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随分寄り道をしたが、やっと冒険者ギルドで露店マットを借りる事が出来た。露店を出せる区域に移動しながらカリスマさんにメッセージを送ってみる。この人はいつもログインしているな、いわゆる廃人と言う奴なのかもしれない。
カリスマさんももう露店を出しているらしい。またお隣に出店する許可をもらい足早に神殿前へ。どこの街でも復活地点の周辺が露店スペースになっているのだろうか。
「おはよう。早かったわね、ああ、素敵よ。やっぱり似合うわ」
そう言えば、装備を着た所は見せていないのだった。お礼を述べてマントを少し緩めて見せた。いいわね、と嬉しげに笑うカリスマさんに聞きたい事があるのだが。その膝の上の毛玉は何ですか?
「あ、この子?プロダクトシープのウールちゃんよ、ほらウールちゃんご挨拶して頂戴な」
毛玉にカリスマさんが声を掛けると、毛玉が身動ぎした。黒い顔が向こうから現われ、ちらっとこちらを見る。二秒ほど目があったが、元通りの毛玉に戻ってしまった。
「感じわりーな」
イル、ちょっと静かにしなさい。
「ええとカリスマさん、この子が例の?」
「そうなのよ。平布と革の加工ばっかりしててね、ウール欲しいなって思いながらお裁縫してたら急に孵ったの。びっくりしたわよ、急に鞄から出てきて光るんだもの」
それは誰でも驚くだろう。妙な演出である。ところでもうパートナーなのだろうか?
「ええ、今はパートナーになってるみたい。孵った2日くらい後かしら?ウールちゃんのウールを敷きマットにしてあげたらなったわ」
なんでも、いわゆる生地としてのウールを生み出す能力が備わっているそうで。生地の大きさが服には足らなかったので、本人が喜ぶかもと作ったらウィンドウが出現したらしい。
「最初使ってくれなかったんだけど、アタシが寝た振りして見てたらいそいそ乗ってくれちゃって。もう可愛いったらないのよ~」
大きな掌でよしよしと撫でられるウールちゃん。満更でもなさそうである。しかし、こうして教えて貰った以上、私だけが隠し続けるのは不公平か。カリスマさんは私が最も信頼するプレイヤーだし、潮時だろう。
「カリスマさん。私もパートナーがいるんです。イル、ちょっとだけ出てきてくれるか」
頼むと、仕方なさそうにイルがフードの影から顔を覗かせた。どうも最初の頃のグレッグ先生の奥様がトラウマになっているな。人目に触れるのを嫌がるのは多分撫でくり回されたせいだろう。
「まあ可愛い。蛇かしら、イルちゃんね?よろしくねぇ」
「蛇じゃねーし!水龍だし!蛇なんぞと間違ってんじゃねーよ!」
「まあジャージャー言ってる、可愛いわあ」
噛みあわない会話の要らん所を省いて種族だけをカリスマさんに伝えた。カリスマさんは驚いた様子だったが、周囲をちらりと窺うと声のトーンを落としてくれる。
「もしかして、お姫様が絆システム解放したのかしら?水龍って、随分先の魔物の筈よ……イベントか何かで出会ったの?」
「イベントかどうか知りませんが、どこかの粗忽者がイルの封印を解いてしまって闘う羽目になり、紆余曲折ありましてパートナーになりました。絆システムはその際解放されたみたいです」
簡単に伝えると、カリスマさんは面白そうだと目を輝かせたが、すぐに物憂げな顔になった。
「運命的ね!教えてくれてありがとう。でも、イルちゃんは今まで通り隠れていた方が良いかもしれないわ。聞いた話じゃ、卵はドロップするらしいんだけど……いくら持って歩いても孵らないんですって。アタシもどうやって孵したのかって大分質問攻めに遭ってるから、別ルートがあるって解ったらお姫様にも人が集ると思うわ」
物凄く嫌な話を聞いた。イルも震えて一瞬で引っ込む。相当嫌らしい。丁寧にお礼を言って、露店を広げた。今日は露店にポーションと熊の掌を並べてみた。誰か欲しい人に要交渉で売ることにしよう。
「あ、ポーション屋さんだぁ!おはようございます」
この子たちは私がポーションを持っているとやって来るな。またシュンを含むパーティのお出ましである。今日は女の子二人が羊目当てにカリスマさんの方へ行ってしまったので、男3人がこちらにいる状態だ。華が無い。
「あー、ポーションください」
「はい。いかほどご入り用ですか?」
普段喋ることのない少年の片割れが物慣れない様子で注文する内容を計算した。どうやらこのパーティも卵集めは終わったらしい、状態異常薬の注文は無くなっていた。
「品質Cのポーションとマナポーションが各60本で、61200エーンです。卵は集まりましたか?」
お金を受け取りながら聞いてみた。赤毛――本当に赤い髪だ――の少年は頭を掻いて苦笑いしている。
「や、どうも1パーティで1回1個しか出ないらしくて。しかもパーティを移動しても判定が有効なままらしくて絶対出ないって話で。マリエ以外は他の入手経路探さないといけないんですよ」
マリエ、とはおかっぱの方の子の名前だったか。ドロップしたのが彼女だったのか。
「……スーパーポーションは置かねえのかよ」
女子たちの集いが終わるのを雑談しながら待っていると、シュンが話しかけてきた。物凄く嫌そうな顔である。そんなに嫌なら仲間に伝えてもらえばいいのに、逃げるのも気に喰わないのだろう。ガキだなあ。
「私の力量では売れるようなものが作成できないのです。修業中ですよ。安定して作れるようになったら置こうと思っています」
返事はフンだけだった。全くガキである。嫌いでもきちんと応対する私を見習うが良い。
辰砂 Lv.38 ニュンペー
職業: 冒険者、調薬師
HP:690
MP:2060
Str:400
Vit:200
Agi:400
Mnd:555
Int:555
Dex:530
Luk:230
先天スキル:【魅了Lv.9】【吸精Lv.8】【馨】【浮遊】【空中移動Lv.6】【緑の手Lv.2】【水の宰Lv.2】【死の友人】【環境無効】
後天スキル:【魔糸Lv.4】【調薬Lv.20】【識別Lv.17】【採取Lv.28】【採掘Lv.19】【蹴脚術Lv.4】【魔力察知Lv.6】【魔力運用Lv.9】【魔力精密操作Lv.14】【
隠密Lv.9】
サブスキル:【誠実】【創意工夫】【罠Lv.13】【漁Lv.2】【魔手芸Lv.6】【調薬師の心得】【冷淡Lv.4】【話術Lv.5】【不退転】【空間魔法Lv.6】【付加魔法
Lv.11】【細工Lv.2】【龍語Lv.5】【暗殺Lv.2】【宝飾Lv.5】【料理Lv.4】【夜目Lv.1】
ステータスポイント:0
スキルポイント:17
称号:【最初のニュンペー】【水精の友】【仔水龍の保護者】【熊薬師の愛弟子】【絆導きし者】
イルルヤンカシュ Lv.15 仔水龍
HP:6200
MP:3800
Str:1000
Vit:1000
Agi:300
Mnd:500
Int:500
Dex:300
Luk:100
スキル:【水魔法Lv.8】【治療魔法Lv.4】【浮遊】【空中移動Lv.4】【強靭】【短気】【環境低減】【手芸Lv.4】【アヴァンギャルド】
スキルポイント:13
称号:【災龍】【水精の友】【天邪鬼】【絆導きし者】