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意図せずして装備代金が貯まったので、カリスマさんにメッセージを送ってみる。ログインしていないとフレンド欄の名前が灰色で表示されるらしいから、どこかで素材集めでもしているのだろう。
それほど間を置かずに返信が届いた。今はニノース谷で狐を狩っているらしい。夕方には街に戻るそうで、その際神殿で待ち合わせることにした。
「うまー」
イルはおやつタイム中だ。と言うか、いつまでも機嫌が悪かったのでから揚げで釣っただけである。イルに言われたことではないのだから、気にし過ぎても意味がない。
「食べたら手を洗っておいてくれよ、べたべたするから」
「ん、わかった」
分かったのか分かってないのかよく分からないが、もう1個ねだられたので渡してやる。熱々のはずのから揚げを平気で抱えているあたりはやっぱり龍なんだろう。
かなり長時間採集に励んでいたのだが、袋をとうとう使い切ってしまったので今日は仕舞うことにした。だんだん鋏の切れ味が鈍ってきたが、研いだ方がいいのかもしれない。フェンネル氏は研ぎもやってくれるだろうか?
イルがうまい事水玉を浮かべて手をこすり合わせている。指が2本しかないから簡単そうだ。確か龍は位で指の数が違うのだったか。最高位が5本の筈だから、イルはまだまだ下っ端なのだろう。
「なんか今悪口言っただろ」
「何も言ってないよ?」
恐るべき勘の良さを発揮するイルを誤魔化しつつ、街へ戻った。夕方まではまだ時間があるが中途半端である。屋台でライチに似た果物を発見して購入した。立ち食いする人が多いのか屑籠も併設してあったのでその場で皮を剥いて齧りつく。みずみずしいし良い香りだ。こういうもので腹を膨らませたいものである。
欲張って追加で3籠分購入し、ストレージに仕舞い込んだ。不味い食事の後の口直しに良さそうだ。果物は結構高いのか、ひと籠1000エーンもした。
時間潰しに屋台を冷かしたり買い食いしたりしているうちに神殿の方まで来てしまった。もう一往復すると忙しいかもしれないので、大人しく待っているか。
神殿前の生け垣に腰掛けて、薬草袋を取り出した。先生の教えに従って下処理をする。これくらいまでならどこでも出来るので、今のうちにやっておこう。
「やっだ、草いじってるってことは【調薬】スキル持ちじゃない?だっさ」
「言ってやるなよ、カススキル乙とかさあ。確かにだせーけどな。ポーションも買えねえほど貧乏なんだろ」
袋を交換すること数回、着々とごみ用の袋が膨れてきたころ。そういう会話が聞こえてきた。さっきのシュンの態度と言い、【調薬】スキルは良い様には取られてないらしい。モグリ薬品店には行列ができるほど皆が世話になっているはずなのだがおかしいな。
「はあ、ちょっと感じ悪くない?シカトしてんじゃねーって感じ」
「ばっか、こっち来たらどうすんだよ。まあ俺が守ってやるけどさ」
ラブラブで結構なことだ。付き合いだして間もないカップルなのか、男がいい格好してみせている。そのあとは楽しげに雑談に移ったのか、声のボリュームも落ちて行った。ちょうど5袋目の薬草の処理を終えてストレージを開こうと顔を上げるとカリスマさんが苦い顔をして立っていた。どうしたんだろう。
「……お待たせしちゃったみたい。ごめんなさいね?」
「お気になさらず。こちらこそ呼び出してしまってすみません」
袋を仕舞って立ち上がる。カリスマさんも笑ってくれた。今日はいつも通りのエプロンドレスである。グレードアップしたのか色がピンクになっていた。
「素材は集まりました?」
「ええ、頗る好調だったわ。ちょっと変な人もいたけど」
なんでも「ござる!ござる!」と言いながら崖を足だけで上がろうとしては転がり落ちている人がいたそうだ。それはちょっとではなく、とても変な人だと思う。
「ロールプレイする人も結構いるから、あの人はきっと忍者プレイをしてたんだと思うのよね。後ろ手に手も縛ってたし、身のこなしの修行か何かだったんでしょうけど」
役を演じる、つまり自分の決めたキャラクターになりきると言うプレイスタイル。私とは縁遠いものである。
「手を後ろで縛ると、受け身も難しいでしょうね。徹底していますね」
「ええ、顔中鼻血まみれでやってたわ。さて、約束の装備品ね。残りの上着と巻きスカート、手袋で31000エーンね」
一つ一つをボディバッグから取り出して広げてくれる。確かにこの間着た一式であることを確認してやり取り。宿屋に戻ったら着替えるか。
「ああ、そういえば。熊狩りが人気らしいですね」
卵の話を聞いてみる。人が沢山いるので、あまり直接的には話さない方がいいだろう。
「そうらしいわね。昨日のアナウンスのせいみたいよ。本当かどうかも分からないのにみんな熱心よね、知り合いも必死なくらいだったわ」
と、言うことは卵に変化はないのか。1日では無理もないかと頷く。確か掲示板には名前が出るらしいから、知り合いなら聞きにも来るか。ちょっとうんざりした様子のカリスマさんにライチを差し出した。お疲れ様です。
「ありがと、あら!美味しい。アタシも買おうかと思ったんだけど、ちょっと高かったから止めたのよね。やっぱり買いだわ、これ」
少し元気が出たカリスマさんにクッションの依頼をする。汚れ防止とヘタらない機能だけつけてもらい、材料として熊の毛皮を全部渡したら5000エーンですんだ。
「中綿と縫い賃しかかからないもの、こんなものよ。ちょっと大きいから普通のクッションよりはだいぶ高いけどね。この大きさだと作業場借りないといけないから明日になるわ」
それは構わないけれど、作業場を借りる?作業場とはなんだろう。訪ねてみたら驚かれた。
「生産職向けの貸出作業場の事よ、使ったことあるでしょ?……無いの?ええ?ポーションなんて道端で作れないでしょうに、どうやって作ったの?」
「薬品店の設備をお借りしてました」
「まあ……そう、なの」
一般的ではない自覚はあるので、気持ち声を潜めて答える。カリスマさんは変な顔のまましばらく絶句していた。しかし良い事を聞いた。宿屋の部屋でやるには手狭だし、匂いの問題もあって躊躇っていたのだ。明日は作業場を借りてポーションの実験に励むことにしよう。
辰砂 Lv.38 ニュンペー
職業: 冒険者、調薬師
HP:690
MP:2060
Str:400
Vit:200
Agi:400
Mnd:555
Int:555
Dex:530
Luk:230
先天スキル:【魅了Lv.7】【吸精Lv.2】【馨】【浮遊】【空中移動Lv.5】【緑の手Lv.2】【水の宰Lv.2】【死の友人】【環境無効】
後天スキル:【魔糸Lv.5】【調薬Lv.15】【識別Lv.17】【採取Lv.28】【採掘Lv.19】【蹴脚術Lv.4】【魔力察知Lv.6】【魔力運用Lv.9】【魔力精密操作Lv.14】【料理Lv.4】
サブスキル:【誠実】【創意工夫】【罠Lv.13】【漁Lv.2】【魔手芸Lv.6】【調薬師の心得】【冷淡Lv.2】【話術Lv.2】【不退転】【空間魔法Lv.6】【付加魔法Lv.10】【細工Lv.2】【龍語Lv.5】【暗殺Lv.2】【宝飾Lv.5】【隠密Lv.3】
ステータスポイント:0
スキルポイント:17
称号:【最初のニュンペー】【水精の友】【仔水龍の保護者】【熊薬師の愛弟子】【絆導きし者】
イルルヤンカシュ Lv.15 仔水龍
HP:6200
MP:3800
Str:1000
Vit:1000
Agi:300
Mnd:500
Int:500
Dex:300
Luk:100
スキル:【水魔法Lv.8】【治療魔法Lv.4】【浮遊】【空中移動Lv.4】【強靭】【短気】【環境低減】
スキルポイント:14
称号:【災龍】【水精の友】【天邪鬼】【絆導きし者】