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 相変わらずちっともポーションは売れない。時折思いつめたような顔をして、ブレスレットを買いに来る男性プレイヤーが現れるだけである。そんな顔をされても私も対応に困るのだが、無駄口を一切叩かないので事情をうかがい知ることもできず、流している。


 ブレスレットの材料が心もとなくなってきた。ニーの街から近くに水晶が出るところはあるだろうか?ギルドか本屋にまたお邪魔しなければ。と、お客が立っていることに気が付いて手を止めた。


「ごめん、確認したいことがあるんだ」


 騎士のような出で立ちの、爽やかなイケメンと言う奴である。しかしプレイヤーの敬語不使用率は実に高い。もしや私は住民だと思われているのだろうか?プレイヤーの中には住民をNPCだからと無意味に見下すものがいる。その手合いだろうか。


「ええと何て言うか、つまりね。このブレスレットを渡して告白すると成功するって本当なのかい?そういう効果が付いてるのかい?」


「はい?」


 警戒している私の前でしばらくもじもじしていた怪しいイケメンは、思い切った風にそういう質問を投げかけてきた。聞いたこともない効果である。もちろん付けた覚えもない。


「失礼ですが、どちらでそんな噂をお聞きになったのですか?私はそういう効果を付けて作った覚えはありません」


「えっそうなの!? 昨日掲示板で、これを渡して告白したら成功しました! って言う書き込み見たんだけど、なんだ、偶然かあ……。お祭り状態だったのにな」


 あからさまにがっかりした様子のイケメンは、しかしさりげなく全種類買って行った。いったい何人に告白するつもりなのか、それとも一人に何度も試すつもりなのか。どちらにしてもあのイケメンは見た目より残念な人のようだ。


「ねえお姫様? もしかしてさっきから来てる人たちって、みんなそういうつもりで買ってるんじゃないかしら? ほら、ただならぬ様子の人ばっかりだったじゃない」


「私もそう思います。兎少年が初恋を実らせたようなのは素晴らしい事ですが、妙なデマは頂けませんね」


 昨日ブレスレットを購入したのは兎少年だけだ。と言うことは、彼は伝えることを選んで成功したのだろう。おせっかいをした手前、玉砕しなくてよかったと思う。


「腕輪1個で番になれるんなら、そりゃみんな買うよなー。でもそれが本当ならこんなに安いわけないのにな。馬鹿だなあ」


「藁にも縋るってやつだろう。恋ってそう言うものだった、確か」


 イルと喋りながら、もうずいぶん昔の恋を思い出す。楽しかったり失恋したり、懐かしい。もう長い事仕事一筋でときめいてない。友人たちが血眼になっている合コンにも行く気はないし、これからもときめきとは縁遠いままだろう。


 昼過ぎまでで結局ブレスレットは10個売れた。半分は残念系イケメンの貢献であるものの、案外恋する男は多いようだ。


 カリスマさんとウールちゃんに別れを告げ、露店を引き上げてギルドに向かうか本屋に向かうか悩んだ。ギルドに今行くと会いたくない人に会いそうだ、本屋にしよう。小さい老人の適度な距離感がいい。


「おんやァ。迷子じゃねえかい。今日は何だ?」


 今日は老人を最初から視界に収めて挨拶。ニーの街周辺で採れるものや掘れるものを調べたいと言うと、老人は頭をつるりと撫で上げた。


「んなこたぁギルドで聞きない。はあ? 行きたくない? 飯のタネだろ? ああ、調薬やってんのかい。まったくしょうがねえ奴だな」


 思い切り不審がられつつも、老人は本を取り出してきてくれた。薬草図鑑や鉱物図鑑はまだしも売れるが、魔物のドロップ品の情報を集めた本はほとんど売れないそうだ。


『ニーの街周辺の有用な鉱物』『ニーの街周辺の魔物情報』、イルの暇つぶし用に『新説 ∞神話~主神と奥方の馴れ初め~』『龍にまつわる童話・民話・物語大全』を購入した。3500エーンである。いくら死蔵在庫でも値引きはしないのがポリシーだそうで、定価だった。


「近頃流行りの恋愛物語なんてどうだ?魔物と人の許されざる恋が題材らしいぞ」


 ついでに営業を掛けられたのは『執事トロールと白百合手折る女騎士』と言う本だったが、謹んで遠慮申し上げた。凄くそそられなかった。盛り過ぎである。


 近くに息子夫婦がやっている喫茶店があると聞いてそちらへ向かった。本を読むのにいい所を知らないかと聞いたところ教えてくれたのだ。しかし∞世界に喫茶店があるとは思わなかった。


 本を読んだら採集に行こう、だが、喫茶店を満喫する方が先である。ゆっくりする時間が取れるのが∞世界の最大の利点なのだから、やりたいことは全てやるのだ。


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