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 夕方と言うよりは夜。私達はご機嫌で宿に向かった。スーパーポーションもスーパーマナポーションも品質Cが安定して作成できたのだ。タイミングを見計らう為の集中が一度で済むのも大きかった。


「そうそう。露店で資金を貯めたら野営セットを買おうと思う。ニーの街から離れたい」


 有難い食事の後。布団にくるまりながら、枕元のイルに伝える。


「なんで?……あ、あのキモい奴らのせいか」


 さすがにわかるか。その通りである。ああいう手合いには関わらないのが一番だ。特にあのぐいぐい来る強引さからは逃げ出さないと経験上ろくな事にならない。


「なーんか、辰砂って変な奴に好かれるよな……あいつらもだけど、カリスマとか……熊先生とか……俺とか……」


 ん?今、自分をナチュラルに変人カテゴリに含めなかったか?尋ねてみたが、もう寝入ってしまったのか寝息しか返ってこなかった。何と言う寝付きのよさだ。


 疲れていたのか、目をつぶった次の瞬間には朝だった。休んだ気がしない。イルは珍しくまだ寝ていた。あれだけ泣いたから疲れたのかもしれないな。


「泣いてねーし!俺元気だから!」


 すっかりいつも通りの勘の冴えを見せるイルに魔力を補給。さて、昨日張り切って作ったポーションを売りに行きましょう。


 宿に戻るのが遅過ぎて会えなかったリンダさんに再び号泣された後、私は無事にカリスマさんの横を陣取ることに成功していた。


「おはよう、お姫様。イルちゃんも……あら?イルちゃんなんか感じ変わったわ。内側から光ってるみたい」


 やはり気のせいではなかったのか。泣いてすっきりしたらしいイルがうすぼんやりと発光している気がしていたのだが、本人に聞いても気付いてなかったくらいなので原因不明なのだ。


「体調の問題でしょうか?」


「うーん、何たってアタシ達龍じゃないからわかんないわよねえ。あら、スーパーポーションね?新しい道具で上手く行ったのね、良かったわ」


 ふたりで昨日の成果を披露しあいながら、客を待つ。カリスマさんは基本的に受注生産の客が多いらしく、新規顧客を捕まえる為にフリーサイズの装備を作っているそうだ。私の固定客は少年少女のパーティのみである為、偏見の無い客が来る事を祈るくらいしかやることはない。


 ウールちゃんが石畳の隙間の草を食べたり、イルが何やらウールちゃんに兄貴風を吹かそうとしてみたりしているうちに本日初めての来客が訪れた。


「こんにちはー!ポーション屋さん」


 私の露店にはもうこの子たちしか来ないのかもしれない。それほどの遭遇率だ。シュンは露店の商品にスーパーシリーズが並んでいるのを目ざとく発見したらしい。


「出来てんじゃねーか。つかおせぇし。フン」


 なんとまあ曲がりくねった賛辞だ。私くらいポジティブでなければ喧嘩売ってんのかといきり立つ所である。


「ええっ、ほんとにある!すごーい!えっと半分ずつでいいかな、スーパーシリーズ両方30本ずつください!」


「スーパーポーション、スーパーマナポーションが各30本で60600エーンになります。ところで瓶はお持ちいただけてないですか?」


 お金をやり取りしつつ、ずっと気になっていた瓶の処遇を聞いてみた。ポニーテールの少女がえへへ、と頬を掻いてみせている。


「実は、あたし達ポーションほとんど投げつけて使ってて。割れちゃうんです」


 衝撃の事実であった。パーティではポーションを各自所持する他、回復担当が瓶を投げつけて回復しているらしい。確かにかけても回復するけれど、瓶なんかぶつけられたら相当痛いと思うのだが。


「うーん、防具の上からだし、そこまで気にならないですね。それよりやっぱりタンクとアタッカーに回復できてヘイト貯まらない投げポーションのメリットの方が大きいです」


 敵愾心ヘイトとは、魔物が誰を狙うかの判定基準になる物らしい。回復魔法を使うと多大に敵愾心を稼いでしまい、一瞬で魔物が回復役に狙いを移して戻さない為、敵愾心管理がよほど上手いパーティ以外では回復手段が投げポーションと言うのは一般的だそうだ。道理でいつまでたってもポーションが品薄なわけである。なお、ポーションを飲ませるまたは掛ける行為はやはり敵愾心を稼いでしまうらしい。同じアイテムなのに奇妙な事だ。


「投げつけるって行為が攻撃に見えるんじゃないかって推測されてますけどね。まあ、あたし達には有難いってことくらいしか解りませんけど」


 パーティ戦ならではのあれこれを聞きながらブレスレットを作成する。女子二人は気になるようだが値段を見て諦めていた。


「心なしか魔法の補助をしてくれますよ?」


「だってあたし弓ですもん。マリエは竪琴で、回復魔法と音楽魔法だから攻撃系のエンチャントは意味無いですし」


 それは残念。いつか回復魔法にも効くエンチャントを覚えたら作ってまた営業してみよう。


「ありがとうございました」


 彼らを見送って、気長に売ろうと屑水晶を取り出した。本命はすでに半分売れたのだから、もう焦ることはないのだ。野営セットがどのくらいの値段なのかは知らないが、当面の目標は100000エーン程度である。



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