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「らっしゃーいらっしゃーい」


「ありやとやんした!」


「どーも奥様今日もお綺麗で!いい魚入ってるよ!」


 私は道に迷っているようだ。神殿で神父っぽい――もう神父さんでいいか、神父さんに冒険者ギルドの場所を聞いたのに、何故かここは食料品市である。


「おかしいな……」


 右に曲がって左に曲がって真っ直ぐ進んだら着く筈だったのに。方向音痴ではない筈なのだがこの体たらくである。


「辰砂は言われた通りに歩いてたぞ。神父が出鱈目言ったか、そもそも進んだ方向が違ったんじゃねーかな」


 聖職者がこんなことで嘘を言う筈はないので、第一歩を間違えた線が濃厚である。しかし戻ろうにもここは人が多過ぎて方向転換もままならない、疲れた、クッションが欲しい。


 浮きそうになる足を必死に地に付けて、適当に進んでいく。とりあえず人がいない所に行きたい。たくましい主婦達の間を抜けて一息つけたのはしばらく後であった。


 市場から抜け出して辿りついたのは妙に静かな通りだった。人がいないわけではないがさっきまでの喧騒は欠片もない。歩きながら出ている看板を見回して納得する、薬屋と本屋に不動産屋だ。うるさいわけがなかった。


 イチの街にはなかった本屋が気になるので店を覗いてみる。扉は開いていたが従業員の姿は見えなかった。やってないのか?勝手に入るのは無礼である、どうしようか。


「……客なら入んな。違うならとっととけえんな」


 嗄れ声が足元からして驚いた。見降ろすとこちらを見上げる蛙と目があった。失礼、蛙っぽいご老人である。招き入れて貰えたのだから中に入ろう。


「蛙たぁご挨拶だね、来訪者ってのは皆そうなのかい。言わなきゃ解らないと思ってるんだからお目出度いこった」


 店に入ろうとする足が止まった。今、私は間違いなく口に出していなかったはずだ。前を行く小さな老人をもう一度見る。老人は肩越しに振り返り、笑い声を上げた。


「そう警戒しなさんなよ若いの。別に心を読むなんて魔法みてぇなこたぁしてないさ、儂を見た百人のうち九十五人は蛙に似てると思うらしいってな事を知ってるだけだ」


 肩から力が抜けたのが解った。驚かさないで欲しい。タネが解れば警戒したのが馬鹿らしくなって、面白そうな本が無いか探すことに集中する。地図のコーナーも気になるが、あれはまた後だ。


『ニーの街周辺の薬効植物』『図解 編み目・結び目の構造』『罠師基礎の基礎』『魔物もわかる!収支と利益』『新説 ∞神話~主神と奥方の馴れ初め~』など、興味を引かれる本は沢山ある。いや最後のはネタ的な意味であるが。


 主人に値段を尋ねてみた。実用書である前4冊は一つが1000エーン。最後の神話……神話?だけは500エーンだった。思ったよりは手の出しやすい価格である。植物図鑑と編み目図解だけを購入。本当はもっと手に入れたかったけれど金策をまだしていなかった。


 地図のコーナーに移動して、とりあえず町の見取り図1000エーンを購入。自分が思うよりもマップ機能に頼っていたらしいので、マップのアップグレードが最優先だろう。これで無一文だ。


「街ン中の見取り図?なんでまたそんなもんを、道に迷っただ?ニーで迷うなら王都なんかじゃおっそろしい目に遭うだろな」


 脅かされながらも地図をアイテムボックスに納める。これで地図のアップグレードが完了するのだ。運営の謎仕様のセンスが解らない。


「ああ、よく分かりました。ありがとうございました」


ウチの本無駄にすんなよ」


 ぶっきらぼうに見えて案外親切な店主に見送られて今度こそ冒険者ギルドへ。やはり最初の進行方向が南北逆だったのが敗因だった。神殿を出て右に曲がったのだが、本当は南に進んで最初の角を右に曲がる、が正解であった。神父さんめ。


 だいぶ回り道をしたがようやく到着。イチの街と似た造りだが規模は二倍程度あるだろうか?中に入って見回しても、酒場の席数も多い。受付嬢はイチの街では2人だったがこちらでは5人並んでいる。街が変われば変わるものだ。


「いらっしゃいませ。ご用件を承ります」


「西の森の熊を討伐したのですが。報告すると依頼達成扱いになると聞きまして」


 勿論カリスマさんの入れ知恵である。熊に限らず、フィールドボスの類は初回討伐に限り報告すれば少しだけお金が貰えるらしい。


「ギルドカードをお預かりします。……ありがとうございました。記録を確認いたしました、後はドロップ品を1つお納め頂くことでホワイトフォレストベア討伐の達成条件を満たします」


 ドロップ品か。私が今一番必要ないのは明らかに掌である。カウンターの上の掌を見て受付嬢が形の良い眉をひそめた。これは認められないのだろうか?


辰砂しんしゃ様、掌は最低でも他のドロップ品の5倍は値の付く珍品ですがご存知ですか?それを踏まえて、こちらを納品されるのでしょうか」


 困り顔の受付嬢さん。これは誰かが既にやらかしたのかもしれないな、値段を知らず納品して後からクレームを付けたとか。情報は教えて貰えれば感謝すべきだが、教えてくれなかったことを詰るのは筋違いだろう。


「知りませんでした、私に最も必要ないものだと思っただけなので。それでは爪にします、ありがとう」


 毛皮はそのうちカリスマさんにクッションを頼む時用に置いておこう。触ると案外フカフカなのだ。明らかにほっとした顔の受付嬢が今度は手続きを進めてくれる。


「では、ホワイトフォレストベアの討伐金5000エーンです、お納めください。それと……もし、もしもですよ。掌をお売りになるのでしたら南西区の宿屋『焼き魚と藻塩亭』が、お勧め、です」


 金を受け取ってストレージへ入れた。そうしながら妙に含みがあったように聞こえた受付嬢のお勧めについて質問する。


「教えてくれてありがとうございます。ちなみに、どうしてか伺っても?」


 受付嬢の視線が泳いだ。躊躇うような間が開いて、二度意味もなく書類を揃えてからやっと受付嬢は口を開いた。


「『焼き魚と藻塩亭』にお客様を呼び戻すため、です」


辰砂しんしゃ Lv.27 ニュンペー

職業: 冒険者、調薬師

HP:525

MP:1730

Str:330

Vit:200

Agi:330

Mnd:530

Int:530

Dex:530

Luk:200

先天スキル:【魅了Lv.7】【吸精Lv.2】【馨】【浮遊】【空中移動Lv.5】【緑の手Lv.2】【水の宰Lv.2】【死の友人】【環境無効】

後天スキル:【糸Lv.24】【宝飾Lv.5】【調薬Lv.15】【識別Lv.12】【採取Lv.21】【採掘Lv.19】【蹴りLv.28】【魔力察知Lv.4】【魔力運用Lv.7】【魔力精密操作Lv.12】

サブスキル:【誠実】【創意工夫】【罠Lv.12】【漁Lv.2】【魔手芸Lv.6】【調薬師の心得】【冷淡Lv.2】【話術Lv.2】【不退転】【空間魔法Lv.6】【料理Lv.1】【付加魔法Lv.10】【細工Lv.2】【龍語Lv.5】


ステータスポイント:110

スキルポイント:25

称号:【最初のニュンペー】【水精の友】【仔水龍の保護者】【熊薬師の愛弟子】

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