファンシーだ。店先に飾ってあるのは簡素なアクセサリー類である。ピンクの物がかなり多い。


「おやあ、いらっしゃい。何が入り用だい?」


 店先の雰囲気に反して、出てきたのは貫録のある中年女性だった。この方の趣味なのだろうか?まあいい、採集道具が欲しい旨を伝える。


「あんらまあ。来訪者ってのは見かけによらないけどあんたは特別よらないねえ。そんな細腕でピッケル使うのかい?腕折るんじゃないよう」


 違います、これは竜胆さんの趣味ですと内心で反論しつつ、おばさんの悪気はない悪口を聞き流した。薬草はまぜこぜに入れるとおかしな作用を起こすことがあるということで、袋の枚数は予備含め50枚ほど。1000エーン。初心者ピッケルと初心者鋏、初心者スコップはなぜか同じ値段で各300エーン。【鍛冶】スキルを持つ者なら、もっといい物を作れるそうだ。私も取っておけばよかったろうか。それからノース山にはおいしい湧水があるらしいということで大き目の水筒2本600エーン。


「あんた、ノース山には魔物が出るけどポーションなんかは要らないのかい?」


 親切なおば様にポーションも勧められたが、まだ初心者ポーションは10本そのまま残っているので遠慮した。その代わり、日差しが結構暑いのでフードつきのマントのような外套を一緒に買った。2000エーン。しめて4500エーンの支出である。早いところ取り返さねばなるまい。


「はいよ、毎度あり。あらあらあんた魔法使いなのかい?何だってピッケルなんかいるんだろうねえ、さっきもエルフのあんちゃんがピッケルしこたま買って行ったし来訪者ってなあ変わってるさねえ」


 空間魔法Lv.1で使えるストレージを開いたのが見えたらしい。そしてエルフでありながら鍛冶の道を選んだ変わり者の先達もいるようだ。茨の道を往く者はどこにでもいる。


 簡単にお礼を述べて噴水広場へ戻る。北の門を出ればノース山が見えるらしい。町の中からは全く見えないが、そのあたりはさすがゲームである。と、何やら騒がしい。


「やめんか!」


「るせー!」


 喧騒に向かうのは物凄く気が進まないが、クエストの期日は今日中である。それほど猶予が残されているわけではないので、早速外套のフードを活用しながら足早に通り過ぎようとした。


「おっらああ!」


 野太い気合いの声と、見計らったかのようにこちらに飛んでくる人間。信じられない間の悪さにがっくりしながら糸を解した。噴水前で暴れる馬鹿者が憲兵を投げ飛ばしたのだ。大人しく捕まってろよと思いながら、哀れな憲兵を受け止める。網にしたから骨折などはないだろうが、念のため声を掛けよう。


「お怪我などありませんか?」


「ああ、すまない……っ!?い、いや、大丈夫だ!!本官大丈夫であります!!」


 最初はよろめいていたが、にわかに元気になって直立不動になった憲兵A。大丈夫そうなので、さっさと移動しよう。


「では、これで……」


「何助けてんだ糞が、ああ?死ねや」


 何故私に絡む。北の門に向かわせてくれ。内心の毒付きなど気づきもせず、馬鹿者がいつの間にかこっちに走りよりナイフを私に刺そうとしていた。


「あぶなっ――」


 憲兵Aが手を伸ばしている。そんなに目を開くと目玉が零れ落ちるのではないだろうか。どうでもいいことを考えながら馬鹿の手首に手を添えた。はい、糸。竜胆さんは私の事を結構よく分かってくれていたらしい。この武器は私と相性がいいようだ。


「あれ?あれあれ?」


 馬鹿が身動きできぬように糸で縛り上げていく。後は引き渡してとっとと逃げるか。


「ご協力感謝します、来訪者」


「いいえ、では、これで失礼します」


 憲兵Aは下っ端らしく、私の糸の上から縄で縛りなおしていた。声をかけてきたのは憲兵Bである。ちょび髭が結構偉そうなのでAの上司に違いない。そそくさと逃げだすことにやっと成功する。なかなか思い通りにいかないものだ。


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