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「何と言う凡ミスだ」
いっそ恥ずかしい。HPバーを見ている筈なのにアイコンが目に入ってないとか。今までずっと楽勝だった弊害がこんなところで表面化するとは露ほども思わなかった。
「私自身が対等以上の相手に挑んだことがないのが原因だな……」
あの森でも、私はただ駆け抜けながらちょっと蹴ったり糸を絡めて転がしたりしただけであった。後処理はすべてイル任せだったため、圧倒的に経験が足りてない。
「俺もあんな格下に叩きつけられるとか、気絶とか、悔しいです……」
サンの街の宿屋にて反省会である。はぁ。とにかく、私の弱点は糸が通用しない相手に出来る攻撃が威力の足りてない蹴りだけだということである。イルの方は、体格差もあるがとにかく回避を意識することから始めればいいだろう。では、私はどうしたらいいのか。
「……」
糸を指でなぞって思い出す。リーダー格1体は、糸で切断できていた。引き換えに腕の筋が切れたが。今までもっぱら糸は捕まえるか刺し貫くかにしか使っていなかったけれど、もしかすると糸に物理的な攻撃力を持たせることができるのではないだろうか。細い糸を指に巻いて食い込ませると、いずれ皮膚が切れるように。
物は試しと、適当な木片を取り出した。糸に、触れたものを斬るイメージを乗せて木片に一巻き。締め付けると、手ごたえすらなく木片が切れた。思ったよりかなり鋭い切れ味である。
「これならいけるか?」
明日の周回で使ってみるべきだろう。魔法無効の相手に通じないようならば本格的に蹴りを磨くか、他の手段を見つけなければならない。
「そう言えば、辰砂は戦うとき【飛行】を全然使わないけどなんでですか?」
空中を滑らかに機動していたイルが振り返った。と、言われても落ち着かないと言う他ない。
「咄嗟に避けようと思うと足で地を蹴るから。足で空を掻くだけになって避けられないからだな」
ほら、とやって見せるとイルは八の字を描くように身を捻った。少し考えているような間の後、提案が出てくる。
「【飛行】が使えたら、幅が広がらないかなと思うですよ。今の辰砂が一歩踏み出す力より【飛行】で加速した方が蹴りに威力も乗ると思うわけで。蹴るときだけでも使えるように練習した方がいいです」
む。それはそうかもしれないな。身体の使い方なども所詮は自己流である。インスタント且つコンスタントに威力を出せるなら、その方がいい気がする。
「後、たまに使ってる水とか樹の魔法も使えばいいです。草洗ったり木曲げたりしてるやつ」
【水の宰】と【緑の手】のことか。もっぱら採集時の便利魔法として使用しているのでいまだにLv.2だった気がする。……そういえば、もう一つおまけのスキルがあった気がするな。ステータスを開いて先天スキルを確認した。
【死の友人】。そうそう、これだ。今まで興味もなかったので詳細すら知らないままだが、戦いと言う面においては有効そうである。詳細を見てみよう。
『終を司る。昏い輝きが生者に死を与え不死者に滅びを齎す』
「簡潔すぎる」
ざっくりしすぎてよく分からない。宙を泳ぐイルを手招きし、ウィンドウを見せるとイルも難しい顔をした。
「使ってみないとわかんねえですよ。とりあえず、これを使ったら昏い輝きとか言うのが出てきて、それを当てたら相手が死ぬんじゃねーですか?」
「多分そうなんだけど……他の魔法とかは魔法名とか効果がはっきり設定してあるのに、水の宰も緑の手もこれも説明が曖昧なんだよな」
『流転を司る。水は全てに恵みを齎す』
『遍く植物を司る。緑なす手は萌を齎す』
それぞれが【水の宰】、【緑の手】の説明である。かろうじて【緑の手】には活性化と言う魔法があるものの、これ以外では何もない。かといって木を曲げるなんてことも出来たしなあ。本当によく分からない。
「んー。何ができるか決めるんじゃなくて、何でもできるって思ったらいんじゃねーです?決められてないんだから、やってみたらいーんです」
イルが人生の先輩に見えてきた。いや、多分500歳間近の龍らしいのだけれど。普段の様子からするとまったくそんな気がしないのだ。早速やってみよう。
……翌日、道すがら死の友人を試してみると大変有用であることが実証された。触った相手を次々即死させ、禍々しそうな光を纏った容姿も相まって死神みたいだと言われてしまったのはご愛嬌である。ちょっと自分でも思ったのだ。
辰砂 Lv.70 ニュンペー
職業: 冒険者、調薬師、魔法道具職人
HP:1185
MP:3380
Str:470
Vit:250
Agi:500
Mnd:610
Int:610
Dex:530
Luk:230
先天スキル:【魅了Lv.9】【吸精Lv.10】【馨】【浮遊】【飛行】【緑の手Lv.2】【水の宰Lv.3】【死の友人Lv.2】【環境無効】
後天スキル:【魔糸Lv.12】【調薬Lv.20】【識別Lv.28】【自動採集Lv.9】【自動採掘Lv.8】【蹴脚術Lv.4】【魔力察知Lv.11】【魔力運用Lv.15】【魔力精密操作Lv.25】【宝飾Lv.7】
サブスキル:【誠実】【創意工夫】【罠Lv.13】【漁Lv.2】【魔手芸Lv.7】【調薬師の心得】【冷淡Lv.4】【話術Lv.6】【不退転】【空間魔法Lv.8】【付加魔法Lv.13】【細工Lv.5】【龍語Lv.6】【暗殺Lv.2】【料理Lv.4】【夜目Lv.4】【隠密Lv.12】【魔法道具職人の心得】【文字魔法Lv.20】【木工Lv.5】
ステータスポイント:0
スキルポイント:68
称号:【最初のニュンペー】【水精の友】【仔水龍の友】【熊薬師の愛弟子】【絆導きし者】【老職人の一番弟子】
イルルヤンカシュ Lv.29 仔水龍
HP:7500
MP:5000
Str:1150
Vit:1150
Agi:350
Mnd:630
Int:630
Dex:400
Luk:100
スキル:【水魔法Lv.28】【治療魔法Lv.5】【浮遊】【飛行】【強靭】【短気】【環境低減】【手芸Lv.19】【アヴァンギャルド】【風魔法Lv.16】【雷魔法Lv.17】
スキルポイント:2
称号:【災龍】【水精の友】【ツンデレ】【絆導きし者】