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「……ンメェ~」


「あー、まあ気長に行けですよ。今日だけでだいぶ進んだんだから、すぐ足りるようになるはずですって」


帰り道、沈んだウールちゃんと慰めるイルと言う不思議な絵面を眺める私とカリスマさん。顔を見合わせて、何か聞いた?いいえ何も、と言うアイコンタクトを交わす。


「もっと強くなりたいみたいね?だけどもうレベル10まで上がったのにねえ」


どうやら進化した魔物はレベルが1まで戻るようで、はじめのうちはレベルもじゃんじゃん上がったらしいのだがレベル10になってからは頑として上がらなくなったそうだ。


「あんまり弱い相手だと経験値にカウントされない仕様でもあるのかしら?ちょっと狩場を考えないといけないわね」


困った顔のカリスマさんに、一応お手伝いができる時は付き合う旨を伝えておく。喜んでもらえた。


「助かるわぁ、ありがとね。それじゃ、お姫様の修行が終わったら噂の修行場に行ってみない?経験値稼ぎにもってこいらしいのよね」


修行場?詳しく聞いてみると、サンの街の西、サンウエスト砂漠に修行場と言う施設が唐突に存在しているのだと言う。中に入ると道場のような雰囲気で、十段階の難易度を選ぶと人数に応じた魔物が出現し、その全てを倒すとちょっとした賞品が貰えるそうだ。


「人数別に構成も少しずつ違ったりして、結構奥が深いらしいわよ。まだ上3つは誰もクリアできてないんですって。チャレンジ中は死んでも死に戻り扱いにならなくて、ペナルティもつかないから人気らしいわ」


弱い魔物をなぶるよりは強い魔物に挑む方が、自分の経験と言う意味でも有益だろう。私達にはさらに有益である。なんといってもイルもウールちゃんも死んでしまったらレベルが下がると言う酷い制約が付いているのだ。


「それ、とてもいいですね」


ぜひ行こうと約束を交わして、今日は別れた。明日を終えたら一旦ログアウトして寝ようかな。休みの日とはいえサイクルを崩すと仕事に響く。北門から森の方を眺めて今日の反省。


斧がないので、魔力が通る木を採集することができないのが惜しまれた。生木は使えないけれども、伐採したら急に木材になってないものだろうか。そうしたら元手すら要らない野営セットが作れるのに。待てよ、伐採?


ちょっと嫌な予感がする。取得可能スキルリストの生産タブから該当スキルを探してみると、やはり。【伐採】スキルが存在していた。【自動採集】の守備範囲に、木は含まれなさそうである。いっそ取ってしまおうか、しかし野営セットの為だけに木を切りまくるのもちょっと気が引けるし……しばらく逡巡して、保留にした。老師の所を卒業してから決めよう。


焼き魚と藻塩亭にて久々にから揚げを食べた。丁度新メニューの考案会をやっていたところに出くわしたのだ。カレー味っぽいスパイシーな味付けと、から揚げをバジルと角切りトマトと薄焼きの生地で包んだ見た目はタコスっぽい不思議なものが美味しかった。イルはチーズを中に詰めた濃厚なものが気に入ったらしい。一人で3つも食べていて、私の分がなくなったのでデコピンしておいた。


要らないと言われたものの、夕食分のエーンを机に置いて部屋に戻った。この宿の家族は基本的に商売が下手である、取るものは取らなければ損ばかりしてしまうのに。良く今までやってこられたものだ。イルと魔力を譲り合い、就寝。いつも思うがこのサイクルは非常にエコロジーである。


翌朝。今日も今日とて木箱を作る。願い虚しく昨日も野営セットは売り切れたらしい。皆野営セットを持ってどこに向かうのだろうか。


老師監修のもと、文字を書き込んでいく。本当に∞世界での私たちの学習速度は凄まじく、あれだけ手こずっていた文字もガイドさえあればサラサラ書ける。確認だけは気をつけなければならないが、これは正しく書けているようだ。


「うーむ。お主すでに空間拡張まではマスターしたとみて良いのう。ちょっと向こうから樫を大小適当に持ってきなさい」


樫の木材は、どれもこれも長細い形に整えてあった。削ったら丁度杖になりそうである。


「ん。では好きなのを使って、自分が使いやすいと思う形に整えなさい。何でも良いぞい」


何ともざっくりした指令である。自分の身の丈ほどの木材を持ってみた。杖術等の心得はないし、登山の手伝いにしては長すぎる。これではないだろう。腕ほどの長さの木材も、思いつく用途が精々ぶん殴るくらいしかない。


あれこれ持ったがどれもしっくりこない。しばらく考えて、そもそも手は空けておきたいことに気が付いた。ペンを持ってこの棒を持って作業するのはいかにも効率が悪い。持ち替えるのも面倒だ。


この細長い木材を輪にできないだろうか?腕輪なら邪魔にならないだろう。どこかのアクセサリーショップで見た無骨な木の腕輪を思い出した。表面を磨いて木目を生かしてあったのだが、あれはどうやって作ったのだろう。木材って曲がるのだろうか?


樫の木と言うのは実によく魔力が通る。曲がれ曲がれと念じながら曲げてみると本当に曲がった。伐採され、乾燥しきった木材にも【緑の手】は効果を及ぼすようだ。水の宰と言い、融通の利くスキルである。うまい事円環に作れたので表面を磨いて、イメージ通りの無骨な腕輪に作り上げた。


「老師、できました」



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