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「お姫様、ほんとはゴーの街に行ったでしょ。どんなところだったの?」


カリスマさんがウール君のブラッシングをしながら話しかけてきた。やっぱりばればれだったか。時間の都合で、残念ながら森も街も何一つ確認できてない話をした。また近いうちに行かなければ。


「まあ。……ソロでも行けそうねえ。うーん、サンの街とヨンの街は後回しにしてゴーの街だけでも行っておこうかしら」


お互いソロなので、フィールドボスが鎮座する街にはとても挑戦しづらいのである。からくりさえわかれば戦闘なく抜けられる街は貴重であった。


「今、私は魔法道具職人の修業をしているんですが……もしよかったら。一緒にサンの街とヨンの街に行ってみませんか、卒業した後の話になるのでまだ先ですが」


勿論、それまでに行く予定があれば断って貰って大丈夫だと続けると、カリスマさんは驚いた様子で胸の前で両手を振った。


「そんな予定ないもの、すっごく有難い申し出よ!大体情報も出そろってるし、サンの街のボスはフルパーティならレベル30あれば大丈夫ってことだから、行けると思うわ」


卒業したら連絡することにして、今日は店を畳んだ。ポーションも売れたし情報も流した。安心して薬草採集に勤しもう。


「……ンメッ、メメエ」


ん?カリスマさんとウールちゃんに別れを告げると、ウールちゃんが一生懸命何かをカリスマさんに訴えている。カリスマさんも全然分かっておらず、おやつかしらとか言いながら焼き菓子を取り出して食べさせている。もぐもぐするウールちゃんは幸せそうである。


「百年経っても通じねえなあ、あれじゃ……」


イルが小さく呟いた。どう言う事だろう?この間の内緒話に関係しているのか?


「辰砂、カリスマ……さんに、ウールはレベル上げたがってるって伝えてやってください」


イルの発言をそのままカリスマさんに伝えると、カリスマさんは飛びあがらんばかりに驚いた。


「ええ?ウールちゃんが?そ、そうなのウールちゃん?」


「……ンメ!」


「そうなの……?今まで一回も頭から降りた事無かったのに、どうしたのかしら」


カリスマさんの頭上には沢山のはてなマークが浮かんでいる。しかしイルはそれ以上口を開こうとしなかったので、やっぱり詳細は闇の中であった。


「ああそうそう。お姫様、今日はどこに行くの?この街の周りだったらアタシも採集したい物があるんだけど付いていっても良いかしら」


急にカリスマさんが店を片づけ始めた。成程、カリスマさんはウールちゃんを愛しているなあ。


「今日はニノース山で薬草採集をしようかと。そのあと谷で採掘に励みたいんです、イルには周りの魔物を倒して貰おうかと思っています」


と、なれば。薬草はどこでも採集できるので、ウールちゃんが最もとっつきやすい弱めの所に行くことにした。レベルが一番低いのが北側だし、採集と採掘が隣り合っていて便利な所でもある。帰り道にちょっと殺されかけたがまあいい所だ。


「まあ素敵!アタシもあそこの魔物の素材と石が欲しかったの。じゃあ、お邪魔するわね」


と言うわけで、早速ニノース山へ移動することになった。試着室を活用してカリスマさんがアオザイ姿になり、ご機嫌のウールちゃんを頭に載せていざ出発である。よし、今日は一人じゃないし魔力察知の練習から入ろう。


歩きながら、話しながら、周りの魔力の流れを感じる。木にも魔力の通った物が所々生えている事を初めて知った。そして薬草類も、もれなく通っている。ああ、こういう見分け方もあるのか。


「さて、お姫様は薬草類を採集するのよね?あたし達は少し離れて魔物狩りして来るわ。そうね、2時間後に連絡取り合って合流しましょうか」


「解りました。お気をつけて」


カリスマさんから降りたウールちゃんにも手を振って見送り、イルに護衛をお願いする。


「仕方ありませんねえ。もう直ぐ成龍ですし頑張っても良いですよ」


どことなく嬉しそうにイルも引き受けてくれて、さてそれでは採集兼識別の練習に入るとしましょう。薬草を見つけては目を近づけ、識別を発動。成程老師の助言は正しい、この距離なら視界に収まる名前は数十に留まっている。頭も痛くならない。


知らない名前の植物も一応確認しながら採集を続ける。時間がおしている訳ではないので摘んでは傷んだ葉を取り除き、水の宰にて洗浄しては袋に入れる。ストレージから出し入れするのが面倒なのだが、種類別にストレージの入口を設定出来たりしないものだろうか。


「……む」


技量が足りないか。3つが限界だった。集める薬草の種類を考えると、20種類くらい常時展開していたいのだが、まあこれは要練習だろうな。一番使用頻度の高い袋を3種類設定するだけでも大分効率が上がるので、ひとまず妥協しよう。


しばらく採集を続けていると、おかしなことに気が付いた。袋が一杯になるのが早すぎるのである。いつもの約半分の時間で袋が埋まる。試しに、薬草を新しい袋に1本だけ入れてみた。それから袋を覗きこむとあら不思議、2本入っているのである。


ステータスを見直して、【自動採集Lv.5】に【採集品1個ボーナス】が増えている事を確認した。こいつの仕事だ。とてもいい効果にほくほくしながらどんどん採集。イルが時折魔物をやっつけているのを感じつつも集中した。イルの魔法は魔力が濃いので、それほど意識しなくても感じられるのである。相変わらずオーバーキルなのだ。


気が付けば、空いた袋が無いと言う状態になっていた。採集を開始したあたりからかなり進んでしまっているのも無理はない。イルは……付いて来ている。やはり私よりイルの方が魔力だか気配だかの察知が上手いのだろう。たまにあらぬ方向に魔法を飛ばしている。


「イル、疲れてないか?」


イルの方へ歩きよりながら声をかけると、イルは空中でひらひらと背中を追って踊っていた。


「全然。正直チョロ過ぎて困るくらいですとも。今度はドングリ呼ばないで森入ってみようかってくらいですよ?」


さっきのシュンの話をしっかり聞いていたらしい。まあ、状態異常の薬も作ろうと思えば作れるし、悪くはないかな。


「ウールちゃんがもうちょっと強くなったらそうしようか。よく解らないけど、強くなりたいんだろう?あの子。戦った事が無いってカリスマさんが言ってたし、少しレベルを上げないとゴノース森はきついだろう。まあ……付き合えればの話だが」


時間が合えば勿論付き合う気でいるのだが。そもそも誘って貰えなければいくら待っていても仕方ない話だ。


「根性だけはありそうですもん、あいつ」


はー、とイルが溜息をついた。今のところウールちゃんが何を考えているのかを知るのはイルだけだ。放っておこうと言いださないあたり、面倒見のいい龍である。


「そこらは私達には解らないけど、まあ頑張るうちは付き合っても悪くないだろう。そろそろ2時間経つな。よし、別れた辺りまで戻ろうか」


ふたりで山道を戻ることにした。次はニノース谷だ。



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