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 翌日、改めて魔法道具専門店を訪ねた。老師せんせいは既に作業台にあれこれ並べており、袖をまくりあげて仁王立ちしていた。


「遅かったのう! 待ちくたびれたわい!」


 開口一番叱責されたが、今は日の出の少し後である。かなり早いと思うのだが。


「わしは楽しみ過ぎて日の出前から待っとったわ! 一般的にどうかなんぞ知らんわい」


 今日も老師は元気過ぎるようである。早速専用ペン作りに移ろうと言う事になったので、ちょっと待って貰いイルに昨日の絹糸と、磨いて穴を開けた石達を取りだした。私の作業中はイルがどうしても手持無沙汰になるので、暇つぶしに根付を作って貰う事にしたのである。


「組み方は昨日教えた通りだから。飽きたら言いなさい、また他の物を出す」


「俺投網も作れるんですから、これくらい余裕ですとも! 辰砂は俺の根付の出来栄えにビビると良いのです」


 徐々に慣れ始めたのかそれとも過渡期なのか、微妙に不自然な敬語である。この辺りはまたアルフレッドさんと喋りながら矯正してもらえばいいか。頑張れと応援して私は老師の元へ戻った。


「水龍にあんなことさせて罰当たらんかのう……まあ、わしに当たるんじゃないしええか。さて。昨日煮詰めた涎に、作りたいペンの長さの二倍に揃えた筋繊維を漬けた物がここにある」


 取りだされたのは紙包みである。涎は煮詰めると劇的にゲル状になったので、それに筋繊維を押し込んでまとめたら紙で包んで昨日は終了だった。


「それと、握りの楡の木は師匠であるわしが削った。不自然な所が無いか握ってみい」


 渡された木のパーツを握りこんでみる。丁度ボールペンなどのグリップ部分に似ているが、普段使う細身の物よりかなり太めであった。多機能ボールペンくらいあるだろうか?


「握りやすいですね」


「よし。では昨日選んだ水晶を取ってきなさい」


 言われた通り、昨日窓際に置いて帰ったペン先を取って来る。なんでも、専用品を作るときは石に使用者以外が触れないようにしなければならないらしい。道理で昨日形を整える際にさんざ文句を垂れつつも「貸せ! わしがやる!」とは言われなかったわけだ。


「ま、最近の学説じゃあ根拠のない流説なんて言われとるがの。迷信結構! わしはわしの流儀でやるだけじゃわい」


 魔法道具学会なんて大層な会も存在するらしい。新しい技術や魔法文字の論文が毎年発表されるそうだ。


「年々魔法文字大全が改修されるから覚えるの大変じゃよ。弟子も頑張るんじゃぞ。よしよし、一晩月明かりを集めたペン先を筋繊維に接続するんじゃ」


 筋繊維から余分な涎をこそぎ落として半分に折り曲げ、両方の先端と水晶を繋げる。繋いだところだけを少し炙るとあっという間に固まった。


「ふむ、うむ、中心が一直線になっとるな。使えそうじゃの。よし、では断魔水晶の筒と握りを同じように接着せよ」


 断魔水晶で作られているらしい筒は、とても見慣れたボールペンの本体部分にそっくりであった。ボールペンのカートリッジを交換している気分になってきたのは仕方ない事だと思う。グリップを本体に重ねるようにして涎で接着。これも昨日煮詰めている時には固まらなかったのに、不思議素材である。


「筒の中に余った涎を注ぐのじゃ。中に芯を入れるから入れ過ぎるでないぞ、溢れると拭き取るのが大変じゃからの」


 加減の難しい話である。あてずっぽうで7分目くらいまで注ぎ、芯を中に差し込んで真っ直ぐにする。うーむ、中身が涎だと知らなければ洒落たガラスペンにも見えなくもないような。


「ほれ、蓋じゃ。これくらいの精度を出さんと売り物にはならんからの、精進せいよ」


 蓋と言うかカバーと言うか、円錐状の先端を切り取った形のそれをペン先側から差し込んで握りにねじ込んだ。手仕事と思えぬ正確さのネジ切りである。軋み一つなかった。


「今逆さにすると涎が染み出るからの。そのままの状態で蓋の部分を炙るのじゃ。ん、もうええ。やり過ぎると中身まで固まる」


 つまり、この中身の粘つく涎はずっと涎のままなんですね。自作とは言え少しばかり気が重い。せめて涎じゃなかったら良かったのに。


「よし! 形は出来たの。仕上げじゃの。魔法道具師の真髄を見せてやろうぞ」


 老師は何時の間にか自分のペンを持っていた。私と同じように無色のそれを握り、今しがた作ったペンを机に置いて息を深く吐いた。


 数度深呼吸をしてからペンを使いだした老師は別人にしか見えなかった。最初のくたびれた老人でもなく、ハイテンション爺でもなく、今は確かに熟練の職人としか言いようのない雰囲気を纏っていた。ペン先が握りの上で細かく動き、光が跡を残す。流れるように線が形を作っていった。


 老師がペンを置いて私を手招いた。近づいて老師の仕事を観察する。握りに隙間なく書き込まれたそれは、良く見ると全てがひと筆で描かれていた。つまりこれ全部が、一文字と言う事だ。覚え切れそうにない文字はいっそ絵のようですらあった。


「書いた魔法文字は5分ほどで完全に定着する。定着したら目には見えぬようになる。その字を覚えられるのは5分だけじゃ、大全には載っとらんから頑張れよ」


 一仕事終えた老師はすっかりくつろいだ様子でイルの方を眺めている。5分でこれを覚え切れる自信が無かった私はカンニングをすることにした。スクリーンショットである。360度に書かれた文字を6等分して6枚のスクリーンショットに納める。これが初のスクショだ、まさかこんな用途で使うとは思わなかった。


 5分が経ち、光っていた文字がすっと消えて老師が立ち上がる。ペンを手に取り矯めつ眇めつ眺めまわして、満足がいったのか私に手渡した。


「よく出来とるわ。よし、それでは最初に作るのは魔法焜炉の火口にしようかの、簡単じゃし」


 魔法焜炉の着火部分は交換式である事を初めて知った。調薬の為にも少なくともこれだけはマスターしよう、作れれば便利な筈だ。



辰砂しんしゃ Lv.70 ニュンペー

職業: 冒険者、調薬師、魔法道具職人の弟子

HP:1185

MP:3380

Str:470

Vit:250

Agi:500

Mnd:610

Int:610

Dex:530

Luk:230


先天スキル:【魅了Lv.9】【吸精Lv.10】【馨】【浮遊】【飛行】【緑の手Lv.2】【水の宰Lv.2】【死の友人】【環境無効】

後天スキル:【魔糸Lv.12】【調薬Lv.20】【識別Lv.20】【自動採集Lv.1】【採掘Lv.24】【蹴脚術Lv.4】【魔力察知Lv.9】【魔力運用Lv.15】【魔力精密操作Lv.22】【宝飾Lv.6】

サブスキル:【誠実】【創意工夫】【罠Lv.13】【漁Lv.2】【魔手芸Lv.7】【調薬師の心得】【冷淡Lv.4】【話術Lv.6】【不退転】【空間魔法Lv.6】【付加魔法Lv.11】【細工Lv.4】【龍語Lv.6】【暗殺Lv.2】【料理Lv.4】【夜目Lv.4】【隠密Lv.12】【魔法道具職人の心得】【文字魔法Lv.2】


ステータスポイント:0

スキルポイント:73

称号:【最初のニュンペー】【水精の友】【仔水龍の友】【熊薬師の愛弟子】【絆導きし者】


イルルヤンカシュ Lv.29 仔水龍

HP:7500

MP:5000

Str:1150

Vit:1150

Agi:350

Mnd:630

Int:630

Dex:400

Luk:100

スキル:【水魔法Lv.28】【治療魔法Lv.5】【浮遊】【飛行】【強靭】【短気】【環境低減】【手芸Lv.8】【アヴァンギャルド】【風魔法Lv.2】【雷魔法Lv.3】


スキルポイント:2

称号:【災龍】【水精の友】【ツンデレ】【絆導きし者】


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